第154話 親分、空から軍人が!
1週間後、シルバはキマイラ中隊第二小隊のミッションでカヘーテ渓谷に向かうことになった。
そうなったのはヨーキとサテラ、ロック、タオの4人組がカヘーテ渓谷で盗賊達の集会を目撃してしまったからだ。
休み明けの登校日、ヨーキ達はポールの独断でカヘーテ渓谷を調査するミッションを割り当てられた。
これは元々、B3-5の学生が割り当てられていたミッションだったのだが、カヘーテ渓谷に準備不足なまま挑んで体調不良で帰還してしまった。
他の3年生は同じB3-5しか残っておらず、一度失敗したB3-5よりもB2-1の方が上手くやるのではないかと教師陣が期待してB2-1の学生に割り当てられた。
それをポールがヨーキ達4人ならやれると判断して送り出した訳だが、ヨーキ達は慎重に調査を行った結果、複数の盗賊団がカヘーテ渓谷に集合している事実を突き止めた。
盗賊団は
教師陣はその情報を持ち帰る判断をしたヨーキ達を褒め、帝国軍にカヘーテ渓谷に集まった盗賊団の討伐の依頼を出した。
元々軍学校に割り振られたミッションだったということもあり、ポールが手を回してシルバ達がそれを受けられるようにしたのである。
「カヘーテ渓谷かぁ。嫌な場所に陣取るよなぁ」
御者を務めるロウがぼやくとエイルが反応する。
「ロウは過去にカヘーテ渓谷のミッションを受けたんでしたっけ?」
「そーだよ。あの時は戦術コースの学生との合同作戦でな、現場を知らねえ馬鹿共のせいで酷い目に遭ったぜ」
似たような話を聞いた覚えがあり、それがどんな話なのか思い出してシルバが口を挟む。
「ロウ先輩って何気に他のコースと合同で何かする時って碌なことになりませんよね。合同キャンプの時もそうでしたけど」
「それな。シルバは運が良くて羨ましいぜ」
「シルバ君は日頃の行いがロウ先輩と違って良いですからね」
「アリエル、俺は最近日頃の行いには気を付けてるんだ。何故ってやらかしたらクレアが怖いから」
ロウは前方を向いたまま話をしているので、馬車に乗っているシルバ達を向いていない。
そうだとしても、今のセリフを言っている時のロウのセリフはいつになく真面目だろうことはシルバ達には容易に想像できた。
「尻に敷かれてるんですね、わかります」
「そうなのさ。クレアは最近独占欲が強くってな。一昨日の夜なんて試作の自白剤入りジュースを飲まされて、一昨日話した女性が誰でどんな話をしたのか自白させられたぜ」
「ロウ先輩、クレア先輩に愛されてますね。大事にしなきゃ駄目ですよ?」
「おかしい。そこは俺に同情するところでは?」
「キュイ?」
今までは興味なさそうにシルバの膝枕で寝ていたレイだったが、何かに気付いて起き上がった。
「ロウ先輩、馬車を停めて下さい」
「わかった」
ロウはシルバの指示に従って馬車を停めた。
既に馬車はカヘーテ渓谷に入っているが、シルバ達の体調に異常は見られない。
ということは、レイの視線の先で何かあったのだろう。
「今から俺とレイで空から偵察してくるので待機しといて下さい」
「「「了解」」」
斥候は本来ロウの役目だが、ロウはいざという時にシルバのように空を駆けることはできないし、レイも1人ぐらいなら運んで飛べるけれど、シルバ以外を背中に乗せたがらないのでこの場合はロウが待機する。
「レイ、行くよ」
「キュウ」
レイはシルバの肩を両足で掴んで空へと舞い上がる。
シルバを背中に乗せるにはもう少し大きくならないと厳しいから、今はこのスタイルで空から偵察するのだ。
少し飛んで目的地上空に到着すると、レイはその場に留まるように羽ばたいた。
レイに移動を任せていたシルバはといえば、岩陰に集まる怪しい3人組の姿を捉えていた。
(とりあえず写真を撮ろうか)
肉眼では顔の細部まではわからないから、シルバはマジフォンのカメラでズームして写真を撮った。
しかし、その集団の中に気配を察知することに長けた者がいたらしく、レンズ越しにシルバと目が合ってしまった。
「レイ、見つかった。威力偵察に切り替えるよ」
「キュイ」
レイは事前に打ち合わせていた通り、シルバの肩を掴んでいた脚から力を抜いた。
