第247話 現場の声は貴重です
5日後、マチルダが魔石研究室を訪れた。
「シルバさん、皆さん、マジフォンの動画撮影機能が完成しました。また、地図機能も限定的ですが実装できました」
「早いですね。マジフォン研究室の方々は本当に優秀です」
「そう言ってもらえると嬉しいです。早速、シルバさん達のマジフォンをアップデートさせてもらえませんか?」
「わかりました」
シルバ達はマチルダにそれぞれのマジフォンを渡した。
動画撮影機能と地図機能はマジフォンをアップデートすることで使用できるようになる。
そのアップデートの方法だが、マジフォン本体のカバーを開けて魔力回路の刻まれたカセットを入れ替えるというものだ。
ただし、今回は赤魔石ではなく赤魔水晶を使うということで、カセットだけでなく赤魔石と赤魔水晶も入れ替えるのだが。
余談だが、アップデート作業を行っても過去に自分が入力した掲示板のスレッドのデータは消えないし、撮影した写真も消えない。
これらはカセットや魔石にではなく、マジフォンに内蔵されている記録媒体に記録されるからだ。
シルバはマチルダがアップデート作業を終えたマジフォンを受け取り、すぐにそれを起動させる。
「画面の読込が速くなった気がしますね」
「ご認識の通りです。赤魔石から赤魔水晶に交換した結果、動画撮影機能と地図機能を入れてなお操作性の向上に力を割けました。流石は赤魔水晶ですね」
単純に考えて赤魔石の100倍の魔力を蓄積できる赤魔水晶を使えば、マジフォンの処理速度を上げる余裕があるのも当然だった。
マチルダが得意気に言うものだから、追加された2つの機能も期待できそうだとシルバは試し始める。
「動画を録画してみます。レイ、動画を撮るからこの部屋の中をゆっくり飛んでみて」
『わかった~』
レイが飛び始めるのを見て、シルバは動画の撮影ボタンを押す。
20秒程の動画を撮影したところで録画を停止し、レイを手招きして抱っこすると撮った動画を再生する。
「おぉ、ちゃんと動いてる」
『思ったよりカクカクしてないね』
レイの飛行動画はスムーズに流れ、シルバはこれならば問題なくミッションで使えるだろうと判断した。
アリエル達も自分の従魔達に適当に動いてもらい、動画撮影機能を試していた。
アリエルの動画はリトが躍ったもの。
エイルの動画はマリナが壁を這い上がるもの。
ロウの動画はシルバと同じように
3人もしっかりと動画撮影機能を使いこなせていた。
動画撮影機能の確認が終われば、次は地図機能である。
シルバが地図機能を立ち上げたところ、シルバの現在地が画面に映るだけでなく、
それ以外には
「なるほど。使用者の階級が地図に表示されるんですね」
「その通りです。ちなみに、地図に表示されたバッジに触れるとそれが誰なのか表示されます」
「助かります。階級がわかるだけだと近くに誰がいるのかまではわかりませんので」
「ところで、俺のバッジだけ右上に星が付いてるのは何故でしょうか?
最初は見間違えたのかと思ったが、しばらくしても消えない星の表示を見てみ間違いではないとわかり、それが何を意味するものなのかマチルダに訊ねた。
「それは皇族であることを示しております。バッジに触れないとそれが誰かわかりませんから、皇族の皆様だけは一目でわかるようになっております。シルバさんも家名は異なりますが元はディオニシウス家ですので、星が
「そういうことでしたか」
『ご主人はやっぱり特別なんだね。鼻が高いよ』
レイは地図機能におけるシルバの表示のされ方を気に入ったらしい。
おまけで開発した機能を喜んでもらえたため、マチルダはご機嫌な様子で説明を続ける。
「地図はシルバさん達からいただいた写真を使い、最新のデータで描かれております。データ不足のため国外の地図は今回のアップデートに間に合いませんでしたが、それでも国内の地図は参謀部門が保有していたものよりもずっと優れてます。これがあれば、国内で行われるミッションの成功率は最低でも10%上がるでしょう」
国内のミッションにおいて、失敗の要因として地図が挙げられる。
用意されていた地図では、割災の影響で地形が変わったことを更新できておらず、そのせいで地図の情報を頼りに練っていた作戦が失敗に終わったという報告は一定数存在したのだ。
「それは良い話ですね。今後、もしも割災で地形が変わったとしても、現地に行った軍人から地形がどのように変化したか情報を貰えれば、マジフォン上で地図も修正できる訳ですから、地図の更新も楽になるんじゃないですか?」
「おっしゃる通りです。現在、地図機能については国外の地図の追加や目的地への最短経路の表示ができないか研究を続けております」
「実装できたら国内外問わずミッション成功率が上がりそうですね」
「正直、シルバさん達はレイさんの背中に乗せてもらえば、地図なんて関係なく一直線で移動できますから恩恵はあまりないと思います。ですが、地上を進むしかない我々にとっては必要な研究です」
マチルダが言う通り、シルバ達はレイの背中に乗って移動できるから道がどう変わろうと目的地さえあれば問題ない。
しかし、シルバ達ワイバーン特別小隊は帝国軍において少数派なので、マジフォン研究室が地図機能を改良するとなれば喜ぶ者は多いだろう。
「アイディアだけ出して申し訳ないのですが、平面的な地図ではなく立体的な地図は作れませんかね? それと、地図と景観の写真を切り替えられるようにするというのはどうでしょう? 地図だけではわからない者がいた時に便利だと思うのですが」
「えっ、あのっ、ちょっと待って下さい。メモしますので」
シルバから突発的に出たアイディアは想定外のものだったので、マチルダは慌ててメモを取り出して書いた。
「まずは立体的な地図ですが、斥候の人は欲しいんじゃないでしょうか? ロウ先輩、どう思います?」
「それがあったらマジで助かります。平面的な情報だけじゃ、どうしてもわからないことがあります。普通の地図じゃ崖や壁、木の高さがわからないので、隠れて情報収集しなければならない時、どこならば身を隠せるかわからなくて悩みます」
シルバから話を振られ、ロウは現状が改善されるならばと困り事を正直に述べた。
「現場の声は貴重です。他の斥候系冒険者にも確認の上、要望が多いようであれば国外の地図よりも先に実装できるようにします」
いかに優れた物やサービスだったとしても、需要がなければコストパフォーマンスは非常に悪い。
言い方を選ばなければ無駄に終わるとも言えよう。
帝国軍の軍人の質はアルケイデスが皇帝になってからというもの、少しずつではあるが確実に良くなっている。
とはいえ、自爆した
マチルダが勝手なことをせず、シルバやロウの言葉に耳を傾けられる性格だったのは幸いなことだ。
シルバはマチルダがメモを取り終えたのを確認し、残りの要望の詳細を伝える。
「地図と景観の写真が切り換えるという仕様ですが、地図ではわからない雰囲気を把握するのに良いと思います。例えば、地面の質や木の種類等は立体的な地図でもわかりませんよね。そういった情報も視覚的に得られた方が良いと思いませんか?」
「シルバ君の言う通りです。地形や周辺にあるものを使って罠を仕掛ける時、視覚的情報を多く収集できる写真も地図機能に加われば、その準備が効率的になります。作戦を立てるのも楽になりますし、本来必要ない物を持ち込まずに済みますね」
シルバの要望をアリエルが補足すれば、マチルダは反応するよりもペンを動かすことを優先していた。
メモすべきことをメモした後、マチルダは頭を下げる。
「大変参考になりました。研究室に戻り、メンバー達と改良案を相談しますね。マジフォンはまだまだ改良できそうでワクワクします。あっ、皆さんのマジフォンを使ってみて不具合があったらすぐにご連絡下さい。それでは失礼します」
マチルダは大変そうだけれど楽しそうな足取りのまま、マジフォン研究室へと戻って行った。
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