第15話 俺のことはどーだって良いんですよ
入学初日の夜、職員室では各コースの教師達がコースの1学年ごとに職員会議を開くことになっていた。
既に始めているコースもあり、B1-2の担任教師がポールに声をかける。
「ハワード先生、私達も会議を始めましょう」
「仕方ないからやるかー。まずは初日を終えて報告すべきことをそれぞれ報告してくれ。5組から頼む」
「わかりました。5組ですが、例年に比べて前向きな学生が多いですね。去年は一番下のクラスが初日から教室内が沈んでたと聞きましたが、今年は挽回してやるという気概が見受けられます。1組のシルバ君が
「4組は挽回してやるというよりはすごい同年代がいるとテンションが上がってる感じでしたね。食堂の大食いチャレンジの話にはしゃぐ学生がいました。以上です」
「3組はマイペースな学生が多かったですね。シルバ君の話題もあったようですが、校内見学であちこちに興味を持ってました。」
「2組は主席のシルバ君と次席のアル君以外と自分達の差はそんなにないはずと気合が入ってました。新人戦に向けてビシバシ鍛えてほしいと学生に頼まれて良い意味で驚きました。以上です」
5組から2組まで順番にてきぱきと報告が行われ、残すはポールの報告だけである。
「最後は1組だな。シルバとアルが目立ってるが、それ以外も癖の強そうな奴等だ。面倒事がすぐに起きそうなクラスで困ってる。以上」
「ハワード先生、もうちょっと真面目な報告をお願いします」
「えー。わかりやすく手短に説明したんだが」
B1-2の担任教師がポールに注意した。
彼女の注意にB1-3~B1-5の教師達もうんうんと頷いている。
戦闘コース1学年の教師陣はポールを除いて全員が
ポールだけが
そうでもなければ面倒臭がりなポールがB1-1の担任になることはないだろう。
1組の様子がもっと知りたい2組以下の担任の教師達は、ポールからはきはきとした報告を求めても仕方ないので質問に回答してもらう形式で報告を続けてもらった。
「シルバ君は入学試験で複数の属性を使ったそうです。彼はどんな属性が使えるか言ってましたか?」
「言ってねえな。戦闘スタイルは殴る蹴るってだけしか聞いてねえ」
「そうですか・・・」
質問した教師は肩を落とした。
これはポールが適当に答えたのではなく、シルバが本当にそう自己紹介したと思っているからだ。
ポールは面倒臭がりだが他人の話をちゃんと聞くし、観察もしっかりしている。
それは見逃したことや聞き逃したことを再度見たり訊いたりするのが面倒だからだ。
大抵のことは1回で覚えられるぐらいには優秀なのだ。
そうでもなければ、ただの面倒臭がりに<
質問がいくつも飛び交ったことにより、ポール以外の教師達は困った表情になった。
「シルバ君は殴る蹴るが得意で大食いってことしかわかりませんね」
「あれだけ優秀なら有名なのかと思えばそうでもないですし」
「一体彼は何処から来たんでしょうか」
「サタンティヌス王国ですかね?」
4人が腕を組んで困っていると、ポールがぺこりと頭を下げた。
「校長、先程はどうも」
「いや、私こそホームルーム前にすまなかったな」
「「「「校長先生!?」」」」
ポールは誰に対してもほとんど態度を変えないからわかりにくいが、校長である
普通なら
つまり、ジャンヌへの態度として一般的なのは4人の教師の方だと言える。
おどおどしている4人に代わり、ポールはジャンヌに質問した。
「校長、シルバのことを調べてましたよね。何か彼についてわかったことはありますか? 他の組の先生に質問攻めにされてるんですが、俺にはわからないことだらけなんですよねー」
「ふむ。シルバについては私にもわからないことの方が多い。特徴的な訛りもなければディオス以外で目立つ真似もしてない。新入生を迎えるこの時期にフラッと現れて賞金首を2人捕まえ、戦闘コースの試験で前例のない結果を叩き出した。隣国の密偵である可能性も考慮したが、密偵なら入学にあたって目立つ真似はしないだろう」
ディオニシウス帝国はエリュシカ各地にある国に密偵を放っている。
それは他国も同様だが、シルバのように目立つ者は人選から最初に外れる。
平均的な力量を演じて無難に事を運ぶのが一般的な密偵だからだ。
その裏をかいて敢えて目立つ者を送り込むという選択もないとは言えないが、これから常に注目を浴びることになると考えれば密偵をするには不安要素が大きい。
「ですよねー。筆記試験を解くのも滅茶苦茶速かったですから。シルバは5分で解き終えて5分じっくり見直ししてました。しかも、今じゃ失われたと言っても良い理論を完成してます。噂を聞き付けた戦術コースの教師がシルバを譲ってくれって言うぐらいですから」
「それほどか。珍しくハワードがちゃんと問題を作ったと報告があったから、難易度はかなり高かっただろうに大したものだ」
「いやー、入学できる学生の数が減れば俺も楽できるんじゃないかと思って気合を入れたんですけど、その筆記試験を満点で突破されたら敵わないですねー」
ジャンヌとポールのやり取りを聞いて教師4人がどういうことだと首を傾げていた。
その反応からジャンヌはポールのすごさをこの4人が理解できていないと察して補足してやることにした。
「そうか、貴様等は知らなかったようだな。ハワードはこの学校を首席で卒業しただけでなく、ディオス近郊で起きた第二次大割災で異界から溢れ出たモンスターを最初に発見してから援軍が来るまで1人で耐え凌いだ影の英雄だぞ」
「「「「え!?」」」」
「止して下さいよ。俺は英雄なんて柄じゃないんです。軍でそこそこの地位になったらダラダラしようと思ってただけですよ」
「こんなことを言うものだから、私がこの軍学校を任された時に引き抜いて来た」
ジャンヌの言葉を聞いて信じられない気持ちの方が強い4人だったが、それはジャンヌの言葉が嘘だと思うことに他ならない。
<
そもそも、ポールはやる気のなさが滲み出ているが、ビシッと決めれば十分イケオジと呼べるルックスをしている。
4人の中には30歳に乗った未婚の者もいたため、ポールをなんとしてでも落としてやると目に火が灯った者がいた。
だが、ジャンヌの前でモーションをかけるような愚かな真似はしない。
どうにか2人きりのタイミングを設け、そのチャンスを狙うつもりである。
そんな女性教師のことは置いといて、ポールが話題をシルバに戻す。
「俺のことはどーだって良いんですよ。シルバのことに戻りましょう。シルバはモンスターをよく知ってます。俺が知らないことも知ってました。俺はシルバが異界からやって来たと言われても信じますね」
「異界に人が行ったと公式に記録に残ってるのはマリア様だけだ。マリア様が異界に行ってから数十年の間、割災が起きてもモンスターが異界から現れる数は目に見える程減った。それが再び増え始めたことから、マリア様がお亡くなりになられたというのが通説だが真相はわかるまい」
「ソッドに聞いた話と文献で読んだ話を照らし合わせてみると、シルバの戦闘スタイルはマリア様と共通点が多いですよねー。ただし、マリア様に憧れてマリア様の弟子を名乗る者も過去には多く現れましたから本当のところはシルバに聞かなきゃわからりません。俺も色々調べてみますが、興味があるなら直接訊ねた方が手っ取り早いでしょうね」
「そうだな。今日は
本人のいない所でシルバがジャンヌに呼び出されることが決まった瞬間だった。
同じタイミングでシルバは学生寮の部屋で盛大なくしゃみをかましたが、それはお約束というものである。
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