第23章 拳聖、戦場に潜入する

第231話 毎回思いますけど、シルバ先輩の師匠って何者ですか?

 11月最後の日、学生会室ではシルバが12月1日付で昇格する者達のリストを見ていた。


 (これでクラスメイト全員が権天使級プリンシパリティか。それに、ジョセフも大天使級アークエンジェルだ)


 師弟制度のおかげで教師陣の負担が減り、大天使級アークエンジェルの学生達に避ける時間が増えた結果、彼等が明日から権天使級プリンシパリティに昇格できた。


 それだけでなく、シルバの弟子であるジョセフも学生会活動の合間で受けたミッションで実績を積み上げ、大天使級アークエンジェルに昇格した。


 これにより、シルバは師弟制度の目的を達したことになる。


「シルバ先輩、ありがとうございました。これで俺も明日から大天使級アークエンジェルです」


「あまり時間を取れなかったのによくやってくれたよ。その調子で権天使級プリンシパリティを目指してくれ」


「わかりました。それで、もしもこの後お手隙ならば1対1で模擬戦をしていただきたいのですが」


「師弟制度の総決算ってことか。良いぞ」


「じゃあ審判は僕がやってあげる」


 シルバとジョセフが模擬戦をすると言い出せば、アリエルがその審判を買って出た。


 実際のところ、シルバとジョセフが戦うならばある程度その戦いについていけないとどうしようもないから、学生会のメンバーで審判を任せられるのはアリエルだけだ。


 グラウンドで模擬戦をしようと思っていたのだが、明日から昇格する戦闘コースの学生達がソワソワする気持ちを紛らわせるためにあちこちで模擬戦しており、シルバ達が戦う場所はなかった。


