第13話 アル、お前変態だったのか?
学生寮に到着したB1-1の学生達は男子棟と女子棟で別々になった。
シルバ達はまだ10歳だけれど、上の学年の生徒にもなれば最高学年だと15歳になるから男女同じ棟なのはよろしくないのだ。
エリュシカの成人は15歳だ。
軍学校は11歳になる年に入学して15歳になる年で卒業し、その後は脱落しなかった者以外基本的に軍に入る。
余談だが、エリュシカは地球とほとんど同じで1年が366日あり、1~12月の奇数月が31日で偶数月は30日という暦だ。
曜日は地球と全く同じで日曜日から土曜日までの7日で1週間と数える。
ちなみに、1週間を7日間にしたのはマリアだとシルバは本人から聞いている。
学生寮の話に戻るが、シルバとアルは男子棟の1階の与えられた部屋に移動した。
男子棟も女子棟も1年が1階で5年が5階と年次が上がると宿泊する部屋の階が上がる。
そして、端の部屋に行く程組の数字が若くなる。
戦闘コースと会計コース、支援コース、衛生コース、戦術コース全てが同じ学生寮を使用するから、どのコースの生徒が端を取るかは入学試験の成績順で決まる。
今年はシルバが主席のシルバが満点を取ったこともあり、戦闘コースが5つのコースの中では端になった。
その他のコースは戦術コース、会計コース、衛生コース、支援コースという順だ。
それを男子棟も女子棟も組毎に繰り返していくため、具体的に記すと以下の通りになる。
端<B1-1<T1-1<F1-1<H1-1<S1-1<~<H1-6<中央玄関
シルバとアルはB1-1でもトップなので、男性棟の角部屋が1年間2人の部屋になる訳だ。
2人は鍵を開けて部屋の中に入った。
「シルバ君、すごい! 角部屋だよ!」
「角部屋ってそんなに良いのか?」
「勿論! 部屋の前を行き来する人が少ないし、両隣に部屋がある時よりも騒音に悩まされない!」
「お、おう」
「日当たりや風通しも良い! 角部屋最高!」
「そ、そうだな」
アルが角部屋について熱く語るものだから、シルバはそうなのかと若干引きながら頷いた。
「シャワーもトイレと別だし、洗面所にゆとりがあるのはポイント高いね!」
「ポイント高い」
(よくわからんけどアルがそー言うならそうなんだろう)
シルバはピンと来てなかったのでアルの言う通りだと頷いておいた。
部屋の中を見てみると、シングルベッドが2つ並んでいる間にカーテンが付属していた。
病院の相部屋や学校の保健室のようなカーテンである。
カーテンのおかげで寝ている時の最低限のプライバシーは守られる。
とは言ったものの、エリュシカは地球と違ってプライバシーなんて概念があるのかは怪しいのだが。
それぞれのベッドには制服が置かれており、明日からはこの制服を毎日着用して教室に向かうことになる。
制服は汚れたりほつれたりした程度ならば、自分で洗ったり修繕しなければならない。
穴が開いたり激しく破損して修繕不可能な場合や身長が伸びてサイズが合わなくなった場合は新品を貰えるが、それ以外では自分でどうにかするのが普通だ。
実際のところ、軍学校の5つのコースの中で制服を変える頻度が高いのはぶっちぎりで戦闘コースである。
制服を着たまま戦闘するのだから当然と言えば当然だろう。
その次は支援コースだ。
こちらは物資の運搬であちこちが擦れたり、荷物の角にほつれた部分が引っかかったりする。
また、それぞれに机が用意されており、その上には教材等が積み上げられていた。
こちらは時間割に応じて持っていくことになるのだろう。
シルバとアルが在籍しているのは戦闘コースだが、ずっと戦闘だけしていれば良いというものではない。
一般教養を学ぶ必要があるし、ありとあらゆる状況で正確な判断を下せるように知識の習得は必要不可欠だから座学も当然行う。
シルバはパラパラと適当に教材の本を捲った後、部屋の内装を見て上がったテンションが落ち着いたと判断してアルに声をかけた。
「アル、お前窓際と入口側のどっちが良い?」
「僕が選んじゃって良いの? 主席はシルバ君なんだから選ぶ権利があるのはシルバ君だよ?」
「俺はどっちでも良い。特に拘ってないしアルが好きな方を選べよ」
