第249話 どうも、第一王子さん。この掃き溜め王国の第二王女です
ワイバーン特別小隊はマチルダを連れ、1週間かけてディオニシウス帝国内の主要な街の基地で魔水晶の作成とマジフォンのアップデートを行った。
ロザリーに頼まれていたこともあり、アーブラがディオスを除いて優先されたのはここだけの話だ。
ロザリーはマジフォンをアップデートした後、本気でサタンティヌス王国を崩しにかかった。
革命軍に紛れ込ませていた密偵を経由し、一気にサタンティヌス国王と第一王子を倒す手はずを整えていた。
そして今日、ロザリーから連絡を受けたシルバがワイバーン特別小隊を動かし、サタンティヌス王城を落とすべく侵攻する。
元のサイズになったレイはワイバーンだった頃よりも大きいから、小隊全員がその背中に乗っても問題ない。
上空からシルバ達がやって来たのを見て、革命軍に紛れ込んでいた密偵が声を上げる。
「拳聖が俺達を助けに来てくれたぞぉぉぉ! アリエル第二王女もお連れだぁぁぁ! 正義は我らのものだぁぁぁぁぁ!」
「「「・・・「「おおぉぉぉぉぉ!」」・・・」」」
国王軍と対峙する革命軍の士気が急激に上がった。
それはアリエルのおかげである。
サタンティヌス国王と第一王子はディオニシウス帝国に侵入させたアルベリが死に、トスハリ教国との戦争が長引いて亡命を希望した第一王女が殺されてからどうしようもない状況を打破しようとアリエルを探し求めていた。
自分達の都合で捨てたはずなのに、困った時にアリエルを見つけてわだかまりを水に流して敵を退けるなんてシナリオを描いていたのだ。
ただし、その動きに気づいたロザリーが動き、アリエルはサタンティヌス王国に嫌気が差してディオニシウス帝国で楽しく暮らしているという噂を流した。
これで国王と第一王子の目論見はご破算になり、これ以上無能な王家に国を任せていてはお先真っ暗だと判断した官僚達が内乱を起こした訳だ。
ロザリーは国王軍と革命軍の戦いを利用し、シルバを公王に据えるべくアリエルがシルバと婚約していることと、アリエルが革命軍に手を貸すつもりがあるという情報を流した。
革命軍にとってアリエルの存在は士気の維持に必要であり、シルバとアリエルがサタンティヌス王国を滅ぼした後に自分達の旗頭になってくれれば、ディオニシウス帝国に攻め込まれることはないと理解した。
そういった経緯で革命軍はシルバとアリエルを受け入れたのである。
それゆえ、シルバ達は今日、ロザリーが用意した環境でアリエル以外のサタンティヌス王家を見つけて仕留める狩りをするだけになった。
「レイ、王城の中庭に着陸して」
『うん』
「総員、レイの着陸を援護」
「「「了解!」」」
レイが中庭に着陸した場合、戦況は国王軍にとって一気に不利になる。
今は国王軍が籠城し、城壁の外から攻撃する革命軍を鎮圧するだけだった。
それがシルバ達の侵入を許すことで、城内と外から挟み撃ちにされては困る訳だ。
だからこそ、国王軍は必死になってレイの着陸を防ごうと邪魔をする。
「着陸させるな!」
「なんでも良い! 投擲しろ!」
「落ちろぉぉぉぉぉ!」
(着陸させるなって言う割に落ちろとも言うなんて矛盾してないか?)
