第185話 ロウ先輩は虫型モンスターと虫型モンスターのどっちが良いですか?

 岩に擬態していたロックピルバグの集団を倒した後、シルバ達は更に未開拓の通路の先へと進んでいた。


 ブラックバットが率いるレッドバットの群れが出たり、レッドマンティス同士が共食いしている場を見つけて漁夫の利を得たけれど、モンスターの巣らしき場所はなかなか見つからなかった。


「モンスターの巣が見つからねえな」


「発見したモンスターの数からして、どこかに巣があってもおかしくありません。レッドマンティス達はお互いを食べ合う前に卵を奪い合って食べてしまったようですが」


「同族喰らいもそこまでいくか。怖いな」


「僕としては虫型モンスターの卵はあまり持ち歩きたくないや」


 シルバとロウの話にアリエルは混ざり、自分の意見をはっきりと告げた。


 レッドホーネットクイーンの巣は蜂蜜の回収という自分にとって重要な事柄も含まれていたため、それが虫型モンスターの卵のことを考えさせないようにしてくれていた。


 だが、サバーニャ廃坑では甘味を生み出すモンスターは見当たらないから、持ち帰れるのが虫型モンスターの卵だけじゃないのなら別種の卵を持ち帰りたいと告げたのだ。


「サバーニャ廃坑に出現する虫型以外の卵生モンスターとなると、リザードマンだろうか」


「リザードマンが前衛を務めてくれると後衛として戦う時に役立つね。カメレオンとかの爬虫類型モンスターの巣が見つかると良いんだけど」


 シルバが虫型以外のモンスターに目を向け始めたので、アリエルはここで畳みかけなければと思ってシルバがリザードマンや爬虫類型モンスターに意識を向けるように誘導した。


 アリエルが虫型モンスターを嫌がっていたから、エイルは自分の興味を素直にアリエルにぶつける。


「ちなみに、アリエルはどんなモンスターをテイムをしたいのですか?」


「レイやマリナみたいに強い種族が良いな。僕だけありきたりなモンスターをテイムしてると僕の従魔が浮いちゃうし」


「確かにそうですね。レイちゃんやマリナと一緒にいて浮いちゃうとかわいそうですから、釣り合うモンスターの卵が見つかると良いですね」


 エイルはアリエルの気持ちを察して頷いた。


 できれば今すぐにでも自分もモンスターの卵を手に入れたいが、モンスターの格がレイやマリナと釣り合っていないと自分の従魔が余計な劣等感を抱いてしまう。


 その従魔に悪いところなんてなくても、身内以外からの評価は低くなるだろうから、そんな不幸なことになってほしくないと思うのは自然な考え方と言えよう。


「俺も従魔が欲しいなー」


「ロウ先輩は虫型モンスターと虫型モンスターのどっちが良いですか?」


「なんで俺の選択肢は虫型モンスターだけなんだい?」


「え? だって、ロウ先輩はイェン先輩にいつも虫扱いされてるじゃないですか。主従仲良く虫の方が良いと思ったんです」


「そんな気遣いはしなくて良いからね!? てか、俺は虫じゃないから!」


 イェンがしつこくロウに虫と言っていたこともあり、アリエルはロウ=虫の認識が当然だと思って首を傾げた。


 何か間違ったことを言っただろうかと疑問に思うアリエルに対して、ロウが異議ありと言わんばかりに抗議した。


 ワイバーン特別小隊は88期学生会のメンバーだけで構成されており、シルバもエイルもロウが虫型モンスターをテイムしている姿が容易に想像できてしまった。


 それゆえ、2人はそっとロウから視線を背けていた。


 アリエルは一方的に自分の意見だけを突き付けるのは良くないと考え、ロウにも主張の機会を与える。


「だったらロウ先輩はどんなモンスターをテイムしたいんですか?」


「俺は鳥型モンスターが良いな。シルバとレイみたいに一緒に偵察したい」


『ご主人と一緒に偵察するの楽しいよ。ロウもそんな従魔と出会えると良いね』


「レイちゃんマジで天使」


 レイに優しい言葉をかけてもらえてロウは目に涙を浮かべそうになった。


 その時、シルバ達は前方から振動と共に音が近づいてくるのに気づいた。


 振動と音がピークになった直後、地下から黒い土竜が姿を現した。


「ブラックモール。取り巻きはいないみたいだな」


『レイがやる』


「よし。任せよう」


『それっ』


 レイが風刃ウインドエッジで早速攻撃を仕掛けたが、ブラックモールは穴の中に引っ込んで躱した。


 風刃ウインドエッジが通過したタイミングでブラックモールがひょっこり現れ、今度は自分の番だと言わんばかりに岩弾乱射ロックガトリングでレイを撃ち落そうとする。


