第133話 無差別攻撃は危ねえな。危ねえよ

 翌日、授業前のB2-1ではシルバとアルの周りにクラスメイト達が集まっていた。


「H2-1のメリルが学生会の庶務になったってマジ?」


「マジだぞ。ヨーキも狙ってたの?」


「いや、俺は決闘バトルクラブで強さを求めるから学生会に入るつもりはないんだけど、学生会の空いた庶務の枠に誰が入るのか気になっただけ」


「エイルさんがいなくなって衛生コースの学生がいなくなったから、メリルの入会は丁度良かったんだよ。ね、シルバ君?」


「そうだな。学生会がどこかのコースに肩入れし過ぎるのも不味いだろうし」


 アルの問い賭けに対してシルバがそう言った直後、ソラがツンツンとシルバの肩を叩いた。


「何かなソラ?」


「戦術コース、いない」


「「あぁ」」


「忘れてた?」


「すっかり忘れてた」


「忘れてたね」


 ソラに指摘されてシルバとアルは苦笑した。


 2人にとって戦術コース出身の軍人で優秀だと思えるのはマチルダやエレンぐらいだ。


 合同キャンプでリアクション芸人顔負けの反応をしたリモーに加え、アーブラでデーモン対策チームを機能不全にさせた無能な能天使パワー2人も学生時代は戦術コースに在籍していたらしい。


 そんな戦術コースにおいて取り立てて目立った成果を挙げている学生がここ数年いないことから、シルバとアルの中では今の学生会に戦術コースの学生が入ることを想定していなかったのだ。


 それはヨーキも同じだった。


「戦術コースなぁ。お漏らし野郎のいるコースだろ? なんか頭でっかちな奴ばっかりな気がする」


「お漏らし野郎・・・。リモー」


「リモーのことか」


 お漏らし野郎=リモーという図式がB2-1の中では定着しているようだ。


 ちなみに、合同キャンプの時にはT1-1で一番優秀だとイキっていたリモーは進級と同時にT2-2に降格している。


 そこに担任のポールがやって来た。


「お前等ー、席に着けー。さっさとホームルームを終わらせてグラウンドに行くぞー」


 今日は最初の授業が実技なので、ポールはサクサクとホームルームを済ませたいようだ。


 学生達が自席に座ったのを見て連絡事項を話し始める。


「昨日からクラブ活動の勧誘期間が始まった。一部のクラブで迷惑行為が行われてたから今日は気を付けろよー」


「ハワード先生、質問です」


「どうしたロック? 1年生を罠に嵌めて確保するのは駄目だぞ?」


「そんなことしませんよ。迷惑行為ってどこのクラブがやったんですか?」


 ロックはポールにツッコミを入れてからクラスメイト全員が気になっていたことを質問した。


「あー、筋肉トレーニングクラブだ。俺も現場にいた訳じゃないから詳しくは知らんが、ポージングしながら新入生の集団を勧誘してたらしいぞ」


 (何やってんのあの筋肉集団・・・)


