第183話 僕の目や耳はディオスの至る所にあるって言いませんでしたっけ?

 2日後、シルバ達ワイバーン特別小隊はモンスターの卵回収ミッションを受けた。


 登城した翌日にミッションが開始しなかったのは、アルケイデスがシルバとアリエルの3学期初登校日を欠席にさせないためだった。


「それで、第三皇子様は昨日どうだったんだ?」


「結婚したのにマルクスさんの付き合いで夜の店に行ったロウ先輩、昨日はおとなしく触れなかったからって今日いじりに来るのはどうかと思います」


「うげっ、なんでそれ知ってんだよ!?」


「僕の目や耳はディオスの至る所にあるって言いませんでしたっけ?」


「ロウ、最低ですね」


 ロウとアリエルのやり取りを聞いてエイルはごみを見る目をロウに向けた。


 ロウは兄のソッドが結婚したことから気を遣う必要がなくなったため、エイルの双子の妹であるクレアと結婚した。


 それにもかかわらず夜のお店に行ったと知れば、姉であるエイルからごみを見る目で見られても仕方あるまい。


「違うんだ! 話せばわかる! マルクス先輩の狙ってる子が俺の知り合いだったから、顔繋ぎのために一度だけ行くことになったんだ! アリエル、お前知ってて隠すなよ!」


「僕は嘘を言ってませんよ。真実を全部口にしなかっただけでしょう?」


「バラすなら全部バラしてくれよ! さっきの暴露は性質タチ悪いぞ!」


 必死なロウと涼しい顔をしているアリエルのやり取りの中、レイがシルバに訊ねる。


『ご主人、ロウって最低なの?』


「がはっ」


 素直なレイがストレートに訊ねれば、ロウは口から血でも吐き出したようなリアクションをした。


 シルバの回答によっては自分に対するレイの評価が地に落ちてしまうため、ロウは頼むから違うと言ってくれと祈った。


「レイ、人間関係を円滑にするには付き合いってのも大事なんだ。でも、ロウ先輩はクレアさんがいるんだからもっとやりようはあったと思うぞ」


『最低じゃない?』


「最低じゃないけどもう少し他人の心の機微を知るべきだな」


『そっか。ロウ、反省』


「はい」


 シルバの回答を受けてレイはロウに反省を促した。


 ロウもレイに言われて堪えたらしく、素直に反省する態度を見せた。


 そんな話をしている内にシルバ達はニュクスの森に着いた。


 モンスターの卵回収ミッションでニュクスの森に来た理由だが、はっきり言って消去法だ。


 へメラ草原は卵生のモンスターが目撃されたことはないから候補から外れた。


 アイテル湖は先日のミッションである程度捜索したばかりだから、もう一度操作するにしても少し時間を空けておきたいから候補外になった。


 そうなれば、1日で行って帰って来れる距離でモンスターの卵を探せる場所はニュクスの森に限られるので、今日はニュクスの森に来たという訳である。


 しばらくはモンスターの卵の回収ミッションに集中することになるだろうが、まずは身近な所からウォーミングアップのつもりで始めるつもりだ。


「さて、世間話はここまでにして卵探しを始めよう。ニュクスの森だったら鳥型モンスターと蛇型モンスター、虫型モンスターがいるからその卵を探そう」


「「「了解!」」」


 仕事モードになれば誰も雑談をすることはない。


 周囲を警戒して目的の卵探しを行っている。


 長い草の陰、木の枝にモンスターの巣がないか探していると、自分達の脅威になると判断してシルバ達を群れで攻撃を仕掛けるモンスターがいた。


 レッドホーネット率いるパープルホーネットの群れである。


「蜂も卵はあったはず。巣を持ち帰れば孵化してない卵が手に入るかもな」


「蜂蜜もゲットできるよね。確保しよう」


「蜂蜜は大事です。確保しましょう」


『甘いの好き~』


「女性陣は、あっ、いや、なんでもありません」


 ロウは先程レイから説教されたことを思い出し、自分が口にしようとしていた言葉が余計な軽口になるところだったと気づいて途中で止めた。


 今回限りで終わらずに今後も自分で気づけるようになれば、ロウが余計なことを言って相手を怒らせる回数も減るだろう。


「僕が先制するよ」


 アリエルがそう宣言した後、岩弾乱射ロックガトリングを発動してパープルホーネットの数を減らした。


 その攻撃でアリエルがヘイトを一気に稼いだため、攻撃を躱して生き残った残党の接近を防ぐべくシルバが前に出る。


「壱式水の型:散水拳」


