第85話 一番低くて大天使級・・・だと・・・?

 シルバとアルがポールの私生活についてユリアに聞いていたところで、エイルが開式の司会をした場所に移動して口を開く。


「ご歓談中に失礼します。これより、88期学生会から活動報告をさせていただきます」


 OBOG会の中盤に学生会長が活動報告をするのはいつものことなので、参加者達は喋るのも食べるのも中断してエイルの方を向いた。


 なお、エイルの背後には白い幕が用意されており、ロウがプロジェクターによく似た魔法道具マジックアイテムで活動報告の資料を白い幕に投影する。


「今年度の学生会のスローガンは飛躍です。学生達が前例踏襲ばかりせずに飛躍的発想をすること、飛躍的に成長できるようにと願いを込めております。改めまして、88期学生会のメンバーを紹介させていただきます」


 エイルの言葉を合図にシルバ達は彼女の隣に役職順で横一列に並んだ。


「まずは私から名乗らせていただきます。88期学生会長に選任されましたエイル=オファニムです。階級は権天使級プリンシパリティで現在はキマイラ中隊第二小隊に所属しております」


「副会長のロウ=ガルガリンです。会長のエイル同様に階級は権天使級プリンシパリティで現在はキマイラ中隊第二小隊に所属しております」


「会計のメアリーです。階級は先月末の資格試験で大天使級アークエンジェルになりました」


「書記のイェンです。会計のメアリーさんと同じく階級は先月末の資格試験で大天使級アークエンジェルになりました」


 先輩4人が名乗れば次はシルバの番だ。


 会場内の参加者から期待や羨望、嫉妬等様々な感情が交じった視線がシルバに向けられる。


「庶務のシルバです。階級は能天使級パワーでキマイラ中隊第二小隊長です」


 シルバはとくに緊張することなく淡々と自己紹介を済ませた。


 その後にアルが続く。


「同じく庶務のアルです。会長と副会長と同じく階級は権天使級プリンシパリティで現在はキマイラ中隊第二小隊に所属しております」


「一番低くて大天使級アークエンジェル・・・だと・・・?」


「88期は大したものだな」


「学生会のメンバーが飛躍のスローガンを体現してるじゃないか」


 アルの自己紹介が終わった直後に参加者達がざわついた。


 キマイラ中隊第二小隊のことは帝国軍内でも話題になっているため、小隊メンバー4人については参加者達もある程度知っている。


 だが、メアリーとイェンについてはこのイベントで初めて知った者が大半だから、88期の学生会が一番低くて大天使級アークエンジェルであることに驚いている訳だ。


「メンバー紹介が終わりましたので、続いて今年度の予算について報告します」


 自己紹介タイムが終わってシルバ達は元々いた場所に戻り、ロウがエイルの進行に合わせるように予算の記された資料を白い幕に投影する。


「筋肉トレーニングクラブの予算が去年より減ってる」


「拳者研究クラブは解体されたんだっけ? ざまあみろ」


「その分の予算は魔法道具マジックアイテム研究クラブとか調合研究クラブとかに上乗せされてるな」


 参加者達はここ数年変わらなかった予算配分が大きく変わったことに興味を示した。


 それもそのはずで、学生会のOBOGの中には軍学校に寄付している者もそれなりにいるからだ。


 自分達の寄付したお金がどのように使われるのか気にならない者はいないだろう。


 もしもいたとすれば、それはお金をドブに捨てているのと同義である。


「お気づきの通り、拳者研究クラブにつきましては予算の不正利用から解体しました。また、筋肉トレーニングクラブの予算につきましては、予算を抑えた効率的なトレーニングの発見に伴い予算を半分としました」


 余談だが、ゲイルは学生会に入る前は筋肉トレーニングクラブに入っていた。


 今年になって効率化される前の筋肉トレーニングはゲイルが考案したものであり、それが否定されたことで自分も否定された気分になったからシルバに仕返ししようとしたのだ。


 結果として、アルに自分の弱みを握られていたせいで仕返しは全くできずに終わったが、シルバに嫌がらせをしようとした理由は自分よりも早く出世したシルバに自分の筋肉トレーニングを否定されたことだった訳だ。