シルバはそんな風に思いつつ、投擲されたナイフや槍を対処する。
「參式:柳舞」
「ひぎゃっ!?」
「ぐほっ!?」
「ひでぶ」
投げたはずのナイフや槍が投げた時よりも勢いに乗って返されてしまい、投擲した者達が次々に倒れていく。
ロウやジェット、マリナもレイの背中の上から地上の敵の注意を引き付けていると、アリエルは今がチャンスと仕掛ける。
「邪魔」
アリエルが多数の敵をまとめて仕留めるのに選んだのは
自分達を見上げて足元がお留守になったため、足元から容赦なく敵を一掃したのである。
邪魔者の掃除が終わると、シルバ達は王城の門を開けて革命軍を中に招き入れる。
そこに追加の国王軍が現れ、シルバ達をこれ以上進ませてなるものかと攻撃した。
小さくなったレイが
「拳聖殿、アリエル第二王女、ここは我等に任せて先にお進み下さい!」
『アタシ知ってるのよっ。死亡フラグってやつなのよっ』
『出陣前、結婚、約束、男、死亡。凡庸、軍人、戦場、活躍。パターン、複数』
(タルウィもザリチュも生の死亡フラグを聞いてはしゃぐんじゃありません)
はしゃぐ熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュに対し、シルバが落ち着くようにと念じた。
革命を成功させたいという意思が強いからこそ、成功確率の高い自分達を先に進ませるという選択をした革命軍の者を揶揄ってはいけないと窘めたのだ。
シルバ達はロザリーから写真で王城の見取り図を送ってもらっていたから、迷うことなく国王がいるであろう国王の寝室に向かった。
何故国王の寝室なのかと言えば、この部屋が最も暗殺に向いていない部屋であり防衛面で優れているからである。
現国王がいくら享楽主義だとしても、死にたいとは思っていないから守りに気を使っているのだ。
ところが、国王の寝室に向かう途中でシルバ達は第一王子と思しき人物が数名の護衛に囲まれながら同じ部屋に向かって移動している所に遭遇した。
「おのれ、賊がこんなところまで来てたのか!」
「成敗してやる!」
「シルバ君、僕がやるから」
襲いかかる護衛に対し、アリエルがここから先は自分の戦いだと言って
「ぎぃやぁぁぁぁぁっ」
「熱い! 痛い!」
「くっ、無詠唱だって!?」
護衛達は攻めるのを中断し、手に持っていた盾で第一王子と自分達を守る。
「視界を塞いでどうするのさ」
アリエルは
「ひっ」
第一王子は一瞬にして全ての護衛が殺されてしまい、短く悲鳴を上げてしまった。
それは人の上に立つ王族が出して良いものではない。
「どうも、第一王子さん。この掃き溜め王国の第二王女です」
(第一王子の名前を呼んでやる価値もないし、自分も真面目に名乗るつもりはないってことか)
アリエルの名乗りを聞いてシルバは心の中で苦笑した。
第一王子はアリエルの目の笑っていない笑みを見て腰を抜かし、尻もちをついてしまった。
その場から少しでも逃げ出そうとしたが、リトが密かに<
第一王子は恥も外聞もなくアリエルに威圧的に喋ろうとする。
「お、お、お前! 俺の妹なんだろ!? 俺を助けろ!」
「寝言は寝て言え」
アリエルはそれだけ言ってから、背負っていた騒乱剣サルワで第一王子の首を刎ねた。
躊躇うことなく血縁上の兄を斬り捨てる姿を見て、エイルとロウはブルリと震えた。
シルバの場合、
騒乱剣サルワに付着した血を振り払うと、アリエルはそれを背負い直してからシルバ達の方を見てニッコリと笑う。
「残ったゴミもちゃっちゃと掃除しないとね」
「アリエルさんや、屑野郎だとはわかってるんだが兄の首を刎ね飛ばしておいてその笑顔は怖いっす」
「ロウ先輩、そんなに怯えないで下さいよ。別にロウ先輩を斬りかかった訳じゃないんですから」
「あれ、模擬戦の時に無詠唱攻撃だけじゃ物足りなくて斬りかかられた記憶があるんだけど?」
「細かいことは良いんですよ。ね、ロウ先輩?」
「Yes Ma’am」
アリエルに目の笑っていない笑みを向けられれば、ロウは敬礼してから静かにシルバの後ろに下がった。
あからさまに怖がられてムッとするアリエルに対し、周囲に敵がいないのを確認してからシルバが近づいて少しだけ抱き締める。
「大丈夫。俺は怖いと思ってないから」
「エヘヘ、シルバ君なら怖がらないって信じてたよ」
そうは言ってもアリエルはシルバに怖がられなくてホッとしていた。
アリエルはシルバに拒絶されたら生きていけないと思うぐらいには彼を愛している。
シルバがここでアリエルを抱き締めたのはファインプレーと言えよう。
それはさておき、これ以上廊下で時間を潰している場合じゃないから、シルバ達は国王の寝室へと急いだ。
地図通りに進んでドアを開けようとしたところ、
シルバは熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを顕現させ、結界を壊すべく攻撃を始める。
「肆式火の型:祭花火」
質と量を兼ね備えたシルバの攻撃によって結界は罅割れ、追撃でドカンと爆発すると結界ごと扉が壊れた。
しかし、部屋の中には既にサタンティヌス国王の姿はなかった。
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