第99話 美味しくな~れ。萌え萌えキュ~ン♡
マッサージを終えてシルバとエイルはメアリーがいるはずの執事・メイド喫茶に移動した。
「「「「「おかえりなさいませ、ご主人様、お嬢様」」」」」
「ご主人様?」
「どうやら来店した方が男性ならご主人様、女性ならお嬢様と呼ぶようですね」
シルバが言われ慣れない言葉に首を傾げている隣でエイルが冷静に推測を述べた。
「その通りでございますよお嬢様」
「あっ、メアリー先輩じゃないですか。こんにちは」
「ご主人様、ここでは先輩を付けずメアリーとお呼び下さい」
「シルバ君、メアリー達のロールプレイを邪魔してはいけませんよ。ここは言う通りにしましょう」
「わかりました」
「お席にご案内いたします」
シルバがエイルのフォローでそういうものかと納得すると、メアリーはわかってくれて良かったとホッとした表情でシルバとエイルを席に案内した。
メアリーが去ってからメニューを開いてみたところ、シルバは自分の渡されたメニューに描かれている文字の意味が上手く理解できずに首を傾げた。
「会長、なんでこのメニューは”メイドの愛情たっぷりコーヒー”と”執事の愛情たっぷりコーヒー”、”普通のコーヒー”で3種類もコーヒーがあるんでしょうか?」
「そうですね・・・。あっ、丁度あそこのテーブルで実演されるようなので見てみましょう」
シルバの疑問にエイルはどう答えれば良いかわからず、コーヒーを頼んだ男子学生にメイドに扮した女子学生がコーヒーを出すところを示した。
「美味しくな~れ。萌え萌えキュ~ン♡」
「・・・うん、美味しい」
謎の呪文をかけてもらったコーヒーを飲んで満足した表情の男子学生の姿があった。
「これは羞恥プレイですか?」
「シルバ君、そこに触れてはいけません」
羞恥プレイという言葉は偶然にもエイル以外には聞こえていなかったが、これ以上その言葉を発してはいけないとエイルは自分の口の前に人差し指を立てた。
エイルもそう思っているらしいが、羞恥心を捨てて頑張っている執事やメイド達に配慮して触れないようにしているのだ。
「俺は普通のコーヒーにしますが会長はどうしますか?」
「私も同じものにします」
「わかりました」
執事やメイドを呼ぶ時は声をかけるのではなく呼び鈴を鳴らすルールになっており、呼び鈴がなってすぐにシルバとエイルのテーブルにメアリーではないメイドがやって来た。
「ご注文をお伺いします」
「”普通のコーヒー”2つでお願いします」
「ミルクと砂糖はいかがしますか?」
「俺は要らないです。会長はどうですか?」
「私もブラックでお願いします」
守りに入った注文をしたシルバとエイルの反応に対し、そのメイドは補足で説明する。
「ただいまであればご指名のメイドもしくは執事がコーヒーを淹れますがご指名なさいますか?」
よくよく見てみれば、メイドや執事の衣装には左胸の位置に星のシールが貼られている。
貼られている数は学生によってバラバラだった。
(これ、指名数で競ってる感じ?)
シルバはそう察してメアリーが恥をかかないように気を遣うことにした。
「メアリーを指名します」
「かしこまりました。それでは失礼します」
そのメイドは注文を受けてから一旦戻り、メアリーとバトンタッチした。
メアリーの胸には星が2つ付いていた。
「ご主人様、お嬢様、お待たせしました。只今コーヒーを淹れますね」
メアリーはシルバとエイルの前にカップを置き、普通にコーヒーをカップに注いだ。
そして、去り際にシルバの耳元でボソッと呟く。
「ありがとう、助かったよ」
それだけ言ってメアリーは去って行った。
「会長、星の数に何か意味があるんですか?」
「午前にここに来たクレアの話によれば、星が一番少なかった者は一番多く貰った者に3日間食堂を奢るらしいですよ。星の数はテーブルの数ではなく対応した客の数らしいですから、メアリーの星は私とシルバ君の2つという訳です」
「なるほど。大変な仕事ですね」
「本当に大変な仕事ですよ」
ノリノリで給仕できる学生ならば良いかもしれないが、恥ずかしがり屋な学生にとっては苦しいルールだ。
メアリーはどちらかと言えば後者なのだが、ロリ巨乳な見た目かつ学生会の仕事でクラスの作業にあまり参加できなかったため、裏方のスタッフではなくホールに立たされてしまった。
シルバとエイルが来てくれて助かったと思うのは当然だろう。
ちなみに、こういう時に嬉々としてメアリーを弄るロウは午後にクラスのシフトが入っているせいでメアリーにメイド服でコーヒーを注いでもらえなかったりする。
