第22章 拳聖、クラスメイトに仕事を見学させる
第221話 ハワード先生、それって自分が楽したいだけですよね?
夏休みが明けて9月最初の登校日、シルバとアリエルは従魔達を連れて久々に軍学校にやって来た。
B3-1の教室に入った途端、シルバはクラスメイト達に囲まれる。
「おはよう拳聖!」
「
「見た目は子供、中身は超新星のシルバ君、おはようございます!」
「二つ名とか階級でいじるの止めろって」
シルバはやれやれと言いたげに苦笑した。
その頭の上ではレイがドヤ顔で胸を張っている。
主人が褒められてとても良い気分らしい。
「みんな、シルバ君が困ってるじゃないか。そろそろ止めてね」
「わかった」
「は~い」
「ごめんね」
アリエルが笑顔でそう言ったところ、クラスメイト達はおとなしく言うことを聞いた。
アリエルに逆らうとどうなるかわかっているからである。
リトもアリエルがクラスメイト達に言うことを聞かせたのを見て、自分の主はすごいんだぞとドヤ顔になった。
こちらも雛の見た目だから大変可愛らしい。
「俺のことは良いとして、ヨーキとサテラ、タオは夏休み中に
「ありがとな。つっても、シルバに少しでも追いつければと思ったのに、シルバも昇進してるから差は埋まらずだけどな」
「ちゃんと昇進したことを認識してくれてたんだね。ありがとう」
「ありがとう。私もシルバ君のおかげで有意義な研究ができたよ」
ヨーキとサテラは夏休みの間、他のクラスメイトの倍以上のミッションを引き受けて達成した。
こうなった背景だが、ヨーキとサテラが休み期間中に達成したミッション数で勝負しようと話しており、お互いに相手よりも1件でも多くミッションを受けようと頑張った結果が
無論、それ以外のクラスメイト達がミッションをさぼっていた訳ではなく、ヨーキとサテラが張り切り過ぎただけである。
タオの場合、シルバが倒したモンスターの素材を融通したことで、新薬の開発に成功して昇進した。
開発した新薬はボッシーフォックスと名付けられた。
ブラック級モンスターの素材を使ったブロック状の薬品であり、それを持って歩けばレッド級以下のモンスターが近寄らなくなる効果がある。
ただし、空気に触れるとどんどん効果が切れていくから、薬の効果があるのは30分だけだ。
ボッシーフォックスはまだまだ効果持続時間の短さという課題はあれど、商人や護衛ミッションを受けた軍人、乗合馬車の御者に大好評である。
シルバがクラスメイト達と喋っていると、今日も今日とて気怠げにポールが教室に入って来た。
「よーし、集まってんな。席に着けー」
そう言ったポールの腰には、先月シルバ達が回収した不義剣ドゥルジ・ナスが提げられている。
不義剣ドゥルジ・ナスには使用者が蠅に集られるという呪いがあった。
それを薬学的なアプローチで解除できないか、帝国軍の研究部門で様々な検討がなされたが、呪いを無効化したのはエイルだった。
研究部門は蠅が嫌いな臭いのする薬品を作ったが、誰も満足のいく結果を出すことができなかった。
エイルは元々、衛星コース出身で双子の妹のクレアと同様に薬学に明るく、自分も難しい問題にチャレンジしてみたいと薬品を開発してみたのだ。
エイルが研究部門と違って開発に成功したのは、シルバと普段から一緒に過ごしていたことで発想が柔軟になったからだろう。
彼女は蠅の嫌いな臭い成分の素材を使うだけでなく、自分の
開発した薬品の名前はベルゼブロストとされ、不義剣ドゥルジ・ナスを使わない時は必ずそれを滲み込ませた布で刃の部分を包むようにしている。
薬品と聞くと臭いが強そうな印象を抱くかもしれないが、ベルゼブロストは無色無臭なので、ポールもこれなら安心して携帯している。
ちなみに、ポールが不義剣ドゥルジ・ナスを使うことになった理由だが、ショーテルを使える者がポールのみだったからだ。
ポールもシルバ程ではないが、様々な状況で戦えるように複数の武器を扱えた。
