第26章 拳聖、実験場を手にする

第271話 私が【村雨流格闘術】免許皆伝、シルバ=ムラサメの師匠である!

 4月になり、ムラサメ公国では留学生を迎えることになった。


「ということで、B4-1一同お世話になります。公王陛下、よろしくお願いします!」


「ハンバーガー買って来ますよ、公王陛下!」


「サテラは良いとして、ヨーキはプライベートな場だからって遊び過ぎじゃね?」


 ムラマサ城の応接室にはディオニシウス帝国軍学校B4-1のメンバーが揃っており、シルバがその相手をしている。


 4年生になった彼等はいずれも権天使級プリンシパリティになっており、学生にもかかわらず成人済みの権天使級プリンシパリティと比べて遜色のないミッション成功率を誇るため、今年は1年中ずっとムラサメ公国に留学することになった。


 理由としては、B4-2以下の同期と差がつき過ぎてしまって4年生に与えるミッションでは物足りず、かと言って5年生と同じミッションを与えて5年生に腐られても困るからだ。


 国を立て直している最中のムラサメ公国ならば、戦える人手がいくらあっても困らないので、B4-1の学生を受け入れることになった。


 なお、発起人は安定のポールであり、ポールは学生の相手をする時間が減った分だけ溜まったタスクを解消できる訳だ。


 (ハワード先生、楽をできると思ったら大間違いですよ)


 シルバはこの場にいないポールに向かってそんなことを思った。


 何故なら、いつの時代も有能な人材が手持ち無沙汰になるなんてことはあり得ないからだ。


 学生の相手をしない分、ポールにしかできないとか理由を付けられてアルケイデスに仕事を振られるだろうとシルバは考えている。


「だってよぉ、アリエルがいない間しかこうやっておふざけできないじゃんか」


「わかる!」


 ヨーキの言い分を聞いてメイがその通りだと激しく同意した。


 そんな2人を揶揄いたくなり、シルバは何かに気づいた素振りを見せる。


「アリエル、そんなところで怖い顔してどうしたんだ?」


「「ひぇっ!?」」


「冗談だ」


「「シ~ル~バ~」」


 揶揄われたと気づき、ヨーキとメイがムッとした表情になった。


 そこにサテラが口を挟む。


「ヨーキもメイも程々にしなさいって。いつか公の場でやらかしたらどうするの? いくらここにシルバしかいないからって気を抜いちゃ駄目よ」


「「はい、すみません」」


 サテラに叱られて2人はペコリと頭を下げた。


 サテラの言い分はその通りなのだが、訂正事項があったのでシルバが口を開く。


「サテラ、ここに俺しかいないってのは違うぞ。勿論、お前達だけでもない」


「え?」


 誰もいないだろうときょろきょろ辺りを見回すB4-1の学生達だが、残念ながら潜んでいる存在を見つけられなかった。


 答え合わせのつもりでシルバは壁の角の方を見て声をかける。


「師匠、姿を隠してないで普通にいて下さい」


「ふーん、シルバもやるじゃないの」


 その声がするのと同時に、仮面をつけたマリアが手足を壁の角にぴったりとくっつけていた状態から地面に飛び降りた。


 マリアが姿を消していた仕組みだが、<隠密ステルス>というスキルのおかげである。


 使用することで周囲から見えなくなり、熟練度次第では気配も自在に操れる。


 ちなみに、シルバがマリアを師匠呼びして名前で呼ばなかったのは、対外的に彼女が生きていることは一部を除いて秘密だからだ。


「あ、あれがシルバの・・・」


「地上最強」


「人間?」


 (リク、疑問形にする気持ちはわかるけど口に出しちゃ駄目だ)


 シルバがそんなことを思っていたら、マリアが一瞬で距離を詰めて背後に回っていた。


「こらこら、いくら私が強過ぎるからって化け物呼ばわりは駄目でしょうが」


「謝罪」


「よろしい。素直が一番よ」


 リクは絶対に勝ち目がないと即断してマリアに謝った。


 マリアもリクに悪意があった訳ではないと理解していたので、素直に謝った彼をあっさりと許した。


 これがもしもシルバによる発言だったならば、間違いなくデコピンを喰らっている。


 マリアはシルバの隣に戻って腕を組んで仁王立ちする。


「私が【村雨流格闘術】免許皆伝、シルバ=ムラサメの師匠である!」


「「「・・・「「ははぁ」」・・・」」」


 (みんなノリが良いな)


