第39話 敵陣に正々堂々乗り込んだ場合は煽るのが作法だよ

 翌日、シルバとアルは登校した途端にクラスメイトに囲まれた。


「シルバ、デイブ先輩倒したんだってな」


「怖いものなしね。拳者研究クラブをクラブ活動勧誘期間初日で潰しちゃうなんて」


「学生会に入ったんだって?」


「おらー、さっさと席に座れー。ホームルームを始めるぞ」


 ポールはシルバやアルに事情を確認したりしなかったが、昨日の段階で職員会議が開かれて状況を全て把握している。


 だからこそ、教室に入ってからシルバ達に事情を確認することなく学生達を着席させた。


「連絡事項だ。B5-1のデイブ=プウェル以下拳者研究クラブに所属する学生全員を退学とした。廃部に至る経緯はシルバが関わったようだが、色々と後ろ暗いものがクラブ室から出て来たんで軍学校に相応しくないと校長先生がそのように判断した」


「先生、デイブ先輩の父親はどうなったんですか?」


「ヨーキ、余計なことに首を突っ込まないのが利口な軍人だぞー。ただ、今回は調べればすぐに出て来るから教えてやる。クビだ。色々軍人として相応しくないことに手を出してたらしいからなー。お前等は間違っても道を踏み外すなよー」


「ハワード先生、さっきから肝心な所が色々で誤魔化されてます」


「メイ、余計なことに首を突っ込むなって言ったばかりだろー」


 背景や裏側と呼ばれる部分は明かされなかったが、拳者研究クラブは廃止かつメンバー全員が退学し、デイブの父親は軍をクビになった。


 事実だけを並べたらこうなる。


 これ以上説明するつもりはなかったため、ポールはホームルームを終えて授業に移った。


 放課後になり、シルバとアルはB1-1を出て学生会室へと向かう。


「今日は質問攻めだったねシルバ君」


「アルは途中から質問を俺に丸投げしたよな」


「だってしょうがないじゃん。僕はデイブ先輩と決闘した訳じゃないんだし」


「拳者研究クラブのクラブ室でロウ先輩と一緒に煽ってたのはアルだったんだけどなー」


「敵陣に正々堂々乗り込んだ場合は煽るのが作法だよ」


「そんな作法は習わなかった」


 シルバはジト目をアルに向けるけれど、アルには全く効果がなかった。


 そんなやり取りをしている内に学生会室に到着し、室内に入るとロウがメアリーとイェンにジト目を向けられていた。


「「こんにちは」」


「シルバ君、アル君、こんにちは」


 シルバ達の挨拶に答えたのはロウに構わず一足先に作業を始めていたエイルだった。


「会長、ロウ先輩は何をやらかしたんですか?」


「またデリカシーのないことをやったんですか?」


「おい、ちょっと待て。お前達は俺がやらかした前提で話すんじゃない」


「「え?」」


「ねえ、なんでそこで一片の曇りもなく透き通った目をしながら首を傾げるの? もうちょっと俺のことを信じよう?」


 ロウがシルバとアルに誤解を解こうと迫るとエイル達が首を横に振る。


「ロウ、日頃の行いのせいですよ」


「先輩は普段からもっとまじめに過ごすべきです」


「虫は死んだ方が良い」


「虫なの!? 俺ってば権天使級プリンシパリティに昇格したんだぞ!?」


「「え?」」


 ロウが大天使級アークエンジェルから権天使級プリンシパリティに昇格したということにシルバとアルは驚きを隠せなかった。


「2人もおかしいって思うよね?」


「お調子者の昇格したアピールが鬱陶しい」


 メアリーとイェンは別々の理由でロウにジト目を向けていたようだ。


 アルは思い当たったことがあったらしくポンと手を打った。


「そういうことですか。ロウ先輩が拳者研究クラブのメンバーを退学に追いやった証拠とデイブ先輩の父親の黒い噂の証拠を用意したんですね? だからあの時に校長先生がタイミング良く現れたんじゃないですか?」


「ピンポーン。大当たり~」


 アルは今朝のポールの話や昨日のロウの態度から昇格の理由を予想して述べた。


 それは正解だったらしく、ロウが嬉しそうに頷いた。


 もっとも、ロウのニヤケ顔はすぐに固まることになるのだが。


「ロウ先輩、シルバ君に戦わせるだけ戦わせて昇格できて嬉しいですか?」


「ぐっ、アル、言葉のナイフって知ってるだろ。知らないとは言わせないぞ」


「僕、1年生だから難しいことはわかんないです」


 (アルが先輩方にジト目で見られてる・・・)