 シルバの攻撃で残党が次々に撃ち落とされ、最後まで粘ったレッドホーネットもシルバの5m以内に入ることはできなかった。


「チュルリ」


 エイルの両手を塞がないように緩く首に巻き付いていたマリナはレッドホーネットの魔石に興味津々だった。


『しょうがない。レッドホーネットの魔石はマリナにあげるよ。良いでしょご主人?』


「構わないよ。レイもすっかりお姉さんだな」


『レイは頼れるお姉さんだもん』


 レイはシルバに褒められてドヤ顔になった。


 倒したモンスターの解体と戦利品回収を済ませた後、シルバ達はレッドホーネット達の巣を探した。


 ホーネットと名の付くモンスターの巣は隠れるように設置されておらず、大きな木に堂々とぶら下がっているからだ。


「シルバ、あそこに巣があったぞ」


「まだ中にレッドホーネットクイーンとその取り巻きがいるかもしれませんから直接触るのは止めましょう。アリエル、煙をあの巣にぶつけたい」


 ロウに待ったを駆けつつ、シルバは丁度良いサイズの枝や葉を集めてからアリエルに対してここに着火してほしいと頼んだ。


「任せてよ。燻り出せば良いんでしょ」


 アリエルはシルバが巣の真下に集めた木や葉に着火すれば、時間の経過によって煙が空に上がっていき巣に直撃する。


 その直後に巣の中から慌ただしくレッドホーネットが6体現れ、巣を守ろうとして外敵であるシルバ達に向かって突撃を仕掛ける。


「俺もちょっとは働かねえとな」


 ロウが六連続でナイフの投擲をレッドホーネットの翅に命中させ、バランスを崩したそれらはバタバタと地面に墜落する。


「レイ、とどめよろしく」


『うん!』


 レイはシルバに任されて風刃ウインドエッジで地面で藻掻くレッドホーネット達にとどめを刺した。


 これでもう巣を守る者がいないと油断したと予測し、巣の中から偉そうなレッドホーネットクイーンが現れた。


「弐式:無刀刃」


 シルバは待っていたぞと言わんばかりにあっさり仕留め、レッドホーネットクイーンの頭部と胴体が離れ離れになった状態で地面に墜落した。


「レイ、クイーンの魔石を上げるから、それ以外の護衛はマリナにあげようか」


『うん!』


「シルバ、レイちゃん、ありがとうございます」


「チュルル」


 シルバとレイの気遣いにエイルとマリナがお礼を言った。


 魔石は一番上等なレッドホーネットクイーンのものだけレイが貰い、それ以外のレッドホーネットのものはマリナに与えられた。


 マリナは従魔として初めての探索からレッド級モンスターの魔石しか取り込まない贅沢なパワーアップをしている。


 レッドホーネットクイーンを倒した後、主がいなくなった巣は木との接合部が徐々に脆くなって切り離されて落下した。


 その巣はレイに風付与ウインドエンチャントをかけてもらったシルバが優しくキャッチし、なるべく振動させないように気を付けながら地面に置いた。


 巣をそのまま持ち帰るには中の様子が見通せずに不安だ。


 ディオスに戻った時、万が一羽化したモンスターが暴れたら厄介だから巣を壊して孵化しそうなものや孵化していても巣の中から出て来れない個体は倒してしまうことにした。


 シルバが弐式:無刀刃で巣をいくつかの破片に切断してみたところ、懸念していた蜂の子がいたので始末し、まだ孵っていない卵の詰まった区画のくっついた破片を持ち帰ることに決めた。


 その時、レッドホーネットクイーンの巣が壊れて横取りできると思ったのか、レッドサーペントとレッドレイヴンがそれぞれパープルサーペントとパープルレイヴンの配下を引き連れて現れた。


「横取りなんて卑しい真似はさせないよ」


 アリエルは大地棘ガイアソーンでレッドサーペント率いるパープルサーペントを串刺しにして仕留めた。


 その一方、シルバはダイブしてすれ違いざまに地面に散らばった蜂の子付きの巣の破片を狙うレッドレイヴン達に対して迎撃する。


「壱式氷の型:砕氷拳」


 砕けた氷が拳圧によって飛ばされ、レッドレイヴン達は次々に撃ち落された。


「シルバ、ここはレッドホーネットクイーンの巣の破片を持ち帰らないか? 卵を狙われながら探索するのは避けた方が良い」


「そうですね。ディオスに撤収しましょう」


 その後、シルバ達がディオスの基地に卵付きで巣の破片を持ち帰ったことにより、研究部門の軍人達がお祭り騒ぎになったのは言うまでもない。

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