第184話 横取り駄目、絶対!

 レッドホーネットクイーンの巣をの破片を回収した3日後、シルバ達ワイバーン特別小隊はディオスの北西にあるサバーニャ廃坑に向かっていた。


 ニュクスの森で他にもモンスターの卵を回収できそうな場所はあったけれど、シルバ達が丁度良い具合に間引きしたことで軍学校の低学年の学生達がフィールドワークを行っているのだ。


 それゆえ、シルバ達がそこに紛れて卵の回収ミッションを再開するとフィールドワーク中の学生に多かれ少なかれ影響が出てしまうことを考慮し、シルバ達は遠出することにした。


 今回も馬車の旅なのだが、シルバはレイが空を飛びたいと甘えて来たので馬車を離れてレイの背中に乗って空を飛んでいる。


「レイが風付与ウインドエンチャントをかけてくれたおかげで寒くないのはありがたいな」


『ご主人に快適な空の旅をお届けするよ♪』


 レイはシルバと一緒に空を飛べてご機嫌だった。


 馬車の中でシルバに抱っこされているのも悪くはないが、やはり空を飛ぶ方が性に合っていると思うのは自身がワイバーンだからなのだろう。


『まったく、アタシ達の出番が来なくて退屈なんだからねっ』


『出番、まだ?』


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュは年末以降自分達の出番がなくて退屈にしているらしい。


「タルウィとザリチュを使うような強敵が現れないからなぁ」


『せめて週1で強敵と戦ってほしいのよっ』


「そんな殺伐とした生活は嫌だ」


『修行、大事。鈍る、良くない』


「それは否めないけど」


 シルバは熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュの言い分を聞いて一部否定できないところがあって苦笑した。


