第2章 拳者の弟子、新人戦に臨む

第16話 規則正しい生活を送りながら修行すれば良いんだ

 入学翌日、シルバ達B1-1の10人はホームルーム中にポールが気怠そうに話した内容に目を丸くした。


「ポール先生、今なんておっしゃいました?」


「タオ、同じことを2回言わせんなよー。お前等に属性検査キットを使うって言ったんだ」


「失礼しました。聞き間違えたと思ったんです。でも、どうしてポール先生が属性検査キットを手配できたんですか? あれって最近実用化されたばかりで数が少ないって聞いたんですけど」


「それはほら、あれだ・・・。コネってやつだ」


「ポール先生すごい! やる気ない見た目なのに!」


「ポール先生すげえ! 死んだ魚みたいな目なのに!」


「おい、メイとウォーガンは廊下に立ってても良いんだぞー」


「「ごめんなさい!」」


 メイとウォーガンがうっかり本音を口にすると、ポールは怠そうに2人の失礼な発言を注意した。


 廊下に立つ=属性検査キットを使わせてもらえないという等式が成り立つので、メイとウォーガンはすぐに自分が悪かったとポールに謝った。


 軍学校において担任教師とはクラスに所属する学生の上官と同義だ。


 上官を馬鹿にすることは軍では許されていない。

 

 これがポールだから廊下に立たせるぐらいの脅しで済んだけれど、他の教師であれば2人を退学にしようとする者もいるだろう。


 ポールは2人が入学2日目だからとやり直すチャンスをあげるために見逃した訳ではなく、ただ単に退学手続きが面倒だから適当に流しているだけだ。


 慈悲深いのではなく怠惰なのがポール=ハワードという男である。


 メイとウォーガンがポールに謝った後、ポールは属性検査キットを順番に渡していく。


 属性検査キットとは8つの穴が開いた金属製の棒の見た目をしている。


 この棒に魔力を流し込むと、流し込んだ者の相性が良い属性に対応する穴が属性を表す色で光る。


 火属性は赤。


 水属性は青。


 風属性は緑。


 土属性は茶色。


 氷属性は水色。


 雷属性は黄色。


 光属性は白。


 闇属性は黒。


 以上8属性は光の強さで魔力を流した者の適性の順位も調べられる。


 ポールが属性検査キットを教室に持ち込んだのは、勿論シルバについて情報を集めるためだ。


 校長のジャンヌがシルバを呼び出して直接何者か訊ねるつもりなのはわかっているが、ポールも自分にできる範囲でシルバについて調べようとしている。


 正直面倒だと思っているけれど、シルバに関する情報を知るチャンスがあったのに逃して後で面倒事に巻き込まれるくらいなら先に面倒でも調べてやろうと思ったのだろう。


 怠惰でいられるようにするべく勤勉であることは矛盾しているが今は棚上げしよう。


 クラスメイトが属性検査キットを使えることに騒がしくなっている中、シルバはそんなに期待していなかった。


 (マリアが俺の属性を調べてくれたから知ってるんだよなぁ)


 シルバが期待していない理由がこれだ。


 異界で【村雨流格闘術】を会得するにあたり、シルバは自分の属性をマリアに調べてもらっていた。


 それゆえ、まさか新しい属性の適性が出るとは思っていないので期待していない。


「よし、全員キットを手に持ったな。既に自分がどの属性を使えるかわかってる奴もいると思うが、眠ってる力が見つかるかもしれねえからちゃんとやれ。じゃあ、魔力を流せー」


 ポールが合図してすぐに10人の学生が一斉に属性検査キットに魔力を流した。


 その結果は以下の通りである。


 8人の学生が1属性のみの適性だった。


 サテラは赤なので火属性。


 タオは青なので水属性。


 ヨーキとソラは緑なので風属性。


 リクとウォーガンは茶色なので土属性。


 ロックは水色なので氷属性。


 メイは黄色なので雷属性。


 アルは自己紹介で言った通り、赤と茶色だったので火属性と土属性である。


 ただし、赤の方が僅かに光の輝きが強いことからアルは火属性の方が得意なようだ。


 他のクラスメイトはさておき、肝心のシルバはと言えば青と水色、黄色が同じぐらい輝いていたが、それ以外にもうっすらとだが白い光が灯っていた。


 (ん? 俺ってば光属性にも適正あったの?)


