第12話 食える時に食えってのが俺の信条でね
ポールに連れられたB1-1の学生達は食堂にやって来た。
まだ他の1年生のクラスは来ておらず、2年生以上の学生が各々好きな席に座って昼食を取っていた。
「おい、あれがB1-1らしいぞ」
「今年の主席は行商人殺しと受験生ハンターを捕縛したらしいわ」
「1年生が賞金首を倒したのか。やるじゃん」
上級生達は食堂にやって来たシルバ達を見てひそひそと話す。
それが耳に入ったのかアルがシルバに声をかける。
「シルバ君はすっかり有名人だね」
「興味ないね。そんなことよりも見ろよあれ」
シルバは上級生の噂話を雑音だと割り切り、食堂の掲示板に貼られたポスターを指差した。
「え~っと大食いチャレンジ?」
「そう。30分で食べ終えたら無料だってさ」
「うわぁ・・・。あれって5,6人で食べるやつじゃないの? 完食できなかったら3,000エリカだって」
「やってみるかな」
「本気?」
「勿論」
アルの質問にシルバは力強く頷く。
そこにヨーキが加わる。
「俺もやるぜ!」
「ヨーキも?」
「おう! 大食いなら主席に勝てるかもしれねえだろ?」
「良いだろう。返り討ちにしてやる」
シルバとヨーキはニヤリと笑って食堂のおばちゃんに大食いチャレンジを注文した。
「あいよ。今年も威勢の良いのが入ったね。この番号札を持って席で座ってな。準備ができたら持ってくから」
食堂のおばちゃんもチャレンジャー2人を見てニヤリと笑った。
シルバとヨーキはそれぞれ12番と13番の番号札を貰って空いている席に座った。
その後にソラとリクも14番と15番の番号札を持ってシルバ達の隣に座った。
「お前達も大食いチャレンジ?」
「肯定。楽しみ」
「肯定。空腹」
「大丈夫かなぁ」
アルは無難に日替わりランチをトレーに乗せて4人に合流した。
少ししてから食堂のスタッフがシルバ達の大食いチャレンジの料理を持って来た。
それは巨大パフェのように見えて全く異なる物だった。
器の底にはマッシュポテトが柱のように積み上げられており、その上には千切りキャベツとズッキーニの輪切りが盛られていた。
更にその上にはステーキが一口サイズでこれでもかと敷き詰められ、マッシュポテトの柱の側面には串焼きが12本等間隔で刺さっている。
配膳した後、1人を残して食堂のスタッフ達は厨房に戻った。
残ったスタッフが砂時計を懐から取り出す。
「この砂時計をひっくり返したらチャレンジ開始だ。砂が落ち切るまでに完食できたらチャレンジ成功。つまりは無料だ。準備は良いか?」
「問題ない」
「いつでも良いぜ」
「「大丈夫」」
「よろしい。ならばチャレンジスタート!」
スタッフが開始を宣言した瞬間、シルバ達は全力で食べ始めた。
4人共串焼きをマッシュポテトの柱から抜き取ってガツガツ食べる。
その様子を見ていつの間にか集まって来た野次馬達が口を開く。
「あぁ、やっちまったな
「だな。一見邪魔だから先に食べたくなる串焼きだが、あれは熱々で食べるスピードが落ちる」
「俺も最初はそうだったっけ」
ところが、野次馬達の予想と現実は完全に一致しなかった。
「熱っ!?」
ヨーキは串焼きの熱さにやられて出鼻を挫かれたが、シルバとソラ、リクは減速することなくガツガツと串焼きを食べてみせた。
「なん・・・だと・・・」
「奴等には串焼きの洗礼が効かないのか!?」
「こいつは面白くなって来たぜ」
野次馬達はシルバ達3人の怯まない食べっぷりに戦慄した。
そんな野次馬達なんて気にも留めず、シルバはステーキとズッキーニ、キャベツ、マッシュポテトを大きく一口ずつ食べていく。
ソラとリクはマッシュポテトを横からほじくって食べる。
「なんてこった。銀髪の野郎、ちゃんと咀嚼してやがる」
「嘘だろ? これは飲み物のように流し込まなきゃ間に合わねえはずだ」
「じゃあ俺達が今見てるのはなんだよ? 幻なのか?」
シルバは高速で顎を動かして10回程噛んでから飲み込んでいる。
これはよく噛んで食べないと体に悪いとマリアに指導されたからだ。
それに対してソラとリクはマッシュポテトがお気に召したらしく、キャベツやズッキーニ、ステーキは口直し程度にしか食べずにほとんどマッシュポテトばかり口に運んでいる。
「おいおいおいおい。ひょっとしたらひょっとする?」
