第19話 チェェェストォォォォォ!

 午後の授業が始まるチャイムが鳴ると、グラウンドにポールがやって来た。


「よーし、遅刻者はいないなお前達。午後は新人戦に向けて模擬戦をやるぞー。質問あるかー?」


「ハワード先生!」


「そわそわしてどうしたヨーキ? トイレならチャイムが鳴る前に済ませとけー」


「違います! 模擬戦は1対1ですか!?」


「その通りだ。お前達が個人でどんな風に戦うのかわからなきゃペアの部で戦うのに作戦立てられないだろー」


「ですよね! それならシルバと戦わせて下さい!」


 ヨーキがシルバと戦う気満々なのがわかったので、ポールはヨーキに他の者と戦うように説得するのが面倒に思えて頷いた。


「良いだろう。シルバ、悪いがご指名だからよろしくー」


「わかりました」


 シルバは誰が模擬戦の相手でも良かったので素直に頷いた。


 シルバとヨーキがB1-1のクラスメイトから離れて向かい合うと、ポールが模擬戦のルール説明を始める。


「怪我をしても自己責任だが、意図的に殺そうとするのはなしだ。武器を使う場合は用意した訓練用の物を使うこと。降参したかもしくは俺が戦闘不能と判断したのに追撃したりするのもなしだ。スキルは自由に使え。わかったな?」


「「はい!」」


 ポールが同じことを2回言うとも思えず、シルバもヨーキもばっちりと1回の説明で模擬戦のルールを理解した。


 ヨーキの得物は訓練用の刃引きされた両手剣を選んでいる。


「準備は良いな?」


「勿論!」


「大丈夫です」


「よーし、模擬戦始めー」


 ポールの気の抜けるような開始の合図の直後、ヨーキは先制攻撃をしかけた。


「行くぜ! キェェェェェ!」


 ヨーキは剣を上段で構えたまま奇声を上げて走り出す。


 その声には力が入っており、観戦している学生達の中には声の圧力に負けて体が硬直してしまった者がいた。


 しかし、シルバにはヨーキの奇声が全く効いていなかった。


「參式雷の型:雷反射らいはんしゃ!」


 シルバは全身に雷を纏わせ、ヨーキの振り下ろしに備えて構える。


「チェェェストォォォォォ!」


「遅い」


 シルバはヨーキが振り下ろす剣を完全に目で捉えており、真剣白刃取りを成功させた。


 ここで1つ問題を出そう。


 シルバが雷を纏った状態で金属性の剣を摘まんだとして、グリップ部分が絶縁体でできていない剣を握るヨーキはどうなるだろうか。


 答えはこうである。


「あばばばばば・・・」


 ヨーキは感電してその場に崩れ落ちた。


「安心しろ。少しの間痺れて動けない程度に加減してある」


「おー、大したもんだ。そこまで。勝者はシルバ」


「すごい! 流石はシルバ君!」


「あれ、危険」


「同感」


「私もシルバ君相手じゃ不味いかも」


 ポールが終了の合図を口にするのに続いてアルとソラリク姉弟、メイがコメントする。


 アルはシルバが強いところを披露してくれて純粋にはしゃいでいるが、残り3人はアルと違って顔を引き攣らせていた。


 ソラは槍でリクは斧、メイは戦槌ウォーハンマーを使う。


 もしも自分達がヨーキのようにシルバと戦う場合、自分達の攻撃が利用される危険性に気づいたので顔を引き攣らせたのだ。


「よーし、次に模擬戦やりたい奴はいるかー?」


「「はい!」」


「アルとサテラか。よし、丁度2人だから2人で戦え」


 対戦相手をあれこれ考えて選ばずに済んでポールは喜んでいた。


 シルバは体が痺れて動けないヨーキを背負ってクラスメイト達のいる場所に戻った。


 それと入れ替わるようにアルとサテラが前に出て向き合う。


 (あれ、もしかしてアルが戦うところ見るの初めてじゃね?)


