第245話 デカいけどレイはレイだった
翌日、シルバはアリエル達と共に元のサイズに戻ったレイの背中の上にいた。
今日は魔石研究室でやることがないため、ワイバーン特別小隊のメンバーは休みになった。
自由にできる時間ということで、気分転換にレイの背中に乗ってディオニシウス帝国の領空を散歩することにしたのである。
マリナもリトもエイルとアリエルが抱っこできるサイズであり、レイも見た目よりずっと重い物を背負って空を飛べるから、全員がレイの背中に乗っている。
ロウが一緒に来ていないのは、せっかくの休みなのでクレアとゆっくりしているからだ。
断じて仲間外れにしている訳ではない。
むしろ、シルバ達がクレアに気を遣ったと言っても過言ではない。
「さて、折角だから空からの写真もたくさん撮ろう。それをマチルダさんに送ってあげよう」
「流石はシルバ君。協力したんだから開発を急がせてって圧力をかけるんだね」
「アリエル、実際はそうかもしれませんけど言い方を考えましょうよ」
「僕は事実を言ったまでだよ」
エイルが苦笑してオブラートに包んでくれと言えば、アリエルは悪びれもせずに事実だから良いんだと言い切った。
『ご主人達、飛ぶ速度はこれぐらいで大丈夫?』
「ばっちりだぞ。レイ、気遣ってくれてありがとな」
レイも本当はもっと速く飛べるのだが、空から写真を撮るのにそれがブレブレになっては悪いから、シルバ達に気を遣って速度を調整している。
シルバはそれを理解しており、レイの優しさに感謝した。
先程まで腹黒いことを言っていたアリエルだけれど、改めて空から地上を見下ろして思ったことを口にする。
「それにしても、ディオニシウス帝国の街ってどこも小さくまとまってる感じがする」
「そうなんですか?」
「うん。サタンティヌス王国って王都がとびきり大きくて、それ以外の街はそこそこって感じなんだけど、ディオニシウス帝国は違うね。
アリエルの説明を聞き、シルバはもしかしたら何か知っているかもしれないと思って熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュに訊ねる。
(タルウィとザリチュ、帝国と王国の街の大きさの違いについて何か知ってる?)
『昔の使用者が言ってたわっ。王国はどの代も国王が王都の発展を第一に考えてたから王都ばかり大きくなったのよっ。それに対して帝国は強い国を目指してたから、ディオスを一番大きくするけどその他の街も大きくなるようにしたんだわっ』
『皇帝、帝都、万が一、備える。国王、私腹、肥やす、優先』
(なるほど。国のトップのスタンスでここまで変わるって訳だ)
熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュの話を聞き、シルバは為政者の違いがそのまま国の違いになったことを理解した。
また、古くから存在するだけあって、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュは物知りなので、こういう時にも自分を助けてくれてありがたいとも思った。
シルバが熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュの教えてくれた情報を伝えたところ、アリエルもエイルも納得した。
「やっぱりサタンティヌス王家はゴミばかりだね。知ってたけど」
「ディオニシウス帝国に生まれて良かったです」
「まあ、この国にもトフェレみたいな酷い場所もあるけどな」
エイルがディオニシウス帝国は良い国だと言うから、シルバはこの国全てが良い場所ではないぞと釘を刺した。
これにはエイルも苦笑するしかなかった。
レイのおかげで午前中だけでも国内の地図に使えそうな写真がたくさん撮れたため、シルバ達は昼食を取るために着陸したマイルク台地でマチルダに掲示板経由で大量の写真を送りつけた。
シルバ達からの圧力だと感じる反面、空からの写真が貴重なのも事実だから、マチルダはシルバ達に感謝した。
レイが<
これにはシルバ達も大変満足した。
「レイがいてくれてマジで助かったよ」
『ドヤァ』
「よしよし」
胸を張るレイをシルバは満足するまで撫でてあげた。
