第234話 ご立腹だな。この世の全てが恨めしいって感じだ
レイが着陸してすぐに、シルバは周囲の確認を済ませる。
(催眠剣アンラ・マンユと背教剣タローマティの使用者はどこだ?)
パッと見た感じでは、戦場に集結させられた13人のトスハリ教国の密偵は見つけられたのだが、催眠剣アンラ・マンユと背教兼タローマティの使用者らしき人物が見つけられなかった。
両者とも戦場で目立つと思っていた自分の読みが外れ、どうしたものかとシルバは悩んだ。
そこに救いの手を差し伸べたのは、シルバのベルトに収まる熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュだった。
『催眠剣アンラ・マンユと背教剣タローマティの気配はここから西の方に感じられるわっ。一ヶ所に留まってないわねっ』
『今、戦闘中。でも、追跡中』
(つまり、片方が逃げててもう片方が追いかけてるのか)
熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュの話を聞き、シルバはサタンティヌス王国とトスハリ教国の呪われた剣の使用者達が追いかけっこをしていると判断した。
『その通りねっ。催眠剣アンラ・マンユの使用者が背教剣タローマティの使用者から逃げつつ、敵を殺しながら逃げてるんだからねっ』
『催眠剣アンラ・マンユ、使用者、殺戮人形。殺せる相手、殺す、優先』
(そうなると、教国側の方が兵力は削れてそうだな)
催眠剣アンラ・マンユの使用者は既に殺戮人形になってしまったようであり、強くてすぐに殺せない背教剣タローマティの使用者よりも周りの敵の数を減らす方を優先している。
それを背教剣タローマティの使用者が追いかけて止めようとしているというのが、ターゲット達の現状なのだろう。
シルバが熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュと話していると、エイルがマリナを連れて馬車から出て来た。
「シルバ、相談したいことがあります」
「どうしたの?」
「馬車は私達が守りますので、シルバとレイちゃんは自由に動きませんか? マリナも
実際のところ、エイルの言う通りである。
レイの
ただし、熟練度の面ではレイの方が上だから、マリナの練習台に丁度良い相手の時以外はレイが
今回のミッションにおいて、シルバの行動が制限されるとミッションの遂行に支障が出るのは間違いないから、エイルの申し出はシルバにとって渡りに船なのだ。
エイルの好意はありがたいので、シルバはマリナに本当に任せて大丈夫かと視線を向ける。
マリナは任せてほしいと真剣な表情で自分を見つめ返したから、シルバはゆっくりと頷く。
「・・・わかった。エイル達に任せる。俺達が戻るまで無事でいてくれ」
「勿論です。シルバもですよ。これはお守りです」
そう言ってエイルはシルバを抱き締め、そのままキスをした。
キスをしてエイルがシルバから離れると、いつの間にかアリエルがジト目の状態で2人を見ていた。
「エイル、抜け駆けはギルティ」
「すみません。つい、気持ちが昂ってやっちゃいました」
「だったら僕もやる」
シルバはアリエルに強引に抱き寄せられて熱烈なキスをされた。
エイルに先を越されたこともあり、アリエルも負けじとキスをした訳である。
「ありがとう。エイルもアリエルも無茶はするな。ヤバくなったらすぐに俺達を呼んでくれ。じゃあ、行ってくる」
「「行ってらっしゃい」」
シルバはレイの背中に乗り、それから催眠剣アンラ・マンユの使用者と背教剣タローマティの使用者がいる付近を目指して飛んで行った。
それと同時に馬車付近の幻影が解除され、マリナの
それにより、周囲からは先程と同様に馬車が見えないようになっている。
シルバを送り出した後、ロウがアリエルとエイルに合流した。
「婚約者がこういう時に一緒って羨ましいぜ。俺もクレアに会いたい」
「ロウ先輩、それ以上滅多なことは言わないで下さい。死亡フラグが立ちます」
「死亡フラグってあれか? ここは俺に任せて先に行けみたいな?」
「その通りです。ロウ先輩が言うと実現するんじゃないかってそこはかとなく不安になります」
