第18話 シルバ君、信じてたよ!

 校長室から戻ったシルバを見てB1-1のクラスメイト達が駆け寄った。


「シルバ君、僕とペア組んでくれるよね?」


「シルバ、俺と組もうぜ」


「私と組みましょうシルバさん」


「シルバ君、私と組みませんか?」


 最初から順番にアルとヨーキ、サテラ、タオがシルバにペアを組もうと持ち掛けた。


 だが、シルバからすればいきなり組もうと言われても訳がわからないので首を傾げた。


「何の話?」


「「「「新人戦ペアの部!」」」」


「あー、はいはい。それね」


 新人戦は入学翌月にあるイベントで戦闘コースの1年生だけが参加できる。


 1日目にペアの部、2日目に個人の部と2日間に分けて開催され、それぞれ予選と決勝トーナメントが行われる。


 新人戦で優勝すると階級が1つ上がるのだが、どちらか片方の部で優勝すれば1つ階級が上がるから最高で3人の学生が昇進することになる。


 今年はシルバが既に天使級エンジェルに任命されているから、シルバがどちらかの部で優勝すれば<大天使級アークエンジェル>に昇進できる。


 校長ジャンヌと先程した話に繋がってシルバはようやく要領を得た。


 主席のシルバに1ヶ月の準備期間だけで個人の部の戦闘で勝つのは難しいから、せめてペアの部で勝ち馬に乗ろうとシルバとペアを組もうとするクラスメイトがいた訳だ。


 なお、アルの場合は自分の事情を知っているのがシルバだけだからなんとしてでもシルバとペアを組みたいところである。


 戦闘訓練をすれば着替えの問題も発生するから、アルは他のクラスメイトと組みたくないと考えている。


 アルが目でそのことを訴えるのを察し、シルバはわかっているとアイコンタクトで合図した。


「悪いけど俺はアルと組むよ。元々約束してたし」


「シルバ君、信じてたよ!」


「ちぇ、駄目かー」


「残念ですわ」


「そうですか・・・」


 アルはシルバに選んでもらえたことが嬉しくて表情が明るくなった。


 選んでもらうまでは他のクラスメイトとシルバが組んだらどうしようと不安に思っていたこともあり、アルは目を潤ませてシルバの手を握っている。


「尊い」


「誰だ今変なことを言ったのは?」


 クラスメイトの誰かが自分とアルの手を取り合う姿についてコメントしたのが聞こえ、シルバは発言者を探したがわからずに終わった。


 そうしている間にクラスメイト達はペアの部で組むパートナーを決めた。


 ヨーキ&ロックペア。


 サテラ&メイペア。


 ソラ&リクペア。


 タオ&ウォーガンペア。


 ここにシルバ&アルペアが加わってB1-1から5つのペアが誕生した。


 クラスの人数が奇数だと相手がいなくてぼっちの学生が生まれてしまうけれど、ちゃんとどのクラスも偶数だからその心配もない。


 ペア作ってという言葉がトラウマになる者はいないのだ。


「よーし、やっとペアが決まったなお前達。シルバも戻って来たし、新人戦について説明を続けるぞー」


 新人戦は上級生も自由に観戦できる。


 軍学校を卒業したら軍にそのまま進む者が大半なので、今から優秀な後輩を味方に付けようとする上級生は少なくない。


 ついでに言えば、所属するコースが違くとも囲おうとする者もいる。


「新人戦が終わるとクラブ活動が解禁されるからその勧誘もあると思えー」


 クラブ活動とは学生達が自由にできる放課後の時間を使って上下や横の繋がりを構築しつつ、自分の興味がある活動を行うことだ。


 優秀な後輩を先輩が身内に引き入れるにはもってこいだから、クラブ活動の所属でその学生の派閥がわかったりする。


 ちなみに、新人戦期間では会計コースと支援コース、衛生コースは裏方で活躍する。


 会計コースと支援コースの学生がタッグを組んで出店を開き、衛生コースの学生は新人戦で怪我をした者の手当てを行う。


 戦術コースは誰が何位になるか順位を予想して賭けを行い、戦力を冷静に分析する目を養う。


 いずれのコースも教師に選出された上級生がアドバイザーとして行動を共にするので、全て1年生に丸投げということはない。


「なんだかお祭りみたいですね」


「祭りと言えば祭りだろうな。とにかく、お前達は優勝目指して頑張れ。新人戦は下剋上が起こりやすいから足元掬われんなよー」


 軍学校に入学できたからと油断してしまい、自分よりも入学時に下のクラスだった者に負ける学生は少なからずいる。


