第179話 8時の方向、氷の足場に異常あり!
嫌な予感がしてシルバ達が手分けして空間が割れていないか確認する。
「12時の方向、異常なし」
「1時の方向、異常ありません」
「2時の方向、異常はねえぞ」
「3時の方向、異常な~し」
「4時の方向、異常なし」
「5時の方向、異常ないです」
「6時の方向、異常なし」
「7時の方向、異常は見受けられません」
「8時の方向、氷の足場に異常あり!」
キマイラ中隊は全小隊が揃って移動する時、有事の際は12人が背中合わせの円になって視界に異常が確認できるようにする決まりがある。
12時から3時は第一小隊のメンバー、4時から7時は第二小隊のメンバー、8時から11時は第三小隊のメンバーというような配置になっている。
8時の方向を確認したのは第三小隊のフランであり、彼女はの前方の氷の足場に亀裂が生じたため異常を報告した。
報告を受けて12人が8時の方向を向いて警戒する。
それに合わせて再びアイテル湖が揺れた。
今度は派手に氷面の欠片を上空に打ち上げるようにして、先程シルバとレイが倒したのよりもワンサイズ大きいレイクサーペントが姿を見せた。
「さっきのレイクサーペントの
シルバはそう呟きながら異界でレイクサーペントについてマリアから教わったことを思い出した。
レイクサーペントは元々狂暴だが、産卵期になると雄と雌も等しく狂暴さに拍車がかかる。
レイクサーペントという種族は総じて雄よりも雌の方が大きく、産卵期に何か起きた時は雄が先に様子を見に行くのだ。
シルバとレイが倒したシーサーペントが雄ならば、現在シルバ達の前で暴れているのが雌であることは間違いない。
どうやら、先程の戦いの時は雌が湖底で寝ていたのだろう。
ところが、雄のレイクサーペントが静かになっても一向に戻って来ないから、心無い何者かに倒されたと思って怒りのままに暴れているようだ。
上半身を湖面から出した雌のレイクサーペントは、シルバ達を捕捉して
『任せて!』
レイがそう言った直後に大きな光の壁がシルバ達の正面に現れ、レイクサーペントの攻撃からシルバ達を守った。
これは<
ここが氷上じゃなければアリエルが
もしも
その点、
「馬車3台を安全圏に避難させる。マルクスとアリア、ロウとエイル、クランとプロテスは馬車を撤退させろ。それ以外でレイクサーペントと戦う」
「「「・・・「「了解!」」・・・」」」
ソッドの指示を受けてキマイラ中隊は半々に分かれて行動を開始した。
「レイ、エイルさん達と一緒に馬車を守ってくれ」
『わかった!』
シルバがレイを護衛にしたことにより、馬車は安全な位置まで後退させられた。
それをただ待つのではなく、ソッドとエレン、シルバ、アリエル、フラン、ヤクモがレイクサーペントを包囲した。
このメンバーだと従魔のレイを除いて前衛と後衛が丁度3人ずつになりバランスが良い。
「反撃開始だ」
ソッドは雷を付与した剣から斬撃を放つ。
「フシャア!」
レイクサーペントが警戒するように声を出すと、氷の壁がソッドの斬撃からレイクサーペントを守った。
「へぇ、
「氷なら僕が融かすよ」
シルバが感心している隣でアリエルが
ソッドの攻撃で氷の壁には水平な切れ込みが入っていたが、アリエルの攻撃によってみるみるうちに氷の壁はなくなった。
氷の壁がなくなるタイミングを狙ってエレンとフランが攻撃に移る。
「水の砲弾よ、我が敵を吹き飛ばせ!
「風の砲弾よ、我が敵を吹き飛ばせ!