「まだ入学初日だぞ? 成し遂げるってのか?」
「いいぞもっと食え!」
「「「・・・「「食え! 食え! 食え!」」・・・」」」
大食いチャレンジを見守る野次馬の数が増え、食堂内が食えというコールで騒がしくなった。
「うぉぉぉぉぉ!」
「坊主頭、お前は無理だ!」
「残り時間が半分切ったのに4分の1も行ってねえんだから諦めろ!」
「もう止めて! 無茶な新入生がリバースするのは見たくないわ!」
ヨーキだけ酷い言われようである。
しかし、そう言われるのも無理もない。
この大食いチャレンジで自分の食べられる量を弁えずに無茶したことにより、チャレンジ中に吐いてしまう挑戦者も少なくないのだ。
加えて言うならば、吐く者の大半は新入生だったりする。
大食いチャレンジは毎日誰かしら挑戦するため、野次馬達もなんとなくこいつはそろそろ吐きそうとかあいつはまだやれるとかわかるようになっているようだ。
ヨーキが吐くのは嫌だとギブアップした一方で、シルバは大詰めに入っていた。
残り3分であと10分の1。
今までは飛ばさず落とさずの安定したペースで食べて来たが、ラストスパートをかけてどんどん完食に近づいている。
ソラとリクはマッシュポテトを食べ尽くしたところでギブアップし、キャベツとズッキーニ、ステーキが半分近く残ってしまった。
「頑張れ銀髪! お前なら食える!」
「俺達に夢を見せてくれ!」
「あと少し! あと少し!」
「「「・・・「「食え! 食え! 食え!」」・・・」」」
野次馬達が追い上げるシルバにエールを送る。
そして、残り30秒というところでシルバがスプーンを皿に置いた。
「ご馳走様でした」
「「「・・・「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」・・・」」」
「すげぇぇぇぇぇ!」
「新入生がやりやがったぁぁぁぁぁ!」
シルバが手を合わせて完食を告げた途端、食堂内が歓声が起こった。
スタッフも皿に何も残っていないこととシルバが吐き出すそぶりを見せなかったので、ニッコリと笑って口を開いた。
「見事だ。大食いチャレンジ成功!」
「最高だぜ新入りぃ!」
「あいつの名前はなんて言うんだ?」
「確かシルバだったはず」
「よくやったぞシルバ!」
「「「・・・「「シルバ! シルバ! シルバ!」」・・・」」」
シルバコールが食堂内で続く中、アルは感動してシルバの両手を握った。
「シルバ君すごい! 本当に完食するなんて!」
「食える時に食えってのが俺の信条でね」
シルバはマリアに拾われる前は孤児院におり、毎食満足に食べられることなんてなかった。
いや、正確には何も食べられない日だってあったくらいだ。
その経験から食べられる時に食べる癖がついてしまい、それが大食いチャレンジを成功に導いた。
時間が経つにつれて会場内の興奮が収まっていった。
シルバは代金を払わずに済み、ヨーキとソラ、リクは3,000エリカ払った。
昼休みが終わると、ポールがやる気なさそうに集まっていたB1-1の学生達の前に現れた。
「お前達元気良過ぎ。そりゃ大食いチャレンジは面倒事じゃねえけど初日から何やってんだ」
「ポール先生、男にはやらなきゃいけない時があると思います!」
「ヨーキ、お前は途中でギブアップしてただろうが」
(やる気なさそうな癖にちゃんと見てたんだな。やっぱり只者じゃない)
ポールは面倒臭そうにヨーキのギブアップを指摘した。
それにクラスメイト達の笑いが起こる。
ヨーキは三枚目ポジションのレールに乗ってしまったのかもしれない。
その後、B1-1は午後の時間を丸々使って軍学校の施設を回った。
自分達が授業で使用する場所もあれば、他のコースでしか使われない場所もある。
入学初日で軍学校について知っておくことにより、明日から校内で迷子にならないようにという学校側の配慮である。
校内見学が終わると日が暮れ始めており、B1-1に戻ったらポールが学生寮の鍵をシルバ達に渡して今日の授業は終わった。
「よーし、今日はここまでだ。明日は遅刻すんじゃねえぞ」
ポールが教室を出て行って放課後になったから、シルバ達も教室を出てこれから住むことになる学生寮へと向かった。
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