 シルバは額に手をやって溜息をついた。


「キュイ?」


「大丈夫。別に体調が悪い訳じゃないから」


「キュ」


 レイがシルバに具合でも悪いのかと言わんばかりに首を傾げたので、シルバはそんなことはないぞと笑ってレイの頭を撫でた。


 シルバが元気だとわかってレイはホッとしたらしく、シルバの腕の中で彼に甘やかされた。


「よーし、それ以外に連絡事項はないからグラウンドに行くぞー」


 ホームルームが終わってシルバ達はグラウンドに移動した。


「さて、実技の授業を始める訳だが、今日の模擬戦はいつもと趣向を変えてみることにした。全員、このバンダナを腕に巻いてもらおう」


 ポールはそう言ってバンダナをシルバ達に渡した。


 それを彼等が腕に巻いたところで説明を再開する。


「今日の模擬戦はバトルロイヤル形式だ。ただし、最後まで立ってた奴の勝ちって訳じゃなくて、最後までバンダナを守り切った奴の勝ちってルールだな」


「ハワード先生、質問があります」


「どうしたシルバ?」


「レイは俺とチーム扱いでしょうか?」


 シルバがこの質問をするのは当然だ。


 何故ならレイと一緒に戦って良いのか、それともレイは見学なのかでシルバの戦略が大きく変わるのだから。


「実践ならお前等は一緒だろう? 今回はレイもシルバと一緒に戦って良いぞ」


「キュイ!」


 ポールの説明を聞いてやったねとレイは喜んだ。


 普段の模擬戦ではシルバが強過ぎることもあり、レイは基本的に見学を強いられるからシルバと一緒に戦えると聞いて嬉しかったらしい。


 その瞬間、シルバとレイを野放しにしてはいけないと9人のクラスメイト達の意見が一致した。


 全員の準備が整ったところでポールが合図を出す。


「試合開始」


 ポールが開始の合図を出した直後、タオが無差別にボールを投げた。


 地面に触れた途端に煙が発生してシルバと彼に襲い掛かったクラスメイトを包み込んだ。


 タオが投げたのはただの煙玉ではなく、睡眠薬を気化した煙玉だった。


 うっかり吸い込んでしまえばすぐに眠気に負けてしまう煙玉をいくつも使うあたり、タオは物量で圧倒する作戦だったようだ。


 自分はマスクを着けて吸い込まないようにしているから、煙が散ったら眠ったクラスメイト達からバンダナを回収して一丁上がりと考えていた。


 だがちょっと待ってほしい。


 その程度の作戦で全滅させられるようなB2-1ではない。


 煙が散った時にサテラとロック、メイ、ウォーガンは煙を吸ってしまって倒れていたが、それ以外のメンバーは立っていた。


「無差別攻撃は危ねえな。危ねえよ」


「しまっ」


 しまったと言い切る前にタオの意識は途切れてしまった。


 ヨーキがタオの鳩尾に剣の柄で一撃を入れて気絶させたのだ。


「これで戦闘不能なのは5人だね」


「いや、7人だろ」


 シルバがアルの発言を訂正して指差した方向ではソラとリクが立ったまま寝ていた。


「えぇ・・・」


「こいつ等器用だな」


 そんな話をしている間にレイが行動に移る。


「キュイ!」


「レイにバンダナを回収させるなんて狡い」


「狡くないだろ。ちゃんとルールに則ってるんだし」


 自分もシルバの役に立つんだと言わんばかりにバンダナを回収するレイの姿を見て、アルは自分にはない手段を使うシルバに抗議した。


 勿論、本気で狡いとは思っていない。


 話をしてシルバの注意を話に向けさせようとしているのだ。


 シルバが大きく跳躍した直後、彼のいた位置に落とし穴ができる。


「あちゃー、バレたか」


「バレない訳がない」


 シルバが空を蹴って空中にいると、これでは落とし穴に落とせないからアルはヨーキにターゲットを変更した。


「げっ、こっち見んな!」


「酷いなぁ。僕達友達だよね?」


「友達ってのは笑顔で落とし穴に落とそうとしないからな!?」


 ヨーキは動き続けてアルが作り出す落とし穴を躱しながら応じた。


「ところでヨーキ、君はどうやって煙玉から身を守ったの?」


「息を止めてじっとしてただけだ」


 (肺活量でなんとかしたのか。すごいな)


 そう思っているシルバは肆式:疾風怒濤でガスを自分とレイに寄せ付けない力技を使っていたため、どっちもどっちではないだろうか。


 その一方、アルはガスが広がる前に土のドームで自分を守っていた。


 咄嗟に最適解を導き出して動けるアルもすごいのだが、脳筋的発想で凌いだシルバとヨーキにはインパクトで負けている。


「キュ!」


「レイ、ありがとう。見事な働きぶりだよ」


「キュイ♪」


 レイが戦闘不能になった7人のバンダナを回収して来たので、シルバはよくやってくれたとレイを労った。


 それからアルとヨーキの戦いをレイと一緒に見守っていると、ヨーキは落とし穴を避けるためにジグザグに走るのも疲れて来たらしい。


 勝負を決めるべくアルに向かって突撃を敢行した。


「キェェェェェ!」


 猿叫でアルを怯ませられれば御の字だとヨーキが剣を振り上げて突撃したが、落とし穴ではなく土の壁をヨーキの正面に創り出して正面衝突させた。


 アルを相手に粘っていたヨーキも壁に激突して気を失ってしまった。


「これで後はシルバ君だけってあれ? レイだけ?」


 先程までシルバとレイが揃って待機していた辺りを見たのだが、アルはシルバを見失っていた。


 次の瞬間には強烈な風が通り過ぎ、その時点で勝敗は決していた。


「はぁ、また負けちゃったか・・・」


「今回も俺の勝ちだ」


 勝利宣言したシルバの手には自分の腕に巻いていたバンダナがあった。


 気配を遮断したシルバはレイの風付与ウインドエンチャントで速度を上げ、すれ違いざまにアルのバンダナを奪ったのだ。


 ヨーキのバンダナはレイが回収しており、バトルロイヤルの勝者が決まった。


「そこまでー。シルバ&レイの勝利だ」


 ポールが試合終了の合図を出し、シルバとアルは手分けして気絶したり寝ていたクラスメイトを起こす作業を始めた。


 なお、気絶した者達にはレイが回復ヒールでケアをしており、治療された者達はレイに感謝したのだった。

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