第45話 カウントダウンはどこいった!?

 シルバが異界での経験を活かして隠れている学生達の位置を察知してからアルに声をかける。


「ヤバそうだったら援護を頼む」


「わかった」


 アルが頷いた直後にシルバがナノカソウの群生地に突撃する。


「ヒャッハァッ! かかったぁぁぁ!」


大天使級アークエンジェル獲ったりぃぃぃぃぃ!」


「「「・・・「「もらったぁぁぁぁぁ!」」・・・」」」


 シルバが待ち伏せに引っかかったと思った学生達がシルバを取り囲むように現れた。


 少なくとも2チーム以上はいたけれど、シルバにとってこれぐらいの待ち伏せは問題ないのでニヤリと笑う。


「參式光の型:仏光陣ぶっこうじん!」


 シルバが技名を唱えた直後、シルバの手の動きに応じて背後に大仏の幻覚が現れた。


 大仏の幻覚が急激に光を放って周囲を光で包み込み、学生達の隙を作ってその隙に彼等に首トンを決めて無力化する。


 光が収まった時には学生達は無力化されており、彼等の懐からミッションリストを3枚奪い取った。


 その直後、シルバからミッションリストを取り返そうとした学生達が慌てて出て来たけれど、アルが小さな段差を掘ってそこに踏み込んだ瞬間にバランスを崩して転ぶ。


 転んだ学生達に首トンを決めてシルバはアル達を手招きして呼び、やって来たアルとハイタッチする。


「アル、ナイスアシスト」


「シルバこそ流石だよ」


「うへぇ、シルバもアルも強いなぁ」


「同じチームで本当に良かった」


「味方で良かったです」


 ジーナとサリー、メリルはシルバとアルが敵じゃなくて良かったと自分達の籤運に感謝した。


 今回待ち伏せていたのはBチームとDチーム、Fチームだった。


 3枚のミッションリストはシルバがBチームとMチームの分を持ち、アルがDチームの分、ジーナがFチームの分を持って誰がMチームの分を持ってるか他のチームにわからないようにした。