『甘いよ!』


 レイは光壁ライトウォールで岩の弾丸全てを防ぎながら距離を詰め、反撃の風刃ウインドエッジでブラックモールにダメージを与えた。


 距離を詰められたことにより、ブラックモールはレイの攻撃を避ける時間が短くなったことを考えていなかったようだ。


 ダメージを負ったブラックモールの動きは精彩を欠き、それに加えて怒りから単調な攻撃ばかりしたせいでレイは一撃も喰らわずに追撃を重ねてブラックモールを倒した。


「チュル・・・」


 マリナはレイとブラックモールの戦闘を見て、自分にもこんな戦いができる時が来るのだろうかと弱気になってしまった。


「大丈夫ですよ。マリナも魔石を取り込んでできることが少しずつ増えてます。自分のペースで強くなれば良いんです」


「チュル♪」


 エイルに元気づけられたおかげでマリナは弱気な状態から復活した。


 その一方で、ブラックモールの魔石を取り込んだレイは自分の使える技が強化されてご機嫌になっていた。


『ご主人、風刃ウインドエッジ嵐刃ストームエッジにパワーアップしたよ!』


「おめでとう。これでブラックモールに躱されずに済むじゃん」


『フッフッフ。躱されても無傷でいるのは難しいもんね』


 風刃ウインドエッジは文字通り風の刃だ。


 それに対して嵐刃ストームエッジは嵐のように暴れる風の刃と表現すべきであり、速度が上がっただけでなくしっかり避けなければ細かなダメージがいくつか入ってしまうのだ。


 これでレイは風刃ウインドエッジの火力不足と速度不足をどうにかできた。


 早く試し撃ちがしてみたいなんて思っていたら、ブラックモールの掘った穴を通って大きな黒蟻が出て来た。


「レイ、ブラックアントがいるぞ。丁度良いから試し撃ちしちゃえ」


『は~い』


 シルバの指示に従い、レイはブラックアントに嵐刃ストームエッジを放った。


 技の速度が上がっており、切れ味も増した嵐刃ストームエッジはブラックアントに対策させる暇を与えずにその頭部と胴体を離れ離れにした。


「マジかよ」


『ご主人見た!? レイの攻撃が強くなったよ!』


「ちゃんと見てたぞ。よくやったな」


 ロウがぽつりと呟く後ろではレイがシルバに甘えていた。


 嵐刃ストームエッジの威力も速度も自分の予想よりぐっと伸びていたらしく、レイはドヤりながらシルバに頭を撫でられている。


 ブラックアントの魔石はブラックモールと同様にレイに与えられた。


 マリナが戦っていない強敵の魔石をマリナに与える訳にはいかないし、マリナが取り込みきれない力を有した魔石だったからでもある。


 戦利品の回収を済ませてから、シルバ達は穴に落ちないように先に進む。


 全方位を小隊全員で警戒しながら進んでいると、最後尾にいたエイルの首に巻き付いているマリナが何かに気付いた。


「チュル」


「マリナ、後ろから何か来ましたか?」


「チュルル」


 マリナが何かの気配を感じ取ったと知り、シルバ達は後方への警戒を強くした。


 ところが、前方からも物音がしてロウが反応する。


「シルバ、前方から規則正しい足音が聞こえるぞ」


「どうにも囲まれてしまったらしいですね」


 シルバがそう言った時、前方にはブラックセンチピードがいて後方にはレッドアントの群れが集まって来ていた。


「シルバ、指示をくれ」


「前方のブラックセンチピードは俺とレイがやります。それ以外で後方のレッドアントの群れをお願いします」


「「「了解!」」」


 シルバが完結に指示を与えると、アリエル達は近寄って来るレッドアント達を討伐し始めた。


 シルバとレイはブラックセンチピードが突撃して来たので、レイがブラックアントの魔石で新しく会得した反射領域リフレクトフィールドでその突撃を反射した。


 反射領域リフレクトフィールドは消費する魔力が多いけれど、発動者の設定した領域に攻撃をした者に攻撃が反射される。


 ブラックセンチピードは全力で突撃して来たため、反動のダメージが馬鹿にならなかった。


 それだけでなく、ひっくり返ってしまったために腹側が見えてしまってレイが嫌がった。


『気持ち悪~い!』


 嵐刃ストームエッジでとどめを刺し、シルバとレイは前方の安全を確保した。


 その間にアリエル達も協力してレッドアントの群れを倒しており、前後を囲まれたシルバ達は一般的に危険的と呼ばれる状況から難なく脱出できた。

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