第49話 キェェェェェアァァァァァァシャベッタァァァァァァァ!!
2日目、シルバ達Mチームは大人気だった。
「ミッションリストを寄越せぇぇぇ!」
「納品物をくれぇぇぇ!」
「Mチームだろ! Mチームだろう!? なあ、Mチームだろうお前等! 毒消し置いてけ! なあ!」
「參式光の型:仏光陣!」
シルバが技名を唱えた直後、シルバの手の動きに応じて背後に大仏の幻覚が現れ、目潰しが決まった直後に敵対する学生達に次々に首トンが決まる。
「もう五度目の防衛戦だね。Mチームってば大人気だわ」
「ジーナさん、大人気で片付けられる状況じゃないと思います」
「だってシルバがやっつけてくれるし」
「それはまあ、そうなんですが・・・」
ジーナが呑気な発言をするからメリルが注意するも、シルバのおかげで実害は何もないのだからメリルは言い返せなくなった。
無力化した学生達はアルが首より上だけ出す形で埋めて身動きできないようにする。
そのせいでMチームの拠点の一角には墓標の如く学生達が首だけ地上に出ているホラーゾーンになっている。
「あっ」
「どうしたのアル?」
「いやね、合同キャンプって毎年酷い目に遭う学生達が多い行事だって認識だったんだけど、こーいうことだったんだなって」
「こーいうことって?」
サリーはアルがいまいち何を言いたいのかわからず首を傾げた。
「ほら、実力も弁えないどころか作戦らしい作戦もなく挑む学生が大半なら、そりゃミッションを失敗するチームが続出するよね」
「アル、生首コーナーからめっちゃヘイト稼いでるよ!?」
「だってさぁ、冷静に戦力を分析して行動すれば理論上10チームはミッションをクリアできるんだよ? それなのにはしゃいでミッションを失敗するとか軍人目指してるとは思えなくない?」
「もう止めて! 生首コーナーの心が折れてる!」
(アルのことだからわざとだろうな)
そんなことを考えつつ、シルバは生首コーナーに新しく5つの首を増やして堀を飛び越えて来た。
一度捕まった者達の心を折れば再起する確率を減らせる。
そもそも再起させるような甘い拘束はしていないけれど、できるだけの対策をするのがアルのスタイルだ。
「シルバ、お疲れ様」
「おう。あといくつ首が増えるんだろうな?」
「少なくともB1-1のクラスメイトのチームには来てほしくないね。友達の生首姿なんて見たくないし」
悩まし気な表情のアルを見てサリーの顔が引き攣る。
「生首姿にしてる実行犯が何を言ってるの?」
「サリー、アルに正論を言っても無駄だよ。聞かないから」
「ジーナは僕をなんだと思ってるのかな?」
「腹黒系ドS魔法使い」
言いたいことをこれでもかと言ってのけたジーナに対してアルが額に青筋を浮かべる。
「・・・OK。それなら僕は君にSになってあげようかな!」
「シルバガード!」
「シルバ君を盾にするなんて卑怯だぞ!」
「楽しそうだな」
アルとジーナのやり取りを見てシルバは苦笑する。
メリルはふと気づいたことがあってシルバに訊ねる。
「シルバ君、そろそろお昼ご飯かと思いますが、彼等はどうするんですか?」
「リュックに食糧を入れて来た人とそうでない人がいるから、捕虜全員の食糧をいったん集めてから均等に分配しよう。多分昨日はしゃいだ人はほとんど食糧が残ってないだろうけど」
シルバの予想は当たっていた。
生首コーナーにいる学生達は1日目からハイペースで動いてしまい、2日目の食糧にも手を付けてしまっていた。
そのせいで25人いるのに対し、残ってたのは干し肉5枚だけだった。
「ほらな? 言った通りだろ?」
「シルバ君の言う通りでした」
「馬鹿ばっかりだね」
「これは酷い」
「ペース配分ができてないね」
メリルはシルバに尊敬の眼差しを向けた。
その強さも十分すごいと思うけれど、推理力もかなりのものだと感動している。
シルバ達は昼食後、捕虜が空腹で気絶しないようにシルバが生首コーナーの学生達に切り分けた干し肉を1枚ずつ与えていった。
「どうせ食べさせてもらうなら女子にやってほしい!」
「そうだ! 男にあーんなんてされたくない!」
「女子のあーんを所望します!」
「黙れ捕虜共」
一部の男子学生が開き直ってメリルに干し肉を食べさせてほしいと言い出したため、シルバは有無を言わさず干し肉をその口に突っ込んで黙らせた。
ちなみに、捕虜の中には女子学生もいてこちらはシルバに食べさせてもらって静かに喜んでいる。