『ご主人、サバーニャ廃坑が見えたよ』


「そうだな。レイ、そろそろアリエル達と合流しよう」


『は~い』


 短い空の旅は終わってシルバ達は馬車と合流した。


 レイは<収縮シュリンク>でシルバの肩に乗れるサイズまで小さくなり、サバーニャ廃坑でもシルバと一緒にいられるようにした。


「チュルル」


『空の旅は楽しかったよ。マリナも今度連れて行ってあげる』


「チュ、チュル・・・」


 マリナは高い場所から落ちるかもしれないと思ったのか、遠慮しますと言わんばかりに応じた。


 馬と馬車を決まった場所に預けた後、サバーニャ廃坑の中に入ってすぐにシルバ達はモンスターの気配を感じ取った。


「定期的にモンスターを倒しに入ってるはずなんだけどなぁ」


「まだ発見されてないエリアがあるんじゃない?」


「その可能性はありますね。そこをモンスター達が巣にしてるなら、軍人に攻撃されずにモンスターが補充されます」


「割災で紛れ込んだモンスターがここに逃げ込んだ可能性もある」


 アリエル達が言った通り、サバーニャ廃坑では内部でモンスターが育っている可能性と外部からモンスターが紛れ込んで来た可能性の両方が存在する。


 割災という現状では防ぎようがない現象が起きるから、どんなに警備を強化してもサバーニャ廃坑からモンスターが無縁となる日は来ないのかもしれない。


 アーブラは第一皇女ロザリーが支部長を務め出してから、少しずつだが確実に状況が改善している。


 それでもまだサバーニャ廃坑の管理は徹底できる程余裕がないし、もっと他に優先すべきことはたくさんあるから今のこの有様は仕方ないと言えよう。


 少し進んだところでシルバ達はコボルドの群れに遭遇する。


「残念。卵生じゃないな」


「それなら手っ取り早く片付けなきゃね」


 アリエルは岩弾乱射ロックガトリングでコボルドの群れを一掃する。


 シルバ達とコボルドの群れの間には少し距離があった。


 それをチャンスと思ったのか、暗闇から蜘蛛の糸が射出されてコボルド達の死骸を残さず回収していく。


『横取り駄目、絶対!』


 レイはムッとした状態で糸の射出元に風刃ウインドエッジを放つ。


 その攻撃が何かに命中し、切断する音が廃坑内に鳴り響いた。


 糸を出したモンスター以外に周囲に敵がいないことを確認した後、シルバ達は糸を射出したレッドスパイダーの死体を見つける。


 レイの攻撃で真っ二つに切断されており、糸でコボルド達の死体を手繰り寄せたまま死んでいる。


『成敗!』


 レイは自分の攻撃が上手く決まったことで胸を張った。


「良い一撃だった」


 シルバは褒めてほしそうに自分を見るレイの頭を撫でた。


「チュルル」


「どうしたんですかマリナ?」


「チュル」


「糸が切れてますね。・・・シルバ君!」


 マリナが千切られたであろう糸を見て訴えた理由を察し、エイルがシルバに声をかける。


「大丈夫。弍式光の型:光之太刀」


 何もわからない者が見れば、シルバが何もないところに光の刃を振り下ろしたように思うだろう。


 しかし、シルバの攻撃が終わった直後に何もないはずの空間に赤いカメレオンが真っ二つに切断された状態で現れた。


『作戦通りだね、ご主人』


「そうだな。アイコンタクトだけだったけど上手くいって良かった」


 実はレイはシルバに頭を撫でてもらっていた時、アイコンタクトで何かが近くで姿を見えなくしたまま潜んでいることを伝えていたのだ。


 シルバはレイからのメッセージを受け、周辺の気配を察知してレッドカメレオンの居場所を突き止めた。


 その上で気づいていないふりをして相手を油断させ、エイルが慌てて知らせて来たことで生じた油断を突こうとしたレッドカメレオンを倒した。


「シルバ君、レッドカメレオンの接近に気づいてたんだね」


「レイのおかげでな。何か狙ってるみたいだったから、油断したところを攻撃した」


「レイはすごいね」


『もっと褒めても良いんだよ』


「うりうり」


 ドヤ顔が止まらないレイにアリエルはその顎の下を優しく撫でる。


 (こういうところは可愛いよな)


 シルバはレイと戯れるアリエルを見てそんな感想を抱いた。


 情報戦で隙を見せないアリエルだが、レイと戯れるその姿は年相応の美少女なのだから、シルバがそのように思うのも当然だ。


 それからレッドスパイダーの魔石はマリナに与え、レッドカメレオンの魔石はレイが貰った。


「スパイダーとカメレオンの巣があれば卵が手に入るんかねぇ。ちょっと偵察してくるわ」


「ロウ先輩、深入りしてモンスタートレインしないで下さいね」


「へいへい」


 シルバに注意されたロウは手を振って応じ、そのまま通路の先に単独で偵察しに行った。


 10分後、ロウはシルバの言いつけを守って戻って来た。


「どうでした?」


「以前マッピングした時にはなかった横穴を見つけた。瓦礫が落ちてたことから考えると、割災で新しくできたんじゃねえか?」


「なるほど。では、今日は新しいルートを行ってみましょうか」


「だな。この発見が功績として評価されたら嬉しいぜ」


 ロウは少しでもシルバに追いつきたいようで、力天使級ヴァーチャーに昇進できるような功績となり得る発見があれば良いなと期待に胸を膨らませた。


 ロウの見つけた横穴を進んでみたところ、廃坑内の岩の色がシルバ達の知る色よりも暗かった。


 レイが光源ライトを発動してシルバ達の視界を確保し、ロウが戦闘を歩く。


「ストップ。この先に敵が潜んでる」


 ロウが前方から何か物音を聞き取って後ろにいるメンバーに止まるよう伝えた。


 シルバ達が気付かずにそのまま進めば仕留めてやったのにと言わんばかりに、岩に擬態していたそれらが擬態を解除した。


「ロックピルバグですね。殻が岩になっていて硬い虫型モンスターです」


「岩じゃトンファーも投げナイフも効かねえじゃん」


「ひっくり返して柔らかい部分を攻撃すれば良いんですよ」


「なるほどな。さてさて、どうやってひっくり返すか」


 シルバがモンスターの名前と特徴を告げ、火力不足なロウはどうしたものかと苦笑した。


 そんなロウにシルバが昔戦った時に使った戦法を告げれば、それならまだやりようがあるかもとロウは戦い方を頭の中で組み立て始める。


「地面に柔らかい所を見せてるんでしょ? だったらやることは簡単じゃん」


 ロウが考えている間にアリエルは戦い方を決めており、アリエルは大地棘ガイアソーンでロックピルバグを串刺しにして仕留めた。


 範囲攻撃である大地棘ガイアソーンにより、地面に柔らかい部位を接触させているロックピルバグ達は一網打尽だった。


「ア、アリエル、俺が倒す分を残す優しさはないのかよ」


「戦場はいつでも非情なんですよ、ロウ先輩。動き出すのが遅いのが悪いんです」


「正論でぶん殴るの止めて!」


 アリエルに何言っているんだこの人はという視線を向けられれば、ロウはアリエルにこれ以上何も言わないでとお願いした。


 その後、ロックピルバグの魔石はレイは欲しがらずマリナのみが取り込んだ。

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