 軍学校は入った後に強くなることもそうだが、慢心してやられないようにすることも大事だ。


 クラスの入れ替えはなくとも下のクラスの学生に負けたら恥晒しだから、クラブ活動や囲い込みの対象外になるのは間違いない。


 上級生に良い意味で顔を売りたいならば、是が非でも新人戦は予選突破が必要不可欠だ。


「ざっと説明はこんなもんだなー。何か質問はあるかー?」


「はい!」


「メイ、なんだ?」


「新人戦に参加するにあたって使って良い物と悪い物はなんでしょうか?」


「良い質問だ。うっかり使っちゃ駄目な物に手を出して失格は残念だからな」


 そう言ってポールは大会前に使ってはいけない物について説明を始めた。


 面倒臭いことは嫌いでも失格者を出したら教師として恥ずかしいのでポールは漏れのないように気をつけている。


 特に注意すべきは時間制限付きのバフアイテムの持ち込みが禁止されていることだ。


 恒常的に能力値が上昇する物ならば3日前まで服用可能。


 ただし、服用する薬が体に悪影響のある薬とわかった期間で教師陣に没収される。


 新人戦を食い物にした悪い大人も全くいないとは言えず、賞金首が他の学生と比べてカモられてしまう。


 それが手遅れにならないように予め新人戦で不要かつ危ない物は排除せねばなるまい。


 その影響で新人戦当日までの間に予告なく持ち物検査が行われたりする。


 教師陣も新人戦の開催が邪魔されないよう入学式から気合が入っていると言えよう。


 新人戦に関する説明が一通り終わると、昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴った。


「よし、昼休みだ。次のチャイムが鳴るまでにグラウンドに集合しておくこと。解散」


「アル、昼飯食いに行こうぜ」


「うん!」


 ポールが昼休みだと宣言してすぐにシルバはアルを連れて食堂に移動した。


「大食いチャレンジのメニューって週替わりなのか。じゃあ今日は普通に食おう」


「これで今日も食べるって言ったらどうしようかと思ったよ」


 食堂の掲示板に貼られたポスターには大食いチャレンジのポスターを見て、昨日たらふく食べたので今日は流石のシルバも大食いチャレンジをしなかった。


 シルバのその選択にアルはホッとした様子だった。


 2人は日替わりランチを頼んでカウンターでそれを受け取り、適当な場所に座った。


 今日の日替わりランチはクリームシチューとパン、サラダと言うメニューだ。


 日替わりランチのパンはカウンターにてセルフで貰うことが決まっており、食べたいだけパンを取って良いことになっている。


 シルバはよく食べるのでパンが皿の上に山盛りになっていた。


 昼食を取りながらアルはシルバに訊ねた。


「シルバ君、校長先生はなんだって?」


「ん? あぁ、俺の出自について訊かれた」


「話したの?」


「上官命令だからな。でも、口外しないでもらう約束をした」


「その約束って守ってもらえるの?」


「名前に誓って約束したから大丈夫だと思う」


「そっか・・・」


 アルはシルバの話を聞いて少しだけ落ち込んだ表情になった。


「どうしたんだよアル?」


「シルバ君の秘密を知ってるが僕だけじゃないのが残念だなって」


「アルって独占欲強め?」


「そうかも。さっきのペア決めも僕以外がシルバ君のペアに選ばれたらどうしようって思ったし」


 (こりゃ師匠がマリアだってことも後で話した方が良いな)


 アルにはまだ自分の師匠がマリアだと言っていないが、ジャンヌには答えてしまった。


 それが後になってわかった場合、アルの心が不安定になるかもしれないと思えばマリアのことを隠しておくのは得策ではない。


 しかし、流石に人が多い食堂でその話をする訳にもいかないから今夜学生寮の部屋で話すことにした。


 アルは自分の秘密を知るシルバに依存しており、これはアルにも自覚がある。


 頼れる者が自分しかいないとわかっているので、シルバもアルの扱いに対しては注意を払っている。


 とりあえず、シルバは昼食を取りながらアルの気持ちを切り替える話題を振った。


 アルは話をしている内に表情が和らぎ、グラウンドに到着する頃には元通りになっていた。

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