第178話 さすシルさすレイ
翌朝、天候は大雪で気温は今年初めて氷点下に突入した。
今日は軍学校に行ける予定だったが、アイテル湖の湖面が凍り付く寒さになった影響で密かにアイテル湖でその数を増やしたモンスターが暴れているという知らせが入ってキマイラ中隊でのミッションに予定が変わった。
それゆえ、シルバ達は軍学校ではなく基地に顔を出している。
ポールは面倒臭いと思う気持ちを隠さずに口を開く。
「困ったことにアイテル湖でモンスターが多数発見されたらしい。そいつ等がディオスに来ないように潰す必要がある。ということで、お前等の出番だな」
「ハワード先輩、どんなモンスターが出て来るかおわかりですか?」
「今まで目撃されてなかったことから、元々は水中にいたってことしかわからん。すまんなソッド」
「いえ、駄目元でしたから」
ソッドの質問に対してポールは大してがっかりした様子は見せなかった。
情報が手に入ればラッキーぐらいの気持ちだったらしい。
早速、基地の馬小屋に移動して馬車を出そうとしたのだが、馬に防寒用の装備を身に着けさせたのだが、大雪で馬達が馬車を牽いて移動するにはどうしても時間がかかる。
「これは不味いね」
「不味いですね」
「どうしましょうか。馬車で行くにしても普段の倍以上時間がかかりそうです。現地に到着した時には体が冷え切ってまともに戦えませんよ?」
フランの言う通りである。
馬車で移動できないならば歩きで移動するしかない。
しかし、アイテル湖にこの大雪の中移動すれば、移動している最中にどんどん寒さにやられてしまう。
「こうなったら、俺とレイで先行します」
「飛んで行くにしても寒さにやられないかい?」
「大丈夫です。対策はあります」
「わかった。無理はしないでくれ。連絡事項があったらすぐに掲示板で知らせてほしい」
「わかりました。行くぞ、レイ」
『うん!』
小隊長同士の話し合いは終わり、アイテル湖にはシルバとレイが先行することになった。
シルバは
それによって体内の細胞が活性化されると同時に、風のベールによって雪から体がが守られた。
この状態で空を飛んで行けば、寒さによって体力が消耗したり体を動かせないなんてことはないだろう。
レイが<
「本当にすごい雪だな」
『勘弁してほしいよね』
大雪に不満を言いつつ、シルバとレイはアイテル湖に到着した。
普段は湖の周りに道が整備されていたのだが、雪が積もって道は見えなかった。
シルバ達の目に映るのは凍った湖面を突き破り、氷上に体を突き出したモンスターに加えて縄張り争いをするモンスター達だった。
「レイクサーペントとなんだあの黒ヌル?」
レイクサーペントとはアイテル湖の主と呼ぶべきサイズの青緑色の巨大な蛇で、人によっては水龍と呼んでしまってもおかしくないモンスターだ。
シルバが名前を特定できなかったモンスターだが、ヌルヌルした黒い肌に長い手足、青い目をした二足歩行の存在だ。
それは単体ではなく何体もおり、同種のはずなのに縄張り争いをして戦っていた。
(異界では見たことのないモンスターだ。ブラック級モンスターなのか?)
