第120話 昔、城の禁書庫で読んだ文献に出て来たんだ
シルバ達が帰宅した日、アルケイデスの部屋にシルバとレイ、ポールが集まった。
「アルケイデスさん、急な申し出にもかかわらずお時間をさいていただきありがとうございます」
「構わんさ。ワイバーン、それも希少種をテイムしたなんて聞いて興味が湧かないはずがない」
「レイ、アルケイデスさんだぞ。俺の先輩なんだ」
「キュイ!」
シルバの説明を聞いたレイはシルバに抱っこされたまま、右翼を手のように挙げてフランクに挨拶する。
ワイバーンの赤ちゃんであるレイが初対面で軍の上下関係なんてわかるはずなく、シルバの先輩なら挨拶しないといけないと思って行動するだけでも大したものだ。
「ほぉ、賢いじゃないか。俺はアルケイデスだ。よろしくな、レイ」
「キュイ」
レイはよろしくとアルケイデスに応じた。
その様子をポールは表に出さないがハラハラしながら見ていた。
「シルバ、レイはミッションで潜入したブリード村で見つけたんだったな?」
「その通りです。卵の状態で発見し、自分で孵化させたら仲良くなれるかもと思って回収しました」
「なるほど、刷り込みか。これでモンスターに対しても有効だと証明された訳だ」
「王国はタグを身に着けさせて操ろうとしてましたが、それは嫌だったので卵から孵しました」
シルバはサタンティヌス王国のタグを使ったやり方が気に入らなかったので、レイにタグを付ける気がない。
アルケイデスはシルバの言い分に頷いた。
「別に良いと思うぞ。シルバがレイの世話をちゃんとできるならば、ガチガチに管理する必要はないだろ。レイは賢いからシルバの言うことを聞けるよな?」
「キュイ!」
任せろと言わんばかりに右翼で自分の胸を叩くレイは確かに賢いと言えよう。
「アルケイデス先輩はワイバーンなんてよくご存じでしたね」
「昔、城の禁書庫で読んだ文献に出て来たんだ。過去に一度だけ割災でこの国に現れたらしいが、割災が終わる前に辺り一面を焼け野原にして異界に戻って行ったらしい」
「キュイ?」
「レイはそんなことできなくて良いぞ。うん、されたら困るから」
アルケイデスの話を聞いてポールはそれぐらいできた方が良いのかと首を傾げるレイにそんなことはないと告げた。
「多分大丈夫だと思いますよ、ハワード先生。レイは光属性に適性があるだけのようなので」
「念のため、属性検査キットを持って来た。シルバ、レイにこれを使ってくれ」
「わかりました」
レイの安全性を主張するためにはレイのスペックをできるだけ把握しておいた方が良い。
だからこそ、ポールは貴重な属性検査キットをレイのために持って来た。
「レイ、この棒に魔力を流し込んでごらん。それでレイがどの属性を使えるかわかるから」
「キュイ」
わかったと頷いたレイは属性検査キットに魔力を流し込んだ。
その結果、はっきりとした白い光とうっすらとした緑色の光が生じた。
「キュイ?」
「レイ、風属性にも適性があったのか。すごいぞ」
「キュイキュイ♪」
レイがこれはどういう結果なのかと自分に訊ねるように首を傾げたので、シルバはレイの頭を撫でながら検査の結果を伝えた。
シルバに褒められてレイはご機嫌である。
「うん、まあ、シルバが絡んで予想通りに終わったことなんかないもんな。火に適性がなかっただけマシと考えよう」
ポールは光属性だけに適性があるとは思っていなかったらしく、禁書と同じように火属性の適性がないことにホッとした。
それだけでも禁書のワイバーンとレイは違うと主張できるからだ。
「
「そうですね。レイのスペックについて隠し事はしないようにしましょう。シルバ、レイは今のところ
これ以上の隠し玉はないかとポールはシルバに訊ねた。
後になって実はこんなこともできましたと発表すると面倒だからだ。
しばらく時間が経ってから発表すれば、その間にレイが成長して何かを会得したという説明ができるだろうが、発表直後に共有していない何かをされると粗探しをして来る者がいる。
そう考えてポールはシルバに訊ねたのだ。
「使ってません。でも、もしかしたらまだ何か使えるかもしれないので確かめてみます。レイ、
「キュイ」
シルバに訊かれてレイはシルバに
「おぉ、もしかして俺が使ってたのを卵の中で覚えた?」
「キュイ!」
その通りだとレイは力強く頷いた。
「<
ポールはレイが<
そこにシルバが思いついた質問を口にする。
「そうだ、レイは
「キュー・・・。キュイ」
レイは意識を集中させた後、シルバに
「すごいぞレイ」
「キュイ?」
「レイの力を借りれば【村雨流格闘術】の風の型が使える」
「キュイ!」
【村雨流格闘術】がなんなのかレイはわからないけれど、シルバが喜んでくれたならそれでOKだとレイは喜んだ。
これにはアルケイデスもポールも苦笑する。
「まさかマリア様もシルバがレイと協力して新たな属性を使えるようになるとは思わないだろうな」
「そうですね。ただ、レイがシルバのことを強化してくれるならシルバとレイが一緒にいた方が良いと主張できる材料になります。今は都合が良いと思うことにします」
それは目をかけている後輩、あるいは学生が同じ帝国軍の中に潜む悪意にやられたら後悔することなると確信しているからだ。
シルバがディオニシウス帝国を出て行こうと考えないようにするならば、自分達がシルバのための防波堤になるべきというのがアルケイデスとポールの共通見解である。
「ところでシルバ、レイは何を食べるんだ?」
「雑食ですよ。試してみたところ、肉も食べれば野菜や果物も食べます。ジャガイモやパンも食べてましたね。魚はまだ試せてませんけど、多分食べられると思います」
「そうか。それならハンバーガーも食べられそうだな」
「食べられると思いますよ。ミッションの帰り道に即席ハンバーガーを食べてましたし。な?」
「キュイ」
アルケイデスはレイがハンバーガーを食べられるのか興味を持ったようだ。
シルバはミッションからの帰還途中に黒パンやレッドブルの肉を使った即席のハンバーガーをレイに与え、レイは美味しそうに食べていた。
食べた後も体調を崩すことはなかったから、シルバはレイが雑食だと判断した。
「シルバ、レイは俺の手からハンバーガーを食べてくれるだろうか?」
「お気持ちは嬉しいのですが、まだ俺の手からじゃないと食べないと思います。ミッションの帰り道に中隊のメンバーが食べてもらおうとしましたが、俺の手から出した物以外食べませんでした」
「レイから信頼を勝ち取るには時間をかける必要がありそうだ」
「アルケイデス先輩、レイを餌付けするために無茶なスケジュールを組むのは止めて下さいね? 周りが大変なので」
ポールは学生時代、アルケイデスに幾度となく振り回されたことを思い出して釘を刺した。
今は軍の仕事を一緒にすることがほとんどないが、アルケイデスの部下達は自分の代わりにあれこれと振り回されているのだろうと察してのことだ。
「俺だって暴君みたいに好き勝手してる訳じゃない。そうした方が良いと思って行動してるんだ」
「それはわかってますが、より良い結果のために急な変更を命じられる身は大変なんですよ」
「ポールならできると思って行ったまでだ。今の部下達に対してもできないことは無理強いしてないから安心しろ」
「そうでしたか。それを聞いてホッとしました」
(ハワード先生もアルケイデスさんって本当に仲良いな)
シルバはレイの頭を撫でつつ2人のやり取りを眺めてそう思った。
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