第272話 やられたらやり返す。やられる前からやり返す

 3日後、シルバ達は執務室で溜息をついていた。


「トスハリ教国の馬鹿共が宣戦布告して来たか」


「ここまでは想定内だったよね」


「ですが、アルケス共和国が連盟でというのは想定外でしたね」


 エイルが言った通り、アルケス共和国がトスハリ教国と連名でムラサメ公国に宣戦布告して来たのはシルバ達にとって予想外だった。


 ムラサメ公国はアルケス共和国と接点がなく、宣戦布告される理由がないのだから予想しないのは当然である。


 アルケス共和国がムラサメ公国に宣戦布告する理由だが、親愛なるトスハリ教国を混乱に貶めたことが許し難く、義憤に駆られてのことだそうだ。


「寝言は寝て言えよな」


「その前に永眠させちゃおうよ」


「割災のことを考えれば、戦争なんて無駄の塊なんですけどね」


 やれやれとシルバ達は首を振った。


 今まで黙っていたマリアは返答が予想できたけれど、念のためシルバ達に訊ねる。


「それで、本当に滅ぼしちゃうのかしら?」


「宣戦布告されたんです。やらなきゃ無駄な被害が出ますからね」


「やられたらやり返す。やられる前からやり返す」


「アリエル、やられてないのならやり返すのは変じゃないですか?」


「エイル、細かいことは良いんだよ。こういうのはノリなんだから」


「そうですか」


 アリエルの発言にツッコミを入れたエイルだったが、アリエルのアバウトな回答に苦笑するしかなかった。


 その一方で、マリアがアリエルの過激な発想にドン引きしていたがツッコんだりしなかった。


 シルバはここで喋っている間にも時間が過ぎていくことに気づいて口を開く。


「さて、早急に事を進めるとしよう。どう攻める?」


「最初に見せしめでトスハリ教国の教都を落とそうよ。僕、試してみたい技があるんだ」


「「あっ・・・」」


 シルバとエイルはこの時、間違いなくトスハリ教国が悲惨な目に遭うことを察した。


 マリアに至ってはジト目を向けている。


「みんななんでそんなに引いてるのさ。僕はまだ何も言ってないよね?」


「言わなくてもわかる。なぁ?」


「はい。こういう時のアリエルはとことん容赦ないですから」


「短い付き合いだけど、貴女の過激さはすぐにわかったわ」


 悪い意味で安定の評価を受けてしまい、アリエルは隣にいるリトに抱き着く。


「リト~、僕は冷徹じゃないよね?」


「ピヨ?」


 リトは敵に対して冷徹なことって駄目なのかと首を傾げていた。


 それはつまり、従魔のリトも否定していないということだ。


 レイもマリナも視線を合わせないあたり、この件についてアリエルに味方はいないらしい。


 とりあえず、アリエルの作戦を聞いた後にシルバ達がアリエルはやっぱりアリエルだったという評価を下したのは言うまでもない。


 流石に主戦力全員がムラマサを空けるのは不味いので、マリアがシルバ達の代わりに留守番することになった。


 マリア曰く、自分が行くとオーバーキルどころじゃ済まないから、ムラマサに残るそうだ。


 シルバ達はレイの背中に乗り、早速トスハリ教国に向かう。


 騎士団には戦争を終わらせて来ると掲示板で連絡し、別命あるまで待機と命令した。


 ぶっちゃけてしまえば、トスハリ教国とアルケス共和国との戦争に各騎士団を派遣するのは無駄だから、割災に備えて待機しろということである。


 元のサイズになったレイが全力で飛べば、2時間かからずにトスハリ教国の教都上空に到着した。


 アリエルは教都を見下ろしてとても良い笑みを浮かべる。


「こんにちは、死ね」


 そう言った直後、アリエルは隕石メテオを発動した。


 それにより、公都で最も立派な教会に向かって隕石が落下する。


 公都では空から落ちて来る隕石を見てパニックが起きるが、そんなことはシルバ達の知ったことではない。


 隕石がぐしゃりと教会を潰すかと思いきや、結界が展開されて教会を隕石から守る。


 しかし、隕石を砕いた訳でも跳ね返した訳でもないから巨大な岩が教会の上にあることは変わらない。


「生意気だね。なら、これでどうかな?」


 アリエルは目の笑っていない笑みを浮かべつつ、隕石雨メテオレインを発動した。


 ターゲットは教都全体であり、結界で守られていない建物が次々にぺしゃんこになっていく。


 隕石の内のいくつかは教会に向かって落ちており、結界に対してどんどん負荷がかかっていく。


 隕石で潰れた建物で火事が発生し、シルバ達が見下ろす光景はあっという間に地獄絵図になった。


 どうにか隕石の雨から逃れた者達は、教都上空にいるシルバ達を見て叫ぶ。


「デーモンだ! デーモンがいるぞ!」


「こんな所業ができるなんてデーモンに決まってるわ!」


「神様、どうかあのデーモンを滅ぼして私達をお守り下さい!」


 これにはアリエルの顔から表情が消えてしまう。


 (あーあ。どうしてお前達はそう死に急ぐんだか)