 仕方がないので、シルバは座天使級ソロネの権限を使って帝国軍の基地にある第一訓練室を借りた。


 これで野次馬を気にすることなく思う存分戦うことができるだろう。


 シルバとジョセフの模擬戦は気になるらしく、イェンとメリル、セフィリアも見学するためについて来た。


 今はレイとリトと共に、廊下で強化ガラスの外側越しにシルバ達を見守っている。


「シルバ君もジョセフも準備は良いかい?」


「いつでも良いぞ」


「俺も構いません」


 シルバとジョセフが5歩ずつ離れた場所で向かい合い、模擬戦がいつ始まっても問題ないと答えた。


「試合開始!」


「壱式:拳砲!」


 開始早々にジョセフが会得した【村雨流格闘術】を使ってシルバに攻撃した。


 師弟制度が始まって以来、ジョセフは本格的にシルバから【村雨流格闘術】を習い始めた。


 そのおかげで<付与術エンチャント>を用いた派生の型はまだだが、基本の型はある程度形になった。


 だからこそ、明日で制度上の弟子から卒業するこのタイミングでジョセフはシルバにその仕上がりを見てもらうつもりである。


「粗削りだがちゃんとできてるじゃないか」


「【村雨流格闘術】を使わずに握り潰されるとできた実感が湧かないのですが」


「昔の話だけど、俺の師匠なんてデコピンで弾き飛ばしたんだぞ? 真剣に対応してるだけありがたく思え」


「毎回思いますけど、シルバ先輩の師匠って何者ですか?」


「地上最強の生物かな」


 シルバの発言は誇張でもなんでもない。


 異界でシルバと出会うまで怪我らしい怪我をせず生き残り、<完全体パーフェクトボディ>で全盛期の肉体を保ち続けられるのだから、そう表現しても何も問題はないだろう。


「そうかもしれませんね。では、次に行きます! 弐式:無刀刃!」


「エンチャントなしでもかなり鋭くなったじゃん。弐式:無刀刃」


 ジョセフの放った斬撃をじっくり見た後、シルバはジョセフと同じく弐式:無刀刃を放った。


 同じ技でも使っている年季が違うから、シルバの斬撃があっさりとジョセフの斬撃を打ち消した。


 それどころか、勢いがほとんど落ちないままジョセフに向かっていく。


「參式:柳舞!」


 シルバはジョセフの攻撃を打ち消した後、彼が參式:柳舞で受け流せるだろう威力になるように手加減をしていた。


 そのおかげもあり、ジョセフはギリギリだがシルバの放った斬撃を受け流すことに成功した。


「參式:柳舞はよくできてる。他2つよりも上手くできてたじゃないか」


「ありがとうございます。まだまだ行きますよ。肆式:疾風怒濤!」


 拳を次々に繰り出すだけに見えて、肆式:疾風怒濤は奥が深い。


 拳を繰り出す位置を完璧にコントロールできれば、的確に弱点を続けて殴れるのだから1対多数だけでなく1対1でも重宝する技と言えよう。


 シルバはジョセフの繰り出した肆式:疾風怒濤を体裁きだけで全て躱してみせた。


「形にはなってる。だが、まだまだ狙いが甘い」


「ハァ、ハア。そのようですね」


 肆式:疾風怒濤という技は、使用者が一呼吸の内にどれだけ攻撃できるかで攻撃回数が変わる。


 命中すれば問題はないけれど、至近距離で全て躱されれば息切れした状態で接近を許したことになってしまう。


 外せば大きな隙になるので、格上相手に使うのは避けるべきだろう。


 シルバは隙だらけのジョセフに背負い投げした。


「ぐはっ」


 受け身はどうにか間に合ったようだが、ジョセフは地面に打ち付けられた拍子に肺の中の空気が強制的に外に吐き出させられたのを感じた。


「ジョセフ、立ち上がれ。この程度の攻撃で気絶するような育て方をした覚えはないぞ」


「わかってますよっと」


 勢いを付けて起き上がったジョセフは若干投げやりにも思える口調になっていた。


 それもそのはずで、肆式:疾風怒濤ですらまだまだ熟練度が足りていないのなら、伍式:吸気功以降の型の熟練度はもっとお粗末なのだ。


 【村雨流格闘術】を習う前の我流戦闘では話にならないし、シルバ相手にどう攻めたものかと悩んだ。


 そんなジョセフの姿を見て、おさらいがてらシルバはジョセフに基本の型の続きを見せることにした。


「ジョセフ、伍式:吸気功の準備だ」


「えっ、はい!」


 シルバがわざわざ防御の準備をしろと注意して来た理由を察し、ジョセフはいつでも伍式:吸気功を発動できる構えを取った。


 ジョセフをうっかり気絶させてはいけないと加減することを忘れず、シルバはジョセフにお手本の技を放つ。


「陸式:気功槍きこうそう


 オーラで手の先に刃を創り出し、シルバは捩った上半身を戻す勢いだけでその刃を投げ槍のように飛ばした。


 シルバが絶妙なコントロールをしたおかげで、ジョセフもこれならば吸収できると自信を持って技を発動する。


「伍式:吸気功!」


 ジョセフは親指同士と人差し指を合わせ、自分の体の前に三角形を作ってそこからオーラの刃を吸収した。


 シルバが吸収しやすくしてくれたとはいえ、ジョセフは今回発動した伍式:吸気功が今までで一番上手くできたと実感した。


「良いぞ。そのまま陸式:気功槍だ」


「はい! 陸式:気功槍!」


 シルバのオーラを吸収して余力が生じたため、ジョセフはシルバの言う通りに陸式:気功槍を放った。


「伍式:吸気功」


 ジョセフが放った陸式:気功槍はシルバにあっさりと吸収された。


 それでも、シルバは確かにジョセフが成長したことを感じて笑みを浮かべる。


「着実に良くなってるぞ。ゆくゆくは伍式:吸気功を使わずとも陸式:気功槍で今と同じ出力になるよう目指せ」


「はい!」


「さて、ジョセフの仕上がりも把握できたことだしアドバイスに移ろうか」


「よろしくお願いします!」


 これ以上続けてもシルバに一撃も与えられないと判断したため、ジョセフは素直にアドバイスをもらう判断をした。


「まず熟練度の評価だが、今日使ったもので良い順に參式:柳舞、伍式:吸気功、壱式:拳砲、弐式:無刀刃、肆式:疾風怒濤、陸式:気功槍だ。ジョセフは攻めよりも守りの型の方が得意らしい」


「そうですね。戦う時はいかに被害を抑えて攻撃するかって思考になりますから、自然と參式:柳舞、伍式:吸気功の使用頻度が高いんですよね」


「それは見てて感じた。今の調子なら、遠くない内に參式風の型:返勢風も教えられると思うぞ」


「本当ですか!? もっと頑張ります!」


 基本の型を極めることを優先すべきだが、新しい技を学べる喜びを我慢することなんてできない。


 ジョセフが今まで以上に【村雨流格闘術】の修練にやる気を出すのも当然だろう。


 テンションが上がったジョゼフを見て、シルバは異界でマリアに修行を付けてもらっていた頃の自分を思い出した。


「頑張るのは良いけど、頑張り過ぎてオーバーワークにならないよう気を付けろよ。無理をして体調を崩したとわかったら、風の型の伝授は延期するから」


「・・・気を付けます」


 教えてもらえるはずのものが延期されるのは嫌だから、ジョセフは姿勢を正して神妙な顔つきで頷いた。


 ジョセフは天使級エンジェル最後の日に良いニュースを聞いたため、解散してから寝る時までご機嫌だった。

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