第37話 ちわーっす。学生会でーす
シルバ達は拳者研究クラブのクラブ室に入った。
そこは研究のけの字も見えない趣向品が散乱する部屋だった。
「ちわーっす。学生会でーす」
ロウはわざと相手をイラつかせるような間延びした挨拶をした。
「おい、ここをどこだと思ってんだよ?」
「軍学校の一教室。それ以外の何物でもないな」
ロウが当たり前なことをわざわざ質問しないでくれと言わんばかりに肩を竦めながら答えた。
その動作もまた拳者研究クラブのメンバーをイラつかせる。
「てめえ、学生会だからって良い気になってんじゃねえぞ!」
「そうだそうだ! 俺達のバックに誰がいるかわかってんのか!?」
「では、ここで校則を読み上げてみましょう」
「待ってました」
イキるクラブメンバー2人に対し、アルが胸ポケットから取り出した学生手帳を取り出すと、ロウがその意図を瞬時に察して煽る。
「学生手帳にはこうあります。学生会はクラブを視察して実態と報告に大きな乖離が生じている場合、そのクラブに対して指導する義務を持つ。つまり、これは権利どころか義務です。やらなければならないんですよね」
「良い気になってるとかバックがどうとか関係ないんだ。わかりゅ? わかりゅりゅりゅ?」
(ロウ先輩、その顔ウザい)
これでもかというぐらいに煽るロウの顔を見てシルバはイラっと来た。
味方にすらウザいと思われるのだから、煽られた方の感じるウザさは比較できない程だ。
頭に血が上った学生がロウに殴りかかる。
「うっせえんだよ!」
そのモーションはそこそこ戦闘コースの学生としては遅い部類だが、他のコースの学生にしては速い。
ロウはニヤリと繰り出された拳を掴み、ニヤリと笑みを浮かべながらアルに訊ねる。
「アル、学生会の視察を邪魔した時の校則も読み上げちゃってどうぞ」
「わかりました。学生会の視察を拒み、それを邪魔する場合は学生会員は障害を強制的に排除することが認められる。ということは、まさに今の攻撃が邪魔に当たりますね」
(アルとロウ先輩が組むとヤバい。めっちゃ腹黒いな)
シルバはまだ何もしておらず、アルとロウの腹黒い策略を目の当たりにして戦慄しているだけだ。
「うるせえ! こうなったら自棄だ! こいつら全員に俺達の組織力をわからせてやれば良い!」
「ただで帰れると思うな!」
「ヒャア、堪んねえ! 新鮮なサンドバッグだぁ!」
拳者研究という立派なテーマは何処へ行ったのかとツッコみたくなる民度の低さである。
これにはシルバも黙って見ている訳にはいかないため、自分の近くにいる学生から順番に接近して首に手刀を当てて気絶させていく。
「ヒュー♪ かっくいー」
「ロウ先輩、無駄口叩いてないで無力化して下さい」
「わかってるって」
流石にアルが魔法を使うと不味いので、シルバとロウが手分けして
最後の1人を無力化したところで部屋の奥で寝ていた巨漢の学生が起き上がった。
「ふぁ~あ、始末できたのか?」
「誰あの人?」
「シルバ君忘れたの? クラブ説明会でクラブの説明をしてた学生だよ」
「あぁ、なるほど。印象が違い過ぎてわからなかったわ」
「ああ゛ん? なんだよ使えねえな。学生会がピンピンしてやがるじゃねえか」
シルバ達を見てクラブ説明会で発表した学生が苛立ちの表情を浮かべた。
説明会時の人当りの良さそうな印象とは真逆でいかにも悪そうな態度である。
「まったく、真面目に研究もしないで惰眠とクラブ活動費を使ってなきゃ実力行使ありの視察もせずに済んだのに」
「うるせえぞロウ。大体、俺の親父がこの学校に多額の寄付をしてるんだ。それを俺が使ったって問題ねえだろ? 元はと言えば俺の家の金なんだから」
ロウと相手に面識があるようだと気づいてシルバはロウに訊ねる。
「ロウ先輩のお知り合いですか?」
「あいつはB5-1のデイブ=プウェル。シルバと同じく徒手空拳が得意な奴だが素行が悪い。そのせいでまだ
「へぇ、そうですか」
シルバはデイブが自分と同じく素手で戦う学生だと知り、少しだけ興味を持った。
目立った研究発表はないものの拳者研究は5年目なのだから、これで戦えないはずないと思ったのである。
「なんだ1年坊主、俺とやる気か?」
「やりましょう。ここだと寝転んでる学生が邪魔なので外でどうですか?」
「よし、それならこうしよう。ウチのシルバに勝てたら見逃してやる。だが、デイブがシルバに負けたら拳者研究クラブは廃部だ」
「なんでてめーが仕切ってんだよ?」
「お前等はやり過ぎた。各クラブから拳者研究クラブに対する不満をはじめ、色々とこっちにはカードがあんだよ。つまり、デイブには拒否権がない。おわかり?」
「チッ、クソが。わーったよ。衆人環視の中で1年坊主をコテンパンにしてやる」
(ロウ先輩、もしかしなくても俺達なしで拳者研究クラブ潰せたよな?)
