第26話 策士だ! ここに策士がいる!

 午後の決勝トーナメントは予選Aブロックの通過者であるシルバとヨーキの試合から始まる。


 昼休みが終わって決勝トーナメントの開始時刻にはシルバもヨーキも既に石畳のフィールドの上にいた。


「今日こそシルバに勝つ」


「今日も俺が勝つ」


 そんな2人のやり取りが終わるのを待って審判の教師が開始の合図を告げる。


「決勝トーナメント第一試合、シルバVSヨーキ、始め!」


 今までの模擬戦ではヨーキが奇声を上げてから先制する流れが鉄板だったが、今日のヨーキは静かに訓練用の剣を体の正面に構えたままだった。


 いつも先制攻撃を見極められて返されているから、ヨーキも攻めるのに慎重になっているらしい。


「どうした? 来ないのか?」


「今日の俺はいつもの俺と一味違うのさ」


「それなら俺から攻めよう。壱式:拳砲けんぽう!」


「見切ったぁ! 回転斬撃スピンスラッシュ!」


 ヨーキは横に回転してシルバの攻撃を回避すると同時に遠心力を乗せた斬撃を放った。


 斬撃が自分に向かって来ているけれど、シルバは慌てることなく次の技を放つ。


「弐式:無刀刃むとうじん!」


 訓練用の剣と手刀から放たれた斬撃がぶつかったことにより、キィンと金属同士が衝突した音が会場に響き渡った。


「やっぱ回転斬撃スピンスラッシュだけじゃ勝てねえか」


「そうだな。それだけで勝てると思われてたら悲しいぞ」


「だったらこいつだ」


「・・・へぇ」


 ヨーキは鞘に納めて構えた。


 抜刀術ならぬ抜剣術をする構えを取ったのだ。


 対するシルバは特に構えないでいた。


 それは勝負を諦めたというものではなく、敢えて何も構えずに警戒だけしている。


 ヨーキはシルバが真剣に戦うつもりがないとは微塵も思っていない。


 シルバがあの体勢からカウンターを放てると理解しているからだ。


「行くぜ! キェェェェェ!」


 ヨーキは剣を鞘に納めたまま奇声を上げて走り出す。


 走ることで生じたエネルギーを上乗せし、ヨーキは鞘から手を放して剣を両手で横に振り切った。


 鞘が剣から離れてシルバへと飛んで行き、ヨーキはシルバがそれを防ぐか避けるタイミングを狙って走り続ける。


「參式水の型:流水掌りゅうすいしょう!」


 シルバは水を纏わせた手で勢いを殺しながら飛ばされた鞘を掴み、接近するヨーキと剣で勝負する姿勢を見せた。


「はぁぁぁぁぁ!」


 ヨーキはシルバが何をしようが関係ないと振り切った剣を戻すように横に薙ぐ。


 シルバは雷付与サンダーエンチャントを鞘に付与してヨーキの剣に全力でぶつける。


 これがどのような結果を齎すのか。


 答えはこうである。


「あばばばばば・・・」


 ヨーキは感電してその場に崩れ落ちた。


「加減はしてある。少しの間痺れて動けないだけだ」


「クソッ、またか」


 それだけ口にしてヨーキは気絶した。


「そこまで! 勝者はシルバ!」


 審判はヨーキが気絶して戦闘不能になったことを確認して決着を宣言した。


「う、嘘だろ? シルバって<剣術ソードアーツ>も使えたのか?」


「違うわ! あれは鞘だもの! そうよね!?」


「どっちだって構わないだろ! 大事なのはシルバが<剣術ソードアーツ>を凌げるくらいには剣が使えるってことだ!」


 観客席が騒がしくなったけれど、シルバは微塵も気にすることなく控え席へと戻った。


 そんなシルバにアルが近づいた。


「シルバって剣も使えたんだ?」


「<格闘術マーシャルアーツ>の方が得意なだけで使えないとは一言も言ってない」


「策士だ! ここに策士がいる!」


 シルバが腹黒い発言をするものだからアルは恐ろしい子と言わんばかりに驚いた。


 ヨーキが舞台の外に運び出された後、ソラとリクが舞台の上に移動した。


「リク、勝負」


「ソラ、勝負」


 ソラは槍を構えてリクは両手斧を構えると、審判の教師が開始の合図を告げた。


「決勝トーナメント第二試合、ソラVSリク、始め!」


 2人は同時に駆け出して槍と両手斧をぶつける。


 槍と両手斧を比較すると力なら両手斧が勝り、速さならば槍が勝る。


 それをお互いに十分理解しているからこそ、相手の武器の強みを存分に発揮させないように両者とも攻撃している。


 槍ならば両手斧のスイングが届くよりも前に刺突を放ち、両手斧ならば短く持って大振りにならないようにスイングする。


 ソラもリクも相手に有効な攻撃を与えさせないように何度も武器を交えており、観客の上級生もこれには驚いた。


「槍と両手斧が互角だなんて・・・」


「双子だからってあんなにお互いの攻撃を相殺できんのかよ」