 シルバのせいで目立っていないだけで、アルも活動計画書を読むスピードや質問の内容が1年生の器ではないと思われている。


 それゆえ、アルが都合の良い時だけ1年ぶることに対してメアリーとイェンがその反論には無理があるとジト目を向けた訳だ。


 4人のやり取りをスルーしてエイルはシルバに冊子を手渡す。


「シルバ君、これは約束のレポートです。調合研究クラブの分は昨日の夕食前に渡しましたから、これらは残りの魔法道具マジックアイテムクラブ、モンスター研究クラブの分です」


「ありがとうございます。後で大切に読ませていただきます。今日も活動計画書のチェックですか?」


「いえ、シルバ君とアル君の今日の仕事は私が持って来たレポートを読むことです。2人の頑張りのおかげで筋肉トレーニングクラブと拳者研究クラブという時間のかかる問題が片付きました。余裕がある内にじっくりレポートを読んで下さい」


「わかりました。そうさせていただきます。アル、交換しながら読もう」


「わかった」


 シルバに呼ばれてアルはおとなしく着席した。


 シルバはアルに魔法道具マジックアイテムクラブのレポートを手渡すと、残ったモンスター研究クラブのレポートを読み始めた。


 (ふ~ん、モンスターとの遭遇回数は多くないだろうに大したものだ)


 モンスター研究クラブのレポートをサラッと読んでシルバは感心した。


 マリアから教わった内容の裏が取れたのだから大したものだろう。


 モンスターは大きく分けて2種類に分類される。


 色付きモンスターと色なしモンスターの2種類だ。


 ここで言う色とはモンスターの名前に色が入っているかどうかであり、実際のモンスターの色が無色なんてことはない。


 色付きモンスターは名前の色通りの体の色だが、色なしモンスターは元々の色があるけれどモンスター名に色が入っていないから色なしと呼んでいる。


 レポートに記されていた色付きモンスターの階級はグリーン<ブルー<パープル<レッドとなっていた。


 しかし、マリアからシルバが習った話ではレッドの後にブラック<シルバー<ゴールド<レインボーと続く。


 シルバが異界での修行中に見たことあるのはブラックまでだ。


 ブラックになるとマリアの手助けなく戦うのが難しいかったことをシルバは記憶している。


 それはさておき、シルバには今ここでブラック以上の存在について口にするつもりはない。


 ブラック以上の色付きモンスターの話をした場合、間違いなく校長室行きが決定するからだ。


 行事で目立ってしまうのは別にして、日常でこれ以上悪目立ちすると更なる面倒事に巻き込まれるから黙っておこうと考えるのは悪いことではない。


「シルバ君、お待たせ。僕も読み終わったよ」


「了解。それなら交換しよう」


 アルから魔法道具マジックアイテムクラブのレポートを受け取り、シルバはモンスター研究クラブのレポートを手渡した。


 (ん? これって俺が提示した魔力回路に関する考察じゃね?)


 シルバはレポートを読んですぐに見覚えのある内容があったことに気づいた。


 それは新人戦前に魔法工学の授業で提出した回答であり、魔力効率が今までと変わったことで既存の魔法道具マジックアイテムの性能がどれだけ向上したか調べた記録のようだ。


 例えば、従来のランプの魔法道具マジックアイテムは1年で買い替える必要があるが、シルバの提示した魔力回路ならば5年は持つだろうと書かれていた。


 いくつか簡単に作れる魔法道具マジックアイテムとその作り方が載っていたから、シルバは時間がある時に自分で魔法道具マジックアイテムを作ってみることに決めた。


 昨日寮に帰ってから読んだ調合研究クラブのレポートの内容も合わせると、シルバの作りたい物がどんどん増えていく。


 それは軍学校の学生としては入学したコースを越えた極めて意欲的な姿勢であり、もしもシルバがそれらの知識を自分の物にできたのなら軍で間違いなく重宝されるだろう。


 シルバとアルが両方のレポートを読み終えたのを察し、エイルは2人に話しかけた。


「シルバ君、アル君、レポートはどうでしたか?」


「勉強になりました。手配していただきありがとうございました」


「僕も授業以上の知識を得られて良かったです。ありがとうございました」


「お気に召してもらえたなら良かったです。このまま学生会に正式入会してもらえたなら、できる限り便宜は図りますので是非とも検討して下さいね」


「俺は入会します。昨日の騒ぎで他に入るのは難しそうですし、これからも会長が便宜を図ってくれると信じます」


「そうですね。僕もどこかの先輩にまんまと騙されてしまいましたのでこのまま入会します」


「誰だその先輩ってのは? 許せない奴だがよくやった」


「貴方ですよ、ロウ」


 ロウが真面目にふざけたことを言ってのけるので、エイルはやれやれと首を振った。


 こうして、シルバとアルは学生会に入会することを決めた。

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