食後の休憩をしていたところ、シルバは草原の向こうにどうみてもモンスターにしか見えない集団が駆け寄って来ていることに気づいた。
「何か来たな」
「何あの体、気持ち悪い」
「上半身が槍を持った人で下半身が馬のモンスターですかね? 初めて見ました」
エイルの言う通りの見た目のモンスターが群れを成し、シルバ達に向かって来ていた。
先頭にいるのは一際大きい個体で、その後ろに続く2体は先頭の個体と比べて小さい。
『ケンタウロスだわっ。アタシ達も久しく見てなかったモンスターなのよっ』
『
熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが教えてくれた情報を素早く共有し、シルバは先頭の個体を引き受けることにした。
シルバが先手を仕掛けようとしたが、先頭のケンタウロスの方が先に射程圏に入ったらしく、
「伍式火の型:
シルバが両手の親指と人差し指で三角形を作り、そこに火の槍が吸い込まれていく。
それによってシルバの力が漲り、一瞬で先頭のケンタウロスと距離を詰める。
「陸式火の型:
シルバが火の付与された腕を突き出せば、伍式火の型:合炎で吸収した炎も上乗せして白く輝く炎の槍が放たれ、先頭のケンタウロスの胴体に風穴を開けて吹き飛ばした。
その威力に後ろから来ていたケンタウロス達が怯えるが、その隙をアリエル達は逃さない。
「狩るのは僕達の方だからね」
アリエルが
突然足場がなくなり、地面に落ちたケンタウロス達は足を怪我してしまった。
「リト、攻撃して良いよ」
「マリナ、お願いします」
「ピヨ!」
「チュル!」
アリエルとエイルに指示を出され、リトとマリナがそれぞれ
「最近、異界からどんどん新しいモンスターが来るようになったな」
「異界で何か起きてるのかもね」
(マリアは無事だろうか。いや、無事か)
アリエルの言葉を聞いて異界にいる
自分が一撃も入れられなかった相手なのだから、そんな簡単にくたばるはずないと思ったのである。
それはそれとして、ここ最近段階を踏んで異界から出て来るモンスターが強くなっているから、異界に何が起きたのか気になった。
「行ける余裕があるんだったら、一度異界を捜索するのもありかもな」
「シルバ、やはり拳者様のことが気になりますか?」
「マリアは無事だから心配してない。俺が気になるのは、異界から割災でこっちに来るモンスターがどんどん強くなってることだ」
エイルはシルバが寂しがっているのかもしれないと心配したが、シルバには特にその様子が見られなかった。
強がりではないとわかっているが、なんとなくシルバを抱き締めたくなったので、エイルはシルバを抱き締めた。
「エイル? 俺は本当に寂しがってないぞ?」
「わかってます。ただ、なんとなく私が抱き締めたくなっただけです」
「僕だけ除け者にするなんて認めないよ」
エイルに抱き締められて困惑するシルバに対し、アリエルもそこに加わるからシルバはもっと困惑した。
しかし、それだけ自分は2人から愛されているのだと理解できたため、シルバはしばらくそのままでいた。
エイルとアリエルの気が済んだ後、シルバはケンタウロス達から魔石を取り出した。
銀魔石が1つと黒魔石が2つだったから、銀魔石をレイに与えて黒魔石はリトとマリナに与えた。
その直後、レイの体だけが光に包み込まれた。
光の中ではレイのシルエットが大きく変わり、翼竜と呼ぶべき見た目から巨大な西洋竜のそれへと変わった。
光が収まると、白い鱗に覆われて金色の眼を持つドラゴンになったレイの姿が現れた。
『ご主人、ありがとう! レイはワイバーンからニーズヘッグに進化したよ!』
(デカいけどレイはレイだった)
甘えて来る素振りは進化前と変わらなかったため、シルバはそのような感想を抱いた。
「おめでとう。レイが立派な姿になって俺も嬉しいぞ」
『エヘヘ♪』
この後、シルバがレイが進化したと掲示板でアルケイデスに報告した。
モンスターの進化というとんでもない情報に加え、ワイバーンが進化するとどう考えても国を滅ぼせそうな外見のニーズヘッグになったことから、ディオスの城の執務室でアルケイデスが胃痛に襲われたのはここだけの話である。
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