第13章 拳者の弟子、家名を名乗る
第131話 随分と舐めたことをしてくれるね。僕の脅迫手帳が火を噴くよ?
5月の新人戦が終わり、クラブ活動の勧誘期間が始まる。
これからクラブ説明会を控えているシルバ達生徒会は講堂に集まっていた。
「去年のエイルさんみたいにスラスラ言えるかな・・・」
「会長、自信を持って下さい。何度も練習して一度も噛まずに話せるようになったじゃないですか」
「そうだよね。うん、きっとできる」
メアリーはシルバに励まされてグッと拳を握って自分を鼓舞した。
新人戦は去年程の盛り上がりを見せることはなかったけれど、例年並みには盛り上がった。
去年はシルバ達のクラスの実力が高かったことに加え、ジーナとサリーのハンバーガーショップが売り上げで目立った。
それに対して今年はペアの部と個人の部の優勝者が被らず、屋台も行列ができるようなところはなかったから、去年を知るシルバ達には物足りなかった。
個人の部で優勝したのはシルバが入学試験で戦った1年生だったけれど、ペアの部の優勝ペアはシルバには見覚えのない1年生だった。
新人戦はさておき、これから紹介されるクラブは去年の改編を受けて以下の通りになった。
・
・鍛冶研究クラブ
・筋肉トレーニングクラブ
・サバイバルクラブ
・スキル研究クラブ
・商業研究クラブ
・戦術研究クラブ
・ダンスクラブ
・調合研究クラブ
・読書クラブ
・農業研究クラブ
・
・風紀クラブ
・モンスター研究クラブ
・料理開発クラブ
・歴史研究クラブ
・学生会
去年と比べて大きな変化は3つだ。
1つ目は拳者研究クラブが潰れたこと。
2つ目は
3つ目は遊戯クラブのメンバーが今年の3月に全員卒業してしまって廃部となったこと。
クラブの予算については去年成果を挙げたクラブのものを増やし、人数が多く減ったりコストパフォーマンスが低いクラブのものが削られた。
アルは去年の1年間で軍学校内の様々な情報を収集しており、予算配分に抗議するクラブ長は1人も現れなかった。
これはアルの集めた情報が正確であることもそうだが、根拠や正当な理由もなくアルに逆らうと予算を減らされるのではとクラブ長達が怯えた結果である。
アルに帳簿を持って凄まれたら、今年度のクラブ長は誰も太刀打ちできないぐらい時点でシルバとは違う方向性でアルも着実に軍学校に影響を与えていると言えよう。
1年生が講堂に集まり、どんなクラブが紹介されるんだろうかと楽しみにしている声がシルバ達に届くぐらい賑わっていた。
彼等が着席してからしばらくして、
皆さんが静かにするまで○分かかりましたなんてネタをジャンヌが言うはずもなく、去年同様に力強い挨拶を行う。
「これより1年生に向けたクラブ説明会を開催する! 上級生諸君、今日この時がクラブにとっての大きな転換点になるだろう! 悔いの残らないように最高のパフォーマンスを見せろ! 私からは以上だ!」
力強い開会宣言を手短に済ませたジャンヌは教師達が集まる席に移動した。
そして、ジャンヌと入れ替わるようにメアリーが壇上に出て行った。
「1年生の皆さん、こんにちは。私はF5-1に所属する学生会長のメアリーです。本日は皆さんの学校生活を大きく左右するクラブ説明を行います。どんなクラブが自分に合うかしっかりと見極めましょう」
(去年のエイルさんのスピーチは大人っぽい感じだったけど、会長のスピーチはなんだか可愛らしいな)
喋っている内容は去年のエイルと今年のメアリーでほとんど変わらないのだが、やはり見た目による印象の差は大きいらしい。
シルバにはメアリーが頑張って話している姿を可愛らしく感じたが、大人っぽいとは感じられなかったのはそのせいだろう。
メアリーはそのまま学生会の案内を続ける。