シルバはデイブがおとなしく従ったのを見てロウだけでも拳者研究クラブをどうにかできたのではないかと思った。
アルもそう思ったらしく、シルバと視線が合った時に同感だと頷いて見せた。
その後、シルバ達は校庭に出てシルバとデイブは向かい合った。
周囲にはシルバとデイブが戦うと知って学生達がクラブ活動を中断して集まっている。
アルは予想以上に人が集まったことにもロウが何かやったのではとジト目を向ける。
「ロウ先輩、これは大事にし過ぎではないですか?」
「そんなことないぞ。これぐらい学生が集まった状態で完膚なきまでにぶちのめさなきゃ、デイブとその父親を黙らせることはできない」
「デイブ先輩の父親の階級はなんですか?」
「
「そんな相手をいきなり1年生のシルバ君にぶつけるんですね。ロウ先輩が戦えば良いのに。なんで戦わないんですか?」
「ひ・み・ちゅ♡」
イラっと来たアルは無言で魔法を放つ準備をする。
「それは不味い! マジで不味いから! 理由は今だと説明できないんだ! 後でちゃんと説明するから落ち着いてくれ!」
「おい、そこ! 俺達を放ってお喋りとは良い度胸だな! さっさと開始の合図を出せ!」
痺れを切らしたデイブの声が聞こえると、逃げ出すチャンスが来たとロウはその流れに乗ってアルから逃げた。
「悪い、熱心な後輩の質問を無視できなくてな。それじゃ、シルバVSデイブの模擬戦を3カウントで始めるぞ。 3,2,1,始め!」
ロウが開始と言った瞬間よりも僅かに速く、デイブは砂を蹴ってシルバに目潰しを仕掛けた。
「汚い!」
「卑怯だぞデイブ!」
観戦している学生達からデイブを避難する声が上がるが、デイブは全く気にも留めずにシルバに駆け寄る。
ところが、砂を蹴った方向には既にシルバがいなかった。
「どこだ!? どこに行った!?」
「肩の上ですが何か?」
キョロキョロとシルバを探すデイブの質問に答えたシルバはデイブの右肩の上に着地したところだった。
シルバが何をしたのかと言えば、フライングしたデイブの砂かけを大きく跳躍して躱し、そのまま前方宙返りしてデイブの右肩の上に着地したのだ。
「クソッ、1年坊主の分際で俺を見下ろすな!」
デイブはその場で横に回ってシルバを振り落とそうとするが、その挙動を察知したシルバはデイブが回り始める前にはデイブの肩から飛び降りていた。
「フライングで砂かけする卑怯なデイブ先輩、その程度ですか?」
「言わせておけばぁぁぁぁぁ!」
シルバにズバリ言われて言い返せないデイブはシルバに対してラッシュを仕掛ける。
「肆式:
シルバもデイブのラッシュに応じるようにラッシュを繰り出した。
属性付与を施さなかったのは舐めプしている訳ではなく、そうする必要がなかったからだ。
実際、基本の型のままでもシルバはデイブのラッシュを完全に押し返している。
そして、デイブが押し負けてバランスを崩したところに接近して前蹴りを入れれば、それがデイブの腹に当たって後ろに転んだ。
「デイブが転んだ?」
「あのデブ、じゃなくてデイブが?」
「これは勝つる!」
「良いぞシルバ!」
「やっちゃえシルバ!」
シルバが優勢だと知った周囲の学生達が騒ぎ立てると、すぐに立ち上がったデイブがキレる。
「うるせえ! 外野は黙ってろ!」
「研究の成果は見せてくれないんですか?」
シルバは余裕のなさそうなデイブを精神的に追い込む。
どうやらシルバは肉体的だけではなく精神的にもデイブを打ち負かすつもりらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます