第134話 野心ギラギラかよ。つーか上から目線だな、おい

 その日の放課後、学生会室でメリルへの引継ぎ作業やマジフォンの操作研修を行っていたら学生会室のドアをノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


「「失礼します」」


 メアリーが入室を許可してすぐに部屋の外から学生が2人入って来た。


 片方はひょろひょろの男子生徒であり、もう片方はシルバが入学試験で模擬戦の相手をしてあげた学生だった。


「T1-1のアーノルドです。学生会の庶務になりたくて来ました」


「B1-1のジョセフです。学生会の庶務に志願しに来ました」


 (1年生が自ら学生会室に足を運んで来るとはね)


 シルバが1年生の時はクラブ説明会を受けてもわざわざ学生会室に行こうとしなかったの。


 エイルに呼ばれたから仕方なく行ったのだが、アーノルドとジョセフは自ら学生会の庶務になりたいと申し出た。


 しかも、1人は自分が入学試験で模擬戦の相手になったジョセフだと知れば、シルバが感心しないはずなかった。


「スカウトしなくても学生会に入会希望者が集まるなんて夢みたいだね」


 メアリーは昨日入会したメリルに加え、アーノルドやジョセフまでもが学生会に入会したいと言い出して静かに喜んでいた。


「ジョセフ、負けないぞ」


「俺だって負けないぞアーノルド」


 隣り合うアーノルドとジョセフが睨み合うのを見て、メアリーはパンと手を叩いた。


「2人には学生会の入会試験を受けてもらいます」


 それを聞いた直後にメリルはこっそりシルバに訊ねる。


「あの、私もテストを受けた方が良いんですか?」


「メリルは良いよ。ある程度実力も把握できてるし」


 メリルは合同キャンプの時のチームで一緒だったし、H2-1に進級した際にクラスが上がったことからある程度実力がわかっている。


 それゆえ、メリルは面接だけで庶務になることができたのだ。


 ところが、アーノルドとジョセフについてはまだまだ未知数なところが多いから、試験を通して実力を測る訳だ。


「まずは筆記試験です。もう少しで準備が終わるので待っててね」


 メアリーがそう言っている間、アルとイェンが筆記試験をすぐに始められるように机と椅子、試験用紙の準備を行っていた。


 準備が整うとアーノルドとジョセフが椅子に座る。


「筆記試験なら俺の方が有利だな」


「俺だって入学した時よりは勉強してるぞ」


 T1-1のアーノルドは今年の入学試験の首席合格者だ。


 だからこそ、ジョセフにその実績でマウントを取ろうとしたのだが、ジョセフだって入学してから座学も真面目に受けて着実に知識を増やして来たから少しはマシになっている。


 ジョセフがマウントを取ろうとしたアーノルドに気持ちで負けない根拠は付け焼き刃に思えなくもないけれど、シルバ達はツッコんだりしいなかった。


 チャレンジする意思を尊重しようという配慮である。


「制限時間は30分だよ。始めて良いよ」


 メアリーが開始の合図を出せば、アーノルドとジョセフが問題を解き始める。


 今はメリルが学生会室のドアノブに取り込み中の札をかけているため、2人の試験が終わるまで邪魔が入ることはない。


 カンニングしないようにアルがしっかりと見張っており、それ以外のメンバーは仕事に戻った。


 15分が経過したところでアーノルドが問題を解き終えたらしく、見直しをする振りをしながら一定のリズムでペンを使って机を叩き始めた。


 どうやら隣のジョセフの集中を削ごうという作戦らしい。


「アーノルド君、ペンで机を叩くのは止めなさい。ジョセフ君の気が散ります」


「失礼しました」


 アルはアーノルドの作戦を見切ってすぐに注意した。


 (アルは腹黒いからアーノルドの策略をすぐに見抜けたんだろうな)


 シルバはそんな風に思ったが、決してそれは口にしなかった。


 実際、アルが今までクラスでそんな小細工を使ったことはない。


 思いついてもやろうとはしないあたり、アルはクラスメイトに嫌われてまでテストで妨害しようと考えたことはないようだ。


 30分が経過して筆記試験が終わった。


 採点はイェンがこれから行うので、その間に別の試験をメアリーが進める。


「次は面接試験だね。私とシルバ君の質問に順番に答えるように」


「「はい」」


 面接官はメアリーとシルバが担う。


 基本的にはメアリーが質問していき、補足質問をシルバがするスタンスだ。


「現在、学生会では学年を問わずに庶務を募集してますが貴方達はどうして募集しようと思ったのかな? まずはアーノルド君から答えてね」


「はい。俺は1年生の内に能天使パワーまで昇格したシルバさんに憧れてここに来ました。戦術研究クラブに入るのも悪くありませんが、出世するには学生会が手っ取り早いと思って庶務に立候補しました」


