第9章 拳者の弟子、祭りに参加する

第91話 お前等ー、今年も面倒な文化祭のシーズンが来ちまったぞー

 学生会のOBOG会が終わってから1週間後、B1-1では朝からロングホームルームが行われていた。


「お前等ー、今年も面倒な文化祭のシーズンが来ちまったぞー」


「ハワード先生、学生が楽しみにしてる行事を面倒って言わないで下さーい」


 いつも通りやる気がなさそうに言うポールに対してメイがそんなこと言わないでほしいとやんわり抗議した。


 他の学生達も所属するクラブの先輩から文化祭のことを聞いていたのか、初めての文化祭を楽しみにしている者ばかりだった。


「なんだよなんだよ、お前等やる気満々かよー。しょうがねえなぁ。それじゃあ最初に文化祭実行委員を決めるぞー」


 学生達にやる気があるなら振り出せる役割を極力振ってしまおうというのがポールの考えだ。


「言い忘れてたが学生会に所属してるシルバとアルは文化祭実行委員にはなれない。ということで、文化祭実行委員は他のメンバーがやること。立候補したければして良いし、他薦でも構わん。とりあえず実行委員が決まらなきゃ始まらんから決めちゃってくれ」


 ポールがそう言って教壇の端に用意した椅子に座り込むと、シルバがその代わりに仕切るべく立ち上がる。


 基本的に学生主体で何かを行う時はクラスで一番成績が優秀な者が司会進行を務めることになっているからだ。


「ということで、誰か文化祭実行委員をやりたい人はいる?」


「「はい!」」


 シルバの問いかけを受けて手を挙げたのはヨーキとサテラだった。


 実行委員の仕事は大変ではあるが、クラスを率いてイベントを盛り上げるという経験は軍学校を卒業して帝国軍に配属される時に有利に働く。


 本来はクラスで最も優秀な学生が自薦もしくは他薦で選ばれるが、今年のB1-1は主席と次席が学生会に所属している影響で第三席が繰り上げでトップになる。


 そのままヨーキが文化祭実行委員になるのかと思えば、第四席のサテラが待ったをかけた訳だ。


「ヨーキとサテラの2人だけ? それなら2人に教壇に出て来てもらってそれぞれ簡単にスピーチしてもらう。みんなには2人のスピーチを聞いて良かったと思う方に投票してもらうからちゃんと聞いといてくれ。ヨーキとサテラは教壇へ」


「おう」


「うん」


 シルバに言われてヨーキとサテラが教壇に上ってシルバの左右に立った。


 最初にスピーチするのは成績が良い方からという暗黙の了解でヨーキが一歩前に出る。


「ヨーキだ。俺は文化祭で一学年の中で最優秀賞を狙いたいと思ってる。シルバとアルが学生会に所属してて人手が足りなくても、俺達ならパッションでなんとかできるはずだ。物怖じせずに俺と一緒に楽しもう! 以上だ!」


 ヨーキは感情から訴えるようなスピーチを行った。


 ヨーキは言動から馬鹿っぽく思われる時もあるが、勉強は普通にできるし地頭も悪くない。


 それでも、自分らしいスピーチをするならば感情に訴えた方が良いと判断して彼のスピーチは根拠よりもノリと勢いを重視したものになった。


 クラスメイトが拍手をした後、今度はサテラが一歩前に出てスピーチを始める。


「サテラよ。私はB1-1が文化祭を通じて今まで以上に仲良くなれれば良いと思ってるわ。順位が大事なのは百も承知だけど、今後のフィールドワークも見据えてもっと私達が仲良くなれる文化祭を目指したいの。賛同してくれるなら私を選んでね。以上よ」


 サテラは順位よりも親睦を優先する方針だと告げた。


 実行委員に立候補した者達が同じ方針だった場合、投票側の好き嫌いで決まってしまうかもしれない。


 だが、今回は立候補者がそれぞれ別の方針を打ち立てた。


 これならば自分が好む方針に投票するので投票側が真剣に考えて投票するだろう。


「では、これより投票に移る。自分と同じ考えの立候補者に手を挙げてくれ。なお、みんなには机に顔を伏せてもらう。手を挙げられるのは立候補者と司会の俺以外の7人だ。ハワード先生、証人として一緒にカウントして下さい」


