第54話 1ミリを馬鹿にしてはいけません。たかが1ミリ、されど1ミリです
ロウとクレアが付き合っているという事実から立ち直り、次はメアリーからの出題だ。
「私には兄弟姉妹がいますがどれがいるでしょう?」
「メアリーちゃんロリだから弟か妹でしょ。それで下の子の方が背が大きいの」
「先輩、その考え方はどうかと思います」
「これだから虫なんだよ」
ロウがメアリーをいじってイェンにdisられるまでがワンセットなのはいつも通りである。
シンキングタイムを終えてシルバ達の出した回答は以下の通りとなった。
兄と答えたのがイェン。
姉と答えたのがアル。
弟と答えたのがエイルとロウ。
妹と答えたのがシルバ。
「回答が割れましたね。正解は姉です。アル君大正解!」
「よし!」
アルは自分の観察眼が正しかったことに喜んでガッツポーズを決めた。
「ちなみに、アル君はなんで私に姉がいると思ったのかな?」
「普段ロウ先輩からセクハラされてる反応から見て、兄がいればスルーできるはずだと思ったので兄は選択肢から外しました。弟か妹なら先輩と年が近そうでしたが、僕の知る限りそんな学生はいません。ということで、消去法で姉を選びました」
「よく見てるね。それに他学年の学生の情報も集めてるとは流石だよ」
「恐縮です」
(アル、その学生の情報って弱みを握るためじゃないよな?)
シルバはアルが他学年のデータまで集めている理由に思い当たり、まさか違うよなと少しだけ首を傾げた。
味方を増やし敵を減らす。
もっと言えば手下を増やして敵を排除しなければ性別を隠し通すのは難しい。
だからこそ、アルならやりかねないとシルバは思ったのだ。
余談だが、アルは学生会の仕事で暇な時に学生の名簿に目を通して学生全員の基本情報をインプットしている。
流石にそこまではシルバも把握していなかったが、その情報の使い道はシルバの考える通りだったりする。
メアリーの出題が終わったら次はイェンの番だ。
「私の趣味は食べ歩きと料理のどちらでしょう?」
イェンの出題内容はいずれにしても彼女が食べることを好む前提である。
確かにイェンは行きの馬車の中でシルバから貰ったクッキーを嬉しそうに食べていた。
それを思い出してシルバは答えを決めた。
「食べ歩きだと思う人?」
この問いに手を挙げたのはエイルとシルバ、アルだった。
「料理だと思う人?」
当然、残ったロウとメアリーが手を挙げた。
「正解は食べ歩きです。料理も嫌いじゃないですが、食べ歩きで未知の美味に出会う感覚には敵いません」
イェンの回答にクッキーを食べていた時の表情がそのまま正解だったとシルバは頷いた。
今までは質問を出される側だったけれど、今度はシルバが出題する側になった。
「俺が食堂で出した大食いチャレンジの残り時間の最高記録は何分何秒でしょう?」
そんなこと知るかとツッコみたくなる問題である。
だが、このクイズはお互いを良く知るためのものだから出題センスにツッコむことは禁止されている。
事前にクイズを考えて来るにあたって、エイルは最低限守ってほしいルールを伝えていた。
そのルールの中には参加者が用意したクイズを否定しないというものがあったため、シルバの出題内容にケチをつける者はいない。
アル以外は30秒と答えた。
この結果はシルバが最初に食堂で大食いチャレンジで出した記録である。
その一方、いつもシルバと共に行動しているアルには答えがわかっており、回答は任せろと言わんばかりの表情で待機している。
「アル、何秒だと思う?」
「1分3秒がシルバ君の自己ベストだね」
「正解。テスト期間中に新記録を更新しました」
「テスト期間に何やってるんですか」
「すげえな。チャレンジして成功するのがいっぱいいっぱいな奴ばっかりなのに」
「いっぱい食べて私より大きくなる!?」
「食べるのが好きなら今度私が帝都のオススメの店に連れて行こう。丁度良い店知ってる」
エイルは飽きれてロウは感心し、メアリーは焦ってイェンは同好の士を見つけたという目になった。
特にイェンは食べ歩きの過程で大食いチャレンジの店も見つけたから、そこにシルバを連れて行く気である。
次は1周目最後のアルの出題だ。
