第52話 むぅ、小さいは余計です
テスト返しが終わり、夏休みに突入した。
1学期の期末テストでもシルバが学年主席でアルが次席と順位は変わらなかった。
「うぅ、シルバ君にまた負けたー」
「俺はテストでも妥協しないんだ」
「ぐぬぬ・・・」
「シルバは期末テストの点数全教科で何点だったんだ?」
「満点です」
「うへぇ」
今はオファニム家の別荘に向かう道中であり、学生会のメンバーは同じ馬車の中で期末テストの話をしている。
シルバが入試に続いて満点を叩き出したと聞き、ロウはマジかこいつという表情になった。
メアリーはアルがどれぐらいの差でシルバに負けたのか気になって訊ねる。
「アル君とシルバ君は何点差だったんですか?」
「2点差です。僕が2点問題を1つだけ落したから負けました」
「うへぇ」
アルの点数も予想以上に戦ったため、またしてもロウがマジかこいつという表情になる。
折角テストの話題になっているので、シルバは他のメンバーに話を振る。
「先輩方は合計何点でした?」
「私も満点でしたよ」
「私はあと3点で満点だったよ」
「私はあと5点」
「・・・」
ロウが黙り込んでいるのを見て、アルは良い笑顔を浮かべて訊ねる。
「ロウ先輩は何点だったんですか?」
「俺はあと1点で満点だった。エイルにまた負けちまったんだよなぁ」
「え? ロウ先輩なのに頭が良いんですか?」
「おい、ちょっと待て。それどーいう意味だ?」
アルがロウの点数を聞いて戦慄していると、ロウが自分のことを馬鹿だと思われていたと知ってムッとした表情になった。
「虫に負けた・・・」
「ねえねえ今どんな気持ち? 虫って馬鹿にしてる先輩に負けたけどどんな気持ち?」
「イェン、落ち着いて下さい。怒ればロウの思うつぼです」
「・・・失礼しました」
(やっぱりロウ先輩って馬鹿じゃないんだよな)
一連のやり取りを聞いてシルバはロウがただのお調子者ではないと改めて思った。
実際、ロウは
いくら強くても馬鹿ではこの階級まで上がることはできないので、ロウが馬鹿と言うことはあり得ないだろう。
エイルがイェンを励ましてもしょんぼりしたままだったので、シルバは持参したクッキーを差し出した。
「イェン先輩、もし良かったらどうぞ。俺が作って来たクッキーです」
「良いの?」
「はい。甘い物でも食べて元気を出して下さい」
「ありがとう。・・・うん、甘くて美味しい」
イェンはシルバのクッキーを食べて元気を取り戻した。
「これが合同キャンプで有名になったクッキー? 俺にもちょうだい」
「虫の分はない」
ロウが伸ばした手を弾き、イェンはロウが食べようとしていたクッキーを口の中に放り込んだ。
「そんなぁ」
「ロウ、諦めなさい。無駄にイェンを煽った罰です」
「へーい」
そんなこんなでそれからしばらく馬車に揺られていると、シルバ達はようやくオファニム家の別荘に到着した。
別荘から執事とメイドが現れてシルバ達を出迎える。
彼等はシルバ達が別荘に着く前日から来ており、シルバ達が別荘で快適な合宿を過ごせるように準備していたのだ。
「「「・・・「「お嬢様とご学友の皆様、ようこそお越し下さいました」」・・・」」」
「・・・クレア、何やってるのかしら?」
エイルの双子の妹であるクレアがメイド服を着てメイド達に交ざっており、それをジト目でエイルが指摘するとクレアはやれやれと首を振る。
「姉さん、そこはもうちょっと黙っておくところでは?」
「貴女の悪戯に付き合うつもりはないわ」
「もう、そんなんだから堅物学生会長って言われるのよ」
「なんですって?」
別荘に入る前からエイルとクレアに喧嘩されても困るので、メアリーが話題を変えるべく話しかける。
「クレア先輩、お久しぶりです」
「こんにちは。メアリーは相変わらず小さくて可愛いわね」
「むぅ、小さいは余計です」
「そうだよな。ちっちゃいけど胸はおっきいもんな」
「ロウ、口を慎みなさい」
「先輩、本当に最低です」
「虫は踏むに限る」
「イェン、当たり前のように俺の足を踏まないでくれ」
余計なことを言ったロウはメアリーに軽蔑され、イェンに真顔で足を踏まれた。
