第320話 敵の弱点を突くのは当たり前だろ?

 マリナが無事にレインボー級に昇格した後、シルバ達は蜘蛛女王がいると思われる森の奥に上空から向かう。


 歩いて森の奥に進めば、地の利は蜘蛛女王にあるだろうから、隠れられない空を移動するのだ。


 また、森の木々を薙ぎ倒して進めば罠も潰せるけれど、シルバ達は好き好んで環境破壊するような思考を持ち合わせていないので、それも地上を行かない理由たり得る。


『ご主人、あっちの方から視線を感じる』


「木の陰に隠れて俺達の様子を伺ってるのかもな。よし、窒息領域サファケイトフィールドで向こうから出て来てもらおう」


『わかった!』


 レイはシルバに言われた通り、視線を感じる辺りを効果範囲にして窒息領域サファケイトフィールドを発動した。


 その瞬間、ドサドサと何かが落ちる音が次々に聞こえて来た。


 音の聞こえた上空まで移動して地上を見下ろしたところ、大量のゴールドスパイダーとシルバースパイダー、アラクネで地面が見えなくなっていた。


「数が多過ぎるだろ。レイの窒息領域サファケイトフィールドがなかったら大変だったぞ」


『ドヤァ』


 レイはシルバが褒めてくれたのでドヤ顔を披露した。


 その隣でマリナの背中に乗るエイルがシルバに話しかける。


「シルバ、蜘蛛女王は何処にいると思いますか?」


「あの大樹じゃないかな。仮にも女王と名乗るぐらいなんだから、普通の樹を住処にはしないでしょ」


「そうですね。でも、そう考えると人もモンスターも変わらないんですね。偉い者が立派な建物や樹に住むんですから」


「言われてみれば確かにそうかも」


 ムラサメ公国に限らず、ディオニシウス帝国もスロネ王国もロイヤルファミリーの住む場所は立派な城だ。


 人が集まって国となり、その中でも偉い者は立派な建物に住む。


 それと同じで虫型モンスターを率いる蜘蛛女王も立派な大樹に住んでいると思えば、シルバもアリエルも蜘蛛女王が人間の真似をしているように感じた。


『ご主人、あの大樹も窒息領域サファケイトフィールドで覆う?』


「頼む」


『は~い』


 レイは視界に映る大樹を中心に酸素のない領域で包み込んだ。


 酸素がなくては呼吸ができないから、窒息領域サファケイトフィールドを脱出しようと蜘蛛女王と思しきアラクネが大樹から飛び出した。


 そして、早業で大量の糸を射出して巨大な蜘蛛を作り、蜘蛛女王がその背中に乗ってシルバ達と同じぐらいの高度まで移動した。


「よくも私の可愛い子供達と同胞を殺してくれたわね。私を虫型モンスターを束ねるアラクネクイーン、蜘蛛女王と知っての狼藉かしら?」


異界カリュシエが戦国時代に突入するのは困るんだ。死霊王も悪魔王も倒した。残るはお前だけだ。お前を倒せば異界カリュシエも少しは落ち着くだろう」


「そう・・・。だったら、貴方達を殺して私がこの世界を手に入れる!」


 アラクネクイーンがシルバ達を殺すと言った次の瞬間には、糸でできた巨大蜘蛛が前脚でシルバ達を攻撃していた。


「弐式火の型:焔裂」


 糸は燃えると考え、火の型で攻撃したシルバの予想は当たった。


 前脚を切断するのと同時に火が燃え広がり、あっという間に糸でできた巨大蜘蛛を燃やし尽くした。


 アラクネクイーンはシルバが攻撃した時には大きく跳躍し、白い糸ではなく灰色の糸でワイバーンを作り、その背中に飛び乗っていた。


 両腕から見えにくい糸で操り、ワイバーンを羽ばたかせて空を飛んでいるようだ。


「火を使うとは卑怯者め!」


 親の仇を見るような目で見て来るアラクネクイーンに対して、シルバは頭の悪いかわいそうな生き物を見る目を向けた。


「敵の弱点を突くのは当たり前だろ?」


「シルバ、モンスター図鑑機能に該当はありません。アラクネクイーンに隠し玉がないようであれば、仕留めてしまって良いと思います」


「おのれぇぇぇぇぇ!」


 エイルの言葉から自分に後がないと察したらしく、灰色のワイバーンに乗ったアラクネクイーンはシルバ達の前から逃げ出した。


『逃がさないよ』


 レイが<属性吐息エレメントブレス>の風のブレスを放ち、灰色のワイバーンに命中した。


 灰色の糸は鉄分を多く含んでいるようで、レイの風のブレスを受けても多少歪むだけで壊れたりしなかった。


 ただし、灰色のワイバーンを操っていた糸は全て切れてしまい、灰色のワイバーンは地面へと墜落してしまう。


 アラクネクイーンは墜落する途中で糸を射出し、シルバ達が灰色のワイバーンに気を取られているであろう隙をついて逃走しようとした。


 しかし、その時には既にシルバが空を駆けてアラクネクイーンを射程圏内に捉えていた。


「逃がさないぞ。壱式火の型:蒼炎拳」


 拳型の蒼い炎に背中を焼かれ、アラクネクイーンが絶叫する。


「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 アラクネクイーンは背中が燃えていると知り、地面に背中を擦りつけて消火した。