きっと日頃の行いのせいだろう。
メアリーはロウに恥を忍んで星を貰いに行くか、恥ずかしいことはしたくないから星を諦めるかという選択肢に悩まされずに済んでホッとしているに違いない。
コーヒーを飲み終えた後、シルバとエイルは教室のあちこちから聞こえる呪文に耐えられなくなり、会計を済ませてから喫茶店を出た。
「「「「「行ってらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様」」」」」
(執事・メイド喫茶は俺にはまだ早かった)
手の空いている執事とメイドに送り出されてシルバは多分もう次は似たような店には入らないだろうと思った。
少し歩いてからシルバはエイルに話しかけた。
「会長の家でも普段はあんな感じの呪文を執事やメイドがするんですか?」
「しませんよ。シルバ君達が来た時もしてませんでしたよね?」
「あれは他所向きの対応かと思いまして」
「安心して下さい。あのノリは学生のおふざけです。本当の執事やメイドはあんなことしません」
「ですよね」
「はい。提案した学生はメンタルが強過ぎますよ」
エイルも喫茶店の中では特に何も言わなかったが、やはりシルバと同じでその場にいるだけでも恥ずかしかったのだろう。
シルバ達は執事・メイド喫茶の話はそこまでにしてイェンのクラスの出し物が行われている訓練室に向かった。
2人が訓練室に入ると荷物を持って障害物を躱しながら競争している学生達の姿が見えた。
「ゴール! 残念、チャレンジ成功ならず! 今のチャレンジはどうですか解説のイェンさん!?」
「荷物を運ぶ時のバランスが悪い。フラフラし過ぎ」
「塩対応のコメントありがとうございます!」
(イェン先輩、実況の人とテンションの差が激し過ぎませんか?)
シルバがそんなことを思っていると、イェンがシルバとエイルに気づいてぺこりとお辞儀した。
「さあ、次にチャレンジする人はいませんか~!? 勝てば食堂のタダ券3食分をプレゼントしま~す!」
「やります!」
「シルバ君?」
食堂のタダ券と聞いてシルバがやる気を出したのを見てエイルは目を見開いた。
まさかチャレンジするとは顔に書いてある。
「さあ、いまだ負けなしの我がクラスのエースに挑むは
「シルバが勝つ」
「なんということでしょう! 塩対応に定評があるイェンさんがシルバさんの勝利を断言しました! 面白くなってきました!」
実況が盛り上げると訓練室内で観戦している者達も騒がしくなる。
荷運び選手権のルールは簡単だ。
スタートから5メートル先にある荷物を持って障害物があるコースを対戦者よりも先に走り抜ければ良い。
「準備はばっちりなようですね! それでは始めます! よーいドン!」
シルバは対戦者よりも素早く荷物である箱に辿り着き、それを片手で持ち上げる。
「嘘でしょう!? あれを片手で持ち上げますか!?」
「シルバならできても不思議じゃない」
「イェンさんが全幅の信頼を置いてます! これが学生会のKI・ZU・NAってやつですね!?」
実況が鬱陶しいと感じたのかイェンはスルーした。
それはさておきシルバだが、平均台の上をスイスイと進んでハードルも難なく越得ていく。
最後は水の張った簡易プールだけれど、シルバは空を蹴って水に入らずにゴールまで走り切った。
「信じられません! 私達は夢でも見てるのでしょうか!? シルバさんは水に入らずに渡り切ってみせました! 文句なしのチャレンジ成功です! おめでとうございます!」
「シルバなら勝つと思ってた。おめでとう」
「はい、イェンさんがデレました! これも驚きです! シルバさんには食堂のタダ券3食分をプレゼントします!」
実況の人がそう言うとイェンが解説席から立ち上がってシルバに3枚くっついた食堂のタダ券を授与する。
「おめでとう。すごかったね」
「ありがとうございます! ご馳走様です!」
シルバはとても良い笑顔で食堂のタダ券を掲げた。
エイルは自分の前に戻って来たシルバに声をかける。
「シルバ君、すごかったですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます。これだけでも文化祭に参加して良かったと思えます」
「・・・ライバルは食堂のタダ券でしたか」
自分がマッサージした記憶よりも食堂のタダ券を得られた時の方が喜んでいるのを見て、エイルは自分の敵が食堂のタダ券だと気づいたのだった。
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