第268話 それは魅力的な提案ね。だが断る
翌日、マリアがシルバ達の前にそれぞれのマジフォンを持って来た。
「はい、頼まれてた研究が完成したわ。割災予報機能とモンスター図鑑機能をマジフォンに追加したわよ」
「ありがとう。ん? ちょっと待った。モンスター図鑑機能って何?」
「私の知り得るモンスターの知識をまとめたデータよ。カメラにモンスターを映せば、内蔵されてるデータから該当のモンスターの情報が表示されるの。シルバなら、ディオニシウス帝国の城の禁書庫でモンスター学を見たことがあるでしょ? ざっくり言ってあれと同じよ」
マリアがしれっととんでもない機能を追加していたので、シルバ達が一瞬フリーズした。
いち早く復帰したのはシルバであり、気になったことがあってそのまま訊ねる。
「割災予報機能だけでもかなり負担になるのに、モンスター図鑑機能なんて追加したら容量が足りなくなるんじゃね? 赤魔水晶じゃキャパオーバーでしょ」
「そうね。マジフォンの魔力回路に無駄があってイケてなかったから、私の方で効率化したわ。それでも赤魔水晶だとギリギリの容量で画面遷移が重くなるだろうから、私の貯め込んでた黒魔石をコンバーターで黒魔水晶に変換して交換したの。これで万事OKよ」
「流石マリア。俺達にできないことを平然とやってのける」
「フッフッフ。私にかかればチョロいもんよ」
頼み事をしてみたら、しれっとその200%以上の成果を出して来るマリアにシルバは戦慄した。
マリアはやってやったぜと言わんばかりにドヤ顔である。
そこにフリーズから立ち戻ったアリエルが質問する。
「あの、モンスター図鑑機能って僕達でも追記できるんですか?」
「勿論できるわ。しかも、モンスター図鑑機能を起動させた状態でマジフォン同士を重ね合わせれば、お互いのマジフォンが同期してモンスター図鑑の内容が更新されるようにしたの」
「控えめにいって
「そうね。それぐらいの価値はあるはずよ。それに、私のマジフォンとシルバ達3人のマジフォンだけ改良したから、他のマジフォンと比べたらその優秀さがわかるはずよ」
「これは極秘案件に認定ですね。この場にいる者達だけの秘密にしましょう」
アリエルの提案に首を横に振る者は誰もいなかった。
シルバはモンスター図鑑機能が気になったため、膝の上で自分の強さを知りたそうにしているレイについてこの機能を使って調べてみた。
カメラでレイを映してみると、ニーズヘッグ希少種と表示されてシルバとマリアの知識を基とした情報がマジフォンの画面に表示された。
-----------------------------------------
名前:レイ 種族:ニーズヘッグ(希少種)
性別:雌
-----------------------------------------
HP:A
MP:A
STR:A
VIT:A
DEX:A
AGI:A
INT:A
LUK:A
-----------------------------------------
スキル:<
<
<
<
状態:健康
-----------------------------------------
(レイの力や状態を可視化できるのか。これは便利だ)
シルバはモンスター図鑑の機能を具体的に知って感心した。
ちなみに、各種項目の詳細は以下の通りである。
HPはHit Point(ヒットポイント)で体力を意味し、睡眠と食事で回復する。
MPはMagic Point(マジックポイント)で魔力を意味し、睡眠、食事、時間経過で回復する。
STRはStrength(ストレングス)で力を意味し、攻撃力と置き換えられる。
VITはVitality(バイタリティ)で生命力を意味し、防御力と置き換えられる。
DEXはDexterity(デクステリティ)で器用さを意味する。
AGIはAgility(アジリティ)で敏捷性を意味し、素早さと置き換えられる。
INTはIntelligence(インテリジェンス)で知力を意味する。
LUKはLuck(ラック)で運を意味する。