こんな形とはいえ同学年の有望な男子学生からあーんしてもらえる機会はないと思っているようだ。
シルバが堀を飛び越えて戻って来るとアルが怖い顔をしていた。
「雌の顔をしてた学生をどうしてくれようか」
「アル、落ち着け。誤解を生むから」
シルバがそう言ってアルを落ち着かせる。
そんな時、聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「助けてくれ~!」
「あっ、お漏らしだ」
「ジーナ、それはストレート過ぎると思う」
逃げて来た学生は昨晩も逃げて来たリモーだ。
野兎にビビって逃げて来たリモーは今回何にビビって逃げて来たのか気になる所である。
ジーナがリモーの名前を忘れてお漏らしと呼んだことに注意したけれど、サリーも実際のところはリモーの名前を覚えていなかったりする。
そんなリモーは生首コーナーを見て立ち止まる。
「ギャァァァァァ!? 生首ぃぃぃぃぃ!」
「「「・・・「「生首じゃねえよ!」」・・・」」」
「キェェェェェアァァァァァァシャベッタァァァァァァァ!!」
生首と言われてキレた学生達を見て発狂した後、リモーは意識を手放して気絶した。
怖さのあまり、またしても失禁しているのはシルバ達の予想通りである。
そこにヨーキ達Nチームの残り4人が駆け付ける。
「おい、リモーが倒れてるぞ」
「はぁ、重かった」
「ビビり過ぎてウザい」
「本当に使えないわね」
昨晩よりも女子学生2人のコメントがキツくなっていた。
リモーは最早少しも頼りにならないというレッテルを貼られてしまったに違いない。
「ヨーキ、今度は何と遭遇したんだ?」
「蛇だ。ほれ、こいつ」
「おぉ、今日は討伐したのか」
シルバはヨーキが掲げた蛇を見て感心した表情になった。
「まあな。昨日の野兎はすばしっこくて駄目だったけど、今日の蛇は倒せたぜ」
「おめでとう」
シルバは素直にヨーキを祝ったが、祝われたヨーキは苦笑する。
「ブルーウルフを瞬殺する奴に言われてもなぁ」
「あれはイレギュラーな事態だろ。餌の質も良かったし」
「「「・・・「「ブフッ」」・・・」」」
リモーが餌と言われた途端、Nチームどころか生首コーナーの学生達までもが吹き出した。
喚いて野生動物の注目を集め、指示を出さずとも勝手に逃げてくれるから餌という表現にしっくり来たのだろう。
ヨーキ達の笑いが収まるのを待っていたら、拡声器の
『そこまでぇぇぇぇぇ! 合同キャンプに参加した軍学校の1年生は直ちに片付けを済ませてディオス側の森の入口に集まるように!』
終わりの合図が聞こえたため、アルは生首コーナーに埋まっていた学生達を解放し、テント周りの堀を埋めた。
解放された学生達は少量の干し肉では足りなかったらしく、重い足取りで各々のテントまで移動していく。
シルバ達もテントを片付けてから森の入口へ移動した。
そこにはポールが待っていた。
「おー、やっぱりシルバ達が一番早かったか」
「ハワード先生、僕達ってここからそこまで近くない所が拠点でしたよね? それなのに一番なんですか?」
話しかけて来たポールにアルが訊ねた。
「どのチームもお前等みたいにペース配分を考えてねえからクタクタなんだよ。つーか、まさか1日目で全部のミッションを終えるとは思ってなかったぞ?」
「えっ、ハワード先生どこかで監視してたの?」
「当たり前だろー。つっても俺だけじゃなくて他の先生もなー。1年生だけを森に置き去りにできる訳ねーだろー」
(他の先生はわかったけどハワード先生の気配には気づけなかったな)
シルバは心の中で悔しがっていた。
合同キャンプの間、シルバは学生レベルではない気配を感知しており警戒を怠らずにいた。
もしも自分達が油断していれば、教師陣が何か仕掛けて来るのではないかと思ったからである。
それは今からしてみれば考え過ぎだったのだが、シルバはポールに気づくことができなかった。
学年主席で甘んじているようでは駄目だと気を引き締め、シルバはMチームのメンバーと一緒に馬車に乗って軍学校へと帰った。
結局、全てのミッションをクリアしたのはシルバ達だけであり、彼等だけに関して言えば合同キャンプは学生会のメンバーが言う程悪いものではないとシルバもアルも思ったのだった。
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