 マリアの身バレを防ぐための悪ノリに付き合うヨーキ達を見て、彼女が変に怯えられなくてシルバはホッとした。


「師匠のことは置いとくとして、みんなには2人組になって第二騎士団から第五騎士団に行ってもらうから」


「第一騎士団から順番に1人ずつかと思ったんだけど、そういう訳じゃないんだね」


 ロックはてっきり1人ずつ配属されると思っていたらしいから、シルバはその認識を訂正する。


「慣れない環境に1人だけ放り込むってのはどうかと思ってね。それなら2人ずつ騎士団に預ける方が良いと判断した。ムラマサにいる第一騎士団に預けないのは不平等をなくすためだ。ムラマサの四方の街の騎士団に全員が配置されれば平等だろ?」


「なるほど。流石シルバだね。よく考えられてるや」


 元クラスメイトだからと言って、なんでもかんでも優遇する訳ではない。


 だとしても、知らない場所に1人だけ配属するのは不親切だから、シルバは2人組にしたのだ。


 第二騎士団に配属するのはヨーキとタオ。


 第三騎士団に配属するのはサテラとウォーガン。


 第四騎士団に配属するのはロックとメイ。


 第五騎士団に配属するのはソラとリク。


 どの騎士団にも男女1人ずつで戦力的にもある程度釣り合いが撮れるような配置にしている。


 ソラとリクは言葉足らずなところがあるから、第五騎士団長にはその点も事前に連携済みである。


 後のことは第一騎士団長サイモンを呼んで彼に任せ、B4-1の学生達は応接室を出ていった。


 シルバとマリアだけになると、仮面を外したマリアがにっこりと笑う。


「楽しそうなクラスメイトだったわね」


「まあね。俺の出自がわからない頃から仲良くしてくれたんだ」


「ほら、私の判断は間違ってなかった。やはり若人から青春を奪っちゃ駄目なのよ」


「早期卒業することになっちゃったけどな」


「それは私も予想外よ。なんで再会したら公王になってるのかしら」


 マリアの予想では、シルバが軍学校を普通に卒業するはずだったけれど現実は違った。


 まさか3年生終了時点で早期卒業することになるなんて、夢にも思っていなかっただろう。


 それでも、シルバが同年代の友達を作れていたからマリアは良しとした。


「なんもかんもサタンティヌス王家が悪いんだ。ディオニシウス帝国にちょっかいをかけ、トスハリ教国と戦争して、挙句の果てに内乱で滅んだ。それで王家の血を継ぐアリエルと皇族だった俺が建国することになっちゃったんだから」


「そう思うとシルバも大変よね。皇族の継承権争いに生まれた時から巻き込まれてたんだから。おいで」


 マリアはおいでと言いつつ自らシルバを抱き寄せており、シルバがどうすることもできないようにした。


 それを指摘すればハグが絞め技に変わるから、シルバはおとなしくマリアの好きにさせた。


 マリアの気持ちが落ち着いた頃にレイがやって来た。


『ご主人、アリエルとエイルに呼んで来てって頼まれたの~』


「そっか。呼びに来てくれてありがとな。何があったとか言ってた?」


『トスハリ教国のことって言ってたよ』


「うわぁ、絶対何かやらかしてるじゃん」


 レイからざっくりと用件を聞き、シルバの顔が引き攣った。


 レイに連れられてシルバとマリアが談話室に行くと、アリエルとエイル、リト、マリナが揃っていた。


「トスハリ教国が何をやらかしたんだ?」


「話が早くて助かるよ。実は、ロザリー義姉さんからトスハリ教国で不審な動きがあるって連絡を貰ったんだ」


「不審な動き? 具体的にはどんな?」


「ムラサメ公国と戦争やろうぜみたいな感じ」


 アリエルの話を聞いてシルバ達はうんざりした。


「なんでそうなったんだ?」


「トスハリ教国ってサタンティヌス王国みたいに戦争の後に内乱が起きてたでしょ? それは鎮圧したんだけど、不満を抱える国民ばかりだから悪いのはサタンティヌス王国だって認識をすり替えたらしいよ。それで、サタンティヌス王国はなくなってムラサメ公国ができたんだから、落とし前はムラサメ公国につけてもらおうって考えなんだってさ」


「よし、あっちが宣戦布告したら速攻でトスハリ教国を滅ぼしに行こうか」


「賛成!」


「異議なしです」


 シルバの発案にアリエルもエイルも賛同した。


「私の弟子がいつの間にか国を滅ぼすと即断できるようになってる・・・」


 マリアがシルバ達の即断即決する様子を見て戦慄するのは仕方のないことである。

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