「わかった」


 シルバが不正をやらかすとは思っていないが、多数決の際はきっちりと結果を出した方が後々面倒事にはならないと判断してポールは頷いた。


 ヨーキとサテラに着席させ、クラスメイトが顔を伏せたところでシルバが決を採る。


「ヨーキが実行委員に相応しいと思う人は手を挙げてくれ」


 アルとソラ、リク、メイが手を挙げた。


 過半数に届いたのでヨーキで確定したが、ここで止める訳にはいかないのでシルバは続ける。


「手を下げてくれ。次はサテラが実行委員に相応しいと思う人は手を挙げてくれ」


 手を挙げたのはロックとタオ、ウォーガンだった。


 棄権者がいないことにホッとしつつ、シルバはポールの方を向いた。


 ポールもしっかりカウントしていることを確認してからシルバは口を開く。


「手を下げてくれて大丈夫だ。みんな、顔を上げても良いぞ」


 全員が顔を上げた後、シルバは結果を口にする。


「厳正なる投票の結果、今年の文化祭実行委員はヨーキに決まった。ヨーキ、おめでとう」


 シルバが拍手をするとそれがクラスメイト全員に広がった。


 サテラも負けて悔しいとは思ってもヨーキを称えることは忘れない。


 正々堂々と挑んだ勝負ならば、勝っても負けてもそこに文句なんてないからである。


「さて、文化祭実行委員はヨーキに決まったことだし、ここからの進行はヨーキに任せることにする」


 そう言ってシルバは着席してヨーキにバトンタッチした。


「実行委員のヨーキだ。ハワード先生、今日って出し物を決める所までやって良いんですか?」


「別に構わんぞー。時間内に決められるところまでちゃっちゃとやってくれー」


 ポールとしては自分の手がかからず進むならばどれだけ進めてくれても一向に構わない。


 だから、俺のことは気にせずにどんどん進めろと投げやりに手を振った。


「わかりました。まずは出し物のジャンルから決めよう。例年の出し物の傾向からして、文化祭でできるのは大きく分けて飲食と展示、体験だ。とは言ったものの、展示を選択するのは戦術コースぐらいだ。その上でみんなに訊きたい。何がやりたい?」


「串焼き屋」


「じゃがバター屋」


「ジュース屋!」


「喫茶店!」


「迷路」


「腕相撲選手権」


 ヨーキが訊ねた直後からどんどん意見が出て来た。


 店でやる出し物の割合が若干多いらしく、体験ジャンルの出し物はやや劣勢である。


 何度かどれをやりたいか絞り込んでいく作業を行った結果、喫茶店ならばある程度網羅できるのではないかという話になった。


 そこでヨーキはポールに訊ねた。


「ハワード先生、俺達に喫茶店ができると思いますか?」


「んー、あんまり水を差したくはないが厳しいと思うぞ。やっても文化祭の勝手がよくわかってる5年生ぐらいだ。先週、学生会のOBOG会があったからシルバとアルはやることが多い出し物のしんどさはわかってるだろ?」


「ええ、まあ」


「大変でした」


 シルバとアルの発言を聞き、ヨーキは屋台をやるにしても売り出す食べ物は絞った方が良いと判断した。


「売り出す料理は絞った方が良さそうだな。ただ、俺も肉が好きって理由で肉料理を提案したけど被りそうな気がして来た」


「肉、最高」


「肉、至高」


 ソラとリクはそれでも肉が良いんじゃないかと肉推ししたが、サテラが反対意見を出す。


「串焼きとかステーキは被ると思うわ。屋台で一番を取りに行くなら意表を突くべきよ。だって、普通に屋台をやったら会計コースと支援コースに優位性があるんだもの」


「「「・・・「「確かに」」・・・」」」


 サテラの発言に全員が納得した。


 既に新人戦で屋台を経験している会計コースと支援コースに挑むのなら、王道なメニューでは不利だと理解したからである。


 (そろそろ俺の出番かな)


 シルバはマリアから様々な料理を教わっている。


 目新しさでは他に負けない自信があった。


「師匠から教わった料理を作ろう。芋系料理で勝負しない?」


「芋? シルバはじゃがバター以外でレシピを知ってるのか?」


 じゃがバターは他と比べて屋台をやろうとするクラスは少ないかもしれないが、いない訳ではないと思ってヨーキがシルバに訊ねた。


「知ってなきゃこんな提案しないさ。ポール先生、今日は2時間目までなら時間を自由に使って良いんですよね?」


「良いけど何をする気だ?」


「ちょっと食堂で作ってみたいものがあるんです」


「そうか。3時間目までに済むなら行っても良い。あれ、もしかして俺も行かなきゃ駄目か?」


「勿論です」


「だよなー」


 話がまとまったため、B1-1の全員でこの後すぐに学食の調理場に移動した。

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