「これって決着つくのかしら?」


 最後の上級生の疑問はソラとリクも感じたらしく、しばらくやり合った後両者とも手に持っていた武器を床に置いた。


「キリがない。<格闘術マーシャルアーツ>で勝負」


「乗った。<格闘術マーシャルアーツ>で勝負」


 武器を使った勝負ではなかなか決着がつかないと思った2人は<格闘術マーシャルアーツ>で勝負をすることにした。


 殴る蹴るの攻防に時々投げ技がフェイントとして加わる。


 しかし、お互いに攻撃パターンを熟知しているせいでこれでも決定打が入らない。


 そこでソラとリクは再び試合の方式を変えることにした。


「一発ずつ殴る。どう?」


「問題ない。乗った」


「姉に勝る弟はいない」


「その幻想を打ち砕く」


 新人戦の試合というよりも姉弟喧嘩の色合いが濃くなって来た。


 先攻はソラで後攻がリク。


 この順番で10往復が過ぎた。


「すげえ。あいつら本当に1年生かよ」


「ノーガードの拳骨勝負! アツいぜ!」


素手喧嘩ステゴロ最強!」


「男って馬鹿ね」


「ほんとそれ」


 観客席では男子学生が熱く盛り上がっており、それと反比例するように女子学生は盛り下がっている。


 女子学生には素手喧嘩ステゴロ最強の面白さが全くわからないようだ。


 だがちょっと待ってほしい。


 ソラはリクの姉であり女子だ。


 それと同じように女子にも素手喧嘩ステゴロ最強の面白さがわかる者もいた。


 殴り合いは15往復、20往復、25往復と続き、26往復目でソラとリクが同時に倒れた。


 審判は2人に順番に駆け寄って気絶していることを確認してから宣言する。


「試合終了! 第二試合は勝者なし! ダブルノックアウト!」


「アツい! アツいぜ!」


「最高のショーをありがとう! 楽しいバトルだったぜ!」


「「「・・・「「素手喧嘩ステゴロ! 素手喧嘩ステゴロ! 素手喧嘩ステゴロ!」」・・・」」」


 審判のダブルノックアウト宣言を聞いて男子学生達の素手喧嘩ステゴロコールが止まらなくなった。


 もっとも、全ての男子学生が素手喧嘩ステゴロコールをしている訳ではない。


 戦闘コース以外の男子学生で暴力が苦手な者はアワアワするばかりだった。


 それはさておき、決勝トーナメント第二試合がダブルノックアウトになったことでシルバは自動的に決勝進出が決まった。


 これで第三試合のアルとロックの試合の勝者がシルバと戦うことになった訳だ。


 アルとロックが舞台の上に移動して向かい合うと、審判がすぐに試合開始の合図を出す。


「決勝トーナメント第三試合、アルVSロック、始め!」


 合図の直後にロックは予選と同じく煙玉をガンガン投げた。


 その作戦はアルも予想していたようで、<土魔法アースマジック>でドームを創り出して睡眠導入効果のある煙を防いだ。


「こうなることは読んでたよ。でも、僕にはこれがある」


 そう言ってポーチの中から煙玉とは別の球を取り出して土のドームに向かって投げ付けた。


 その球がドームに触れた瞬間、ドガンと激しい音がした。


 ロックが投げつけたのは手榴弾である。


 手榴弾ならばアルの土魔法アースマジックで創り上げたドームも破壊できると考えてのことだ。


「やったかな?」


 それはフラグである。


 フラグの強制力は侮れないもので、視界がクリアになった時にロックが目にしたのは無傷のドームだった。


「そんな馬鹿な・・・」


 自分の持ち合わせている武器でもこれ以上の火力の物はなく、ロックは目の前のドームを壊せなかったことに落胆した。


 そうだとしても、あくまで有効な攻撃手段がないだけでまだ負けた訳ではない。


 ロックは自らにそう言い聞かせて気持ちを切り替えた。


 アルをどうやってドームの外に引き摺り出すか考えていると、土のドームからズズズと音が聞こえた直後に太い棒が飛び出した。


 その展開はロックにとって予想外であり、ロックはその棒にぶつかって場外へと吹き飛ばされてしまった。


 審判は一瞬何が起きたのかわからなくてぼーっとしていたが、すぐに正気に戻って口を開いた。


「そこまで! 勝者はアル!」


 審判の宣言を聞いてアルはドームを解除した。


 そして、アルは控え席で試合をじっと見ていたシルバに向けてにっこりと微笑んだ。


 昨日のペアの部で組んでいた2人が今日は決勝戦で戦う。


 アルが連戦になってしまうため、10分間の休憩を挟んでから決勝戦が始まることになった。


 戦闘コースの1年生最強の座が決まるまでもう少しである。

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