第123話 人間ってのは損得勘定やしがらみとか面倒なもので雁字搦めなんだ
入学試験から1週間が経過し、シルバは学生会の業務を素早く終わらせてから帝国軍の基地に移動した。
行き先はキマイラ中隊の部屋だ。
学生で招集されたのはシルバだけであり、キマイラ中隊の部屋にいたのはポールとソッドだった。
「お疲れ様です。お待たせしたようで申し訳ございません」
「学生会との兼業だ。これぐらいしょうがないさ。緊急招集でもないしな」
「その通り。私達もここに到着してから3分程度しか待ってないし、集合時間前なんだからシルバ君が謝る必要はないよ」
シルバは2人を待たせてしまったことを詫びたけれど、実際は集合時間よりも早く到着しているのだから何も問題はない。
少なくともキマイラ中隊には後輩が自分より遅く来ることは認めないなんて謎のルールを持ち出す者はいないのだから。
「よし、それじゃあ集まってもらった理由を話すか。待たせて悪かったがキマイラ中隊第三小隊の人員が決まったぞ」
「やっとですか」
「結構かかりましたね」
「それについては本当にすまないと思ってる。だがな、この中隊って他所から人気なんだぞ?」
ポールの発言にシルバとソッドは首を傾げた。
何をどうすれば人気になってしまうのかわからなかったからである。
「この隊ってかなり面倒なミッションばかり受けさせられますよね? 何か勘違いしてませんか?」
「私達と共に働きたいなんて意欲の高い軍人がそんなにいたんですか?」
「あー、お前等の予想した通りだ。希望者の大半が勘違いをしてた。そして、マジで志願してる奴等を見つけるのに時間がかかったんだ」
ポールは希望者の多くが勘違いしたことについて説明し始めた。
曰く、キマイラ中隊に入れば出世すること間違いなし。
曰く、キマイラ中隊のミッション遂行率が100%なのは優遇されているに違いない。
大雑把に言えばこの2つの勘違いを希望者の多くがしていたらしい。
実際のところ、キマイラ中隊に入ったからといって出世できるとは限らないし、優遇されているどころか厄介なミッションを割り当てられることが多い。
ミッションを遂行しているのは優遇されているからではなく隊員の実力のおかげである。
それをわからずに信じたいものだけを信じて勘違いする軍人が多いというのは嘆かわしい。
「まったく参っちまったぜ。大半の連中が寄生虫みたいな奴等だったからなー。ディオスの軍人の質も落ちたもんだぜ」
「お疲れ様でした。第三小隊を編成したってことは4人は揃ったんですよね?」
「おう。今日は第三小隊のメンバーをここに呼びつけてある。もうすぐ来るんじゃないか?」
ポールがそう言った次の瞬間、部屋のドアがノックされた。
「入って良いぞー」
「「「「失礼します」」」」
許可を得て第三小隊のメンバー4人が部屋の中に入って来た。
その中の2人はシルバに見覚えがある者達だった。
4人は入室してすぐに敬礼して自己紹介を始める。
「私はフラン。
「私はクラン。
「同じく
「同じく
(新卒の方が派閥も決まってないってことかね)
シルバが知っているのはヤクモとプロテスだ。
もっとも、ヤクモとは事務的な会話しかしたことがないのだが。
ヤクモは元風紀クラブのクラブ長であり、プロテスは元筋肉トレーニングクラブのクラブ長だ。
どちらも今年軍学校を卒業したばかりでロウやエイルの同期である。
フラン達の自己紹介を聞いた後はシルバ達も自己紹介を行う。
「キマイラ中隊第二小隊を預かるシルバです。階級は
「キュイ!」
「キマイラ中隊長兼第一小隊長のソッド=ガルガリンだ。私も階級は
「俺も一応名乗っておくか。キマイラ中隊の直属の上司だとでも思ってくれ。ポール=ハワードだ。階級は
ポールが気怠い感じに自己紹介を済ませてから、ソッドは第三小隊長のフランと小隊長補佐のクランは見た目がよく似ていることが気になって訊ねる。
「フランとクランは似てるけど姉妹なのかい?」