 普通に考えればこの中で最も強いシルバが持っているだろうと判断し、他のチームはシルバを狙うだろう。


 シルバが敵を引き付けて倒し、シルバでも捌き切れない分はアルがフォローする形で迎撃することが決まった。


 それからナノカソウをノルマの倍近く採集してシルバ達は拠点に戻った。


 その時、シルバはテントが僅かに動いたのを見逃さなかった。


「テントの中に何かいる」


 シルバは小さい声でアル達に情報を共有した。


「シルバ君、どうやって確かめる?」


「まずは降伏を促す。テントの中に入ってるのが学生なら強めの攻撃を当てると脅せば出てくるはずだ」


「テントの中に獣やはぐれモンスターがいる場合は?」


「そっちは考えにくいけどテントごと攻撃する。無駄に接近して怪我を負うリスクは避けたい」


「わかった。僕も僕なりにフォローするよ」


 シルバとアルによってサクサクと方針が進められてしまい、残るジーナ達は身構えておくことしかできない。


 それでもシルバ達に任せておけば大丈夫だと信頼しているから、ジーナ達はせめて自分の身をなんとか守ろうと備えた。


 全員の準備が整ったところでシルバはテントの中に隠れている何かに声をかける。


「テントの中にいる奴に警告する。今から5秒以内に出ないと攻撃する」


「5」


 シルバが5と言った瞬間、後ろにいたアルが岩でできた槍をテントに近い木に当てた。


 槍が木に当たった音を聞いた瞬間にテントの中から慌てて学生5人が出て来た。


「待つ気なしかよ!?」


「カウントダウンはどこいった!?」


「優しさはないの!?」


「どぼじでぞんなごどずるのぉぉ!?」


「降参します! 許して下さい!」


 出て来たチームの3人は半泣きであり、2人はマジ泣きだった。


 降参したのはJチームであり、シルバ達のテントに辿り着く前に収穫したエリンギョを置いていくならミッションリストまでは奪わないと伝えた。


 それを聞いたJチームはすぐにエリンギョを置いてこの場から逃げて行った。


 エリンギョを置いていけば見逃すと言った手前、シルバ達は逃げ出したJチームに手を出さなかった。


 Jチームがいなくなった途端、ジーナとサリー、メリルは大きく息を吐き出した。


「合同キャンプって大変ね」


「頭脳戦だよね」


「怖いです」


「怖いと言ったらアルでしょ。シルバのカウントダウン中に攻撃するんだもの」


「「確かに」」


 シルバが警告して相手を焦らせるのはわかっていたが、アルがそこに更にプレッシャーを与えるのはジーナ達にとって全く予想していなかったことだった。


 Jチームの学生でマジ泣きしていた2人はアルによって必要以上の恐怖を味わっていたのだから、戦闘コースではないジーナ達が怯えるのも仕方のないことだろう。


 ジーナ達から怖がられているアルは特に酷いことをしたつもりではなかった。


「あれぐらいやって当然だよ。舐められたらどんな脅しも通じないんだから。多少過激にやってこっちがマジだと思わせるんだ」


「アルの腹黒さを見習わなきゃ」


「ジーナは真似しなくても十分腹黒いよ」


「なんだと~!」


「怖いですぅ」


 (それな。ジーナもジーナで十分腹黒い)


 サリーのコメントにシルバは心の中で頷いた。


 メリルに至ってはアルとジーナの両方に怯えている。


「シルバ君、僕ってそんな腹黒いかな?」


「シルバ、私ってまだそんなに腹黒くないよね?」


 アルとジーナに詰め寄られたシルバは2人からスッと視線を逸らした。


「ほら、シルバだって腹黒いと思ってるんだよ」


「ですです」


「「2人は黙っててくれる?」」


「「あっ、はい」」


 (威圧されてるじゃんか)


 答えはYesかはいか喜んでしか許されない調子でサリーとメリルが言われるのを見てシルバは苦笑した。


「ねえ、シルバ君はそんな酷いこと言わないよね?」


「シルバは私のお腹が真っ黒だなんて言わないよね?」


 アルとジーナから感じる圧は強かったが、シルバはやるべきことを思い出してそれを口にする。


「そうだ、テントの中を調べないと。Jチームが何か細工をしてないとも限らないし」


「調べよう!」


「調べましょう!」


 シルバの作り出したビッグウェーブに乗るしかないでしょと思ってサリー、メリルが便乗する。


 アルとジーナもテントを調べなければいけないことには賛成だったので、ひとまずこの話題を中断してテントを調べた。


 幸いなことに、テントの中には何も仕掛けられていなかった。


 Jチームはここが誰のチームのテントかわからず、とりあえずミッションリストにあった素材を集めて戻って来たタイミングで奇襲するつもりだったようだ。


 野営地とはいえ、他の場所にいる時よりも帰って来た瞬間を狙った方が油断しているという考えは一般的には間違っていないだろう。


 しかし、その一般的な考えがシルバに通用しなかった。


 ただ単純に待ち伏せを仕掛ける相手が悪かったと言えよう。


 終わったミッションに印をつければシルバ達の残りのミッションが2つであるとわかる。


「毒消しを先にやるか討伐を先にやるか」


「それもそうだけど、さっきみたいにテントに襲撃してくるチームもいると思うんだよね」


 シルバとアルがどうしたものかと考えていると、ジーナがポンと手を打つ。


「いっそのこと二手に分かれちゃったら? Mチームは戦える人がシルバとアルで2人いる訳だし」


「なるほど。アルの魔法を使えばテントの周囲を堅牢な要塞にできる。その間に俺が偵察がてらあちこち移動するのもありか」


 ジーナの意見に悪くないと判断したシルバが具体的な補足をする。


 そこにサリーが手を挙げる。


「はい!」


「どうしたサリー?」


「私はシルバと一緒に行動する! 獣や植物に関する知識は頭に詰め込んで来たから!」


 サリーの言い分はもっともである。


 留守番組は防衛がメインだから残りのミッションをクリアするチャンスは攻め込んで来た者達を倒して毒消しの素材を奪うぐらいしかできない。


 それだと自分の準備したものが役に立たずに終わってしまうので、サリーはシルバと一緒に行動したいと言い出した訳だ。


「で、でも、サリーさんはシルバ君と同じ速さじゃ動けませんよね?」


「それは・・・」


 メリルの指摘もまたその通りである。


 知識は大事だけれど、サリーが同行すればシルバの足枷になってしまう。


 それだったらシルバとそれ以外で分かれた方が良いのではとメリルは暗に伝えた。


 メリルが言い返せないでいるとシルバが助け舟を出す。


「荷物の移し替えをしたら、俺がリュックを背負ったサリーをおぶって移動する。そうすれば2人で移動するよりも速く動けるからな」


「大丈夫? いくらシルバでも重いんじゃない?」


「重くないから! 私、重くないからね!」


 ジーナは総重量の話をしているのだが、サリーは自分が重いと言われている気がして強く否定した。


 結局、シルバが実際にやってみて問題なく動けたので二手に分かれる作戦ではシルバとサリーが一緒に動くことになった。

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