第269話 おい、デュエルしろよ

 マジフォンの割災予報機能による警報が鳴り、シルバ達は各々の端末の画面を確認する。


「今回はウェスティアの西の海か。面倒だな」


「海じゃ第二騎士団じゃ太刀打ちできないね。船で向かっても、シルバー級以上のモンスターに集団で襲われたら壊滅するでしょ」


「あの、海上か海中かはわかりませんが、そこに穴が開いても水棲型モンスターがそこに現れるとは限らないのではないでしょうか?」


 アリエルの話を聞いて、エイルがそもそもの疑問を口にした。


 もしも海上や海中に陸地に生息するモンスターが突撃したとして、泳げるモンスターはほとんどいない。


 勝手に溺れて死ぬのではないかとエイルが思うのも当然だろう。


 だが、そう事は上手く進まないのだとマリアが首を横に振りながら口を開く。


「残念だけど、割災で生じる穴はエリュシカと異界である程度関連性があるの。原理まではわからないけど、水棲型モンスターがいる場所で穴が開いた場合、その穴が通じるのは水辺ばかりよ。陸地で暮らすモンスターの場合も、生じた穴の向こう側は陸地なのよね」


「・・・そうでしたか。残念です」


「というより、マリアでも割災の原理はわからないんだな」


「シルバ、いくら私が完全無欠最強無敵でもなんでもは知らないのよ」


 (そこまで自分に自信があるとかヤバい。まあ、ビッグマウスじゃないんだけど)


 シルバはマリアが言い切ったのを見て戦慄するが、自信満々なのも頷けるぐらいには実績があるので否定できなかった。


 とりあえず、シルバ達は第二騎士団に海岸で待機と命じてからシルバとマリナの背中に乗って現地へと向かった。


 海に着水しても泳げるのはヴィーヴルのマリナだけだから、シルバ達は現地では海からある程度高度を上げた位置で滞空した。


『エイル、割災が起きる前に海中の様子を見て来ても良いですか? 本番で邪魔する者がいないか確かめたいのです』


 マリナの言い分はもっともだったので、エイルは首を縦に振った。


「構いませんよ。ですが、20分以内にちゃんと戻って来て下さいね」


『わかりました。それでは行ってきます』


 20分後には割災が起きるとわかっているから、エイルはマリナに20分以内で必ず戻るように指示を出した。


 エイルはレイの背中の上に移っていたため、マリナは心置きなく単身で海の中に潜った。


 海中で<水魔法ウォーターマジック>が使えるマリナはいつもよりも地の利がある。


 だからこそ、マリナは15分でこの近辺の海を一泳ぎしてエリュシカに紛れ込んでいたモンスターを屠って戻って来た。


 再びマリナが海面に姿を見せた時、その口にはコバンザメのようなモンスターを咥えていた。


 既にマリナによってとどめを刺されており、そのモンスターはぐったりしていた。


「レモラか。シルバー級モンスターだな」


「ピヨ!」


『わかってますよ。この者の銀魔石はリトに差し上げましょう』


「ピヨ~」


 マリナからレモラの銀魔石を貰えると知り、リトはピヨピヨ言いながら頭を下げた。


 リトのパワーアップが終わったところで割災が起きた。


 しかし、シルバ達が周囲を見渡しても異界に通じる穴は見当たらない。


「「海中だ」」


 シルバとマリアの言葉が被った。


 その直後に派手な水飛沫を上げて巨大な烏賊が姿を現した。


「あれはクラーケンね。また随分とデカいのが現れたじゃないの」


 マリアにとっては既知の存在でも、シルバ達にとっては未知の存在だったから、それぞれがマジフォンのモンスター図鑑機能でクラーケンについて調べ始めた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:クラーケン

性別:雄  ランク:ゴールド

-----------------------------------------

HP:A

MP:A

STR:A

VIT:A

DEX:B

AGI:B

INT:A

LUK:A

-----------------------------------------

スキル:<水魔法ウォーターマジック><射墨インクショット><狂化バーサクアウト

    <念話テレパシー><自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

状態:興奮

-----------------------------------------



 (<念話テレパシー>はあるけど<狂化バーサクアウト>がなぁ・・・)