 <自動再生オートリジェネ>は会得しているようで、火傷が少しずつではあるものの治っていく。


 それでも、その行動が弱点は火であることを示していたため、シルバは地上でじたばたするアラクネクイーンに向かって追撃する。


「壱式火の型:蒼炎拳」


「ひぎゃぁぁぁぁぁ!」


 折角消した蒼い炎に再び身を焼かれ、アラクネクイーンはその場で転がって必死に火を消す。


 その時にはシルバが地上に着地しており、これ以上甚振るような真似は止めようととどめを刺しに行く。


「弐式光の型:光之太刀・斬」


 シルバは抜刀術の要領で光の刃を振り抜き、アラクネクイーンの上半身と下半身を一刀両断した。


 とどめに火の型を使わなかったのは、アラクネクイーンが体内に溜め込んでいるであろう糸を燃やして駄目にしないようにするためだ。


 蜘蛛女王の糸ならば、通常の糸よりも高級そうな気がしたので回収できる分は回収したかったのである。


 それに、いくら<水魔法ウォーターマジック>を使えるマリナがいるとしても、森を必要以上に燃やしてしまうのは忍びなかったというのもある。


 アラクネクイーンが力尽き、周囲に敵影がないことを確認するとレイがシルバの近くに着陸して頬擦りする。


『ご主人、お疲れ様~』


「レイも良いサポートをしてくれたね。ほら、アラクネクイーンの虹魔石だぞ」


 シルバはレイが欲しがると思って素早く回収していたため、すぐに虹魔石をレイに与えた。


 レイが虹魔石を取り込んだ直後、レイの体から力が溢れ出す。


『やったよご主人! <透明多腕クリアアームズ>が<透明百腕ハンドレッドアームズ>に上書きされたよ!』


「おぉ、やるじゃん! 蜘蛛糸を操るアラクネクイーンの影響か!」


 透明な腕はニーズヘッグのレイでも物を掴めるから便利だ。


 今までも操れる腕が複数あったけれど、上書きされて会得した<透明百腕ハンドレッドアームズ>は最大100本まで透明な腕を操れる。


 戦闘以外でも使えるスキルだとわかっているからレイは大喜びしているし、シルバもレイが喜んでいるのを見て嬉しく思った。


 シルバとレイがおちついたところで、エイルがシルバに声をかける。


「シルバ、そろそろ戦利品の回収を始めましょう」


「そうだな。回収すべき敵の数は他の2つの勢力よりも多い。レイ、早速<透明百腕ハンドレッドアームズ>の出番だ」


『任せて!』


 レイは今こそ新しいスキルのすごさをアピールする時だと思い、これまでに窒息死させた虫型モンスター全てを100本の透明な腕で回収してみせた。


 それらは次々に<無限収納インベントリ>に吸い込まれていき、全てを回収し終えたレイは褒めてくれと言わんばかりの笑みを浮かべてシルバに近寄る。


 そのリクエストに応じないシルバではないから、レイが満足するまでレイの頭を優しく撫でた。


「レイは本当に甘えん坊だな」


『甘えん坊のレイは駄目?』


「そんなことないぞ。レイは今のままが一番だ」


 シルバが迷うことなく断言したため、レイは嬉しそうに微笑む。


『ご主人』


「なんだ?」


『レインボー級モンスター最強になるなら、竜王も倒さないとね』


「そうだな。でも、倒すまでに色んなドラゴンに邪魔されるはずだ。それこそ、3つの勢力なんて目じゃない力のドラゴンがいる気がする」


 シルバはまだ見ぬ竜王に辿り着くには険しい道のりが待ち受けていると思っていた。


 レイも同じだが、レインボー級モンスター最強の地位を目指すレイにとってそれはやる気に繋がるようだ。


『望むところだよ。ご主人が一緒ならレイはどんなドラゴンも倒してみせる』


「あまり無理はしないでくれよ? 俺はレイに元気な姿で傍にいてほしいから」


『うん!』


 闇耳長族ダークエルフを脅かしていた最後の勢力を倒して戦利品も回収したため、シルバ達はクワナ基地を経由してムラマサ城に帰還した。


 マリナがレインボー級に昇格したと聞き、リトが自分も早くレインボー級に昇格したいんだと訴えたのはまた別の話である。

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