第246話 俺が知ってるスライムってあんなデカくないんだが

 掲示板の個人チャットで相談した結果、シルバ達は午後に国外にいる巨大スライムを倒しに行くことにした。


 レイの強さを調べるのに丁度良い強さの相手が他に思いつかず、倒してしまっても困る者は誰もいないのは巨大スライムだけだったからだ。


 巨大スライムの現在地は、サタンティヌス王国とトスハリ教国が戦闘していた両国の国境である。


 今は誰も寄り付いておらず、餌がないので巨大スライムも雪に覆われた合戦場でおとなしくしていた。


 遠くから見たそれは微動だにしておらず、冬眠しているのではと思うぐらいだ。


「俺が知ってるスライムってあんなデカくないんだが」


「そうだよね。あんなに大きいスライムって異常でしょ。レイみたいに進化したんじゃない?」


「私もアリエルの考えに賛成です。王国の従魔に加え、割災で現れたモンスターまで食べてしまったのですから、進化してる可能性は十分にあり得ます」


 アリエルとエイルがスライム進化説を唱えた直後、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが答え合わせをする。


『アリエルとエイルが正解なのよっ。ギガントスライムに進化してるんだからねっ』


『ギガントスライム、厄介。タフ、大食い、再生、強酸液、触手』


 (ザリチュの言ってることが正しかったら、相当手強い相手だぞ)


『ザリチュは本当のことを言ってるわっ』


『嘘、つかない。信じて』


 (ごめん、言い方が悪かったな。信じてない訳じゃない。あいつが信じたくない強さだって言いたかったんだ)


 自分の思考を読み取って抗議する熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュに対し、シルバは素直に謝った。


 シルバが言いたいことを理解したからか、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュはおとなしくなった。


 手に入れた情報をアリエル達に共有すると、彼女達の眉間に皺が寄った。


「厄介な相手だね。下手したら長期戦になりそう」


「レイちゃんだけだと大変じゃないですか?」


『まずはレイだけでやらせて。良いでしょ、ご主人?』


 アリエルとエイルは全員でやるべきじゃないかと言外に伝えるが、レイは自分の力試しなのだからまずは自分だけでやりたいとシルバに訊いた。


 シルバはレイに甘いところがあるので、レイのお願いに首を縦に振る。


「やってごらん。ただし、レイだけじゃ不味いと思ったら俺達も加勢するからな」


『ありがと~。ご主人大好き』


 自分のわがままを聞いてくれて嬉しかったので、レイは素直にその気持ちをシルバに伝えた。


 それから、レイはギガントスライムの上空まで移動して攻撃を始める。


『それぇぇぇ!』


 レイは<属性吐息エレメントブレス>を発動し、風のブレスでギガントスライムを攻撃した。


 風のブレスは風の刃が密集して形成されており、命中した部位はどんどん切り傷が増えていく。


 レイの先制攻撃を受けて目が覚めたらしく、ギガントスライムはいくつもの触手を伸ばし、レイ達に向かって強酸液を発射する。


 それと同時にレイにやられた傷を再生させるあたり、触手から放つ強酸液の攻撃は時間稼ぎも兼ねているのだろう。


 その一方、レイは反射領域リフレクトフィールドで自分達の身を守る。


『効かないよ』


 反射領域リフレクトフィールドに触れた強酸液は、技の効果でギガントスライムの触手に向かって反射されていく。


 触手に自身の強酸液が触れ、ジュワーっと音を立てて触手が消失した。


 もっとも、触手はすぐに再生するのでギガントスライムは平気そうにしているのだが。


『むぅ、魔力切れするまで攻撃してやるんだから』


 レイはギガントスライムの<自己再生オートリジェネ>は魔力が尽きれば使えなくなると判断し、ギガントスライムの強酸液や鞭のように振るわれる触手を躱しつつ、風のブレスを何度も放った。


 傍から見れば怪獣大決戦な訳だが、レイの背中に乗っているシルバ達はパニックになることなく静かにしていた。


 正確には、レイに振り落とされないようにアリエル達がシルバにしがみつくのに集中していると言える。


 シルバだけはレイがピンチになった時に備え、いつでも指示を出せるようにレイとギガントスライムの戦いを見守っている。


 しばらく見守ったところ、シルバはギガントスライムの変化に気づいた。


 (ギガントスライムの再生が遅くなって来た。そろそろ底が見えて来たか)