体の色で判断すればブラック級モンスターだが、同士討ちしている動きを見る限りではそこまで強そうには見えない。
『ご主人、どっちから片付ける?』
「レイクサーペントだ。黒ヌルの奴等は勝手に戦って数が減るし、レイクサーペントと戦っていれば巻き添えになって何体か倒せるだろ」
『わかった。もう攻撃して良い?』
「いつでも良いぞ」
シルバから許可を得てレイは
「シャア!」
レイクサーペントはレイに自分が狙われたと理解し、
風の刃と水の槍がぶつかって相殺される。
「へぇ、レイの攻撃を相殺するんだ」
『むぅ、悔しい』
「まあまあ。倒してその魔石を取り込めばレイはもっと強くなれるって思えば良いんじゃない?」
『うん。レイの糧になってもらう』
レイが気を取り直してから、レイはシルバを乗せてレイクサーペントの周りをグルグル飛び始めた。
レイクサーペントの頭部よりも低い位置で飛べば、レイクサーペントの
レイは後ろで黒ヌル達が戦っている所でレイクサーペントに攻撃させて、自分が避けることで黒ヌル達にレイクサーペントの攻撃を当てた。
「アミュ!?」
「クッカ!」
「アミィ!」
俺達の喧嘩を邪魔するのは誰だと苛立つ黒ヌル達は縄張り争いを中断してレイクサーペントに攻撃を始めた。
そうなる前に上空に逃げたから、シルバとレイはレイクサーペントVS黒ヌル集団の戦いに巻き込まれずに済んだ。
黒ヌル達は<
ただし、黒ヌル達に連携するという考えはないのかそれぞれ好き勝手に攻撃していた。
「黒ヌル達はブラック級モンスターじゃなさそうだな」
『そうだね。動きの良い個体でもレッド級止まりだと思うよ』
レイクサーペントに向かって各自攻撃を仕掛ける黒ヌル達だけれど、残念ながら微々たるダメージしかレイクサーペントに与えられていない。
レイクサーペントは黒ヌル達をシルバやレイよりも鬱陶しい存在と認定したらしく、
最初はシルバとレイのことを視界の片隅に入れるようにしていたが、思いの外黒ヌル達が悪足搔きするせいでシルバとレイを気にせず一気に片を付けることにした。
(チャンスだ)
シルバはレイクサーペントが自分達を視界から外した瞬間を狙い、空を駆けてレイクサーペントの死角から攻撃を仕掛ける。
「肆式雷の型:雷塵求!」
「ジュラァァァ!?」
レイクサーペントはシルバの攻撃によって盛大に感電し、大きな声を上げて氷上に倒れた。
煙をプスプスと上げながら倒れたレイクサーペントにより、生き残っていた最後の黒ヌルも下敷きになって力尽きた。
(周囲に後続の敵影はない。戦闘終了だな)
油断して不意打ちを受けないように警戒した後、敵の気配が感じられなかったからシルバは戦闘終了だと判断した。
そこにレイがニコニコしながら着地する。
『ご主人、お疲れ様。やっぱりご主人が一番強いね』
「ありがとう。でも、マリアって俺の師匠の方がもっと強いんだぞ」
『ご主人とレイが力を合わせても勝てないの?』
「どうだろうな。レイとタルウィ、ザリチュの力を借りても勝てるビジョンが見えない」
そこまで言われれば今まで黙っていた熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュもスルーできまい。
『ちょっと待つのよっ。アタシ達を使って勝てないってどういうことよっ』
『説明、要求。納得、不可』
「俺の【村雨流格闘術】は全属性を扱えない時点で未完成だ。レイに力を借りて風の型を使ってもまだ火の型、土の型、闇の型が使えないからなぁ」
『ば、化け物なのよっ』
『人間?』
熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュにすら人間扱いしてもらえないあたり、マリアが規格外なのは言うまでもない。
こんなおしゃべりをしているが、シルバ達はてきぱきとレイクサーペントの解体を行っている。
レイに魔石を与えるため、それを最優先に回収した。
「レイ、魔石だぞ」
『ありがとう~』
シルバからレイクサーペントの魔石を貰い、レイはご機嫌な様子でその魔石を飲み込んだ。
「どうだ? 何か新しいスキルや技は会得できた?」
『<
「レイが傷つきにくくなったのは良いことだ」
『ご主人のおかげだよ。大好き~』
「よしよし」
シルバは頬擦りするレイの頭を撫で、レイが満足するまで甘やかした。
そうしている内にキマイラ中隊の馬車がシルバ達のいる場所に追いついた。
「シルバ君、いっぱい倒したねぇ」
「これだけの数をシルバ君とレイちゃんが倒したんですね」
「さすシルさすレイ」
第二小隊のメンバーはシルバとレイならやってもおかしくないと普通に受け入れたし、第一小隊のメンバーも同様だが第三小隊のメンバーは開いた口が塞がらなくなるほど驚いていた。
とりあえず、長居する必要はないから戦利品を回収して撤退することになった。
戦利品を詰め込んでさあ帰ろうとした時、アイテル湖が大きく揺れ始めた。
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