「その通りです。クランは私の2個下です」
「そうか。姉妹で協力して第三小隊を支えてくれ。他2人は最近軍に入隊したばかりだ。フォローを頼むよ」
「「はい」」
ソッドはロウ経由でヤクモとプロテスを知っていたらしく、フランとクランに入隊したばかりの2人の面倒を見るよう指示した。
自己紹介が終わってからポールは説明を続ける。
「この4人を第三小隊に選定した基準を伝えておこう。察してると思うが、全員派閥に属しておらず、戦闘以外でも一定の実力を発揮したからだ」
老害と呼べる軍人の派閥に入っている者を入れてしまえば、キマイラ中隊の運営にその老害が指図するだろう。
そのような事態を避けるには派閥に所属していない軍人を選ぶしかない。
キマイラ中隊という厄介事を請け負いやすい部隊を正確に理解し、無所属で他部門に関する知識や経験がある4人を集めるのは時間のかかる作業だ。
ポールの苦労の甲斐あって、4人はキマイラ中隊第三小隊としてこの場に集まったのだからこの場にいる誰よりもポールがホッとしているはずである。
「今日はソッドとシルバだけ顔合わせをしたが、第三小隊と他のメンバーの顔合わせはキマイラ中隊の部屋の引っ越しが終わってから行う。ここじゃ10人以上集まると狭いんでな」
現在、キマイラ中隊に割り当てられた部屋は10人入ると少し狭いと感じるぐらいの広さだ。
キマイラ中隊は帝国軍上層部では厄介なミッションでもどうにかクリアする中隊という評価であり、その福利厚生として新しい小隊が増えても狭くない部屋に引っ越しすることになった。
今後は各小隊ごとに部屋があり、部屋の奥が20人入る会議室として繋がっている区画を割り当てられる。
全体での顔合わせは引っ越しの後だが、引っ越し期間に第三小隊はチュートリアルのようなミッションに参加して不在となるから先にシルバとソッドだけこうして顔合わせをしたのだ。
フラン達第三小隊は早速、明日から始まるミッションの打ち合わせをするということで退室した。
「2人に先に言っておくが、第四小隊の候補者は半分見つかってる」
「第三小隊の補欠合格者が2人いるってことですか?」
「シルバの認識で大体合ってる。さっきの4人に比べてやや総合力で劣るから補欠って訳だ。その2人は今後の成長と残り2人のスカウトが上手くいけば第四小隊になるだろう」
「キュイー」
レイが小隊の編成って大変そうだねと目を細めて鳴いた。
「人間ってのは損得勘定やしがらみとか面倒なもので雁字搦めなんだ。レイはそんなことを考えず、シルバと仲良くしとけよ」
「キュイ!」
勿論だと力強くレイが返事をすると、ポールは本当に賢いワイバーンだとレイの頭を撫でた。
レイはポールが自分の頭を撫でるのを拒否しない。
今のところ、シルバとアル、エイル、ポールが自分の体に触れるのを認めている。
ロウが認められないのは日頃の言動のせいだとしておこう。
「そうだ、共有することを思い出した。サタンティヌス王国でレッドよりも強いモンスターが現れたらしい。これは密偵からの情報なんだが、レッドクラスよりも上の色があるのか単に色による区別がない種族なのか現時点ではわからないんだ」
「そのモンスターが黒かったかどうかわかりますか?」
「黒かったらしいぞ。師匠絡みで何か聞いてるのか?」
「はい。レッドの上にはブラックがあるそうです」
「はぁ。今回は隣国だから良かったものの、次は帝国に現れるかもしれないって思うと嫌になるねぇ。シルバ、学校のカリキュラムにも影響が出るかもしれんから、今から校長室に行くぞ」
「わかりました」
ポールは溜息をついた後、シルバを軍学校の校長室に連れて行くことにした。
ソッドには話せない内容もあるだろうから、話す場所を校長室に移すぞというポールなりの配慮である。
この後、シルバはブラックの後にシルバー、ゴールド、レインボーがあると伝えて
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