水と風の砲弾が左右からレイクサーペントにぶつかる。
しかし、レイクサーペントの鱗が2人の攻撃を弾いてしまった。
「くっ、通じませんか」
「嘘でしょ」
レイクサーペントは2人が悔しがっているのを見て少しだけ怒りが和らいだ。
敵が大したことないと思って少しだけホッとしたのだろう。
だがちょっと待ってほしい。
今まで攻撃に参加せずにこれからの攻撃の隙を伺っている者がいた。
当然シルバである。
シルバは移動する際に気配や足音に気を付け、いつの間にかレイクサーペントの目の前にいた。
「シュロ!?」
「參式光の型:仏光陣」
「ジュラァァァ!?」
至近距離で目潰しを行えば、レイクサーペントはあまりの眩しさに目を瞑って叫んだ。
その隙を逃すシルバではない。
熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを握った状態で攻撃を続ける。
「肆式雷の型:雷塵求!」
鱗に阻まれては困るからと熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを装備して攻撃したのだが、結論から言ってオーバーキルだった。
肆式:疾風怒濤でも十分だったのだが、シルバが慎重になり過ぎたことでレイクサーペントは偶然鱗の隙間から何発か当ててしまった。
その結果、レイクサーペントは熱と渇きによる追加効果により、大きかったか体が水分の現象で少しやつれた。
レイクサーペントが力尽きて周囲に今度こそ敵影がないことを確認した。
シルバに真っ先に駆け寄ったのはアリエルではなくレイだった。
『主、お疲れ様。レイクサーペントの魔石欲しいの』
「よしよし。解体するから落ち着いてくれ」
レイは雌のレイクサーペントを倒したシルバを労った後、自分を強化するために魔石を取り込もうとシルバを急かした。
シルバがレイクサーペントの魔石を取り出してレイにあげた。
「どうだった? 良いスキルを会得できた?」
『<
「そっか。ますます攻撃が通りにくくなったな」
『うん!』
シルバがレイと話している間、それ以外のメンバーはレイクサーペントの残りの解体と卵がどこにあるか探していた。
今回のレイクサーペント2体が番であり、雌の方は既に産卵済だと発覚しているのでレイの時みたいに擦り込みで孵化したタイミングでテイムできないかと考えているからだ。
「卵は湖の底にあるんじゃね?」
「それは言えてますね。ですが、この大雪の中で氷点下の水中を調べるのはかなり難しいですよ?」
エイルの言う通りだ。
夏場や暑い時ならばアイテル湖に潜水して調べられるけれど、今は12月でその上大雪のタイミングだからとてもではないが潜水は厳しい。
放置すればいずれ孵化して大きくなった時に痛い目を見るのは国全体だ。
なんとか卵を回収できないかと思ったその時、シルバ達が立っていた氷の足場に亀裂が生じた。
(あれだけ暴れてたんだ。割れてもしょうがないか。撤収しよう)
シルバは自分達が今立っている場所が元々は湖だったことを思い出し、即座に撤収する意思を固めて行動に移った。
それは他のメンバーも同じである。
誰だってこの大雪の中で寒中水泳なんてしたくないのだ。
雌のレイクサーペントも馬車に積み込んだ後、シルバ達は大急ぎで元々陸だった場所まで移動した。
シルバ達が安全な所まで移動した直後、亀裂が入った場所を中心に氷が割れていった。
あと数分行動が遅かったなら、大半のメンバーが真冬のアイテル湖に落ちていただろう。
エリュシカでは風邪が悪化して大病を患うことも少なくない。
だからこそ、こんなところで欲をかいて風邪になるリスクを負う者はいなかった。
それでも帰りの馬車ではロウがちょっぴり残念そうに言う。
「はぁ、俺もシルバみたいにテイムしたかったなー」
「ロウ先輩、レイクサーペントだから水場じゃないと活発に動けませんよ?」
「そりゃそうかもしれんけどさ、シルバ達を見てると俺も従魔が欲しいって思う訳よ」
『ご主人、レイは空を飛べるからレイクサーペントよりも優秀だよ。だから、レイクサーペントなんて従魔にしないでね』
ロウの発言を受けてシルバもレイクサーペントを従魔にしたがるのではないかと不安に思い、<
従魔枠は自分の分だけだと独占欲が強いことをアピールしている。
「そんななんでもかんでもテイムしたりしないから安心してくれ」
『エヘヘ♪』
シルバの言葉に満足し、更に頭も撫でられたことでレイは嬉しそうに笑った。
ディオスに帰ったシルバ達はアイテル湖の戦利品を提出して基地を騒がせたとだけ言っておこう。
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