第25話 俺を甘く見たな?

 ルール説明が終わって予選の組み分けが始まった。


 予選は昨日のペアの部と同じようにA~Dの4つのブロックで行われる。


 予選の形式はバトルロイヤルで最後まで残っていた2人が決勝トーナメントに進むので、予選を通過できるのは8人だけだ。


 ちなみに、Aブロックで勝ち残った者同士が決勝トーナメント1回戦でぶつかる。


 その勝者はBブロック通過者同士の戦いで勝った方と戦い、最後はCブロックとDブロック通過者同士の勝者と決勝で当たる。


「シルバ、俺はお前と決勝で戦いたい」


「そればっかりは抽選だからなんとも言えない」


 ヨーキが気障っぽく言うもののシルバは手を横に振って流す。


「あっ、抽選結果が出たよ」


 アルが抽選結果が出たことを伝えた途端、ヨーキは自分とシルバがどのブロックに振り分けられたのか全力で探した。


「どれどれっておい! 俺とシルバがAブロックじゃねえか!」


「僕はCブロックだって。一緒なのはロック君だね」


 B1-1の学生10人はそれぞれ以下の通りに振り分けられた。


 Aブロックはシルバとヨーキ。


 Bブロックはソラとリクとウォーガン。


 Cブロックはアルとロック。


 Dブロックはサテラとメイとタオ。


 この時点でBブロックとDブロックではどう足掻いてもB1-1から脱落者が出ると決まった。


 抽選結果を確認するのに設けられた時間が過ぎ、早速Aブロックに参加する1年生が石畳のフィールド上に集められた。


 抽選まではポールが司会進行を務めていたが、審判も昨日に引き続きB1-2の担任教師が担う。


「Aブロック、始め!」


 開始の合図がされた直後、B1-2以下4クラス全ての学生がヨーキを取り囲む。


「ヨーキを潰せ!」


「主席と戦うよりは勝ち目がある!」


「主席に比べりゃ余裕だぜ!」


「俺を甘く見たな?」


 ヨーキは自分に襲い掛かる同級生達を見て不敵に笑った。


 (誰も来ない・・・)


 その一方、シルバの周りには誰も寄り付かなかった。


 戦っても勝てない相手と戦うぐらいならば、数で囲んで2人目の通過枠を狙うべきという作戦自体は極めて妥当だろう。


 もっとも、それが罷り通るかどうかは別なのだが。


「キェェェェェ!」


 ヨーキは剣を上段で構えたまま奇声を上げて近くの敵に接近する。


 その声には力が入っており、近くにいればいる程声の圧力に負けて体が硬直してしまったようだ。


「チェェェストォォォォォ!」


「ぐはっ!?」


「げぇっ!?」


「嘘だ!?」


 新人戦では刃引きされた訓練用の武器しか使えない。


 それでも、ヨーキが1人に対して剣を振り下ろすとその攻撃で後ろにいた学生諸共吹き飛んだ。


 (勘違いしてる奴多いけどヨーキって別に弱い訳じゃないんだよな)