それによってシルバが重力に従って地面へと落ちていく。
ただし、シルバは姿勢をうまく制御して宙を蹴り、加速しながら怪しい集団との距離を詰める。
「親分、空から軍人が!」
「そんな馬鹿な!? って本当じゃねえか!」
「參式光の型:仏光陣」
「「「目がぁぁぁぁぁ!」」」
視界を奪うことに成功したら、シルバは3人に首トンを決めて気絶させた。
そこにレイがロウの操縦する馬車を連れてやって来た。
「おぉ、相変わらず見事な威力偵察だ。こいつ、茶髭って通り名で手配書が出てた奴じゃん」
「シルバ君なら大丈夫とわかってたとしても、落下するシルバ君を見ると心臓に悪いです」
「エイルさん、俺があれぐらいでヘマすることはないので慣れて下さい。アリエル、ここから先は任せる」
「任せて」
アリエルはそう言って落とし穴を掘って捕えた3人を首だけ残して埋めた。
シルバの手際も良いのだが、それに負けないぐらいアリエルも手馴れていた。
エイルがシルバの指示で親分と呼ばれてた茶髭に気付け薬を嗅がせたことで、茶髭の目が覚める。
「うっ、なんだってんだ?」
「選べ」
「あん?」
「このまま生き埋めになるか喋って楽になるか」
「ひっ!?」
騒乱剣サルワを向けながらアリエルに言われれば、茶髭は自分達が絶体絶命の危機に瀕していることを察した。
自分は手足が地面の下にあって動かせず、目前には見るからにヤバそうな剣をもった軍人がいれば怯えてしまうのも無理もない。
「誰が選択肢以外に喋って良いって言った?」
「すいません!」
「もう一度だけ言ってやるから選べ。このまま生き埋めになるか喋って楽になるか」
「喋りますから命だけはお助けを!」
茶髭の心はすっかり折れていた。
空から
こんな予想もできない事柄が連続すれば、悪態をついて反抗する気力も起きないのだ。
茶髭はアリエルの尋問にはきはきと応じた。
その結果、以下のようなことがわかった。
まず、カヘーテ渓谷に盗賊達がアジトを構えているという噂だが、ディオス周辺で活動しづらくなった盗賊達が追手の来ないカヘーテ渓谷に集まったことがきっかけだった。
商隊が通過することは滅多にないから、カヘーテ渓谷で盗賊としての仕事はできない。
だから、カヘーテ渓谷を根城にする盗賊団が仕事をする時はジェロス周辺まで足を運ぶ。
次に、集まった盗賊団にも格付けがされていてカヘーテ渓谷の中心に行けば行く程盗賊内での格が高い。
茶髭と部下2人はカヘーテ渓谷の中では底辺レベルであり、これ以上の情報は持ち合わせていなかった。
茶髭は賞金首としては低額であり、ロウとアリエルしか賞金首として認識していなかった。
ところが、カヘーテ渓谷にはシルバやエイルも聞き覚えのある賞金首が何人もいると茶髭が喋ったことにより、シルバ達はこのままミッションを続行せず応援を呼ぶことにした。
とりあえず、捕えた茶髭盗賊団は3人纏めてロープでぐるぐる巻きにしたままディオスに連れ帰った。
シルバ達はディオスの基地に戻ってすぐに茶髭盗賊団を牢屋に連れて行き、キマイラ中隊の部屋に到着してすぐにポールに報告する。
「ハワード先生、戻りました。茶髭盗賊団を拘束して牢屋に入れてあります。カヘーテ渓谷には国内の名立たる盗賊団がアジトを構えてるようです」
ポールはシルバから聞いたカヘーテ渓谷の状況を聞いて溜息をついた。
「やれやれ。カヘーテ渓谷を片付ければ国内の治安が良くなると思わないとやってられないな」
「そうですね。それで、いつ動きますか?」
「明日、キマイラ中隊総動員で動く。万が一に備えて第一小隊と第三小隊はディオスに残っておくように指示を出しといたからな。攻め込む人員を集める所から始めるのは面倒だったから、その指示を出しといて正解だったな」
「わかりました」
「それじゃ、明日は朝一番で出発するから今日はもう休んどけ」
「はい。失礼しました」
シルバ達はポールへの報告を終えたら解散してそれぞれ明日に備えた。
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