第156話 ゴブリン換算って本当に賞金首を貶める最高の方法だな

 シルバ達がバットを尋問していた頃、第一小隊と第三小隊はカヘーテ渓谷の正面入口付近で待機していた。


 エイルからシルバ達の入手した情報を掲示板経由で知り、エレンはそれをソッドに伝える。


「中隊長、追加情報が入りました。第二小隊がマギー盗賊団のバットを捕まえたそうです」


「バット? あぁ、裏切者バットのことか。あいつならば茶髭よりも良い情報を仕入れられるだろうな」


「そうみたいです。早速、茶髭の知らない抜け道を3つ確認できたようです。それと、カヘーテ渓谷にアルベリ盗賊団とウェハヤ盗賊団が潜伏してることがわかりました」


「ビッグネームの盗賊達はカヘーテ渓谷に集結してたのか。今回の作戦、本格的に人手が足りなくなって来たな」


 ソッドと婚約しているエレンだが、仕事中はソッドのことを中隊長と呼ぶし言葉遣いも丁寧語を使う。


 それはそれとして、エレンからの報告を受けたソッドはどうしたものかと短く溜息をついた。


 アルベリ盗賊団とウェハヤ盗賊団のいずれも実力派の盗賊団だ。


 いくらキマイラ中隊が優秀だったとしても、その2つの盗賊団を同時に相手取るのは厳しい。


 加えて言うならば、その2つの盗賊団以外にも盗賊団はカヘーテ渓谷に潜んでいる。


 全ての抜け穴の位置を把握できているとは言い難い状況では、カヘーテ渓谷に巣食う全盗賊団を討伐するのはかなり困難だ。


「追加情報が入りました。バット曰く、アルベリとウェハヤはそれぞれサタンティヌス王国軍とトスハリ教国軍に関わりがある疑いがあるそうです」


「この国、強国にガンガン侵入されてるじゃん。大丈夫なのか?」


 ならず者に扮してサタンティヌス王国軍が紛れ込んでいるケースは以前にもあったが、トスハリ教国からも紛れ込んでいたと聞いてソッドは額に手をやった。


 入出国の管理が杜撰過ぎやしないかと呆れるのも仕方あるまい。


「手抜き仕事しかしない無能な軍人のせいです。その数も少しずつ減って来てますが、彼等が在職中に隙を突かれたのでしょう。中隊長、エイルさんからバットは生きたまま連れ帰って情報源にすると報告が入りました」