 レイのブレスや竜巻トルネードを受け、その傷を<自動再生オートリジェネ>で回復させていたギガントスライムだったが、序盤に比べて傷の治りが遅くなった。


 また、ギガントスライムの攻撃が一段と激しくなったことから、ギガントスライムは自分が劣勢だと気付いて攻撃のペースを上げていることがわかる。


 レイもそれに気づいたらしい。


『終わりが見えて来たね』


 <属性吐息エレメントブレス>の属性を風から光に変更し、レイの口から光のレーザーが放たれた。


 無数の風の刃ではなく、レーザーによって焼かれたせいでギガントスライムの体が再生する速度は遅くなった。


 レイが光のブレスを薙ぎ払うように放てば、ブレスによる被害がどんどん大きくなり、遂にはギガントスライムの再生が止まった。


『バイバイ』


 レイはオーバーキルにならぬように、ニーズヘッグに進化した際に会得した光槍ライトランスでギガントスライムにとどめを刺した。


 周囲はすっかりギガントスライムの体液のせいで雪が解けており、草が生えていない湿った大地になっていた。


 シルバ達は着陸した後、ギガントスライムの皮の内部に残っていた体液を皮と一緒にできる限り回収した。


 残ったのはギガントスライムの魔石だが、その色は銀ではなく金色だった。


 既に<収縮シュリンク>でシルバが抱っこできるサイズになっていたレイは、シルバに上目遣いでお願いする。


『ご主人、この金魔石はレイが貰っても良いよね?』


「よしよし。勿論レイのものだ。頑張ってくれたからな」


『やった~!』


 レイは初めての金魔石を貰ってすっかりご機嫌だった。


 金魔石を飲み込んだことで自分の力がまた強まったことを知り、レイは嬉しそうにシルバに話しかける。


『ご主人、<竜威圧ドラゴンプレッシャー>を会得したよ』


「名前からしてドラゴンならではのスキルみたいだな」


『うん。使った時に自分より弱い者の動きを鈍らせるの』


「それは便利だな。すごいじゃん」


『ドヤァ』


 レイが使えるスキルを会得したため、シルバはレイを褒めながら頭を撫でた。


 シルバに褒めてもらうのが嬉しいから、レイはドヤ顔のまま頭を撫でられている。


「シルバ君、ちょっと良いかな?」


「どうしたアリエル?」


「レイがギガントスライムを倒したことって発表するの?」


「アルケイデス兄さんは発表するつもりだと思う。もしもアルケイデス兄さんが発表しなかったとしても、ロザリーお姉ちゃんが噂として流すんじゃないかな」


 シルバはアルケイデスやロザリーと話す機会が増えたため、2人の考え方を理解していた。


 アルケイデスの場合、シルバが嫌がらなければ他国がディオニシウス帝国にちょっかいを出さぬように宣伝するだろう。


 シルバが嫌がったならば、アルケイデスはシルバに甘いのでわざわざ宣伝しないはずだ。


 それに対して、ロザリーは使える物を何だって使うスタンスだから、アルケイデスが宣伝しないならばその意図を酌んで噂という形で広めるに違いない。


 ロザリーもシルバに嫌われたくはないが、ディオニシウス帝国のためならばシルバから多少好感度が落ちたとしても情報操作を行うに決まっている。


「僕はギガントスライムを倒したのがレイだって発表してほしいって思うけど、なんで王国と教国の国境までわざわざ来て倒しに来たか説明できないからロザリー殿下に情報の扱いを任せた方が良いんじゃないかな」


「進化したレイの力を試したくってって理由じゃ駄目だよな」


「それじゃ他国に侵入する理由にはなり得ないよ。大義名分がないと、下手をしたら王国と教国が手を組んで帝国に攻め入ってくるかもしれない。弱体化してるとはいえ、面倒な国2つが手を組むと余計な仕事が増えちゃうよ」


「わかった。それなら、結果報告と併せてロザリーお姉ちゃんに相談してみる」


 シルバはアルケイデスとロザリーと自分だけの掲示板を開き、進化したレイがギガントスライムを倒したこととアリエルの懸念を説明して後処理をロザリーに頼んでみた。


 その結果、ロザリーがシルバに頼られて自分に任せろと即レスし、情報操作はロザリーに任せることになった。


 この日の夕方、ディオニシウス帝国に潜入していたウェハヤ盗賊団の団長ウェハヤが、トスハリ教国に秘密で盗んだ金品を隠した場所があり、それをシルバ達が回収しに行ったところ、偶然ギガントスライムがいたので討伐したという噂が流れた。


 ウェハヤ盗賊団はトスハリ教国出身のウェハヤが率いていたという事実を過去に公表していたため、トスハリ教国の評判を下げつつレイに集まる注目が分散されたので、ロザリーの手腕は見事だったと言えよう。

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