第157話 アンタがサルワのことを考えたのはお見通しなんだからねっ

 第一小隊と第三小隊が正面入口からカヘーテ渓谷の盗賊団を狩っている頃、シルバ達第二小隊はバットが知る抜け道全てを塞ぎ終えた。


「これで良し。さて、どこから俺達は侵入しようか」


「シルバ、カヘーテ渓谷にいる盗賊団の倉庫を探そうぜ? 非常事態になった時、金目な物を持って逃げようとする連中がいるはずだ」


「ロウ、カヘーテ渓谷にはいくつもの盗賊団がいるんですよ? 隣人が信用できない場所に倉庫なんて用意しないんじゃないですか?」


「それもそうか」


 ロウは悪党ならどこかに金品を蓄えるという発想だったが、エイルの反論を受けてロウはすぐに考えを改めた。


 だが、それに口を挟む者がいた。


 バットである。


「待ってくれ! 俺に心当たりがある!」


「シルバ、バットが心当たりあるってよ」


「そうか。それなら話を聞こう」


 シルバは軽い身のこなしで馬車の屋根に飛び移り、屋根に括りつけられているバットに地図を見せた。


「その倉庫の場所を教える前に待遇の改善を要求する」


「馬車の後ろからロープを垂らして引き摺られたいって?」


「俺の勘違いだ! いやぁ、俺は馬車の屋根の上に縛られるのが大好きだ!」


 アリエルが相手ではないなら自身の待遇を改善できるのではとチャレンジしたが、しれっと待遇が改悪されそうだったのでバットは屋根の上が良いと掌をくるりと返した。


 それから、バットは倉庫の位置をはきはきと答えたのでシルバは疑問を口にした。


「エイルさんの言う通り、隣人が信じられないカヘーテ渓谷になんで倉庫があるんだ?」


「そりゃ自分達の懐で持っておくにゃ厄介な代物が置いてあるからだ。襲った相手によっちゃ自分達の身に余るブツが手に入っちまうこともある。そういった物が1ヶ所にまとめられてんのよ」


「厄介な物なら命の危険を感じた時にわざわざ持ち出さないんじゃないか?」


「厄介でも渡す相手によっちゃ大金になると思えば、リスクを承知で懐に入れるのが盗賊ってもんよ」


 屋根に縛られて自分に見下ろされてるのだからドヤ顔で言うなとツッコみたくなったけれど、それを堪えてシルバはバットの発言について思考した。


 (物によっては他国に流出すると不味いかもしれない。行くか)