ロウの自業自得だから誰もロウをフォローしたりしない。
その一方、クレアはロウがメアリーにセクハラしたのをにっこり笑いながらスルーしてシルバの前に立った。
「君が噂の1年生だね。初めまして。私がH5-1に所属するクレア=オファニムよ。階級は姉さんと同じ
「初めまして。B1-1のシルバです。階級は
「ん? あぁ、あれね。姉さんから戦闘コースの1年生が薬品の調合に興味を持ってるって聞いてびっくりしたわ。最後に渡したレシピと素材で薬品は作れたの?」
「はい。完成品を会長に確認してもらったところ、ちゃんとできてるとお墨付きをいただけました」
シルバは学生会の業務が終わった後、アルと一緒に薬品の調合にチャレンジすることが少なくなかった。
そのおかげでメキメキと調合の腕が上がり、今ではH3-1に負けない実力を有している。
勿論、マリアから知識を詰め込まれたシルバ程ではないが一緒に調合していたアルの腕も上達している。
「へぇ、大したものね。あの薬ってうちのクラブに所属してる3年生でも作れない子って半分ぐらいいるのに。材料は用意してあるから私の前で作ってくれないかしら? 実際に調合してるところが見たいわ」
「わかりました」
「クレア、私達は到着したばかりなんですよ? 少しはシルバ君を休ませてあげなさい」
「はーい」
固いことを言うなと言いたくなったクレアだが、確かに自分がはしゃぎ過ぎていたと思ったのでおとなしくエイルの言うことに従った。
執事とメイドに案内されてシルバ達はそれぞれ割り当てられた部屋に移動する。
軍学校では寮で2人部屋の生活をしているため、1人だけで部屋を独占できる感覚は久し振りだろう。
シルバが荷物を置いてベッドに腰かけたところでドアをノックする音が聞こえた。
「シルバ、僕だよ。入っても良いかな?」
「アルか。入って良いぞ」
「お邪魔するね」
来客はアルだった。
1人だけの時間はあっという間に過ぎ去ってしまったが、別に今は1人でいたいと思っていた訳でもないのでシルバはアルを受け入れた。
「内装は僕の部屋とほぼ一緒だね」
「アルの部屋も似たような感じなのか」
「うん。というか、普段2人で部屋を使ってるせいで1人の部屋って落ち着かない」
「アルは寂しがりだもんな」
シルバがそう言うとアルはムッとした表情になりながらもシルバの隣に座る。
「シルバ君は寂しいと思ってくれないんだね。酷いや」
「そう言われても、異界じゃ寂しいとか考えたことなかったからなぁ」
「それもそっか。僕だったら異界じゃ毎日生きるので精一杯だろうし」
「マリアに拾ってもらえたおかげでかなり楽できたけど、今考えると本当にラッキーだったぞ。普通、割災が起きて巻き込まれたら生還できないし」
「だよね」
シルバに寂しがってもらえないのは悔しいけれど、異界での生活を経験したシルバにそれを求めるのは自分勝手だと思ってアルはこれ以上拗ねる真似はしなかった。
その代わりにアルは話題を変えた。
「会長の別荘、使用人がいっぱいだね」
「確かに。アルはお嬢様って言われてあんな仰々しく迎え入れられたい?」
「うーん、息苦しいから要らない。僕は寮みたいに2人の部屋で十分だよ」
「うっかりシャワーを浴びてるところに入らないように気を付けるな」
「いつの話をしてるのさ。まったくもう」
しばらくシルバとアルでのんびり話していると、元気なドアノックが聞こえた。
「クレアよ。シルバ君、入っても良いかしら?」
「どうぞ」
「お邪魔するわね。あら、アル君もいたのね」
「このサイズの部屋を1人で使うのって慣れなくてシルバ君の部屋に遊びに来ました」
アルの言い分にクレアはなるほどと頷いてから本題に入る。
「さて、研究室に一緒に来てちょうだい。さっき話してた通り、調合するところを見せてくれないかしら?」
「そうでしたね。少し休んで暇を持て余してたから行きましょう」
「そう来なくっちゃ」
シルバとアルはご機嫌な様子のクレアに連れられて別荘の研究室へと向かった。
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