第188話 ご主人、レイはあいつの魔石が欲しいの

 サバーニャ廃坑に着いたシルバ達は見張りをしていた軍人に馬車を預け、ロウが見つけた横道に入った。


 前回シルバ達が探索し終えた地点までは他の軍人も調査をしていたみたいで、モンスターが掘った穴が埋め固められていた。


 ワームとの戦闘ではワームが移動する度に土を飲み込んで進んでいたから、ワームが動いた分だけ穴ができていたのだが、それがなくなっている時点でそうとしか考えられない。


「シルバ君、こんな狭い所でワームと戦ってたんだね」


「まあな。ワームが頭を使うモンスターじゃなくて良かったよ。廃坑を崩すように暴れられたら俺も困っただろうし」


「困るだけで済むんだな」


「普通の軍人だと生き埋め待ったなしでしょうね」


 シルバが廃坑を崩されても困るだけと聞いて、ロウとエイルは苦笑するしかなかった。


 その一方、レイは自分のご主人はすごいんだぞとドヤ顔を披露していた。


「先に進もう。ここから先でどんなモンスターが現れるのか調べるのが今回の俺達の仕事ですよ」


「「「了解」」」


 いつまでもこの場で時間を費やしている場合じゃないから、シルバはアリエル達に声をかけて先に進んだ。


 向こうの方からモンスターの鳴き声が聞こえると思って目を凝らすと、少し離れた所でレッドキャップの集団がシルバ達を待ち構えていた。


「レッドキャップが6体。前回の倍の数だ」


『レイがやる~』


 レイはそう宣言して嵐刃ストームエッジを放ち、6体のレッドキャップの首を刎ねた。


「瞬殺か。レイも強くなってるなぁ」


『レッドキャップなんて何体集まってもへっちゃらだよ~』


 シルバに褒められたレイは嬉しそうに言ってのけた。


 魔石の回収をした後、レッドキャップ達の死体は通路の脇に寄せた。


 一度の探索で持ち運べる量に限りがあるから、討伐証明部位だけ回収してそれ以外は帰り道に余裕がある場合のみ回収することにした。


 いざとなれば、見張りをしている軍人に指示してシルバ達は通路を進む。


 進んでいく内にT字路に到着し、シルバは味覚以外の五感を駆使してどちらに進めばいいか調べる。


「ロウ先輩、斥候ならどっちに進めばいいかわかるんじゃないですか?」


「俺にはあそこまでの芸当はできねえ。できて音を消して偵察するぐらいだ」


「それも十分すごいと思うんですが、シルバの索敵能力が高過ぎますよね」


「それな」


 アリエル達が喋っている間にシルバはどちらに進むか決めた。


「左の通路にレッドキャップの巣があるみたいです。潰しに行きましょう」


「シルバ、後学のために教えてくれ。どうしてそう判断できるんだ?」


「よく見てみると左の通路の方が似たような足跡が多く、先程嗅いだレッドキャップと同じ臭いがします」


「なるほど。似たような足跡の数と臭いに気付けるようにならないとな。参考になったよ」


 シルバのレクチャーを受けてロウは足跡や臭いに注意して調べ、確かにその通りだと頷いた。


 レクチャーが終わって左の通路に進んで見れば、アリエル達の耳にもゴブゴブと鳴く声が聞こえて来た。


 行き止まりの開けたスペースにレッドキャップの巣があり、前回と今日の探索で倒した数の倍以上のレッドキャップがいた。


「殲滅します。先に行って敵の視覚を奪うので、その後に近づくこと」


「了解」


「わかりました」


ろうぜ」


 方針が決まるとシルバが先行し、レッドキャップ達が立てかけていた手斧ハンドアックスを慌てて手に取る。


「遅い。參式光の型:仏光陣」


 シルバが視角を奪うことに成功したら、アリエルが大地棘ガイアソーンでレッドキャップ達を足元から突き刺していった。


「「「・・・「「ゴブゥ!?」」・・・」」」


「ヒャッハー! 入れ食いだぁ!」


 動けなくなったレッドキャップ達はただの的でしかないから、ロウは倒れている接近して次々にトンファーで敵の頭を殴りつけた。


「チュル」


 マリナもこっそり参戦しており、敵が動けないのを良いことにとどめを刺している。


「大漁だな」


『みんないっぱい倒したね』


 シルバとレイはアリエル達が無事にレッドキャップの群れを倒し切ったと判断した。


 魔石の回収と戦利品の回収をしただけでもかなりの量だ。


 魔石はレイとマリアが取り込むから良いとして、嵩張る斧の処分に悩む。


 その時、レイがシルバをツンツンと突く。


「どうしたレイ?」


『ご主人、あそこにミミックがいるよ』


「マジか。って、上位種の方じゃん」


 レイが示した方向には壁に背を向けてミミックの上位種が存在していた。