「問題です。僕の<
アルの質問を聞いてシルバ以外がギョッとした。
今までの<
もしもアルの出題の回答が〇だったら、常識が覆されることになるのだから驚くのも当然だろう。
(俺は答えを知ってるからギリギリまで黙っておこう)
アルがシルバの大食いチャレンジの更新された結果を知っているように、シルバもアルの出題した問題の結果を知っている。
まさかと思ってエイル達が揃って〇を選択し、一足遅れてシルバも〇を選んだ。
「その通りです。答えは〇です。折角だから答えの実例をお見せしましょう」
アルはそう言って<
それだけでもアルは疲れてしまうぐらい集中したようだ。
小さな鉄球を回覧してエルたちはそれが本物であると判断した。
「嘘でしょう?」
「こりゃ時代が動くぜ」
「やっぱり今年の1年生はヤバいです」
「お見事」
シルバだけに目が行きがちだけれど、アルだって十分に優れた力を秘めているのだ。
それがよくわかる瞬間だった。
2週目はサクサク進んだ。
エイルは最近編んだ編みぐるみはどの動物が何かと出題した。
ロウは初めて彼女であるクレアに買ったプレゼントを出題した。
メアリーは姉から自分が何と呼ばれているかと出題した。
イェンは今の自分のお気に入りの店の名前は何かと出題した。
シルバはマッサージが得意かどうかと出題した。
アルは自分が角部屋好きか否か出題した。
1周目をふまえた出題が多く、シルバ達は自然と学生会メンバーとの相互理解が進んだ。
「私から最後の問題です。私の身長は165センチ以上である。○か×か?」
ロウ以外全員が〇と答えた。
その回答を見てエイルはニヤリと笑う。
「甘いですよ、ロウ。私は今朝身長を測った時に165センチに到達したのを確認しました」
「マジか。前に言ってた164.9センチから1ミリ伸びたのかよ」
「1ミリを馬鹿にしてはいけません。たかが1ミリ、されど1ミリです」
そのエイルの発言はいつもよりも重みがあり、ロウはそれを決して茶化せなかった。
自分の身長を気にしているメアリーはうんうんと力強く頷いている。
「んじゃ、次は俺の最後の出題だ。俺がトンファーを習ったのは父と叔父のどっちだ?」
これに対する回答は割れた。
父と回答したのがメアリーとイェン、アルで叔父と回答したのはエイルとシルバだった。
「正解は叔父だ。父は兄貴と同じく剣の使い手だったんだ」
豆知識とセットでロウが自分のトンファーは叔父から習ったと回答した。
「私のターンですね。私が身長を伸ばすためにやってることはなんでしょう?」
ここに来て難易度の高い
エイルとイェン、アルは縄跳び、ロウがつま先立ち、シルバが牛乳を飲むことと回答した。
「正解はつま先立ちです。ロウ先輩なのに正解です」
「一言多くね?」
「虫の扱いはそれでOK。私の番です。私の50メートル走のタイムはいくつでしょう?」
これもまた難しい質問だったが、答えは7秒51と同年代の女子学生の中では早い方だった。
残念ながら正解者はいなかった。
「俺の番ですね。俺は武器攻撃系のスキルを会得しているでしょうか?」
この質問は全員が〇と答えて正解した。
それでも、<
「僕から最後の質問です。僕のことを腹黒いと思ってる人は手を挙げて下さい」
アルの質問は今までの出題形式とは全く違うやり方だった。
これは人それぞれで答えが違うし、自分について出題するのではなく相手が自分をどう思っているか訊き出す質問である。
残念なことに上級生達がすぐに手を挙げた。
「酷いです。僕は腹黒くないですよ?」
「それはないと思います」
「あり得ないな」
「ごめんね。それには頷けない」
「潔く認めるべき」
上級生達からのコメントで傷ついたアルは最後の希望だとシルバの方を向くが、シルバも手を挙げていた。
「すまん、この件についてはフォローできない」
「そんなぁ・・・」
日頃の行いを考えればこうなるのも無理もない。
アルが落ち込んでいると執事が夕食の準備が整ったと知らせに来たので、お互いを知るためのクイズはこれにて終了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます