第129話 シルバ、女性に年齢に関わる質問をしたら駄目なんだぞ?
アズラエルとの模擬戦についてはさておき、シルバは魔法工学の本を棚から取り出して読み始めた。
「ん?」
「どうした?」
「いえ、去年の魔法工学の授業で俺がテストの時に答えた魔力回路の問題点と改善点がそのまま補記されてたものですから」
「あれもシルバの仕業だったのか。去年、俺が研究部門の連中から渡されたそのメモを書き加えたんだよ」
「お手数をおかけしました」
「いや、そんなの全然問題ない。むしろ、空白になってた知識が埋まったことに感謝してるぐらいだ。ぶっちゃけ、シルバが埋めてくれた知識のおかげでマジフォンも実用段階まで漕ぎ着けられたんだし」
今はキマイラ中隊と軍学校の学生会メンバー、それと帝国軍の上層部しか持っていないマジフォンの完成に自分が一役買っていたとは知らなかったので、シルバは自分のやらかしがここに繋がるのかと感心した。
「あの時はハワード先生が教室を出てってしばらくしたら校長室に呼び出されたんですよね」
「そりゃそうなるだろ。ポールは自分だけで抱え込めないから校長にすぐに連絡したんだろうよ。校長だって長年進展のなかった問題が解決されたら、誰がどう考えたのか質問したくなるのは当然だ」
「師匠の知識って本当にすごいんですね」
「すごいなんてもんじゃない。シルバ、この際だからはっきり言っておく。お前の知識は禁書庫の本に等しい。もしもそれがサタンティヌス王国や他の国に知られたなら、是が非でもその知識を手に入れてやると襲い掛かって来る者だっているはずだ。アズラエルを倒せるシルバに言うのも変な話だが、くれぐれも気を付けてくれ」
「キュイ!」
アルケイデスがシルバを心配した発言をすれば、レイがパタパタとアルケイデスの前で自分に任せろと言わんばかりに鳴いた。
今の気分はシルバのナイトらしい。
そんなレイを優しく抱き留めてシルバはその頭を撫でる。
「レイも貴重な存在だから気を付けなきゃ駄目だぞ」
「キュ~イ♪」
シルバに言われてレイは素直に返事をした。
シルバとアル、レイは現在のディオニシウス帝国にとって失ってはならない存在だ。
シルバの経歴について訊いた後、実はアルの経歴についてもアルケイデスは相談と協力を受けていた。
それゆえ、アルケイデスはポールや
それはさておき、シルバは魔法工学の本のチェックを再開した。
レイはシルバの頭の上に乗り、シルバと同じように本を読み進める真似をしている。
本当にレイも読んでいるのだろうかとアルケイデスが気になっていたところ、シルバのページを捲る手が止まった。
「何か見つけたか?」
「はい。このページなんですが」
シルバがアルケイデスに見せたのは水を出す装置のページだった。
この装置はマリアが蛇口型にしており、呼び名も蛇口となっている。
「蛇口だな。このページがどうした?」
「これ、師匠が改良してましたよ」
「マジか!」
「でも、自分で水を出した方が早いって言ってほとんど使ってませんでしたけど」
「マジかぁ。とりあえず、どこがどう違うのか教えてほしい」
1回目にマジかと言った時は期待に胸を膨らませたが、2回目に言った時のアルケイデスの表情は苦笑いに変わっていた。
それでも、<
したがって、アルケイデスはシルバに本に書かれた内容とマリアの改良版の違いについて訊ねた。
「師匠の蛇口には温度を変える機能がありました。ですが、この本の蛇口の魔力回路を見る限りでは温度調節の機能がありません」
「確かにそうだな。夏に温い水が出るのはがっかりするし、冬にお湯とまではいわなくとも温い水が出て来たら嬉しい。シルバにはそんな風に調節できる魔力回路がわかるのか?」
「わかりますけど俺が手を出しても大丈夫なんでしょうか? 水利権って面倒じゃありませんか?」
「安心してくれ。蛇口はインフラの中でも特に重要だから国で管理してる。だから、改良されることを喜ぶことはあっても迷惑がられることはない」