 ミミックの上位種は通常種と区別するためにスーパーミミックと名付けられており、接近すると針を飛ばすから注意しなければいけない。


「そういえば、研究部門がスーパーミミックの進化について情報を欲しがってたっけ」


 シルバは研究部門の軍人から機会があれば探ってほしいと頼まれていたことを思い出した。


 ミミックもスーパーミミックも獲物を仕留めたら捕食するのは変わらない。


 現時点ではミミックは限界まで食べた後にスーパーミミックに進化することが明らかになっているが、スーパーミミックはいくら食べてもそれ以上の何かに進化しなかった。


 研究部門の軍人は自分達に解決できなかった疑問だとしても、数々のモンスターを発見したシルバなら解決できるのではと期待を込めてお願いしたのだ。


 それを思い出しただけでなく、今この場にはどう考えても持ち帰れない量のレッドキャップの死体があるのだから、シルバが取る行動は決まっている。


「突然だけど、今からあそこにいるスーパーミミックを用いた実験をする」


「実験? 何をするの?」


 実験と聞いて真っ先に反応したのはアリエルだった。


 アリエルの疑問にシルバは言い淀むことなく答える。


「レッドキャップ達をスーパーミミックに与え続けて進化するか確かめる」


「持ち帰れない死体を処理できるのは良いね。でも、進化しなかったらどうするの?」


「その時はその時であのスーパーミミックを持ち帰れば良いさ。おそらく、俺達が過去に持ち帰ったスーパーミミックよりもかなり強化されてるだろうから」


「そう考える根拠は?」


「研究部門ではスーパーミミックにレッド級モンスターを大量に与えられず、パープル級がメインだったって聞いてるから、レッド級に相当するレッドキャップをこれだけ与え続ければ全く変化がないとは思えない」


 シルバの考えを聞いてアリエルは納得した。


 エイルとロウも異論はなかったので、早速シルバはスーパーミミックに向かってレッドキャップの死体を投げてみた。


 針を発射するかどうかも含めて反応を観察していたところ、スーパーミミックは針を発射せずに蓋を開けてレッドキャップの死体を丸呑みにした。


 バリバリゴリゴリと音を立てながら咀嚼し終えたタイミングを見計らい、シルバは追加のレッドキャップをスーパーミミックに向かって投げる。


 この作業を何度も繰り返し、全てのレッドキャップの死体を食べ終えた時に変化が起こった。


 スーパーミミックの体が光に包み込まれたと思いきや、その光の中でサイズが一回り大きくなったのだ。


 光が収まった所でじっくり観察してみると、装飾が豪華になっていて宝石らしき物もその体に埋め込まれていた。


「レッド級モンスターを大量に与えることで進化したってことは、進化するまでに必要な食事に最低限担保しなきゃいけない質があるか、パープル級モンスターだったらもっと大量に必要かのどちらかかな」


「シルバ君、あいつはなんて呼ぶ?」


「ハイパーミミックで良いんじゃないか? スーパーよりも上なんだし」


『ご主人、レイはあいつの魔石が欲しいの』


 シルバとアリエルがしゃべっているところにレイが参加し、ハイパーミミックの魔石をおねだりした。


 レイが魔石を欲しがるぐらいには強くなったということは、ブラック級モンスター以上の強さになったと考えて良いだろう。


 一般的なブラック級モンスターならば倒すのに苦労するかもしれないが、ミミックという種族は動けないから他のブラック級モンスターよりも倒しやすい。


 ということでシルバは早速ハイパーミミックを倒すべく動き出す。


「壱式光の型:光線拳」


 接近すれば少なくとも針が飛んで来ると判断し、シルバは離れた場所からハイパーミミックを攻撃した。


 ハイパーミミックはシルバの攻撃を防ぐべく、岩壁ロックウォールを発動した。


 しかし、岩壁ロックウォール程度ではシルバの攻撃を防ぐことができず、岩の壁が破壊されてハイパーミミックにダメージが入る。


 守りに入ったらやられると思ったのか、ハイパーミミックは岩弾乱射ロックガトリングで反撃を試みた。


「壱式水の型:散水拳! 弐式光の型:光之太刀!」


 シルバが連続して技を放った。


 最初の攻撃で岩弾乱射ロックガトリングを全て撃ち落としたついでにダメージを与え、ハイパーミミックが怯んだ隙に次の攻撃で蓋と箱を一刀両断した。


 蓋が箱から外れた時に与えたダメージが致命傷となり、ハイパーミミックは力尽きた。


「レイ、魔石を食べて良いぞ」


『ご主人、ありがとう!』


 レイは一目散にハイパーミミックまで飛んで行き、その魔石を捕食した。

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