 シルバは今まで授業でヨーキに負けたことがない。


 だが、ヨーキの実力については戦闘コースにおいて接近戦を得意とする1年生の中でもトップクラスだと思っている。


 ヨーキとソラ、リクは接近戦メインの1年生の中でも要注意なのだ。


 ヨーキが次々に同級生達を吹き飛ばしていくのを見て、シルバは疲労した彼と決勝トーナメントで戦うのはどうか考えて助太刀することにした。


「壱式:拳砲けんぽう!」


「ぶべっ!?」


「ひぎゃっ!?」


「ぬぁっ!?」


 シルバは拳圧でヨーキを取り囲む者達を吹き飛ばしてしまった。


「そこまで! Aブロック勝者、シルバ、ヨーキ!」


 審判の宣言を聞いてヨーキは剣を鞘に納めた。


「シルバに助けてもらっちまったかー」


「俺と決勝トーナメントで戦うんだろ? 予選で疲れられてもつまらないから手を出させてもらった」


「なるほど。それなら決勝トーナメントでは期待に沿えるよう頑張るわ」


 シルバとヨーキはその後すぐに控え席に戻った。


 それと入れ替わるようにしてBブロックに参加する学生達がダッシュで舞台上に集まる。


 Aブロックではフィールドがズタボロにならなかったためフィールドを修復することなくBブロックに移った。


 教師陣によるフィールドの修復が済むとそのままBブロックに移った。


「Bブロック、始め!」


「B1-1の3人を囲んで潰すわよ!」


「「無駄」」


「俺は盾だ」


 ソラとリクが揃って襲って来た生徒た達ち返り討ちにしてしまい、ウォーガンも盾を構えながらの突進して自分達を取り囲む生徒達を吹き飛ばした。


 あっという間にフィールド上に残ったのはB1-1の3人だけになった。


「どっちでも良いけどどっちか倒さねばなるまい」   


 ウォーガンは近くにいたリクに攻撃を向けた。


「ごめん」


 リクは盾を構えて突撃するウォーガンをひらりと躱し、訓練用の両手斧の腹でウォーガンの背後に一撃を喰らわせた。


 ウォーガンが場外で着地してしまったことにより、Bブロックの勝者が決定した。


「そこまで! Bブロック勝者、ソラ、リク!」


 この予選の結果に伴い、シルバがヨーキに勝った次の相手はソラとリクが戦って勝った方になった。


 Bブロックが終わって倒れた学生が運び出された後、アルとロックがCブロックに参加するために舞台の上に移動した。


「Cブロック、始め!」


「Aブロックと同じミスをするな!」


「アルとロックの両方をやれ!」


「アルに魔法を使わせねえぞ!」


 Aブロックではヨーキを集中狙いしたところ、シルバがつまらないと言ってB1-2以下の学生の包囲網を崩した。


 そんな事態になってしまえば、自分達が決勝トーナメントに進むことはできないので彼等はアルとロックに対する戦力を二分して取り囲んだ。


 ところが、取り囲んだ瞬間に殺傷力を抑えて細かく連続した爆発が舞台上で生じる。


「なんだ!?」


「何が起きたの!?」


「誰の仕業よ!?」


「君達が包囲戦術を使うことはわかってたよ。だから罠を仕掛けさせてもらった」


 爆発を仕掛けたのはロックだった。


 ロックは<罠術トラップ>を得意としており、罠に慌てふためく同級生を見てチャンスだとポーチの中からいくつかの煙玉を投げる。


 煙玉には睡眠導入剤が含まれており、煙を吸った者達はたちまち舞台上で倒れて寝息を立ててしまった。


 その中でも例外はアルとロックの2人だけである。


 アルはロックの罠が作動した時点で土のドームを創って守りに徹していた。


 そのおかげで爆発による混乱と煙玉による被害を負うことなく残っていられた。


 ロックは自分が仕掛けた罠への対策をしていないはずがないから残っていられるのは当然だろう。


 審判は爆発が起きた時点で場外から試合を見守っていたため、決着がついたと判断してすぐに口を開いた。


「そこまで! Cブロック勝者、アル、ロック!」


 控え席に戻って来たアルはニコニコしてシルバに声をかけた。


「シルバ、決勝で戦おうね」


「望むところだ」


 今のところシルバが同級生との戦いで最も警戒しているのはアルとの戦いだ。


 無詠唱での魔法行使は隙が少ないから距離を取られると防戦を強いられるから厄介なのである。


 それはそれとして、まだDブロックの予選が残っている。


 Cブロックで倒された学生達が運び出されてから石畳の整備が行われ、Dブロックに参加する学生がフィールドに招集された。


「Dブロック、始め!」


 審判が開始の合図を告げた直後、B1-2以下の学生がサテラ達を取り囲むよりも前にタオが動いた。


「それっ」


 手に持っていた球を自分から少し離れた場所にばら撒いたのだ。


 ばら撒かれた球からうっすらと赤い煙が発生して瞬く間に舞台を包み込む。


 (うっ、酒臭い。あの球はタオのオリジナルか?)


 シルバは控え席にいながら舞台上から流れて来た風で臭いを嗅ぎ取り、赤い煙の正体がアルコールに関わる何かだと見抜いた。


 Cブロックの時はロックが自分の仕掛けた罠への対策をしていた。


 しかし、Dブロックではタオが投げる分量を誤ってしまった。


 それがどのような結果を迎えるかというと、煙が散った時には舞台上に立っている学生が1人もおらず、全員酔って倒れているという状況だった。


 審判はやれやれと溜息をついてから宣言した。


「試合終了! Dブロックは勝者なし!」


「自爆・・・だと・・・」


「今年のB1-1はクレイジーな奴もいるわね」


「モンスターを酩酊させる薬ってアイディアは面白いと思うけれど」


「あそこに火をぶち込んだら大爆発するんじゃね?」


「絶対にやるなよ?」


 審判の宣言を聞いて観客席からは様々なコメントが聞こえた。


 午後からの決勝トーナメントでは、Dブロックが予想外の事態で勝者のいない決着となったためCブロックの勝者であるアルとロックはシード扱いに変更された。


 午後の方針が発表された後、正午を告げるチャイムが鳴ってシルバ達は昼休みに入った。

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