 シルバは教都の民を哀れんだ。


「そうかい、そうかい。僕を怒らせるのがそんなに楽しいかい。敵に慈悲なんてないから覚悟しとけよ」


 そう言ってアリエルは再び隕石雨メテオレインを発動した。


 アリエルのMPの残りが心配になって来たが、隕石雨メテオレイン2発と隕石メテオを1発使ってもアリエルはMP切れにはなっていなかった。


 3発目の隕石雨メテオレインは厳しいけれど、それ以外の技ならまだ発動できるぐらいの余力を残すのをアリエルは忘れない。


 むしゃくしゃしてやったとしても、アリエルが後先を少しも考えずに暴れることはない。


 教会の結界はなんとか持ち堪えているようだが、教都は火の海瓦礫の海と表現すべき有様になっていた。


 何百人が10分もかからずに死んでしまい、生存者は上空から見ても二桁ぐらいだ。


 その中でもまともに動けるのは10人程度であり、教会は結界で守られているのを知って中に入れてくれと喚いている。


 だが、結界の中の境界からは誰も出て来ないし反応もない。


 我が身可愛さに教都の民を見殺しにするつもりのようだ。


 アリエルはシルバから拡声器マイクを受け取って口を開く。


「トスハリ教国の諸君に告ぐ。僕は君達が宣戦布告したムラサメ公国の第一公妃アリエルだ。無駄話をする気はない。特に教会に引き籠ってる偽善者共、今すぐに結界を解除して降伏しろ。そうすれば虫扱いではなく、ギリギリ人間扱いしてやる」


 (アリエルさんや、そんな降伏勧告は歴史上初めてですぜ)


 シルバはアリエルの降伏勧告を聞いてドン引きしていた。


 エイルもシルバと同様に、いや、シルバ以上にドン引きしていた。


 拡声器マイクは軍隊において必需品だ。


 部下が多い部隊の隊長が指揮を執る時にも使うし、街中で悪者が建物に立て籠もった時にも使われる。


 今回の戦争を始めたのは教都の教会にいる者達だから、アリエルが降伏勧告を行う相手なのは間違いない。


 ところが、ここまで一方的にやられたなんて記録はトスハリ教国建国以来初めてのことだったから、教会に引き籠っているお偉方は現実を受け入れられず反応が鈍いのだ。


 だとしても、そんなことはアリエルの知ったことではないから、不機嫌になった彼女の口から督促の言葉が出る。


「おい、教会に引き籠って教都の民を見殺しにした偽善者共は聞いてるのか? もう一度隕石の雨を降らせたくないのなら、おとなしく出て来て来い。10秒以内だ。10秒カウントする間に投降しないなら、こちらにも考えがある。10,9,8,7,6,5」


 カウント5まで来た瞬間、上空に巨大な雷雲が現れて雷がシルバ達に向かって落ちる。


「伍式雷の型:雷呑大矛」


 シルバが雷を両手の親指と人差し指で形成した三角形で吸収すると共に、教会を守っていた結界が解除される。


 結界がなくなれば、その上に乗っかっていた隕石が教会に落ちるのは当然のことで、立派な教会が一瞬で半壊状態になってしまう。


 やり方が過激だったとはいえ、一応は降伏勧告しているアリエルに対してトスハリ教国のお偉方は不意打ちをしたのだから、シルバもそれを許すつもりはない。


 吸収した雷の威力からして、落雷サンダーボルトは少なくとも5人以上が協力して発動したものだとわかれば猶更である。


「4,3,2,1,0」


 アリエルのカウントが0になったので、シルバは余計な抵抗をする連中に反撃を始める。


「陸式雷の型:鳴神」


 次の瞬間、巨大な雷の槍が教会に落ちて教会は瓦礫の山に変わった。


 レイが<属性吐息エレメントブレス>で風のブレスを放ち、瓦礫を吹き飛ばせば辛うじて息のある教皇らしき服装の男性がボロボロの状態で倒れていた。


「レイ、縛って宙ぶらりんにできる?」


『できるよ』


 シルバに言われてレイが光鎖ライトチェーンでその男性を捕縛し、そのまま自分達の前に引きずり上げたのだが、彼は不敵な笑みを浮かべる。


「トスハリ様万歳」


 それだけ言い残し、彼は力尽きた。


 その言葉にシルバ達が不快感を示したのは、彼がここまでされてもまだ自分達の神を賛美していたからだ。


 シルバ達が教都を落としたことは瞬く間に広がり、トスハリ教国中がパニックになった。

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