「酷い言いがかりじゃねえかって、ヤバいぞ。どっちかが仕掛けやがった」
ロウがいくらなんでもそれはないだろうと言おうとした瞬間、空に魔法陣が浮かび上がったのを見てアリエルとエイルに注意する。
「ロウ先輩、早々にフラグを立てないで下さいよ」
アリエルはロウにジト目を向けつつ、無詠唱で自分達と馬車を覆うように
マリナの
そのおかげで、鋼のドームに降り注ぐ雨の槍が弾かれても
攻撃が止んだため、アリエルが
トスハリ教国の軍人達もある程度巻き込まれていたが、被害からすればサタンティヌス王国の方が遥に多い。
「この規模の
「状況からしてトスハリ教国の仕業でしょうが、味方を巻き込む大規模な攻撃とは容赦ないですね」
アリエルが注意すべき敵の存在を把握すると、エイルは味方諸共攻撃する容赦のなさに戦慄した。
「キィ」
警戒するように鳴いたジェットの視線の先には、巨大な銀色の蝸牛とその上に経典を持つトスハリ教国の軍人の姿があった。
それを見てロウが首を傾げる。
「シルバーマイマイを使役してるのは王国のはずだろ? なんで教国の軍人が使役してるんだ?」
「シルバーマイマイの目を見て下さい。どうにも正気を失ってるみたいです」
エイルの言う通り、シルバーマイマイの目に光はなくて虚ろだった。
「あの経典に仕掛けがあると考えるべきでしょう。モンスターをテイムするスキルは未だに確認されてません。だとしたら、あの経典に王国のタグの効果を上書きする力があると考えるべきです」
「アリエルの考えが正しいとして、あいつと戦うか? 戦ったら絶対に目立つが」
「こちらに気づかない限りスルーしたいところですけど、そうならないでしょうね」
アリエルがそう言った直後、経典を持った軍人がシルバーマイマイに指示を出す。
「シルバーマイマイよ、あの付近が怪しいので神に変わって裁きを与えなさい」
経典を持つ軍人が指し示した位置はアリエル達がいる場所だった。
見た目にはわからなくとも、それ以外の感覚でアリエル達のいる場所が怪しいと判断したらしい。
シルバーマイマイは軍人の指示通りに
「マリナ、お願いします」
「チュル」
バレているのなら仕方がないと思い、エイルはマリナに敵の攻撃から守ってくれと頼んだ。
マリナは頷いてすぐに
雨の槍が反射されたことから、経典を持つ軍人はアリエル達の存在を確信した。
だが、その直後に自分の体が動かなくなって来たことに気づいて慌てた。
「何故です!? 何故私の体が石になったんですか!?」
こうなったのはリトの<
マリナの
シルバーマイマイを手中に収めて油断していたこともあり、リトの<
<
体が完全に石化した軍人はシルバーマイマイの体から落ちてしまい、その衝撃で体が真っ二つに割れた。
その結果、操られていたシルバーマイマイの目に光が戻り、体から蒸気を噴き出した。
そして、サタンティヌス王国とトスハリ教国のどちらにもつかず、視界に入った敵に攻撃するように暴れ始めた。
「ご立腹だな。この世の全てが恨めしいって感じだ」
「そりゃ無理やり言いなりにされたら誰だって怒りますよ。王国のタグも効果が失われてるみたいですし、良い感じに戦場を掻き回してくれそうです。仮に僕達の存在に勘付いてた敵がいたとしても、代わりに片付けてくれるんじゃないですかね」
「うんうん、アリエルの発想は相変わらず鬼畜だなぁ」
アリエルの発言を受け、これでこそアリエルだとロウが頷いた。
「ロウ先輩、今回のミッションでは背後に気を付けて下さいね」
「アリエルさん? それは背後から攻撃するってことですか?」
「何を言ってるんですか? 不幸な事故に気を付けてほしいという後輩からのお願いです」
「やだー、明確に否定しないじゃないですかー」
アリエルが相変わらず敵に容赦しないのと同様に、ロウも一言多いのは間違いない。
「アリエルもロウもそこまでにして下さい。シルバに迷惑をかけたくないでしょう?」
「「ごめんなさい」」
アリエルとロウを諭すエイルは傍から見て母親のようだったのは言うまでもない。
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