 想定外の事態にシルバは驚いていた。


 その一方、ポールとアルはシルバの結果に注目していて違う意味で驚いていた。


「おいおい、マジかよー。絶対面倒なことになるじゃん」


「シルバ君、4つも使えたんだ・・・」


 ポールはシルバの実力を少しでも明らかにできれば良いと思って属性検査キットを用意したが、この結果は完全に想定外だったようだ。


 4属性に適性があるということは、世間に知られていない全属性に適性のあるマリアを除いて使える属性の数が世界一の記録に並んでいる。


 しかも、使用者の少ない属性に複数適性があるとなれば驚くしかない。


 8つの属性の適性者の数は火、水、風、土>氷、雷>光、闇の順になっている。


 シルバの場合、水属性が使えるのは特に珍しくないが氷属性と雷属性、光属性も使えるのがとても珍しい。


 レア属性を3つも使える者はマリアを除いて歴史上には存在しないので、ポールはそれを知っていたから面倒になると口にしたのだ。


 アルはシルバが戦っているところを見たことはあったが、シルバが複数の属性を使えるとは知らなかったので驚いた。


 殴る蹴るがメインにもかかわらず、自分よりも使える属性の数が多くてレアだと知れば驚かずにはいられないだろう。


 ポールが面倒事になる未来を予想して遠い目をしているのに対し、アルはシルバに頬を膨らませながら話しかけた。


「シルバ君、どうやったら4属性も使えるようになるのさ」


「規則正しい生活を送りながら修行すれば良いんだ」


「それで4属性使えるようになれば苦労しないからね!?」


「まあまあ。落ち着こうぜアル」


 ツッコミを入れるアルをシルバは苦笑しながら落ち着かせた。


 実際のところ、シルバには自身が複数の属性を使える理由に心当たりがあった。


 それはモンスターの肉を食べ続けることである。


 正確には、モンスターの肉を食べることで体内の魔力量を増やすことで新たに属性の適性が得られるのではないかと考えている。


 マリアは長い間異界でモンスターを狩っては食べる生活をしていたから全属性を使えるようになり、シルバも少しの間だがその生活に付き合ったので新たに光属性の適性が僅かに生えたという考えだ。


 しかし、マリアの話を出すと面倒なことになるから、シルバは彼女との狩りや修行の詳細については内緒にしている。


 そこに自分の属性を確認した他のクラスメイト達の注目が加わる。


「くっ、紙一重で使える属性の数も敵わなかったか」


「ヨーキは風属性しか使えないじゃん。随分と厚い紙一重だよね」


「そ、それは言っちゃいけないでしょ」


 サテラに即座にツッコまれてヨーキは反論する。


  (ヨーキ達が騒がしくしたせいですっかり目立っちゃってる)


 やれやれだとシルバは苦笑いした。


 その頃にはポールも現実逃避から戻って来ていた。


「オホン。えー、属性検査キットを使用したことは他クラスには黙っておけ。自分達のクラスも使いたいって言われたら困るからよろしくー」


「「「・・・「「はい!」」」・・・」」


 ポールの注意事項を聞いて各々力強く返事した。


 それを確認すると、ポールは一旦トイレ休憩の時間を設けると言って教室の外に出て行った。


 ポールがいなくなれば、B1-1の学生達は立ち上がってシルバとアルを囲い込む。


「良いな~。複数の属性が使えるって良いよな~」


「シルバ、規則正しい生活って何? 早寝早起き?」


「三食しっかり食べること?」


「「三食昼寝付き?」」


「「「・・・「「それは違う!」」・・・」」」


 ソラとリクの口にした意見は労働条件に書かれていそうな文言だったから、この2人の言葉に対してクラス総出でツッコんだ。


 その直後に校内放送が聞こえて来た。


『B1-1のシルバ、至急校長室まで来なさい。繰り返す。B1-1のシルバ、至急校長室まで来なさい』


 校内放送が終わるアルが心配そうな表情でシルバに訊ねる。


「シルバ君、今度は何をやったの?」


「何もやってない。というか昨日学生寮で泊まってからここに来るまでずっと一緒にいたじゃん」


「そっか。じゃあ校長先生がシルバと話したいだけなのかも」


「何故?」


「期待の新入生だからじゃない?」


「どうだろうな。とりあえず、校長先生を待たせるのも良くないから行って来る」


「行ってらっしゃい」


 シルバは席を立って校長室へと向かった。

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