第104話 解体屋DEATH☆
細マッチョのデーモンは首切り包丁を舐めて笑う。
「ヒャハハハハァァァァァ! まだ開店前だってのに生き急いでるじゃないかぁ!」
デーモンは本当にその体から出たのか疑いたくなるような甲高い笑い声を発した。
「開店前ってお前は店でも開いてんのかよ?」
「解体屋DEATH☆」
ロウの問いかけに答えたデーモンの声は女性の声に変わっていた。
デーモンは声色を変えられるとわかり、殺人現場で聞こえた声がバラバラである理由が明らかになった。
決めポーズを披露してすぐに首切り包丁を振り抜くと、デーモンの放った斬撃がシルバ達を襲う。
「弐式雷の型:雷剃!」
シルバの放った雷を帯びた斬撃がデーモンの斬撃を相殺した。
(無刀刃だったら威力負けしてたか。危ない)
ほんの数秒前の自分の選択を褒めてやりたいシルバだった。
「キャハハ、僕チンの斬撃を相殺するなんてすごいじゃない、か!」
「參式水の型:流水掌!」
喋っている途中でシルバの正面まで移動して刺突を放ったデーモンだが、シルバは流れる水の如くデーモンの刺突を受け流して蹴りを放つ。
デーモンはシルバの蹴りを首切り包丁の腹で受け止めて一旦後ろに下がった。
「歓喜! 簡単に倒せない相手が現れようとは!」
「俺は全然嬉しくないけどね」
「そんな冷たいことを言わな゛っ」
「・・・惜しい」
シルバとの会話に意識が向いている隙にアルがデーモンの背後から蛇を模った炎で攻撃する。
しかし、ギリギリのところでアルの奇襲を察知してデーモンは躱してみせた。
「なかなかに僕チン好みの戦法じゃないですか~。デーモンよりもデーモン的?」
「ブフッ」
「余計なお世話だよ」
デーモンの発言にロウが思わず笑ってしまうけれど、アルはそれを無視して火の球をデーモンに向かって発射する。
「もう、そんな攻撃したらノンノンノンでしょ~」
デーモンはチャラ男風に言いつつ首切り包丁に闇を纏わせて火の玉を真っ二つにした。
「あ~らよっと」
ロウは投げナイフで攻撃後の隙を狙ってみたが、首切り包丁をその場で回転させることでデーモンはいまだに無傷だった。
「僕チン欠伸が出ちゃうな~」
「參式光の型:仏光陣!」
「ぬぁに!?」
シルバはアルとロウが作ってくれた一瞬の隙を突いて接近し、デーモンの真正面で大仏の幻覚を顕現させた。
デーモンの視界を奪っただけで終わるはずがなく、シルバはそのまま追撃を行う。
「肆式水の型:驟雨!」
「んひぃぃぃぃぃ!?」
シルバの連撃を受けたデーモンは気の抜けるような声を出しながらシルバから遠ざかっていき、光が収まった時にはデーモンの姿はどこにも見当たらなかった。
「浅いか。すいません、逃げられてしまったようです」
シルバは殴った感触からして深手を負わせられたとは思えず、自分の攻撃を受ける時には既にデーモンは後方に飛んで衝撃を逃がしていたと判断した。
「いや、あれは飛び切りヤバいっしょ。過去一で強くね?」
「僕も同感です。呪いのせいなのかふざけた喋り方ですが、実際は相当賢いと思います」
「私は一瞬で距離を詰める攻撃にヒヤヒヤしました。シルバ君だから対処できたかもしれませんが、私達だったら貫かれてたかもしれません」
「それな」
ロウはエイルの感想に間違いないと頷いた。
「とりあえず、倉庫の中を調べてみましょう。何かあるかもしれませんし」
「「「了解」」」
デーモンは逃げたが痕跡がまだ倉庫の中に残っているかもしれないので、シルバ達は倉庫の中に入った。
倉庫の中には帝国軍の装備やら一般人を襲った時の拾得物が散乱していた。
「散らかってますね」
「そりゃ狂ってるモンスターが整理整頓なんてするかよ。むしろ、暴れた跡が見受けられないことの方が驚きだぜ」
「拾得物は殺した人間の数をカウントするためのものかもしれません。数を数えることでデーモンが意識を呪いの剣に奪われないようにしてたとかどうでしょう?」
「ひたすら数を数えるだけで正気を保つってのは既に正気を失ってないか?」
アルの仮説を聞き、シルバはそれが本当ならデーモンはもう正気を失った狂気の世界に捕らわれているのではとツッコんだ。
「シルバ、この後どうする? 基地に拾得物を持ち帰られるだけ持ち帰るか?」
