第44話 シルバマジ天使! ジーナマジ金の亡者!
合同キャンプ当日の朝、全コースの1年生がグラウンドに集められた。
籤引きの結果発表はグラウンドに用意された掲示板に掲載され、ニュクスの森にはチーム毎に移動するのだ。
「これより1年生の合同キャンプを始める! 学生諸君、最高のパフォーマンスを教員に見せろ! 以上だ!」
力強い開式宣言を手短に済ませたジャンヌは後者へと戻って行った。
(知り合いが多いっていう点で籤運は良かったらしい)
シルバがそう思ったのはチームの残り4人中3人が知り合いだったからだ。
その3人とはアルとジーナ、サリーである。
今は与えられた自己紹介の時間なので、シルバが最初に口を開く。
「知ってるメンバーもいるけどまずは自己紹介をしよう。B1-1のシルバだ。階級は
「僕はアル。シルバ君と同じB1-1だよ。階級は
「私はF1-1のジーナ。階級は同じく
「私はS1-1のサリー! 階級は
「わ、私はH1-2のメリルでしゅ! か、階級はありましぇん!」
メリルは自分だけ階級がないこと、自分以外が1年生の中では有名人だったことでビビった結果噛んでしまった。
シルバは入学してからいくつもの話題を作って来た。
アルはそんなシルバと新人戦で良い勝負をしただけでなく、シルバと一緒に学生会に入会した。
ジーナは新人戦の屋台の結果から会計コースのホープと呼ばれており、その時に
サリーもジーナと同じタイミングで
それに対して自分には誇れる成果が何もない。
だからこそ、メリルは自分がここにいるのは場違いではなかろうかとプルプル震えているのだ。
メリルは眼鏡をかけた三つ編みの少女であり、見るからに気が弱そうでもある。
ただし、そんな彼女もH1-3ではなくH1-2に所属できたのだから決して実力がない訳ではない。
自己紹介が終わった所でポールの声に耳を傾ける。
「よーし、次はMチームとNチームの10人が馬車に乗れー」
シルバ達はMチームだからNチームと同じ馬車でニュクスの森へと移動する。
Nチームにはヨーキがおり、ニュクスの森に着いて馬車を降りた時に知る場に対してビシッと指をさす。
「シルバ、今回は絶対負けないからな!」
「望むところだ」
ヨーキは正々堂々と勝負を挑んで来るから、シルバは彼のことをそこそこ気に入っている。
ヨーキ達Nチームと別れた後、シルバ達Mチームは指定された場所に向かった。
A~Tまである各チームは指定された場所で野営をすることになっている。
1年生ということで野営に必要な最低限の道具は学校側が指定場所に用意しているが、逆に言えば最低限の物以外は自分達で考えて持って来なければならない。
この5人が持ち込む物によって合同キャンプが地獄になるかただの野外演習で済むか変わって来るのだ。
「まずは学校側が用意してくれた物を確認しよう」
「「「賛成」」」
「は、はい」
階級が最も高いシルバが指揮を執ることに誰も文句は言わない。
戦術コースの学生がいたら揉めた可能性はあるけれど、いないのだからシルバが指揮を執るのが学生とはいえ軍に所属する者として自然である。
学校側が用意してくれたのはテント1つと寝袋5つだった。
この世界の軍において小隊で野営を行う場合、荷物に余裕がない限り男女が別々のテントで寝ることはない。
そもそも見張りを交代で行うし、外に仲間がいるのにテント内がロマンティックなムードになってハッスルするなんてことにはならないのだ。
テントの組み立て方はサバイバル経験のあるシルバとジーナが詳しかったこともあり、特に問題が発生することもなくスムーズに完了した。
テントの準備が終われば時間も正午を回る頃だったので昼食にすることになった。
火起こしはアルがいるから簡単に済む。
シルバは黒パンに切れ込みを入れ、野菜チップスと干し肉の順に重ねてケチャップもかけた即席ハンバーガーを作り上げた。
「あっ、僕もそれやる」
「私も」
アルとジーナもシルバの後に続いて同じ物を作った。
美味しそうに食べるシルバ達を見てサリーとメリルがゴクリと喉を鳴らす。
「ジーナ、私達って友達よね?」