シルバはアルからマリアに学んだ知識の扱いについて注意されていた。
マリアの知識は内容によっては帝国、いや、もしかすると世界の常識すら変えてしまうかもしれない。
現に色付きモンスターに関する情報は世界共通であり、ブラック以降のモンスターがいることは世界に大きな影響を与えている。
アルケイデスはシルバが利権問題にも気が回ると知って感心しているが、これはアルの入れ知恵によるものだった。
「わかりました。では、蛇口については師匠に習った回路をメモ用紙に新しく描いておきます」
「そうしてもらえると助かる」
蛇口の新しい魔力回路を描き終えてから、再びシルバは読んではページを捲るのを繰り返す。
それが一定のリズムだったこともあり、レイはシルバの頭の上ですっかり寝息を立てていた。
そのリズムが変わった時、アルケイデスは開かれたページを覗いて期待した。
「スキルチェッカーか。これは拳者様が異界に乗り込む前に完成せず、研究が行き詰って凍結されたんだ。属性検査キットはどうにか完成させられたんだが、スキルチェッカーは上手くいかなかったらしい。まさか、これも拳者様は完成させてたのか?」
「属性検査キットと同じで消耗品ですけどね。俺が師匠の<
「シルバ、女性に年齢に関わる質問をしたら駄目なんだぞ?」
「今の俺なら絶対にしません。6歳の頃の俺はスラムの孤児院育ちだったんで疑り深かったんですよ」
アルケイデスにお前はある意味強者だよと呆れた目線を向けられてしまい、シルバもあの時は自分も幼くて警戒心が剥き出しだったんだと弁解した。
ちなみに、その後のマリアの修行がいつもよりもハードだったのは言うまでもない。
「まあ、これ以上危険な話を続けるのは止めよう。シルバはスキルチェッカーの魔力回路もわかるのか?」
「わかることにはわかるんですが、あれは木の皮やモンスターの毛皮に魔力をたっぷり込めたインクで直接魔力回路を刻み、使い終わったらすぐに燃えるような設定なんです。師匠は個人情報を守るためだって言ってました」
「Oh・・・」
それってシルバがマリアに<
シルバの年齢と事情を考えた場合、<
だからこそ、消耗品としてでも自身が会得しているスキルを可視化できるスキルチェッカーが完成するのは良いことだろうとポジティブに捉えた訳だ。
「禁書庫内では火気厳禁ですから描けません。どうしましょうか?」
「魔力回路を調整して燃えてなくなるんじゃなく、濡れてグチャグチャになるとかバラバラに切れるとかにできないか? それができるならここで試しに描いてもらいたいな」
「・・・やってみましょう」
アルケイデスからのリクエストを受け、シルバはメモ用紙にマリアから教わった魔術回路を途中まで描いた。
そして、肝心の使い終わったら燃える機能の部分を書き換えて水で濡れて文字が読めなくなるようにした。
「できました。使い終わったら水で濡れて文字が読めなくなるはずです。俺が使って試してみますね」
「いや、それは俺に試させてほしい。スキルチェッカーが完成したと俺が判断するんなら、俺の認識してるスキルが浮かび上がるようにした方が確実だからな」
「わかりました。どうぞ。そこの丸い部分を摘まんで魔力を流して下さい」
シルバはアルケイデスに納得してもらうのが最優先だと判断し、スキルチェッカーになったメモ用紙を渡した。
「了解した」
アルケイデスは受け取ったスキルチェッカーに魔力を流し込み、自分が会得してる<
「出ましたね。そこに記されたスキルはアルケイデスさんが会得してるものですか?」
「ああ、間違いない。見事だよシルバ。これはどうやったら使い終わったことになるんだ?」
「スキルチェッカーから手を離せば水で濡れて文字が読めなくなります」
「だとしたら、これは一旦外でその処理をした方が良さそうだ」
アルケイデスはそう言ってスキルチェッカーを処分しに禁書庫を出た。
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