 結果が出ないのではなくコストがかかることが問題だったので、ゲイルは筋肉に対する理解という点でシルバに負けていたのを潔く認めるべきだった。


「浮いた予算は先月まで配分先を保留しておりましたが、今年起きた出来事を考慮して成果に繋がると信じ、魔法道具マジックアイテム研究クラブと調合研究クラブ、料理開発クラブ、モンスター研究クラブに配分しました」


 この4つのクラブの予算増加については全てシルバ達が関わっている。


 魔法道具マジックアイテム研究クラブはシルバがテストで効率的な魔力回路を披露した結果、魔法道具マジックアイテムの改良ラッシュが起きたことで予算が増えた。


 これは結果が目に見えやすく、既に恩恵を感じている者ばかりなので納得した。


 調合研究クラブはシルバやアルがクラブに入らずとも高品質な薬品を調合したことでクラブに所属する者達が負けじと頑張って腕をメキメキと上げている。


 それに加えてタオがゴブリンホイホイGを作ったことに影響され、新薬の開発にクラブメンバーが積極的になったことから予算を増やすべきだと学生会が判断した。


 料理開発クラブは合同キャンプでシルバが開発した携帯食料に影響を受け、食べたいと思わせる携帯食料作りの施策回数が増えたことで増額となった。


 モンスター研究クラブはミミックと上位種のミミックエリートという新種モンスターの発見により、クラブメンバーが自分達も新種の発見をしたり既知のモンスターの情報をもっと詳しくするという流れができて増額に至った。


 以上のことから、魔法道具マジックアイテム研究クラブと調合研究クラブ、料理開発クラブ、モンスター研究クラブの予算増額は参加者達にも正当であると認められた。


 ちなみに、マチルダは88期の学生会予算に強く関心を示していたが、その中でも料理開発クラブに予算を増額したことに満足していた。


 よっぽどクッキーがお気に召したらしい。


 予算の発表では誰も質問したり異議を唱える者はいなかった。


 予算配分で過去にOBOG会がざわついたという記録が残っていたため、それがスムーズに終わってエイルはホッとしていた。


 続いての発表は今日までの学生会の討伐モンスター実績だった。


 ロウとシルバ、エイルのみがグラフに実績数が記されていた。


 ロウが軍学校に入ってから5年間で遭遇したはぐれモンスターの数と1年生のシルバが並んでいた。


「1年生がこれほどはぐれモンスターを倒すとは・・・」


「卒業までにどれだけモンスターを狩るんだろうか」


「我々も負けていられない」


 シルバの今日までのはぐれモンスター討伐数とこれからの実績予想から会場内の参加者達は自分も気を引き締めなければと戦闘部門の参加者達は誰もがやる気満々の表情をしている。


 帝国軍ではまだ赤色のモンスターと戦ったことがない者もおり、その者達と比べればシルバは実戦で経験を積んでいると言えよう。


 実際のところ、シルバは割災でエリュシカに帰ってくるまで異界では毎日モンスターを倒す暮らしをしていたのだから、経験で言えば異界を知らない軍人とは天と地程の差がある。


 それを知らないことにホッとすべきかそうでないかはこの場ではわからない。


 討伐モンスターの実績パートでは質問したいと挙手する者がいた。


「質問でしょうか? どうぞお願いします」


「今年の割災で出て来たモンスターの中で最も強かったモンスターを教えて下さい」


「その質問については倒した者達より回答させていただきます」


 エイルがそう言って視線をシルバにやった。


 学生会の夏季合宿で倒したモンスターで最も強かったモンスターを答えてほしいということだろう。


 シルバは頷いて口を開く。


「突進力で言えばレッドブルですが、狡猾さという点ではレッドパイソンです。あれは毒も持ってましたので」


「続けて質問です。シルバさんは本当に武器を使わずに戦うんでしょうか?」


「その通りです。俺の武器は鍛えた自分の体ですね。武器については師匠にある程度叩き込まれてますが、一番得意なのは徒手空拳です」


「横から失礼します。キマイラ中隊の中隊長を務めるソッドです。シルバ第二小隊長とはよく模擬戦をしますが、彼はいつも武器を使わず素手で戦っております」


 ソッドはシルバだけの発言では信憑性が足りないかもしれないと判断してフォローしたのだ。


 質問者もシルバだけでなくソッドの証言を得られたので納得せざるを得なかった。


 この後は学生会の残りの行動計画をエイルが説明して活動報告も無事に終了した。

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