第263話 ないものねだりしたってしょうがないわ
模擬戦を終えてレイに<
「マリア、今の俺だったら異界でどこまで戦えると思う?」
「うーん、武器なしでゴールド級モンスターが2体同時に現れてもなんとかなるぐらいかしら。3体目は武器ありじゃなきゃキツいと思うわ」
「今の異界ってどうなってるの? 昔はブラック級モンスターだって滅多に見なかったと思うんだけど」
「それは私が家の近くに来たブラック級以上のモンスターをこっそり排除してたからよ」
「えっ、そうなの? 知らなかった」
初耳な内容が飛び出してきたため、シルバは目をぱちくりさせた。
「だから言ってるじゃないの。こっそり排除したって。シルバに気づかれてどうすんのよ」
「なんでそんなことを? あぁ、俺のためか」
「正解。私自身、シルバを厳しく鍛えたと思ってるわ。それでも、やってやれないことはさせなかったし、手に負えないとわかってるブラック級以上のモンスターは排除してたんだから」
「その節は大変お世話になりました」
「うむ。素直でよろしい」
シルバはマリアによる修行が厳しいと思っていたけれど、あれでも全然優しかったことを知らされてマリアに感謝した。
「じゃあ、今の異界も昔と変わらないの?」
「そんなことはないわ。確実に変わってる」
「どんな風に?」
「シルバ、貴方が異界にいた頃ってモンスター以外に遭遇したことってないでしょ? 今じゃモンスター以外に人がいるのを見つけたわ」
「異界に人がいたの?」
シルバはまたしても初耳な情報を聞いて目を見開いた。
自分が異界にいた時にはモンスターしかおらず、人語を喋れる生物を見たことがなかった。
マリアの発言からして、危険だからシルバの見ていない場所で排除していたということもないだろう。
「いたのよ。私達みたいにモンスターからひっそりと身を守ってる人種がね」
「人種って言い方をするってことは、俺達みたいな人間とは違うんだろ?」
「ええ。肌は浅黒くて耳が長く、種族的に闇属性適性を必ず持ってるみたいだから
「
「ただ怯えるだけじゃないってのが厄介なのよね・・・」
マリアは困った表情を浮かべた。
彼女の表情を見て、シルバは
「まさか、エリュシカに強いモンスターを送り込んでる?」
「その通りよ。少しずつ強いモンスターをエリュシカに送り込み、異界から自分達を脅かすモンスターを排除してるの」
「マリアがそんな嘘をついてるとは思わないけど、証拠になる物を持ってないのか?」
シルバも公王という立場だから、師匠であるマリアの発言を鵜呑みにする訳にはいかない。
何か物証があれば、アルケイデスやロザリーと協力して事に当たれると思っての発言だ。
幸いなことに、マリアは<
その資料はエリュシカの紙とは異なり、モンスターの皮を紙代わりにした物だった。
しかも、そこに書かれてある文字はここにいる誰にも読めない文字で記されていた。
だが、まったく解読できなかった訳ではない。
何故なら、横並びになったモンスターとその上に右向き矢印が描かれたイラストがあり、右端のレインボー級モンスター以外は×で消されていたからだ。
「これは
「穴の向こうに俺達がいると知らないからだと思いたいが、それでも迷惑なことに変わりはないな」
「ごめんなさいね。私は止めるか悩んで結局止めなかった。邪魔することはできたのだけど、それで
マリアの言い分を聞いて彼女を責められる者は誰もいない。
「ところで、強くなり過ぎたモンスターってレインボー級モンスターのことか?」
「そうよ。レインボートードとか揚げると美味しいし、スレイプニルの刺身もなかなかいけるわね」
「何それ食べたい」
「もう、シルバったら相変わらず食いしん坊ね。そういうところは変わってなくてホッとしたわ」
マリアはシルバのリアクションを見て優しい表情になった。
そこにエイルが話かける。
「拳者様、マリナ達はそれぞれ何級かわかりますか?」
「わかるわ。レイちゃんはゴールド級の中でもあと少しでレインボー級ね。マリナちゃんはゴールド級中堅。リト君はシルバー級中堅ってとこかしら」
『ドヤァ』
「よしよし。レイは強いな」
マリアにもうすぐレインボー級モンスターに届く強さだと言われ、レイはシルバに抱っこされたままドヤ顔を披露した。
「良いな~。従魔良いな~」
「マリアはモンスターに怖がられるからしょうがないよ」
「そんなことないわ。ねっ、レイちゃん?」
『・・・そうだね』
レイはシルバの腕の中でブルッと震えてから答えた。
マリアがシルバの師匠だとわかっても、その強さが本能的に理解できてしまうせいで恐怖を感じるらしい。
「よく頑張ったな。偉いぞレイ」
『エヘヘ♪』
「解せぬ」
シルバだって十分強いにもかかわらず、なぜ自分だけここまで怖がられるのだとマリアは不満そうにした。
この話題を続けるのはマリアに悪いと思ったため、シルバは話題を変える。
「話を戻すけど、
「筋肉が付きにくい種族だから近接戦は駄目ね。だけど、弓が使える者が多かったわ。穴への誘導は<
「ないんだろうなとは思ってたけど、
「私の侵入した集落にはそんな物はなかったわね。というか、マジフォンの方がよっぽど
(ガラケーとはなんだ? マジフォンにはもっと適した形があるとでも?)
異界にいた頃、マリアがシルバの知らない言葉を使うことは時々あった。
今のもきっと同じだろうとシルバは自分自身を納得させた。
「ということは、
「今のところはそうね」
「今のところって言い方をするのは、何か引っかかるところがあるってことですよね?」
アリエルがマリアの発言に含みがあると判断して訊ねた。
「じっくり調べる隙がなかったからなんとも言えないのだけど、
「言われてみれば考えにくいですね。でも、拳者様はそれを目撃しました。そうなると、何か仕掛けられてたと考えるのが自然ではないでしょうか」
「
その可能性にマリアが思い至ると、シルバは悔し気な表情をした。
「マリアがその頃にマジフォンを持ってたら、
「ないものねだりしたってしょうがないわ。とりあえず、割災でレインボー級モンスターが来る時に備えて、実力の底上げと割災予報機の精度確認をしましょう」
「そうだな。異界の話じゃ乗り込んでもそこに辿り着けるかわからん。できることから確実にやるしかなさそうだ」
シルバ達は話をこの辺りで切り上げ、ムラマサ城へと帰還した。
この日、シルバは初めてマリアに一撃当てたことが嬉しくてずっと上機嫌だったのは別の話である。
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