「本当? それじゃあ窓際の方を使わせてもらっても良いかな?」
「構わないさ。んじゃ、俺は入口側な」
「ありがとう」
「気にすんな。それより、夕食までまだ時間があるな。先にシャワーでも浴びるか?」
「そうだね。シルバ君、先に浴びたら?」
アルはベッド選びの時と同様にあくまで主席のシルバを立てるつもりのようだ。
しかし、シルバは首を横に振った。
「いや、アルが先に入れよ。俺はちょっと夕食前に運動しておく。夕食も大食いチャレンジがあるなら運動しないと食べられねえ」
「夕食も大食いチャレンジするの!?」
シルバが昼に続けて夕食も大食いチャレンジに参加する意思を表明したものだから、アルは驚かずにはいられなかった。
昼に自分が胸やけする程食べたのに夜も同じことをすると聞けば当然の反応と言える。
「食える時に食っとかないとな。ということで俺はアルがシャワーを浴びてる間に筋トレする」
「そっか。それならお言葉に甘えて先にシャワー使わせてもらうよ」
アルはシルバの言い分に納得して先にシャワーを使うことにした。
アルが支度をして洗面所の方に行くと、シルバはお腹を空かせるために腕立て伏せから筋トレを始めた。
マリア直伝の室内でできる筋トレを行うことで、体が鈍らないようにするのと同時に昼食べた分のエネルギーを消費するのだ。
腹筋や背筋、腕立て、スクワットだけでなく体幹も鍛える。
筋トレを1セット終わらせると、シルバは体を休めるために立ち上がった。
その時、アルのベッドにバスタオルが起きっ放しになっていることに気づいた。
(アルの奴、バスタオル忘れてんじゃん。仕方ないな)
シルバはアルがうっかりバスタオルを忘れたせいで水浸しのままいるのはかわいそうだと思い、洗面所にバスタオルを届けに向かった。
「アル、バスタオル忘れてるから届けに来た。入るぞ」
「あっ、ちょっ、待って」
洗面所の中から慌てたアルの声が聞こえたが遅かった。
シルバは洗面所のドアを開けてその中に入り、本来この場にあるべきでないものを目にしてしまった。
「え?」
「あ・・・」
そこにいたのは足拭きマットの上でびしょ濡れになっている裸のアルと着替えの籠に入った女性用のパンツだった。
「アル、お前変態だったのか?」
「違うよ! 僕は女なんだよ!」
アルは女だったのかと言われるのかと思っていたが、シルバの口から出て来た言葉がまさかの変態だったので秘密にしていた本当の性別を自ら暴露した。
本当の性別を知られるか性別を偽ったまま変態扱いされるか悩み、アルは前者を選ぶことにしたのだ。
1年間一緒に暮らす予定の相手に変態扱いされたくなかったらしい。
もっとも、状況によっては一緒に暮らすことはできなくなるかもしれないのだが。
ここで、シルバがアルを変態扱いした理由について補足しておこう。
シルバが洗面所に入った時、アルは咄嗟に胸と股間を抑えていたので男にあって女にはないものの存在を目視確認できなかった。
その代わり、着替えの籠には一番上に女性用のパンツがあったのが見えた。
シルバはまだアルを男だと思っていたため、アルは男なのに女性用のパンツを履く趣味がある変態だと結論付けた訳だ。
シルバが鈍感だと一方的に悪く言うことはできまい。
「へぇ、そうなのか」
「その目は信じてないでしょ!? 本当だよ! 僕は女の子なんだよ! ほら!」
何を血迷ったのかアルは隠していた胸と股間から手を離した。
シルバの反応がアルの言葉を流すような感じだったから、アルはムキになってしまったようだ。
それによってシルバはアルには自分にあるものがないことを知った。
「わかった。わかったからとりあえずバスタオル使え。風邪ひくぞ」
「あ、ありがとう。とりあえず、着替えるまで洗面所の外にいてくれる?」
「そうだな。悪かった」
「こっちこそごめんね」
アルはシルバからバスタオルを受け取ると、恥ずかしさを我慢できなくなってシルバに洗面所の外に出るように言った。
シルバも悪気がないとはいえアルの裸を見てしまったので、ひとまずアルに詫びてから洗面所の外に出た。
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