第137話 欲しがりさんめ。おあがり
アイテル湖の街道でマンイーターを討伐した後、シルバ達は北西に向かって進んで目的地の廃坑に向かった。
1日では行けない距離にあったこともあり、開けた街道の外れで一夜を過ごしてから廃坑に移動した。
廃坑の正式名称はサバーニャ廃坑である。
今はもう存在しないサバーニャという都市にあったことから、その地名が付いているだけだ。
サバーニャ廃坑は割災でエリュシカに来てしまったモンスター達がその廃坑に流れ着き、そのまま巣として利用している。
しかも、シルバ達が貰った情報によればサバーニャ廃坑には複数種類のモンスターがいるらしい。
どうしてそうなるまで放置していたのかだが、サバーニャ廃坑に住み着いたモンスター達が外に出て来なかったからだ。
坑内に入って来た者には容赦なく襲い掛かるが、モンスター達がサバーニャ廃坑から飛び出して人を襲ったことはなかった。
それが理由でサバーニャ廃坑の掃除が後回しにされ続けて来たのだ。
「モンスターの気配がしますね。それもわんさと」
「入口でそれだけわかるってのはヤバいよね」
「一体どれだけのモンスターが中にいるんでしょうか?」
「10や20で済まなそうだよな」
シルバ達はやれやれと思いつつ、馬車から降りてサバーニャ廃坑に入った。
坑内は暗いのでアルが壁際にある松明に火を点けながら歩く。
暗がりを心地良く思っていたモンスター達は突然坑内が明るくなったため、暗がりを取り戻そうとシルバ達に襲い掛かって来た。
「コボルドの群れだ。アル、戦闘では<
「<
シルバに言われてアルは騒乱剣サルワを構える。
「コボ!」
「「「・・・「「コボ!」」・・・」」」
コボルドは縦社会なので群れのリーダーが合図を出すと、部下達が一斉に攻撃し始める。
その中でもロッドを持つだけのエイルは狙いやすいと思ったのか、エイルを狙う個体が多かった。
「やらせないから。壱式水の型:散水拳」
エイルとコボルド達の間に割って入り、シルバはコボルド達をあっさり仕留める。
一番弱い奴を狙う作戦だったのだが、そこに小隊最強のシルバがカバーに入ればコボルド達の作戦は失敗してしまった。
「おやおや、エイルがときめいてるぞ?」
「ロウ先輩、無駄口叩いてないで殲滅しますよ」
「へーい」
ロウがエイルを揶揄う隣でアルがムスッとした表情でロウを窘める。
どちらも喋りながらコボルドを倒しているあたり、まだまだ余裕がありそうである。
「キュ!」
レイが短く鳴くと、風の刃が発生して最後のコボルドを真っ二つにした。
「レイ、
「キュイ!」
「やるじゃないか。偉いぞ」
「キュウ♪」
レイがドヤ顔で自分があいつをやっつけたんだと胸を張れば、シルバはレイの頭を優しく撫でた。
そこにエイルが声をかける。
「シルバ君、助けてくれてありがとうございました」
「いえいえ。<
「シルバ君、コボルドの死体はどうする? 全部持って帰る訳にはいかないよね」
「コボルドの耳についてる輪っかと魔石だけ持ち帰ろう。それが討伐証明だし。ただ、コボルド達を率いてたこいつはどうだろうな」
シルバがアルに声をかけられてどうしようと考えたのは、レイが倒したコボルドリーダーだ。
コボルドは二足歩行の犬が革鎧と武器を装備した見た目であり、左耳にイヤリングのような輪っかを付けている。
レイが倒したコボルドリーダーはコボルドよりも一回り体格が大きく、イヤリングの質も部下達よりも若干良さそうなのだ。
もっとも、コボルドリーダーだからと言って追加で何か持って帰れば金になる物もないから、シルバ達は結局輪っかと魔石を回収した。
その時、レイがコボルドリーダーの魔石を持つシルバの手を触って上目遣いになった。
「キュイ?」
「この魔石が欲しいのか?」
「キュウ」
レイが魔石を欲しがる時、シルバは討伐証明として軍に提出を求められていない時はレイにそれを与えて来た。
何故なら、魔石を取り込むことでレイがパワーアップするとわかったからだ。
アイテル湖で倒したマンイーターの魔石は上げられないが、コボルドリーダーの魔石は軍に提出を求められていない。
それゆえ、シルバはレイにコボルドリーダーの魔石を与えることにした。
「欲しがりさんめ。おあがり」
「キュ~♪」
シルバから魔石を貰えてレイはご機嫌だった。
魔石を取り込んだレイの体はほんの少しだけ大きくなり、自分の体が成長したとわかってレイは大喜びでシルバに頬擦りする。
「よしよし」
「レイはどこまで大きくなるんだろうなぁ」
「シルバ君を背中に乗せられるぐらい大きくなるんじゃないですか?」
「今はシルバ君が抱えられるサイズですけど、ゆくゆくは馬よりも大きくなるんでしょうね」
「そうなるとシルバと同じ部屋では暮らせなくなるな」
「キュア!?」
ロウが何気なく言った言葉にレイは反応した。
それは本当なのかと目を見開いており、シルバと同じ部屋で暮らせないことにショックを受けているのは間違いない。
「レイ、落ち着いて。モンスターには体のサイズを自在に操る種族もいる。そいつの魔石を取り込めば、レイも体のサイズを自在に変えられるかもしれないぞ」
「キュイ!」
そいつを見つけて魔石を奪うとレイが決意した瞬間だった。
レイは甘えん坊であり、ずっとシルバと一緒にいたいと思っている。
だからこそ、自分が大きくなってシルバを空の旅に連れて行きたい気持ちもあるが、一緒の家で寝起きできないことは耐えられないのだ。
レイに気合が入ったところでシルバ達は廃坑の探索を再開する。
それからすぐにシルバ達の視界に大きな赤い蜘蛛とそれに率いられる紫色の蜘蛛のモンスターと遭遇した。
「レッドスパイダーとパープルスパイダーか」
「シルバ君、燃やしちゃ駄目? 近づきたくない」
「アルじゃないけどデカい蜘蛛って確かにキモいな」
「生理的に受け付けません。燃やしても良いと思いませんか?」
女性陣はレッドスパイダー達を燃やすことに賛成らしい。
だが、廃坑のように空気が限られたところで<
アルに<
ということで、シルバは軍服のポケットから煙玉を取り出した。
「シルバ君、それは何?」
「虫型モンスターにとっての毒が混ざってる煙玉。人体に影響はないから今回はこれを使う」
シルバはアルの質問に答えてから煙玉を投げた。
その直後に煙が周囲に広がり、煙に包まれることで何体かのパープルスパイダー達が毒にやられて倒れた。
このままでは不味いとレッドスパイダーとまだ生きているパープルスパイダー達が逃げようとするが、既に体に力が入らなくなっていた。
これはシルバが肆式:疾風怒濤で自分達の方に来た煙を押し返し、その分だけレッドスパイダー達のいる場所に煙を留めたからだ。
毒が体に回るのが早ければ、当然レッドスパイダー達の体の自由が利かなくなるまでの時間が縮まる。
こうしてシルバ達はレッドスパイダーの群れに近づかなくとも仕留めることに成功した。
レッドスパイダーの魔石だけはレイに与え、それ以外は討伐証明だけ回収するとシルバ達は先に進んだ。
「シルバ、天井を見てみろ」
「パープルバットがたくさんいますね」
「アーブラは本当に何をやってたんだろうね」
「逆じゃないでしょうか。何もやってないからこうなったんだと思います」
アルが呆れた表情で言ったのに対してエイルは答えをズバッと言い当てた。
そんなことはお構いなしだとパープルバットの群れが襲い掛かって来るので、今度はアルが岩の弾丸を乱射することで大半を撃墜した。
残りはロウが投げナイフで撃ち落とすことにより、シルバは力を温存できた。
「あとどれぐらいモンスターがいるんだろうな?」
「廃坑の最奥部まで行かなきゃ行けないんだよね?」
「適当に仕事をして来たって難癖を付けられたくないだろ?」
「だよねー」
今日は既に3回もモンスターの群れと戦っているが、まだまだシルバ達のミッションは終わらないようだ。
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