ショーテルを扱ったことは今までになくとも、ショーテルの作られた目的を理解したポールはすぐに使い方を覚えてしまい、それならば呪いも無効化されたからポールが使えとアルケイデスに命じられたのである。
それはさておき、B3-1の学生達が着席したのを確認してからポールは再び口を開く。
「ホームルームを始めるぞ。連絡事項は2点だ。1点目はハザードマップの更新についてだな。最近の割災の影響で、レッド級モンスターどころかブラック級モンスターまでしれっと遭遇するようになった。今配った物をしっかり読み込んでおけー」
ハザードマップとは、各種災害で自国がどのような被害に遭うか想定された地図のことだ。
ディオニシウス帝国のハザードマップは飛び抜けて精緻なものとは言えないけれど、それでもあるのとないのでは有事の際にできることが変わって来る。
今回の更新は水害や地震の項目ではなく、割災の項目での変更がハザードマップに記されていた。
「2点目はサタンティヌス王国とウチの国境付近にデーモンが出没したそうだ」
デーモンと聞いた瞬間、ヨーキとメイがチラッとアリエルの方を向いた。
「ねえ、なんで僕の方を見たのかな?」
「「なんでもありません!」」
アリエルが目の笑っていない笑みを浮かべれば、ヨーキとメイはビシッと背筋を伸ばして前を向いた。
「お前等ー、アリエルはデーモンよりも強いぞー」
「ハワード先生、それはフォローになってないです」
「ん? それはすまん」
ポールとしては、アリエルとデーモンを比較してアリエルの方が強いから、アリエルをデーモン扱いするのは失礼だと思っていた。
正直なところ、アリエルはポールが思いついても実行しない手段を実行してしまう思い切りの良さがあるので、アリエルがデーモンよりもデーモンらしいという言葉は言い得て妙だと考えている。
ポールが自分の求めたフォローをしてくれなかったため、アリエルはムッとした表情で咎めたけれど、ポールはあっさり謝ってアリエルの毒気を抜いた。
(ハワード先生の受け流す技術は流石だな)
シルバは全く関係ないところに関心を持っていたが、それを口にすればアリエルが怒るだろうから絶対に口には出さなかった。
アリエルが落ち着くと、隣で待機していたリトが元気出してと言いたげにポンポンと叩き、アリエルはありがとうと言ってリトをモフモフした。
「ホームルームは以上だ。早速、座学の講義に移ろう。今日は
シルバとアリエルのせいであまり目立たないけれど、3年生の戦闘コースで暮らすの半分が
それだけ優秀ならば投資する価値があると判断され、まだマジフォンを持っていないヨーキ達にマジフォンが支給された。
ヨーキ達はシルバとアリエル、ポールが使っているマジフォンを羨ましく思っていたため、それを自分も使えるようになると知って喜んだ。
しかし、ここで大声で叫べば考え直されるかもしれないので、ヨーキ達は必死に叫びたい気持ちを堪えている。
ポールが順番にマジフォンと取扱説明書を渡していくと、貰った学生達は食い入るように取扱説明書を読み始めた。
全員にそれらが行き渡ったため、ポールはマジフォンの説明をしようとした。
そのタイミングでポールはふと良いことを思いついた。
「本来は俺が教えるべきなんだが、歳の近いシルバから教わった方がお前達にとっては良いかもしれんな。よし、シルバ、俺の代わりによく使う機能から説明してやってくれ」
「ハワード先生、それって自分が楽したいだけですよね?」
「そんな訳ないだろ。俺は軍人と学生の両方の視点で考えられるだろうから、シルバの方がこの講義の講師は適任だと思っただけだ」
シルバがジト目で抗議するのに対し、ポールはキリッとした表情で応じた。
『ご主人ってすごいね。先生もできちゃうんだ』
レイが期待して目を輝かせるものだから、シルバはポールにしてやられたと思ったが、ポールの代わりにマジフォンの使い方をヨーキ達に説明した。
シルバの講義はポールの期待以上であり、講義が終わる頃にはB3-1の全員がマジフォンを使いこなしていた。
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