「その考えに賛成だ。生きることに執着してるバットならば、殺されないように帝国軍にとって有用な情報は包み隠さず話すはずだ。吐かせるだけ吐かせよう」


「わかりました。こちらも異存ない旨を伝えておきます」


 ソッドもシルバやアリエルと同じ考えだった。


 エレンがソッドの代わりにソッドの意思を掲示板に打ち込んでいると、ソッド達が張り込んでいる場所に仕事をするべく出かける盗賊団が近づいて来た。


「中隊長、無名の盗賊団が来ます。その数10人と馬車2台です。私達だけでやっても構いませんか?」


 第三小隊長のフランがソッドに第三小隊だけでやってもいいかと訊ねる。


 手配書に載っている可能性はあるが、記憶に残らない程度の実力の敵ならば自分達だけで充分であると判断しての発言だ。


 仮にもキマイラ中隊なんだから、無名の盗賊団を1つも討伐できないなんてことはあり得ない。


 ブラック系モンスターとの戦闘ではあまり役に立てなかったが、この作戦ではしっかり役に立ってやるというフランの気持ちがソッドに伝わった。


「わかった。渓谷内に潜む盗賊達にバレないように対処してくれ」


「承知しました。クラン、風幕ウィンドカーテンで防音をお願い」


「了解。風の幕よ、物を分断し音を遮断せよ! 風幕ウィンドカーテン!」


 クランがカヘーテ渓谷の入口に風の幕を展開してしまえば、後ろに逃げられないと気付いて盗賊達が自分たちの危険に気付いて馬車を停める。


「小隊長、ここではあまり風幕ウインドカーテンが保てない。可能な限り短時間で倒そう」


「了解。カヘーテ渓谷は厄介ね。ヤクモとプロテス、先行して!」


「「はい!」」


 フランの指示を受けてヤクモとプロテスが盗賊団に接近する。


「相手は少数だ! やっちまえ!」


「おう!」


「ヒャッハー!」


 盗賊達は2人しか接近しないなら楽勝だと各々武器を持って突撃する。


「狙い撃つわよ」


 フランは先頭を走る盗賊の頭部に狙いを定めて矢を放った。


 それが見事にその盗賊の頭に命中し、仲間が討ち取られた動揺した隙を突いてヤクモとプロテスが仕掛ける。


「はぁぁぁっ!」


「マッスル!」


 ヤクモもプロテスも声を発して注目を集めた。


 ヤクモの場合は気合を入れて斧槍ハルバードを振るために叫んでおり、プロテスはただひたすらに自分の筋肉をアピールするために叫んだ。


「この野郎共、ただの軍人じゃねえぞ!」


「奥にいる女達もだ!」


「ボケが! 喋ってる暇があるなら手を動かせ!」


 盗賊団の団長が喋っている団員に怒鳴ってから剣を構えてプロテスに突撃する。


 武器を持っていないプロテスの方が倒しやすそうだと判断してのことだろう。


 その考えは甘いと言わざるを得ない。


「そぉい!」


 プロテスは自身に接近する団長が繰り出す刺突を回転して躱し、その背後に回って思いきり裏拳をかます。


 背中を思いきり殴られた団長はバランスを崩して転んだ。


 そこに追撃するようにフランが矢を放って仕留めた。


「不味い! 団長がやられたぞ!」


「くそぅ、なんでこんな目に遭わなきゃなんねえんだよ!」


「それは盗賊だからだ」


「成敗!」


 団長を討ち取られたことで団員達の心は折れ気味であり、ヤクモとプロテスが残党をサクサク討伐してみせた。


 後続の敵はクランの風幕ウインドカーテンで遮断されているからやって来ることはない。


 マルクスが手配書のまとめられた資料を確認し、第三小隊が倒した盗賊団の団長らしい記述とイラストを見つけてソッドに知らせる。


「中隊長、団長だけ賞金首みたいだぜ。ほら、ここにある義眼って奴だ。団長は左目が義眼だったし、剣を使ってるからおそらく合ってるはずだ」


「金貨1枚。ゴブリン100体分の団長か」


「ゴブリン換算って本当に賞金首を貶める最高の方法だな」


「そうだろう? 最初に始めたのはシルバ君だけど、案外僕の方がこの計算方法を気に入ってるみたいだ」


 マルクスはソッドからそう言われ、シルバとソッドのどちらが賞金首をゴブリン換算する頻度が多いか頭の中で比べてみた。


 その結果、確かにソッドの方がゴブリン換算していることに気付いて苦笑した。


 第三小隊は義眼の盗伐証明として義眼の死体だけ確保し、それ以外は地面に穴を掘って埋めた。


 義眼が率いる盗賊団の馬達は戦闘を見ないようにしており、飼い主達が負けて地中に埋められても無関心だった。


 聞き分けが良くてアリアが暴れないようにケアをしようとすれば、おとなしくアリアにされるがままになっていた。


「中隊長、この子達良い子だよ~」


「そのようだな。暴れられると面倒だからおとなしくしてくれるのはありがたい」


 第三小隊の戦闘が終わってクランが風のカーテンが解除した後、エレンは掲示板経由で第二小隊がバットの情報通りに抜け道を塞いだと連絡を受けた。


 バットは全身縄で手足を縛られており、肌着以外全て没収された状態で第二小隊の馬車の屋根に括りつけられているのだが、それはエレンも触れるつもりはないらしい。


「中隊長、そろそろ仕掛けますか? 第二小隊も埋められる抜け道は塞いだそうですが」


「そうか。ならばそろそろ頃合いだな。仕掛けるとしよう。エレン、シルバ達にも新たな抜け道を作って奇襲するように連絡を頼む」


「わかりました」


 エレンに指示を出した後、ソッドは第一小隊と第三小隊を束ねてカヘーテ渓谷の入口からその中に突入した。


 馬車で侵入するから普通に進軍するよりは早く動ける。


 それに加え、盗賊達も馬が馬車を牽引して戻ってくれば盗賊だと勘違いして警戒を緩める可能性も期待している。


 全速力で移動することはなく、自然体で馬車を進ませること数分、ソッド達はカヘーテ渓谷内に潜む盗賊の内、カーストが低いであろう盗賊団の縄張りに入った。


 茶髭の話では盗賊団同士がつるむことは滅多にないはずだったが、ソッド達の目の前には3つか4つの盗賊団がまとまっているように見えた。


「所詮は底辺盗賊の証言ってことか。総員、戦闘開始!」


「「「・・・「「おう!」」・・・」」」


 ソッドの号令を受けて第一小隊と第三小隊の全員が攻撃を始める。


 待ち構えていた盗賊団の最後尾にいる4人が各々言いたいことを言い出す。


「野郎共、やっちまえ!」


「地の利は俺達にあるぞ!」


「男は殺せ! 女は生け捕りだ!」


「目指せ懸賞金UP!」


 団員達を鼓舞したり攻めさせようとしたのだが、意思が統一できておらずバラバラだ。


「敵は烏合の衆だ! ゴブリンと変わらん!」


「は?」


「はぁ?」


「はぁぁぁぁぁ!?」


「誰がゴブリンだぁぁぁ!?」


 頭に血が上った盗賊達の動きは単調であり、数は多かろうと質が悪くてソッド達には敵わなかった。

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