 シルバはディオスに来てからアルが戦っているところを見たことがなかった。


 受験生ハンターと対峙した時はシルバしか戦っていないし、アルが入学試験で戦う時にはシルバがそこにいなかったからである。


 シルバもマリアも前衛だから、異界のモンスターを除いて純粋な魔法系スキルを使う者の戦闘は初めて見る。


 それゆえ、アルの戦いはシルバにとって興味深かった。


「準備は良いなー。模擬戦始めー」


 ポールがアルとサテラの用意ができたのを見て開始の合図を出した。


「詠唱させる暇なんて与えないわよ」


「そんなのいらないよ。落ちて」


「きゃっ!?」


 サテラが矢を放とうとした時には既にアルが<土魔法アースマジック>を発動していた。


 それによってサテラの足場がガクンと下がって穴が形成され、サテラはそのまま穴に落ちて何もできなくなった。


 落とし穴から抜け出そうにも上を抑えられたら一方的にやられるからだ。


「そこまでー。勝者はアル。無詠唱とはびっくりしたぞー」


「恐縮です」


 サテラを落とし穴から助け出して戻って来たアルに対し、シルバはハイタッチするつもりで手を挙げた。


「アルってばやるじゃん」


「でしょ? 少しは見直してくれた?」


「うん」


 アルはハイタッチの意図を理解してシルバの手をパチンと叩いた。


 一般的には<〇魔法〇マジック>というスキルを使う場合、技を発動するには詠唱が必要である。


 だからこそ、サテラはその詠唱よりも先に矢を放ってアルを倒そうとした訳だ。


 ところが、アルは詠唱をせずに技を発動してみせた。


 これはアルが<詠唱省略スペルスキップ>を会得しているおかげだ。


 このスキルのおかげでアルは魔法系スキルを使う隙を最小限にしてみせたのである。


 余談だが、マリアがまだディオニシウス帝国にいた頃に魔法系スキルを使う者を見て大の大人が真面目に詠唱していることに衝撃を受けていたりする。


 地球からの転移者であるマリアからすれば、真剣な顔で詠唱する大人は痛々しく思えたのだろう。


「次に模擬戦やりたい奴ー?」


「「はい」」


「ソラとリクか。よーし、準備しろー」


 今度は姉弟対決が行われるようだ。


 ソラとリクのどちらが強いのか気になっていたため、シルバ達はおとなしく次の模擬戦を観戦する姿勢を取った。


「リク、勝負」


「ソラ、勝負」


「模擬戦開始ー」


 ソラもリクも開始の合図と同時に距離を詰めた。


 長い間一緒に居た2人の模擬戦はお互いの技を全て理解しているから見ごたえのあるものになった。


 ソラの攻撃を見切ってリクが攻撃すれば、その攻撃は無駄なくソラが躱して反撃をする。


 結局、迫力のある打ち合いはポールが止めるまで続いた。


「はいストップー。お前達姉弟の戦い決着つかないから引き分けな」


「「残念」」


 2人はまた決着がつかなかったとがっかりした様子だったが、すぐに気持ちを切り替えてクラスメイトと合流した。


「次にやりたい奴いるかー?」


「「「「はい!」」」」


 ソラとリクの模擬戦を見て戦いたくなったようで、残った4人全員が手を挙げた。


 ポールは4人を見渡して次の模擬戦で戦う生徒の名前を読み上げた。


「ロックとタオ、前に出ろー」


「「わかりました」」


 ポールが選び出したのはロックとタオだった。


 先程の模擬戦が近接戦闘だったため、今度は遠距離戦が見たいと思っただけである。


 それ以上に深い理由なんてない。


 罠をメインに扱うロックと薬品を投げつけて戦うタオの戦いはロックの勝利となった。


 ロックは煙玉を投げてタオの視界を奪った隙に爆竹をその足元に投げ、驚いたタオにナイフを寸止めして勝ちに行こうとした。


 けれども、タオがロックの作戦で動揺することなく、あちこちに自分の作った薬品をばら撒いて近づけなくしたのだ。


 その後、お互いに罠と薬品が切れてしまってしまい、ロックがタオに接近してナイフを押し当てて模擬戦はロックが勝ったのだ。


 ソラとリクの戦いのように武器同士のぶつかり合いはなかったが、ロックとタオの頭脳戦はシルバ達にとって学ぶことが多かった。


 最後の模擬戦はメイとウォーガンという組み合わせになった。


 メイは戦槌ウォーハンマーを使ってウォーガンがそれを盾で防ぐ流れが続いた。


 次第にウォーガンがメイの攻撃で腕が痺れて来てしまい、最終的には手が痺れて盾を落としたウォーガンにメイが攻撃して殴る直前で寸止めした。


 そのタイミングで午後の授業の終了を告げるチャイムが鳴った。


「よーし、そこまでだ。勝者はメイ。それぞれペアの部でお互いの相手の力を引き出せるようにしろよー。今日は解散」


 ポールは授業が終わるとさっさと職員室に撤収した。


「シルバ、僕達も寮の部屋に戻ろうよ。ここで作戦会議すると作戦がバレちゃうし」


「そうだな」


 アルの言い分に納得してシルバはアルと共に学生寮の自室に戻った。


 他のクラスメイト達も各々他に人気がない所を探して作戦会議をすることにした。


 新人戦に向けてB1-1は早い内から気合を入れて準備しており、それを見かけた上級生達に感心されるのだった。

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