以上の項目は下から順にG,F,E,D,C,B,A,Sの8つのランクで評価される。
レイで言えば、総合的に上から2番目の力を有しているとモンスター図鑑で判断されている。
「よしよし。レイは流石だな。立派だぞ。ゴールド級モンスターの中じゃ間違いなく最強クラスだ」
『エヘヘ。せも、まだ上がいるんだね。目指せレインボー級最強だよ』
「この先どうせレインボー級モンスターとも戦うだろうから、虹魔石も食べてどんどん強くなろうな」
『うん!』
レイは向上心のある従魔だった。
それは自分のためでもあるけれど、何よりもシルバと肩を並べて戦える強さが必要だと思っているからに他ならない。
マリアもシルバのマジフォンを覗き見て、レイの情報を知ってからその頭を撫でた。
「これからもシルバをよろしくね、レイちゃん」
『レイにお任せだよ♪』
「マリアってレイのこと好きだよな」
「だってレイちゃんしか頭を撫でさせてくれないんだもの」
マリアが不満気に言うのと同時に、マリナとリトが視線を彼女から逸らした。
マリナもリトも強くなっているのは間違いないけれど、本能的にマリアに対する恐怖が拭えないようだ。
レイが2体と違ってマリアに頭を撫でさせている理由だが、それはシルバの師匠だからである。
マリアがシルバの師匠ならば、シルバの従魔である自分に酷いことをするはずないという信頼の仕方なのだ。
それから、シルバは本来最初に確認するべき割災予報機能を確認する。
「マリア、元々の割災予報機とマジフォンの予報機の両方が鳴ったら騒がしくなるよな?」
「そう言うと思ったから、貴方達に改良したマジフォンを持って来る前に割災予報機を第一騎士団の部屋に移動させといたわ。貴方達はマジフォンで確認できるから、設置型の割災予報機は第一騎士団に渡しちゃって良かったでしょ?」
「助かる。これでサイモン達が今まで以上に迅速に動けるはずだ」
これまでは割災予報機をシルバ達が確認し、その結果によって連絡すべき騎士団長に必要な情報を連携していた。
しかし、これからは第一騎士団がその仕事を引き継ぎ、割災が発生していない場所の騎士団にも情報が行き渡るようにする。
この運用変更によってシルバ達の業務負担が減り、第一騎士団とそれ以外の騎士団の結びつきが強まる。
各種騎士団は基本的に自分達が守るべき街のことしか考えておらず、独立している状態だった。
それが割災予報の伝達をきっかけとして改善されれば、街を跨って対応すべき何かが起きた時に情報連携のスピードが上がり、各騎士団の被害も事前情報のおかげで軽減されるだろう。
「ところで、マリアって俺達以外と会う時に仮面で姿を隠してるけど、
マリアは常識的に考えて死んでいてもおかしくない年齢だから、全盛期の外見をキープしたままで姿を見せると騒ぎになる。
自らその可能性に思い当たったマリアは、シルバ達以外の者と会う可能性があれば仮面をつけるようになった。
確かにそれによってマリアが拳者マリアだと気づかれず、ただのマリアだと認識してもらえるようになったのは間違いないが、仮面姿のマリアを見ると不審者っぽく思ってしまうのは事実だ。
それゆえ、シルバはマリアが<
「それは魅力的な提案ね。だが断る」
「なんで?」
「私の顔は誤魔化すだなんてとんでもない。これでも帝国時代は求婚者が絶えない美人拳者って有名だったんだからね!」
「ふーん」
シルバはマリアが自信満々に言うのをどうでも良さそうに反応した。
その反応はいただけないと思い、マリアがシルバの認識できない速さで接近して抱き締める。
「いきなりなんだよ!?」
「ほれほれ~。美人にハグされて嬉しいって言え~」
「面倒くさっ! マリア面倒くさっ!」
マリアが美人なのは間違いないのだが、長らく異界にいたせいで人との距離感がバグってしまっている。
シルバの頭の中で残念美人という言葉が浮かんだけれど、それを口にすればデコピン待ったなしなので絶対に口にしなかった。
そんなわちゃわちゃしている時、シルバ達のマジフォンから警報が鳴った。
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