第236話 アタシ達から大事な話があるのよっ
シルバとレイがアリエル達と合流した後、戦場からすぐに離れた。
背教剣タローマティへの対処はレイの<
目的は果たしたため、シルバ達はディオニシウス帝国の領土まで戻って来た。
もっとも、国内とはいえ北西端にある森の入口であり、街ではないから潜んでいるモンスターがいきなり飛び出してくる可能性はあるのだが。
シルバ達は周囲の安全を確保してから、レイが
「催眠剣アンラ・マンユの破壊と背教剣タローマティの奪取は成功だ。改めてみんなお疲れ」
「お疲れ」
「お疲れ様でした」
「お疲れー」
シルバがねぎらいの声をかければ、アリエル達も少しホッとした様子だった。
「レイもお疲れ様。よく頑張ってくれたな」
『エヘヘ。ご主人のために頑張ったよ』
「よしよし」
「マリナもよく頑張ってくれました。偉いですよ」
「チュルル♪」
シルバとエイルは従魔達を労うことも忘れない。
従魔は道具ではなく仲間だから、労いの気持ちを忘れてはいけないのだ。
レイもマリナも自分の主人達に労われれば嬉しそうに甘えている。
それぞれの労いが終わったとわかって、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが話し始める。
『アタシ達から大事な話があるのよっ』
『傾聴、希望』
熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが揃って大事な話だというのなら、シルバがそれを聞かない訳にはいかない。
シルバは意識を熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュに傾ける。
(大事な話って何事?)
『聞いて驚くんだからねっ。アタシ達は催眠剣アンラ・マンユを破壊したことでパワーアップしたのよっ』
『私達、強化。
(強化? 婚約じゃなくて魂約? どゆこと?)
強化は装備としての機能が強くなったか増えたかのどちらかだろうが、魂約は初めて聞く単語だったのでシルバは首を傾げた。
『順番に説明するわっ。あいつが生物を殺して蓄えてた怨念の量が多過ぎて、アタシ達があいつを壊した時にその怨念が私達を強化したのよっ』
「強化、内容、魂約。シルバ、私達、繋がる。即ち、シルバ、強化」
(タルウィとザリチュの力が強化されて魂約なるものができるようになった。それをすれば、俺も強化されるって理解でOK?)
『その通りなんだからねっ』
『正解。大事、繰り返す。魂約、推奨』
魂約については熱尖拳タルウィよりも渇尖拳ザリチュの方が積極的らしい。
大事だから魂約をするべきだと繰り返し伝えたと言うあたり、渇尖拳ザリチュは本気で魂約したいのだろう。
無論、熱尖拳タルウィも魂約をしたいと思っている。
しかし、渇尖拳ザリチュのように単刀直入ではなく、シルバに順を追って説明して納得してもらおうとする理性は残っているようだ。
(魂約について全て話してくれ。そうしなければ、するもしないも判断できない)
『わかったわっ。アタシはシルバに結論を急がせる真似はしないのよっ。ザリチュ、シルバはちゃんと話を聞いてくれるんだから落ち着きなさいっ』
『反省。シルバ、謝罪』
熱尖拳タルウィが渇尖拳ザリチュを諭す機会があったことは驚きだが、やる時はやる剣のようだ。
(謝罪を受け入れるよ。それで、魂約ってのはなんなんだ?)
『今のアタシ達は適合者が時が流れるにつれて変わるわっ。それは適合した使用者が死んで新たな適合者を探すからなのよっ。でも、魂約をするとアタシ達の使用者はシルバに固定されるわっ。シルバの体に憑依して、使ってもらう時だけ顕現するんだからねっ。そして、シルバが死んだ時にアタシ達も一緒に消えるのよっ』
『私達、いつも、最後、捨てられる。次、適合者、待ち続ける、悲しい。主人、共に、最期、希望』
熱尖拳タルウィの説明を渇尖拳ザリチュが補足するが、渇尖拳ザリチュからは適合者と巡り合えることなんて滅多にないから、適合者であるシルバと最期を共にしたいという強い願いがシルバの頭に流れ込んで来た。
魂約にかける思いの強さでは渇尖拳ザリチュの方が強かったから、説明をすっ飛ばしてシルバに魂約を推奨したのだろう。
(タルウィとザリチュが俺専用になるのは都合が良いけど、魂約によるデメリットはないの?)