 自分の中で結論が出たため、シルバはロウに地図を渡す。


「ロウ先輩、この位置まで馬車を動かして下さい。外からアリエルに抜け道を用意してもらいます」


「了解」


 シルバの指示を受け、ロウはバットが教えた倉庫の外壁に最も近い位置まで馬車を動かした。


 第二小隊の動きはエイルが掲示板で連絡しており、エレン経由でソッドの承認が得られたことを確認してから目的地で行動を開始する。


 アリエルが<土魔法アースマジック>で倉庫に繋がる道を拓けば、様々な物が乱雑に積み上げられた倉庫に到着した。


「キュア~」


「そうだな。いっぱいある」


 レイがきょろきょろして感心したように鳴き、シルバがそれに同意しながらレイの頭を撫でた。


「おぉ、なんかジェロスで扱われてそうなヤバい感じのものがある」


「ロウ先輩、何か見つけたんですか?」


 アリエルはロウが早速外に出したら不味い代物を見つけたのだと察して声をかけた。


 ロウが指さした木箱には袋詰めされた粉がぎっしり入っていた。


「あくまで俺の推測だが、これは騙体属性粉フェイクパウダーだと思う」


「作成と所持、販売、使用が禁止された騙体属性粉フェイクパウダーですか? 一体どうしてってジェロスの闇市場ですね」


「おう。アリエルは話が早くて助かるぜ」


「この話題で話が早いって言われると、ロウ先輩と一緒で心が汚れてる気がするので止めて下さい」


「唐突な非難は止めてくれる?」


「冗談ですよ」


 アリエルに突然disられてロウは静かに抗議した。


 それはそれとして、騙体属性粉フェイクパウダーは存在を歴史から葬るべき薬品だ。


 これは吸入することでその者の体に新たな属性への適性が生じる。


 その効果だけならばとても有用な薬だが、副作用が発覚してから即座にあらゆる取り扱いが禁止された。


 問題の副作用とは自身の体のコントロールを失って新たに得た属性が暴走し、その者が人体発火や風化、土のように崩れる等の現象が多発したのである。


 体を騙して自分には新たな属性を目覚めさせるなんて方法は邪法であり、並大抵の者ではその邪法に体が耐え切れないのだ。


「とにかく、一旦これは回収して外で燃やそう。密閉された空間で燃やそう物なら爆発しちまうからな」


「そうですね。崩落は避けたいところです」


 ロウとアリエルが騙体属性粉フェイクパウダーの対処について話し合っている時、レイは不思議な武器を見つけて首を傾げていた。


「キュイ?」


「レイちゃん、どうかしたんですか?」


「キュウ」


「双剣なんでしょうか? 普通のと違って握って突き刺すようですし、それぞれ刃に刻まれた印が違いますね。シルバ君、ちょっと良いですか?」


 彼ならばレイが見つけた武器について知っているのではと考え、エイルは倉庫本来の入口で見張りをしているシルバに声をかけた。


 レイが見張りを交代してくれたので、シルバはエイルの視線の先にある武器を見た。


「あぁ、ジャマダハルですね。師匠が昔自作して使ってました。面倒だから使わなくなってましたけど」


「やっぱりシルバ君は知ってましたね」


「俺も多少なら使えますよ。師匠と同じで面倒だからすぐに使うのを止めましたが」


『面倒ってどういうことよっ』


『失礼。でも、適正ある』


 (このジャマダハルから声がする? まさか、騒乱剣サルワと似たような物か?)


 シルバは脳内に直接響く2つの女性の声を聞き、目の前にあるジャマダハルがただの武器ではなく騒乱剣サルワと同様に呪いの武器なのではと推察した。


『アンタがサルワのことを考えたのはお見通しなんだからねっ』


『御明察。私達、サルワ、同格』


 再び声が聞こえたシルバは念のためにエイルに訊ねる。


「エイルさん、ジャマダハルから声は聞こえますか?」


「何も聞こえませんがシルバ君には聞こえるんですね?」


「はい。どうやら騒乱剣サルワと同じく呪われた武器みたいです。名前は知りませんが」


『アタシは熱尖拳ねつせんけんタルウィよっ。覚えときなさいっ』


渇尖拳かつせんけんザリチュ。よろしく』


 それぞれから名乗られてしまったので、シルバはつい先程の自分の発言を訂正する。


「訂正します。刃に炎の刻印がある方が熱尖拳タルウィで、干上がった畑の刻印がある方は渇尖拳ザリチュだそうです。握りの部分を見てもらうと、タルウィが赤くてザリチュが黄色くなってますから、そこで見分けるのが良いと思いますよ」


「もしかして、武器がシルバ君に自己紹介したんですか?」


「自己紹介されました。まだ触れてもないのですが、俺に適性があるようですね」


「呪いの武器って使っても大丈夫なんでしょうか? アリエルさんの時は手にした途端に苦しんでましたけど、タルウィとザリチュも同じではないんですか?」


 アリエルが騒乱剣サルワを手に入れた時のことを思い出し、エイルはシルバも同じように苦しむ羽目になるのではと心配した。


『当然試させてもらうわっ』


『試験、大事』


 (俺には【村雨流格闘術】があるから武器は要らないんだが)


『ちょっと待つのよっ。適合者を逃すなんてあり得ないんだからねっ』


『放置、良くない。私達、強力』


 シルバが武器なんて不要だと心の中で思うだけで熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが慌てる。


 折角見つけた適合者に放置されることはどうしても避けたいようだ。


 そんな事情は知ったことではないのでシルバは首を横に振る。


「同じく試験があるようですが、そもそも使うつもりがないので受けるつもりもありません」


『それは良くないのよっ。あんまりなのよっ』


『譲歩。お試し、代償なし、許可』


 ガーンと衝撃を受ける熱尖拳タルウィに対し、渇尖拳ザリチュは試験は置いといて逆に試験をせず代償を払わずにお試し期間を設けても良いと譲歩した。


 (そんなこと言われても今のところ使うメリットがないし)


『使用者以外がアタシに触れると燃えるんだからねっ』


『使用者以外、水分、奪う』


 シルバの心の声に応じるように熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが自己アピールを始めた。


 しかし、その程度ではシルバの心には響かない。


 (代償を払ってまで求める性能じゃないな。代償に何を求めるつもり?)


『アタシの熱に耐えられるかチェックするだけだわっ』


『渇き、耐性、確認』


 武器の名前に相応しい試験であり、突飛で理不尽なものではなかった。


 その程度なら何とかなるかもしれないと考え、シルバは危険人物に回収されても不味いし試験を受けることにした。


「気が変わった。試験を受けてやる。ただし、試験の前に準備させてもらうぞ」


『存分に準備すると良いわっ』


『問題ない』


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュはシルバが試験を受けてくれるならばとシルバの出した条件を快諾した。

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