「会計コースの私に無料でってことはないよね?」
「だよねー」
駄目元でサリーが言ってみたが、ジーナは対価がなければ譲れないと答えた。
ジーナがそう言うだけの価値があると知ってサリーはもっと気になるけれど、ジーナにこの場で払おうとしたらこのキャンプで支障が出るかもしれないと諦めた。
そんな時、サリーに天使が舞い降りた。
「サリー、野菜チップスとケチャップを分けてやる。黒パンと干し肉はあるだろ? 作ってみろよ。勿論、メリルにも分けてやるから安心してくれ」
「シルバマジ天使! ジーナマジ金の亡者!」
「ちょっと! 金の亡者ってどーいうことよ!」
ジーナとサリーが賑やかに言い争っている横でメリルがおずおずと訊ねる。
「わ、私まで良いんですか?」
「良いぞ。こんな状況で仲間外れは良くないからな」
「ありがとうございます!」
サリーとメリルも即席ハンバーガーを食べることができて幸せそうな顔になった。
シルバにはクッキーという秘密兵器もあったが、これはミッションで疲れた夜に取っておくことにした。
アルとジーナも同じ考えのようだ。
シルバ達は一言も話さずに同じ結論を出した。
クッキーの話をすれば今この場で食べたいという欲求に勝てなくなると思ったからである。
昼食を終えたらミッション開始だ。
シルバはミッションが記されたリストをリュックから取り出し、チーム全員でどれから着手するか相談し始めた。
「エリンギョやナノカソウの採集は簡単そうじゃない?」
「ドクドクタケとアオジギソウ、イッチョの根で作る毒消しは難しそうね」
「野生動物もしくははぐれモンスターの討伐は遭遇しないと無理だよね」
「他チームのミッションリストを奪うのはリスクがあると思います」
アル達の話を聞いてシルバは最初に着手するミッションを決めた。
「見つけた順番次第にはなるけどナノカソウの採集から始めよう」
「「「異議なし」」」
「私も賛成です」
ナノカソウとは非常に繁殖力が高い野草であり、食べられることから貧しい者の味方と呼ばれる。
種を植えてから7日で食べられることからナノカソウと名付けられている。
草の中に水を溜め込む性質があり、強いて言うならレモン水を薄めたような味とシャキシャキした歯ごたえが特徴だ。
ナノカソウは獣にとって絶対に食べたい野草でもないが、あったら食べるぐらいの草なので採集の途中で獣に襲われる可能性は低い。
そういった事情からシルバが最初にナノカソウの採集のミッションを行うことにしたのである。
方針が決まったため、シルバ達はテント周辺から隊列を組んでナノカソウを探し始めた。
隊列はシルバが先頭でサリーとメリルが真ん中、アルとジーナが最後という順番だ。
戦闘が得意なシルバとアルが前後を警戒しながら進み、サリーとメリルが真ん中でじっくりと採集対象を探す。
ジーナがアルと並んで後ろにいるのは彼女が行商の旅で警戒しながら進むことに慣れているからである。
後ろから注意深く確認する役割をアルだけに任せるよりも、ジーナとアルが手分けした方がアルの負担を減らせる。
シルバは異界での経験から1人でもどうにでもなるが、アルにはそこまでの経験がないからジーナに補助を任せる形だ。
しばらく探索していくと、シルバは前方にナノカソウの群生地を発見した。
「見つけた」
シルバが短く小さな声でそう言った後にジーナが口を開く。
「おかしいわ」
「どゆこと?」
「何がおかしいんですか?」
サリーとメリルはジーナがおかしいと口にした理由がわからずに首を傾げた。
その疑問にジーナではなくアルが答える。
「手つかずってことがおかしいんだ。僕達の前にここに別のチームがいたとしてもおかしくないのに誰も採集した形跡がない。待ち伏せの可能性がある」
「アルの言う通りだ。足跡も消せてなければ気配も殺せてない。隠れてる奴等がいるぞ」
シルバの発言に状況を理解したサリーとメリルが警戒度を引き上げた。
合同キャンプはここからが本番らしい。
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