「そうしましょう。所詮俺達は余所者です。彼等にはアーブラにいるからこそわかる情報があるかもしれません。それにデーモンと戦うならちゃんと作戦を立てないと危険です」
「だよな。それじゃ早速持って帰ろうぜ」
シルバ達は馬車に拾得物を詰め込んで基地に戻った。
第一会議室に戻ったシルバ達をヴァネッサはホッとした様子で迎え入れた。
「戻りました。デーモンはすみません、逃がしました」
「無事に帰還していただけただけでも十分です。デーモンを撃退されるとは流石ですね」
「新たに手に入れた情報を共有したいのですが、デーモンが潜伏していた倉庫に被害者達から盗んだと思われる拾得物を見つけて回収しました。こちらは先に確認しますか?」
「本当ですか!? 是非確認させて下さい! 遺族に何も渡せなかったケースもあるので困ってたんです!」
ヴァネッサは助かったと感謝した。
デーモンによって殺された者達の遺品がなければ、遺族はその死を受け入れることができない。
まだ死んだと決まった訳じゃないと取り乱す者もいたため、遺品が持ち帰られたことはヴァネッサ達にとってありがたいことなのである。
遺品は対策チーム総出で仕分けられ、行方不明扱いになっていた者達が新たに死亡者リストへと移された。
その作業が終わってから情報共有が始まった。
「デーモンは喋り方がコロコロ変わりますし動きが早かったです。一瞬で目の前に現れた時はどうしようかと焦りました」
「敵はそんなに早く移動できるのですか?」
「意識の隙を突くように一瞬で距離を詰められました。おそらく、犯行の手口はあれと同じやり方でしょうね。並の者では躱せずにやられてしまうでしょうから」
「防ぎようがないじゃありませんか。一体どうやれば被害を防げるんでしょう」
ヴァネッサはシルバから聞いた情報によって絶望した。
撃退できたシルバ達ならばともかく、自分達が遭遇したら間違いなくやられてしまうに決まっているからだ。
「今までに屋内にいて殺された方はいますか?」
「おります。戸締りが甘かった所を狙われたケースが何度かありました」
「それでしたら今一度夜の戸締りはしっかり行うように声をかけるしかありませんね。気休めではありますが、もしもデーモンが俺達から逃げ回りつつ人を殺すようだったらやらないよりやった方がマシです」
「そうですね。それで少しでも生存者が増やせるのならばやらない手はありません」
ヴァネッサは室内にいたチームメンバーの1人に目で合図を出し、戸締りに関する通達を出させることにした。
「ところで、シルバさん達はこれからどうされるおつもりですか?」
「一旦夜を待ちます。デーモンが逃げた以上、デーモンは俺達を脅威と見做して簡単に姿を見せないはずです。そうなると、今夜の襲撃現場に駆けつけるのが最短コースでしょう」
「万全の状態で襲撃をしようとデーモンが夜まで姿を隠すとお考えなのですね」
「その通りです。デーモンは狂った言動をしますが賢さは感じられました。二度も潜伏先を他者にわかるような場所にすることはないはずです」
ヴァネッサは頼みの綱がシルバ達しかないので、シルバ達のやりやすいように動いてほしいと言うしかなかった。
「それでは、俺達はデーモン対策で話し合いますのでヴァネッサさん達は他の作業に従事して下さい」
「承知しました」
実際に戦うのは自分達だけだから、シルバはヴァネッサ達をこれ以上拘束しなくても良いだろうと思ってそう言った。
ヴァネッサもここから先は力になれることがないと判断してシルバ達にデーモン対策を任せた。
「それで、俺達はどうやって戦うんだよシルバ?」
「襲撃地点がわかってるなら罠を仕掛けるのですが、わかりませんのでやるなら奇襲ですかね」
「僕の奇襲も察知されちゃったよね。ロウ先輩の投げナイフも察知されちゃった」
「一瞬でもデーモンの気を引ければ俺が光属性の攻撃を叩き込みます。あいつは光属性が苦手なようでしたので」
「確かに仏光陣を発動してからすぐに逃げたよね。勝機はそこにあるかも」
その後もあれこれと作戦を詰めてシルバ達は午後10時になるのを待った。
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