 (野心ギラギラかよ。つーか上から目線だな、おい)


 アーノルドの志望動機を聞いてシルバは心の中で苦笑した。


「アーノルド君の志望動機はわかった。ジョセフ君の志望動機を教えて」


「はい。俺は入学試験でシルバ先輩と戦って負けました。悔しくて鍛え直したら新人戦では個人の部で優勝できましたが、ペアの部では準優勝に留まってしまいました。俺はシルバさんのいる学生会に入り、時間がある時にシルバさんに鍛えてもらいたいんです。そのためなら、シルバ先輩の手が空くように庶務でバリバリ働きます」


 (俺に鍛えてほしいって? 良い目をしてるじゃないか)


 どちらも自分のために学生会の庶務に立候補しているが、シルバとしてはジョセフの回答の方が気に入った。


 彼と入学試験で戦った時、筋は悪くないと思ったからだろう。


「次の質問に移るね。貴方達に自分がどんな人間なのか話してもらおうかな。今度はジョセフ君からお願い」


「わかりました。俺は剣や魔法といった手段でモンスターと戦うようなこの世界でも、ステゴロ最強を目指したいという拘りがあります。剣や魔法が使えれば確かに効率的ですが、どちらも使えない状況下では己の体に頼るしかありません。だからこそ、拳者様はすごい人だと尊敬しております」


 (マリアは徒手空拳以外でも戦えるぞ。あんまり広まってないっぽいけど)


 ジョセフのステゴロ最強への想いとマリアへの尊敬を聞き、シルバは心の中で訂正を入れた。


 マリアは二つ名のせいで徒手空拳で戦うところばかり注目されているが、武器の扱いもできれば魔法だって使える。


 そうでなくてはいくら強くても異界でずっと生き残るのは困難だろう。


「そういった意味ではシルバ君が身近な目標になりそうだね。では、アーノルド君の番だよ」


「はい。俺は元々孤児院出身なので、飢えや差別を知ってます。ですから、必死に勉強して今の飢えもなければ差別されない状態を手に入れました。これを最低でも維持し、早く偉くなって豪華な飯を食いたいです。それと、過去に俺を足蹴にした奴等を絶対に後悔させてやりたいと思ってます」


 アーノルドの発言を受け、アルがピクッと反応したのをシルバは視界の片隅で捉えた。


 アーノルドは根に持つタイプであるということから、学生会の入会試験の合否を問わず要注意だとアルは判断したのだろう。


 同じく孤児院のシルバだが、アーノルドと豪華な食事に憧れる点では同じ考えだ。


 ただし、孤児院にいた時に自分を見下した者に対して是が非でも復讐しようと考える点ではアーノルドと異なる。


「わかった。私からの質問は以上だね。シルバ君から補足で質問はある?」


「あります。両者ともやりたいことがあるのは理解したけど、学生会の仕事がどんな仕事かわかってる? アーノルドから答えてくれ」


「出世のために学生時代の自由を捨てる覚悟で各種行事の運営をするんですよね?」


「生々しいな。否定はしないけど。ジョセフは?」


「学生の内から多種多様な人をまとめ、軍に入る前の練習をするのではないでしょうか」


「なるほど。会長、俺からの質問は以上です」


 シルバは訊きたいことが訊けたので、メアリーに言外に締めてくれと頼んだ。


「はい。以上で試験を終了するよ。試験の結果は後日発表しますのでそれまで待ってて。お疲れ様」


「「お疲れ様でした」」


 アーノルドとジョセフが学生会室を出て言った後、メアリーはシルバに話しかける。


「シルバ君、どう思う?」


「アーノルドは危険ですね。内部から組織を崩壊させそうですから採用しない方が良いでしょう」


「そうだね。私はクラブ活動の勧誘期間に他の学生が来なかったらジョセフ君を採用しようと思うけど、筆記試験の方はどうかな?」


「アーノルドが100点。ジョセフは95点。面接の受け答えで判断したならジョセフの採用でも問題ないと思う」


 話を振られてイェンが自分の意見を述べた。


 そして、その意見はシルバ達の総意になり、クラブ活動の勧誘期間が終わるまでに他に誰も現れなかったらジョセフを庶務にすることが決まった。

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