 話ができるぐらいには知性があるはずなのに、狂ったように暴れることでその知性を捨てるだろうクラーケンを見てシルバの顔が引き攣った。


 そんなシルバの気持ちも知らずにクラーケンがシルバ達に話しかける。


『おい、デュエルしろよ』


「そのセリフを吐くならデッキを持って出直して来なさい!」


 マリアがレイの背中から飛び降り、空を駆けてクラーケンにデコピンをお見舞いした。


 その結果、体のサイズは明らかにクラーケンの方が巨大にもかかわらず、クラーケンは10m程後ろに飛ばされた。


 マリアがレイの背中の上まで戻って来ると、アリエルとエイルが彼女をドン引きした目で見ていた。


「あれ、なんで2人に引かれてるのかしら?」


「そりゃクラーケンをただのデコピンで吹き飛ばしたらそうなるだろ」


「そう? ゴールド級モンスターって言っても、こいつはただのイキリ野郎だもの。デコピンで充分よ」


 マリアのあんまりな評価は捨て置けないらしく、体勢を立て直したクラーケンが抗議する。


『貴様、訂正しろ! 俺をイキリ野郎呼ばわりとは言語道断だ!』


「ほらね? イキリ野郎でしょ?」


「そうだな」


 マリアとの実力差もわからずに生意気なことを言えるのだから、このクラーケンは間違いなくイキリ野郎である。


 クラーケンが大波ビッグウェーブを発動してシルバ達を海に引きずり込もうとするので、シルバがやれやれと愚痴をこぼしながらレイの背中から飛び降りて対応する。


「肆式雷の型:雷塵求!」


 シルバが気合を入れて雷を纏った両腕でラッシュを放てば、大波ビッグウェーブはその衝撃で吹き飛んだ。


 それだけに留まらず、海水を伝って雷がクラーケンまで届く。


『ぬぉぉぉ! なんのこれしきぃぃぃぃぃ!』


 最初の余裕は何処へ行ったのか、クラーケンは<自動再生オートリジェネ>でダメージを受けながら回復して持ち堪えた。


 それだけで流行られる一方なので、<狂化バーサクアウト>の発動も忘れない。


『URYYYYY!』


 <念話テレパシー>でシルバ達に伝わって来るのは、クラーケンの狂った闘争心だけだ。


 クラーケンが自分以外全て敵だと言わんばかりに水弾乱射ウォーターガトリングを放ち始めるが、シルバは空を駆けて躱しながらクラーケンと距離を詰める。


 クラーケンは射程圏内に入ったシルバを叩き落とすべく、10本ある足を鞭のように振るう。


 【村雨流格闘術】の使い手を前にして、隙の大きい物理攻撃を振るうなんてナンセンスだ。


「參式:柳舞」


 シルバはクラーケンの触手を巧みに受け流しながら進み、殴り飛ばせる距離まで到達した。


 それは本能的に不味いと察したのか、クラーケンが目潰しを狙って<射墨インクショット>を発動する。


『それはさせないよ!』


『ぬぁっ!? 目がぁ! 目がぁぁぁぁぁ!』


 レイが反射領域リフレクトフィールドでシルバを守れば、吐き出した墨が自分の顔に跳ね返ってクラーケンが叫んだ。


 自分の墨で自分の目を塞がれるなんて間抜けとしか言いようがない。


「肆式氷の型:氷点穴」


 シルバにツボというツボを突かれてしまい、クラーケンの体は徐々に氷に覆われていく。


 <自動再生オートリジェネ>は発動しているけれど、ツボを突かれたせいでその効果が十全に発揮されず回復ができないため、氷に覆われまいと抗おうにも抗えないのだ。


 数秒の内にクラーケンの体温が低下し、その活動が余計に鈍くなってしまい、30秒経った時にはすっかり全身カチコチに凍えたクラーケンの姿があった。


 周囲に敵の姿が見つからないので、シルバはささっとクラーケンの体内から金魔石を取り出す。


「レイ、こっちおいで! 金魔石だぞ~!」


『今行く~!』


 レイはシルバがクラーケンの魔石をくれるとわかり、大喜びでシルバの近くまで移動した。


 クラーケンの体を<虚空庫ストレージ>にしまった後、レイはシルバの手から金魔石を食べさせてもらった。


『ご主人、光鎖ライトチェーンを会得できたよ!』


「捕縛や移動阻害、運搬にも使える便利な技だったな。すごいぞ」


『エヘヘ』


 光鎖ライトチェーンは様々な場面で使えることから、シルバはレイが更に頼りになったと喜んだ。


 レイもシルバに喜んでもらえてご機嫌である。


 そこに海中の見張りをしていたマリナが合流する。


『大変です。海中であるモンスターが暴食の限りを尽くしてます』


 クラーケンを倒したにもかかわらず、まだまだそれと同等あるいはもっと強いだろう敵の出現を知ってシルバ達は溜息をついた。

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