「まずは学生会から案内します。学生会は現在、会長の私と副会長、会計、書記の4人で学校行事を運営しております。私が会長に就任してから4人で回して来ましたが、1年生が入学して状況も変わって来たことから庶務を1人か2人採用するつもりです。自分が軍学校を支えたいと思う方は学生会室まで来て下さい。よろしくお願いします」
1年生に対して募集をかけているけれども、実際のところは2年生以上でも学生会に入りたいという者がいれば採用するつもりだ。
上級生を採るか1年生を採るかはメアリー達89期学生会次第である。
舞台袖でメアリーの案内を聞き終えた後、シルバが隣にいたアルに訊ねる。
「アルは今年の1年生でスカウトしたい子いる?」
「いないかな。僕が集めた情報だとパッとしないんだよね。それだったら、僕達と同学年の子を入れた方が良いと思う」
「同学年? 学年を問わないんじゃなかったっけ?」
「だってほら、庶務って僕とシルバ君に使われる立場になるんだよ? 年上の学生達が1年間我慢できると思う?」
「俺の小隊じゃエイルさんとロウ先輩が部下だけど?」
「あの2人は例外じゃないかな。多分、新しく3年生以上の人が来たらそんなに長くは在籍しないよ」
アルの言い分を聞き、1年生で自ら学生会に入会したいという学生がいなかったなら、2年生から学生会メンバーを探した方が良さそうだとシルバも判断した。
2人で会話している間にメアリーとバトンタッチして風紀クラブの紹介が始まる。
「風紀クラブのクラブ長を務めるウォーレスだ。
(どう考えても俺とアルを意識してますね)
紹介を終えて舞台袖に引っ込んだウォーレスはシルバとアルを一瞥して短く舌打ちした。
今年度の風紀クラブ長は2人に良い感情を抱いていないのは間違いないだろう。
「随分と舐めたことをしてくれるね。僕の脅迫手帳が火を噴くよ?」
「アルさんや、脅迫手帳とは何かな?」
「そんなの決まってるじゃん。言葉通りに相手の弱みを使って脅迫するための手帳だよ」
「なんて恐ろしい物を持ってるんだ・・・」
「勝負は準備の時点で決まってるって言うでしょ?」
アルの言う通りなのだが、どうしても腹黒さが強過ぎてアルに狙われた相手が不憫に思えた。
(王族や皇族ってのはこんなもんなのかねぇ)
まだ直接会ったことはないけれど、
その情報を持っていたからこそ、シルバは
とりあえず、ウォーレスが近い内に不幸なことになるんだろうと察してシルバは心の中で合掌した。
ところが、今までシルバの肩の上でずっとおとなしくしていたレイがふんすと息を吐く。
「キュイキュイ」
「良いぞどんどんやれって?」
「キュイ」
レイとしては自分の主であるシルバに舐めた態度は許さない方針らしい。
アルがウォーレスに仕返しして力関係をわからせるなら、きっちりやって歯向かえなくなるようにするべきだとレイは過激な考えをしているようだ。
大事にならないようにと祈りつつ、シルバは順番に自身の所属するクラブを紹介するクラブ長達の方を見た。
「
「鍛冶研究クラブだ! 鉄は熱いうちに打つ! これが人生の基本ルールだ! オリジナル武器を打ちたいって熱い1年生は俺について来い!」
「さあ、これから筋肉トレーニングクラブの紹介を始めるぞ! 見たまえこの筋肉を! マッスルイズビューティフォー!」
「キレてる! キレてるよ!」
「土台が違うよ! 土台が!」
「仕上がってるよ!」
(今年もサクラを仕込んでたか)
シルバは講堂内にばらけて配置された筋肉トレーニングクラブのクラブメンバー達を見て苦笑した。
その後もクラブ長達が順番に自分のクラブを紹介していき、1年生向けのクラブ説明会は無事に終わった。
運営側としてはクラブ説明会でトラブルが起きないことが何よりもありがたいので、学生会の中でも特にメアリーがホッとしたのは言うまでもない。
1年生全クラスが講堂から出て行った後、クラブ長達を指揮して片付けを済ませてからシルバ達も撤収した。
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