第128話 適度に反撃してくれるサンドバッグですね
昼食を取った食堂から禁書庫に戻ったタイミングで眼鏡をかけたインテリヤクザ風な銀髪の男性が軍服の護衛を連れて待っていた。
「待ってたぞ弟よ。それにシルバとレイ」
(アルケイデスさんを弟って呼ぶってことは第一皇子のイーサン殿下か)
シルバはイーサンの存在を知っていても見たことがなかったから、今初めてその顔を知った。
「兄貴、一体何の用だ?」
「使える部下は多いに越したことがないから見定めに来た。早速だが、アズラエルとシルバに戦ってもらおう」
「ちょっと待ってくれ。シルバは今日、禁書庫で作業する名目で軍学校の休みを取ってるんだ。それを勝手な都合で変更するな」
「構わんだろ? どうせ禁書庫の中途半端な知識なんざ埋まらんのだから。だったら、俺の都合を優先する方が遥かに生産的だ」
(俺、こいつ、嫌い)
思わず心の中で片言になり、
アルケイデスは溜息をついた後、シルバの方を向き直った。
「すまんが予定変更だ」
「そのようですね」
シルバは仕方ないと判断してアルケイデスやレイと共に軍の基地にある第一訓練室へと移動した。
城と軍の基地は隣にあるから大して移動に時間はかからない。
第一訓練室の外にアルケイデスとイーサンが並び、その中ではシルバとレイがアズラエルと呼ばれたイーサンの護衛と対峙した。
アズラエルは褐色の肌に赤髪で筋肉質な長身の男性軍人だ。
アルケイデスは自身が武器攻撃スキルを会得しているが、イーサンは<
それゆえ、イーサンは自分の戦力に不安があるので
アズラエル自身はシルバとレイに特に何も思うところがないようで、淡々とシルバに声をかける。
「第一皇子殿下の期待に応えるぐらいの実力を発揮しろ」
「村雨流格闘術、推して参る」
もしもこの場にいるのがアルならば、アズラエルに対して舌戦を繰り広げたかもしれないが、ここにいるのはシルバであってアルではない。
論破するよりも戦ってわからせてやると考えるタイプだから、模擬戦前に争うことはなかった。
実際のところ、イーサンの護衛が雑魚であるはずがないのでシルバは警戒していてそれどころではないのだ。
レイがシルバの肩から飛び立っているのを見て、アズラエルはひとまずシルバに好きに攻撃させてみることにした。
「先手は譲ろう。どこからでもかかって来い」
「壱式水の型:散水拳!」
「ふん!」
アズラエルは自身に襲い掛かる水の散弾に対し、オーラを体から放出してそれを相殺した。
(<
オーラで敵の攻撃を防ぐ
シルバはアズラエルと距離を詰めて次の攻撃を仕掛ける。
「肆式雷の型:雷塵求!」
「ぬっ!?」
普通の打撃では
「弐式雷の型:雷剃!」
「チッ」
シルバが自分の隙を突いて蹴りに雷を纏わせた攻撃を仕掛けて来たため、アズラエルはひらりとターンしてそれを躱しつつ遠心力を上乗せした裏拳を放つ。
だが、その流れはシルバも読んでいた。
「參式雷の型:雷反射!」
「ぐぁっ!?」
シルバがアズラエルの拳をガードしながら雷を放出すれば、アズラエルはその放出した雷が直撃して呻いてしまう。
それでも、イーサンの護衛を任された耐久力は伊達ではなく、すぐにダメージから立ち直って軍服に仕込んでいた投げナイフ8本を投げてシルバに反撃する。
避けるのは全く問題なかったが、自分が避けた瞬間にアズラエルが何か狙っているのを察してシルバは全ての投げナイフを指と指の間で挟んでキャッチした。
「少しはできるようだな」
「お褒めいただいて光栄ですとでも返せば良いんですかね?」
「そうだな。俺は殿下の護衛の任に就いてるが、階級上は
「さいですか」
シルバはアズラエルに8本の投げナイフを投げ返すが、アズラエルはそれを最小限の動きで躱してシルバに接近する。
そして、オーラを溜めた拳をシルバ目掛けて繰り出す。
「はぁぁぁぁぁ!」
「伍式:
シルバはアズラエルの拳から放たれたオーラの砲撃を受け止めるように自身のオーラを展開し、自らのオーラでオーラの砲撃を吸収して自身に取り込んだ。
「馬鹿な!? アズラエルの
第一訓練室の外ではイーサンが目の前で起きた事象を信じられずに叫んだ。
アルケイデスも驚いてはいたが、イーサンとは違ってシルバが
アズラエルの攻撃によって体が軽くなったシルバは、アズラエルとの距離を先程よりも速く詰める。
自分が想定していたよりもシルバの動きが早く、アズラエルは防御姿勢を取りながら
「參式光の型:仏光陣」
強烈な光が第一訓練室を包み込み、アズラエルやレイだけでなく部屋の外にいたアルケイデスやイーサンも目を開けてはいられなかった。
「肆式光の型:
シルバは両手の人差し指と中指だけ伸ばして
技が終わってアズラエルが背中から地面に落ちた後、デーモンと戦った時とは異なってその全身から血を吹き出すことはなかった。
ただし、アズラエルは自分の体が微動だにできないぐらい重く感じていた。
力を入れようにも全く入らないのだ。
ようやく目が開けるようになったところで、アズラエルはシルバに見下ろされていた。
「俺の勝ちで構いませんよね、アズラエルさん?」
「・・・参った」
「なんだと!? アズラエルが倒されてるだと!?」
「ハハッ、すげえ。シルバがアズラエルを完封しやがった」
シルバがアズラエルを倒したという事実が信じられないイーサンに対し、アルケイデスはまさか無傷で倒すとは思わなかったと笑った。
「キュイ~」
「レイ、勝ったぞ」
「キュイ♪」
レイは戦いが終わるとシルバにダイブして甘え、シルバはそんなレイに微笑みながらその頭を撫でてあげた。
シルバが強そうな相手を倒したのが嬉しいらしく、レイはシルバにご機嫌な様子で抱かれている。
第一訓練室を出たシルバはアルケイデスに声をかける。
「アルケイデス殿下、禁書庫に行きましょうか。作業を再開しましょう」
「お、おう」
イーサンがいる手前、自分をさん付けで呼べないのは理解しているが、放心しているイーサンを放置して禁書庫で午前の続きを使用と言い出したシルバにアルケイデスは戦慄した。
アズラエルと戦っても全く疲れた様子を見せず、これから禁書庫で作業を再開しようとするシルバの実力に驚かないはずがない。
アルケイデスは禁書庫に戻って周りに自分達しかいなくなってから、シルバに訊ねた。
「シルバ、ぶっちゃけアズラエルと戦ってどうだった?」
「適度に反撃してくれるサンドバッグですね」
「お、おう。それ、絶対に兄貴やアズラエルの前で言うなよ?」
「言いませんよ。言ったら面倒なことになりますから」
シルバだって時と場所を考えて発言する。
今はアルケイデスがぶっちゃけた話を訊いて来たから答えただけで、他の者に訊かれたらデーモンより強かったという外向けの回答を用意していた。
「まあ、その、なんだ、兄貴の狙いとしてはアズラエルがシルバの実力を出し切らせて抑え込んだ後、シルバを部下にしてやるというつもりだっただろうから、どっちにせよ面倒なことになりそうだがな」
「師匠と比べたらあの程度大したことないです。そもそも、自分勝手な第一皇子殿下の派閥に入る訳ないじゃないですか」
「兄貴はなぁ、なんというか人心掌握が下手くそだから」
「派閥で括るならば、俺は第二皇子派閥になるでしょうね。OBOG会からお世話になってますし」
「別に俺は次代の皇帝なんて狙ってないぞ?」
「わかりませんよ? 今日会ってみて思いましたが、サタンティヌス王国みたいに帝国も碌でもない内戦になるかもしれませんから」
「おいおい・・・」
シルバが自分について来てくれることへの嬉しさ半分、内戦が起きるんじゃないかと告げられて困惑半分という気持ちのアルケイデスだった。
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