『ないわっ。ついでに言えば、アタシ達と魂約することでシルバに火属性の適性が生じるわねっ』
『魂約、お得。デメリット、ない』
(あれっ、ちょっと待て。俺に憑依するってことは、俺がいつどこで何をしてようとタルウィとザリチュにはバレバレってこと?)
デメリットがないと言い切る熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュに対し、そんなことはないだろうと思ったシルバがふと気づいたことを訊ねる。
『アタシ達は良い子にするのよっ。家族の時間を邪魔したりしないわっ』
『シルバ、私達の鞘、なって』
自分達は聞き分けが良く空気も読むから問題ないアピールする熱尖拳タルウィに対し、渇尖拳ザリチュは新手のプロポーズをしている。
なんだかんだ言ってどちらもシルバと魂約をしたいのは間違いない。
シルバは熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュの言い分を聞いて真剣に考えた。
家にいる時とシャワーを浴びる時、寝る時以外はいつもベルトに提げている訳で、それ以外の時は常に行動を共にしている。
甘えん坊のレイや婚約者のアリエルとエイルがいるから、シルバが独りでいる時間は滅多にない。
そうであるならば、魂約によって火属性の適性も得られて熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが自分に憑依する専用武器になることは良い話なのではないかと思えた。
24時間プライバシーが存在しなくなること以外にデメリットは見当たらなかったため、シルバは熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュの魂約を受け入れることにした。
(わかった。魂約しよう)
『感謝するわっ。末永くよろしくなのよっ』
『感謝、感激。忠誠、尽くす』
熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが喜ぶのと同時に光を放ち、それがシルバに吸い込まれた。
これにはアリエル達もびっくりした。
「シルバ君!? 何事!?」
「熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが消えました!」
『ご主人、大丈夫!?』
「おいおい、今度は何が起きるんだ?」
シルバが黙り込んで首を傾げたまま集中していたため、アリエル達はシルバが熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュと話をしているだろうことは予想していた。
ところが、シルバの体にそれらが光になって吸い込まれるのは予想外だったので、アリエル達がびっくりしたのだ。
シルバは首を縦に振って問題がないとアピールする。
「大丈夫だ。タルウィとザリチュが催眠剣アンラ・マンユを倒した影響で強化され、俺に憑依しただけだ」
「シルバ、呪われた剣に憑依されるって大問題だと思うのですが」
「試験を乗り越えた時点で俺が呪われることはないし、憑依されることによるメリットとデメリットを確認しての判断だから安心して」
エイルが心配そうな表情で言うものだから、シルバは熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュと魂約するに至った経緯を全て説明した。
説明を聞いたことにより、アリエル達もシルバの判断を支持した。
プライバシーがなくなる程度でシルバが強くなれるならば、それぐらいは許容範囲だと割り切れたのである。
それはそれとして、話を聞いていてアリエルは気になったことがあったためシルバに訊ねる。
「シルバ君、ザリチュとタルウィに訊いてほしいことがあるんだ」
「何を訊けば良い?」
「もしも背教剣タローマティをサルワで壊したら、サルワも強化されるのかな?」
アリエルの疑問はもっともなものだった。
熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュと同じく呪われた剣である騒乱剣サルワならば、これまた呪われた剣の背教剣タローマティを破壊してパワーアップするのか気になるのは当然と言えよう。
(タルウィとザリチュ、どうなんだ?)
『パワーアップはすると思うわっ。でも、魂約ができるかどうかは別問題なのよっ』
『魂約、相性、大事。主従、関係性、良好、必須。私達、シルバ、仲良し。アリエル、支配、サルワ。関係、微妙』
シルバは熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを力によって捻じ伏せず、対話と試験によって信頼関係を築いた。
それに対し、アリエルと騒乱剣サルワは試験こそ行ったが、試験を突破したアリエルは騒乱剣サルワを強靭なメンタルで捻じ伏せた。
それゆえ、騒乱剣サルワが魂約できるようになったとしても、アリエルと魂約したいとは言わないのではないかと熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュは指摘した。
シルバが聞いた通りに答えを述べると、アリエルは特に残念がったりしなかった。
「まあ、そんなことだろうとは思ったよ。それなら、呪われた剣を使って実験することを提案するよ」
気持ちを切り替えたアリエルは、とても良い笑顔でとんでもないことを言い始めた。
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